学園黙示録~ANOTHER OF THE DEAD~   作:聖夜竜

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作者はB級ゾンビ映画が大好きです。主人公や主要人物が訓練された特殊部隊の出身だったり、当たり前のように銃器を使って無双するよりかは、ただの一般人が格闘戦やら日用品などを駆使してゾンビと戦うエログロゾンビ映画が好きです(聞いてない


第1章 藤美学園
世界が終わった日


 

「明……アンタは、生きて……」

 

 彼女が喋る度に真っ赤な鮮血を吐き出す。

 

 もう先は長くない……

 

 彼女を抱く男にはそれが痛い程に理解できた。

 

「っ……分かった……だからこれ以上喋るな!」

 

 血に濡れて汚れた藤美学園の学生服を着た彼女を抱く両手が嫌だ嫌だと言わんばかりに震える。ここに行き着くまでに幾度となく見てきた光景のはずだった。

 

 一緒に行動した何人もの仲間を看取り、裏切り、殺し、置き去りにしてきたのだ。もう慣れたはず。だと言うのに……

 

「何でだよ……何で銃を撃った!?」

 

 男には彼女の行動が理解できない。この状況下では発砲など無意味。二人が生き残る為には極力〈奴ら〉との戦闘を避け、逃げるべきだったのだ。

 

「ごめん……アタシ、もう疲れちゃった……お願い。最期はせめて……人のままで……」

 

「馬鹿野郎ッ! 約束したじゃねぇか! 最後の人間が俺達だけだとしても、精一杯足掻いてこの地獄を生きていこうって──!」

 

 必死の叫びに彼女は弱々しく首を横に振り、愛する男に向かって小さく微笑んだ。

 

「……明、ありがと……大、好き……」

 

 その言葉を最後に、彼女は静かに息を引き取った。

 

 死んだとは思えない程に穏やかな表情で、声を掛ければ起き上がりそうな──そんな気さえする。

 

 それなのに……

 

「何が……何が“ありがとう”だよッ!? おいッ! 起きろ! 起きろよぉ!?」

 

 発狂。そして男は声を殺して泣き叫んだ。

 

「こんな……ッ! こんなの全然わかんねぇよぉッ!」

 

 先程までは一緒に戦ってきたはずの仲間。

 

 ──いや、仲間以上の関係だったと言える。

 

 交戦、籠城、殺人、裏切り、略奪、恐喝、強姦、乱交──

 

 その過程の中で多くの苦楽を共にし、愛し合う男と女は最後まで生き残ってしまった。

 

「はぁ、はぁ……もう……限界、だな」

 

 鎮魂歌を奏でるような大雨が降り注ぐ中、大勢の〈奴ら〉に囲まれてしまった馬鹿な男と女。

 

 戦う力は男に残されておらず、それまで一緒に戦ってきた味方はもう誰一人いない。

 

 完全な八方塞がりだった。

 

 一体どこで選択を間違えたのか……今更嘆いても遅い。

 

「はは……まだあったけぇや……俺もお前も……俺たち人間は、まだ──」

 

 赤い水溜まりができた地面にだらんと崩れ落ちた血濡れの男。

 

 最愛の彼女を全身で放さないようにお姫様抱っこの体勢で強く抱き抱え、その命が尽きる最期の瞬間まで迫り来る〈奴ら〉の姿をその目に焼き付けていた。

 

 それが男──海動明(かいどうあきら)の最期だった。

 

 

 

 

 

『アレェ? もうオシマイ? ダメだよそんなの。オマエに決めたんだから……さァ、オキロ』

 

 

 

 

 

 誰かもわからない女の子の不服そうな声が頭の中で聞こえる。それと同時に意識が遠退くような感覚……

 

 “いつもの”と言えばいいのだろうか……何にせよ、これが“初めて”ではない。

 

 男が目を覚ますとそこはベッドの上。見慣れた──いや、どちらかと言えば懐かしいが正しいか。

 

 それだけ長い時を非日常の中で過ごしてきたのだ。最後に温かいベッドで寝たのはいつだったか……

 

