学園黙示録~ANOTHER OF THE DEAD~   作:聖夜竜

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ここにきて一部のゾンビ作品(とくにエロ関連)には定番と言える触手人間(強化ゾンビ?)投入。

やっぱり普通のゾンビだけだと物足りないので、どうしてもボスキャラというかバイオ的なヤバイ化け物が欲しかった(おい

ちなみに原作の学園黙示録では一切出なかったゾンビ発生の謎にも彼女の存在が関わって……くるように今後ストーリーを進めていきます、はい。


紫藤の野望

 

 現在の時刻は夕方になろうかという16時過ぎ。この季節まだ空は明るいとは言え、さすがに18時頃になると日は沈み、辺りは暗闇に包まれてしまう。

 

 そうなると〈奴ら〉の動きは昼間に比べて活発化し、生きている人間だけを追い求め、建物から漏れた僅かな光すら見逃さない。

 

「~~♪」

 

 そんな中、幾つもの無惨な死体が転がった道路を歩く黒髪に血染めワンピース姿の幼女。子供らしく鼻歌を歌い、その小さな手に持った“人間の片腕と思わしき部位”を時折頬張っては血肉を喰らう。

 

 幼女に名前はない。あるのは究極不滅の生命体『ゾンビ』として地球に蔓延る人間を淘汰し、選ばれた者だけを更なる自然の進化へと導く使命だけだ。

 

 故に、幼女は先程の出来事を思い出して大きく落胆した。自分に声を掛けてきた夫婦と小学生くらいの少女……最初は彼らも大人しくしていたが、次第に難儀な言動が目立ってきた為にまずは父親らしき男性を二人の眼前で容赦なく襲い喰らった。

 

 すると母親らしき女性が悲鳴と共に嗚咽を漏らし発狂した為、幼女が時間を掛けて整理していた死体だらけの道路に再び〈奴ら〉が集まってしまった。完全に退路を塞がれた女性とその子供が何か言ってはあまりに無防備過ぎる幼女に向かって喚き散らしていたが、やがてはその怒鳴り声も〈奴ら〉の人混みに呑まれて消え去り……

 

「また、独り……独りは、イヤだな……」

 

 それから時間も経過し、身体を醜く汚した幼女は夕焼けに染まる茜空を見上げては人間の肉片を次々と捕食する。

 

「やっぱり……“オマエ”じゃなきゃダメなのか……?」

 

 人間もゾンビも無傷のまま駆逐し、地獄の惨劇と化した床主市内の住宅街を独り歩く。そしてついに──見つけた。

 

 幼女の遥か前方に見えてきた光景。先程発生した惨劇で呼び寄せられた大勢の〈奴ら〉が徘徊する道路の真ん中で奇妙な事に一台のマイクロバスが停車している。

 

「……人間、か? いっぱいいる……まだ生きてる……!」

 

 その中に何人かの生きた人間が搭乗している事を一般的なゾンビと異なり“全く衰えていない視覚能力”で確認した。途端に醜く穢れたその小さな身体が火照ったように飢餓への情熱を狂おしく求める。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァァァ……アツイ……カラダが……アタマが……アツイ……!」

 

 停車中のマイクロバスに向かってふらふらと歩き、その途中でこちらに気付き襲撃して来る〈奴ら〉にはまるで目もくれず……

 

「ウルサイ……ジャマするな……!」

 

 不気味に発光した赤い血眼で〈奴ら〉を睨み付けると、幼女は血染めのワンピースに包まれた身体を小刻みに震わせ、道路の真ん中で突然背中を仰け反らせた。

 

「ウゥゥゥゥ……グィギャアアアアアアアアッ!!!!」

 

 大地が震えるほどの凄まじい咆哮。同時に真っ赤に染まる両眼は閃光を放ち、小さな背中を慌ただしく這いずる生物が柔らかい皮を突き破るようにして──“ソレ”は荒々しく産み出された。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……フフ、フ……」

 

 ──触手。ソレは誰がどう見ても触手だった。幼女の背中から勢いよく飛び出したグロテスクな印象を与える赤黒い触手。ぬるぬるとした透明の汁感で卑猥な光沢を放ち、その一本一本が意思を持つかのようにうねうねと蠢いては連動している。

 

「やっと、やっとミツケタ……!」

 

 背中から生えた無数の触手を使って自分へと襲い来る〈奴ら〉の群れを凪ぎ払っては住宅街の道路を行進していく。体内から生えた触手を操る幼女は一際目立つ極太の触手で眼前に迫り来る〈奴ら〉を強大な力で突き刺すと、その衝撃と勢いのまま惨たらしく串刺しにされた〈奴ら〉1体を停車中のマイクロバス最後部目掛けて乱暴に投げ飛ばす。

 

 派手な音を立てて窓ガラスが粉々に砕け散る様を見届け、グロテスクな触手に包まれた血染めワンピース姿の幼女は触手の先端部を優しく愛撫してあげながら恐ろしくニタァと笑うのだった。

 

 

 

 

 

 〈奴ら〉とはまた異なる人類の新たな敵が明達へと襲来するより少し前……床主市の都会的な風景は移り変わり、マイクロバスは住宅の密集地帯を安全運転で進んでいた。

 

「……よし、そろそろ着く頃だな。麗、後ろに行って夕樹先輩達に伝えといてくれ」

 

 無免許ながら交通速度を律儀に守って慎重に狭い道路を走らせる明。その傍では麗が心配そうに見慣れた町並みを見回している。

 

「うん……わかった」

 

 そう答える麗の口は動いているものの、一向に仲間の待機する座席に戻ろうとしない。不審に思った明がチラッと視線を隣に向けると、麗はぽつり呟いた。

 

「ねぇ、明……孝達、大丈夫だよね?」

 

 実は今より少し前──孝、冴子、沙耶、コータの四名はチームリーダーの紫藤に対し離反を突き付けたのだ。その結果、裏切られた紫藤は怒る事も説得する事もなく笑顔で運転する明に指示を与え、住宅街に入った辺りの道路にバスを停車させると同時に四人を降ろしてしまった。

 

 その際に明はバスを降りた孝から密かに幼馴染みであり想い人でもある麗の事を自分に代わって守ってほしいと頼まれ、しっかり答えてから翌日以降どこかの建物で再び合流する事を約束して孝達四人と別れたのだ。

 

「麗……心配するな。小室達も考え無しにこのバスを降りるほど馬鹿じゃねぇ。それに〈奴ら〉との戦闘じゃ俺より戦果を上げてたくらいだからな……一緒に行動してるとちょっと危なっかしいが、まぁあの四人なら俺達無しでも上手くやっていくだろう」

 

(……えっ? ちょっと待ってよ。明、それって……)

 

 何気ない口振りで話した明の不可解な言動に対し、麗は思わず首を傾げて考え込む。どうやら明は運転に集中していて今の自分の発言が“どこかおかしい”事にまだ気付いていない様子。

 

 明と美玖が隠している重要な秘密……その答えが何を意味するのか、麗は今までの明の言動の数々から推測していく。

 

(……あっ! ひょっとして!)

 

 そして脳裏に浮かぶ一つの隠された真実。麗の考えが本当に正しいとすれば、明との認識がそこまでないはずの美玖がやけに明を頼ろうとしている事にも納得が付く。

 

 そして先程の美玖から聞かされたあの内緒の会話……少しずつ見えてきた海動明という人物の正体。

 

(もし本当に明がそうだとしたら……明、私……)

 

 運転席の明に背を向けて座席に戻っていく麗。ちょうどその時だった。

 

「ところで、皆さん──これから始まる我々の“新世界”に向けて話したいことがあります。先程は無謀にもバスを飛び出していった毒島さんと小室君達ですが……我々との共存の道を違えてしまった彼らとの嘆かわしい別れは必然だったのです!」

 

 いつの間にか洗脳説法を終えていたらしい紫藤が後ろに引き連れた数名の信者と共にゆっくりと前方に向き直る。両手を大きく広げ、どこか胡散臭い芝居掛かった怪しい口調で語り出した。

 

「ですが悲しむ事はありません。お友達との辛い争いにも応じず、この安全なバスに賢く留まり、私の教導と庇護の下、天使となったあなた方はとても良い資格を備えた“新世界”の住人にこそ相応しい! そこで皆さん、リーダーである私から素晴らしい“自由”を提唱したいと思うのですが──どうでしょうかねぇ?」

 

「……紫藤……っ!」

 

 思わず紫藤達と車内通路で対峙する形となった麗は殺気に満ちた憎悪の表情でモップの柄を固く握っては彼らを強く睨み付ける。

 

「フフフ──宮本さん、あなたも一度は降りると言いながら結局望みを捨て切れずバスに残りましたね? それは人間として素晴らしく正しいことなのです。世界のすべてが醜く穢れてしまった今、このバスだけが地獄と化した地上を走る人々の楽園となった。そう! 穢れ無き新世界に必要なのは自由と秩序! そして──あなた方のような年若い男と女が与え合い求め合う愛という人間らしい欲望なのです!」

 

 対する紫藤は麗の豊満な身体を舐め回すように冷酷な眼差しで観察した後、眼鏡を不気味に光らせつつ恐ろしい事を宣言した。そして──

 

「「きゃあああああ!!」」

 

「!? 鞠川先生! 林先生!」

 

 ──突然の事態に車内は騒然と動く。驚いた事に紫藤に付き従うどこか様子のおかしい生徒達が静香と京子の教師二人を力ずくで拘束し、紫藤の傍まで連れ去るという暴挙に出た。

 

 『紫藤教』とも言うべき集団は明の離反の動きを事前に察知したのか、マイクロバスを降りて逃げられる前に静香と京子の教師二人を人質にする形で先手を打ってきた。

 