「……忘れちまったよ、そんな昔のこと」

 

 ぼそっと呟き、男は瞬き一つしてから起き上がった。

 

「あら海動君、起きたの?」

 

 その時だ。不意にカーテンが捲られ、白衣を着た金髪の巨乳美女が現れる。

 

 彼女は鞠川静香(まりかわしずか)──海動明が現在通っている藤美学園の校医だ。この場所は管理棟の校舎一階に位置する保健室で、今はちょうど午前の授業中のはず。

 

「……ああ。少し寝たらだいぶすっきりしたみたいだ」

 

 言いつつ明はベッドを抜け出して立ち上がると、学ランのポケットに入れていた黒い携帯電話を取り出す。時刻はまだ昼前……それにしてはだいぶ眠りが深かった気がする。

 

「海動君、よっぽど疲れが溜まっているようね。目付きもなんだかいつもより怖い感じ……」

 

「それは生まれつきってやつですよ、鞠川先生」

 

 たしかに目付きは悪いし、顔も悪人面とよく言われる……が、こればかりは元々なので仕方ないだろう。

 

 とくに“あの出来事”が起きてからはより深く変わっていった。今更良い子ぶるなんてできないくらいには……

 

「……どうせ、俺は戻れない。この世界だっていつまた壊れるか……」

 

「海動君……?」

 

 それに……どうも目覚めた時から嫌な胸騒ぎがする。平和だった世界が音を立てて崩れ去る……そんな予兆が。

 

「鞠川先生。さっきから妙に外が騒がしいみたいだが……?」

 

「えっ? あっ……ほんとね。校庭の方で何かあったのかしら?」

 

 不思議そうに首を傾げる鞠川先生を尻目に、明は保健室の窓から校庭を覗く。校門前に無数の人だかりができているのが確認できる。

 

 残念ながら今いる保健室からでは彼らが何の為にこの学園へと集まり出したのか分からない。

 

(まさか、な……)

 

 明は自然と流れ落ちる額の汗を拭う事なく手にした携帯電話をポケットに仕舞う。

 

 ──と、その時だった。

 

『緊急連絡! 緊急連絡! 全校生徒・職員に連絡します! 全校生徒・職員に連絡します! 現在、校内で暴力事件が発生中です! 繰り返します! 現在、校内で暴力事件が発生中です! 生徒は職員の誘導に従って直ちに避難してください! 繰り返します! 生徒は──ッ!?』

 

 そこで突然、校内放送が途切れた。そして聞こえる何人もの悲鳴、絶叫……

 

『ッ!? やめてくれ! 助けッ!? 痛い! 死ぬ! 誰か、助けっ──ぎゃあああぁぁぁぁッ!?』

 

 ブツン!!──放送室の職員と思わしき男性の恐ろしい断末魔と共に、日常を終わらせる放送が終了した。

 

 

 

 

 

「……チッ、結局こうなるってか! おい、鞠川先生もさっさと準備しろ! ここはもうじき終わる!」

 

 校内放送を聞いて困惑した様子の鞠川先生に向かって明は怒鳴るように叫び、保健室の中に置いてある物を急いで物色し始める。

 

「か、海動君? 今の放送って──」

 

「……起きちまったんだよ。思い出したくもねぇ“悪夢”ってやつがな」

 

 意味深に言いつつ、人でも殺してしまいそうな怖い顔をした明は手慣れた仕草で救急箱や包帯、絆創膏、さらには使えそうな薬品を見定めていく。

 

「よし……こんなところか。鞠川先生はこれをバッグに詰めてひとまず待機しててくれ。保健室なら頭の良い奴が必ずやって来る。先生は出来る限りの人を集めて速やかにここを脱出するんだ!」

 

 早口で言い残して保健室を飛び出すと、明は上階に続く階段に向かって走り去ろうとする。

 

「えぇっ!? ちょっ、海動君は!?」

 