 これには運転席で成り行きを見ていた明も我慢できずに危険な道路の真ん中でバスを停車させるという悪手を選択する他ない。紫藤に気付かれないよう動いていたのが却って不審に思われたのか、あるいは元より明を信用していなかったのか……どちらにせよ、この場面は完全に出し抜かれてしまったと言っていい。

 

「……くっ、俺の考えが甘かったか」

 

「やりました! 紫藤先生! 海動の穢れた魔の手から二人の先生を奪い返しました!」

 

 紫藤に付き従う生徒達が突然静香と京子の教師二人を力ずくで拘束し、紫藤の傍まで下がっていく。

 

「ククク──よろしい。さて海動君、気付いてましたよ? あなたが私に従うフリをしてコソコソと宮本さん達と離反を企てていたというのはねぇ」

 

 複雑な感情渦巻く黒い笑顔を浮かべた紫藤。身動きの取れない静香と京子の真後ろに立ち、明や他の生徒が見ている前で二人の肩に気安く腕を回す。

 

「くっ、紫藤……ッ!」

 

「い、いやぁ……助けて、海動君!」

 

「や、やめてください! 紫藤先生……こんなことして何の真似ですか!?」

 

 涙を溜めて嫌がる二人を尻目に、紫藤は信者と化した金髪の不良生徒に目で軽く合図を送り、何かを片手でしっかりと受け取る。

 

 それは以前明と言い争っていた例の不良が携帯していた市販のナイフだった。紫藤は信者から受け取ったナイフを二人の眼前にちらつかせて囁く。

 

「ご安心ください。お二人に怪我をさせるつもりなどありません。鞠川先生と林先生にはこれから我々と一緒になって頂きます。この子達も生き残る為にあなた方を頼ろうと欲しているのでねぇ」

 

 そう言って不敵な笑みを漏らす紫藤の後ろでは、待機していた男子生徒達が興奮状態のあまり涎を垂らして静香と京子の魅力的な桃尻を下品に眺めているではないか。

 

「見下げた野郎だな。新世界がどうだのほざいてたワリに、結局目的はここにいる女達の身体って訳か?」

 

 明が吐き捨てると、紫藤はふむ……と漏らしてから明にナイフの刃先を向けて静かに語り出す。

 

「海動君……私はね、女性への情欲など最初から“全く興味ない”のです。ですがこの子達はどうでしょう? 我々は新しい世界を生きる為に今こそ変わらなくてはならない……皆さん、外をご覧なさい。死してなお、他者を傷つけようとする者達に満ちたこの世界の有り様を!」

 

 ビシッと指差した先には道路を徘徊する〈奴ら〉の群れが蔓延っている。

 

「ですが我々はあのような“モノ”とは無縁です。私は生徒達にある程度の自由を与えると約束しました。その結果、彼らがここにいる女性との性的行為を求めたとしても、私はそれを止められません。何故なら──それが人間に与えられた生きる為の特権だからです!」

 

 熱が入った紫藤の演説に信者となった生徒達が次々と拍手して彼を讃え始める異様な状況の中、紫藤は劣勢に追い込まれた明に歩み寄りながら話を続ける。

 

「海動君、男女の交わりはこれから我々が新世界に適応していく為に必要な、謂わば人間が持つべき本能なのですよ」

 

「なるほど……お前の頭の中がヤバイ思想で染まってるのはよくわかった。それで紫藤、死ぬ前に言い遺す言葉はそれだけか?」

 

 ここにきてようやく口を開いた明。その表情は恐ろしいまでに殺気立っており、元々の凶悪な顔も相まって凄い形相となっている。

 

「フッフッフ──死ぬ? この私が?」

 

 しかし紫藤は動じない。それどころか明との駆け引きを楽しんでいるようにすら見える。いったいその余裕はどこからくるのだろうか……

 

「海動君、あなたが女性に弱いというのは既にわかっています。お美しい鞠川先生と林先生はもちろん、親交の深い宮本さんや他の娘さん方を目の前で犯されたくはないでしょう?」

 

「……何が望みだ?」

 

「フフフ。海動君にはできたら我々の仲間になって頂き、私の意見に従わない女性達を心身共に上手くコントロールしてもらうつもりでしたが……ふむ。その殺気に満ちた怖い顔付きからして、どうやら答えは聞くまでもなさそうですねぇ?」

 

「当然だろ。俺はお前を許したつもりなんてねぇんだ。麗やみんながいなけりゃとっくに殺してやってるところだ」

 

 殺人鬼すら逃げ出しそうな凶悪な顔で言い放つ。この時点で既に交渉は決裂したと言っていい。ならばと紫藤も邪悪な笑顔で告げる。

 

「フッフッフ──この状況でよく虚勢が張れるものです。海動君、やはり君がいるとこの先きっと良くない……バスを降りて死んでくれますか?」

 

 




ただいま外道教師こと紫藤をこの章で殺してしまうか、しぶとく生き残らせるかで悩んでる作者です。

展開的には紫藤チーム退場の方が楽なんですけど、ここで貴重な人間の敵役が減るのは惜しい気も……うーん。
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