 保健室の引き戸から顔を出した鞠川先生が大声で聞いてくる。そんな彼女に向かって振り返り、明は手早く要件を伝える。

 

「俺は俺でちょっとばかりやることがある! お互い無事で済んだら生存者を連れて職員室で落ち合うってことで!」

 

「あっ、海動く──んもぅっ! 男の子ってほんっと勝手なんだから!」

 

 何か言い掛ける鞠川先生だったが、既に明の後ろ姿は見えなくなっていた。

 

 

 

 

 

 保健室を飛び出した明は現在、人通りの少ない管理棟の階段から上階を目指していた。

 

 何故こちらの教室棟から遠い場所に位置する階段を使うのかと言うと、教室に近い階段を使って上階から降りてくるであろう大勢の生徒と遭遇したくない為だ。

 

 先程の放送を聞いた生徒達が恐怖を覚え、パニックを引き起こす事は明らかだったからだ。

 

 校門で起きた悲惨な状況を見るに、生ける屍と化した〈奴ら〉は既に大多数が学園内へと浸入してしまっているだろう。

 

 ならばこの場合、先程の放送に煽られて闇雲に一階の出口を目指すのは危険と言わざるを得ない。

 

 ゾンビが物音に敏感なのは映画やゲームでも有名だが、現実の世界でもそれは変わらない。

 

 では、そんな時に数百人もの生徒が一斉に慌ただしい音を立てて逃げ出せばどうなるか……

 

 その答えとばかりに上階から聞こえてくる無数の悲鳴や怒号に対し、物音一つ立てずに階段を登っていた明は小さく「馬鹿が……」と呟いた。

 

 阿鼻叫喚とはまさしくこの事。しかしそれがまた別の〈奴ら〉を呼び寄せる事になる。

 

 あとは学園内の生存者が全滅するまでその繰り返しだろう。ではこの場合、どこに逃げれば助かるのか……

 

 必ずしも正解とは言えないが、明がついさっきまで授業をサボって昼寝していた保健室の他に防音設備がある音楽室、武器になりそうな物を調達しやすい技術工作室、屋上の天文台などが候補になる。

 

 とは言っても〈奴ら〉の浸入を許した時点で学園内は安全とは程遠い。保健室や屋上もひとまずの逃げ場にはなるだろうが、出来る限り早急にこの学園から脱出した方が生存率は上がる。

 

 しかし生き残った者全員で歩いて脱出するのは難しいだろう。となれば脱出手段は限られてくる。

 

 ──車だ。

 

(たしか校門近くの駐車場にマイクロバスがあったな。キーさえあれば俺が運転して逃げれるか……?)

 

 こう見えて明はこの学園に通う同級生よりずっと人生経験豊富な大人である。見た目こそ若くて健全な10代の男子高校生だが、前世の経験から自動車の運転技術は持ち得ているのだ。

 

 無免許で運転する場面を他の生徒や教師に見付かったら何か言われるかもしれないが、今はこの学園から安全に脱出する事を考慮した方がいい。

 

 この時点で明の藤美学園脱出プランはだいたい決まった。まずは音楽室や図書室などを回って生存者がいないかの確認が先決。この状況で冷静に逃げる事より隠れる事を優先した賢い生徒なら、明の仲間に加えても大丈夫だろう。

 

 その後に向かうは職員室だ。パニックに陥った生徒の思考から予想するに職員室に逃げ込む者は少ないはず。

 

 先程の鞠川先生と落ち合う約束もあるが、何より脱出成功のキーとなるマイクロバスの鍵はあそこにしか置いてない為、これは遅かれ早かれ必ず行かないといけない。

 

 問題は全員で職員室を出た後だが……

 

 とその時、教室棟の渡り廊下を通って管理棟に向かってくる無数の小さな足音が明の耳にも入ってきた。

 

(ちっ……やってくれる)

 

 敵の襲来か、それとも逃げ延びた生存者か……どちらにせよ、被害の集中している教室棟と比べてまだ犠牲者の少ない管理棟も雲行きが怪しくなってきた。

 

 

 

 

 

 

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