学園黙示録~ANOTHER OF THE DEAD~   作:聖夜竜

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予想より長くなったので前後編に分けて更新します。

それと夕樹美玖に関するオリジナル設定あるので注意。


お風呂の中で 前編

 

「ふぅ……まさか海動君のお家でお風呂入れるなんて夢にも思ってなかったわねぇ」

 

 白いバスタオルで金色の髪を丁寧に巻いた静香がユニットバスの中でうっとりと呟く。その隣ではリラックスした様子の京子と美鈴が肩まで浸かっており、静香が持ち込んだ香水入りのユニットバスに癒されていた。

 

 最初に髪の毛と身体を綺麗に洗い終えた静香、京子、美鈴の三人がユニットバスに入り、反対にそれまでユニットバスで温まっていた麗、智江、敏美の三人が現在は横に並んで身体を洗っている。

 

「あの、夕樹先輩『美玖』──えっ? あっ、ごめんなさい……美玖さんは本当に最後でいいの?」

 

 全身を真っ白なボディソープで包まれた敏美が訊ねる。美玖はユニットバスの端に足を組んで腰掛けており、まだ一度もその場から離れていなかったのだ。

 

「いいわよ別に。アタシはこうしてみんなの見張りやってあげてんの。途中でスケベ野郎共にエッチな身体覗かれたら嫌でしょ?」

 

 からかう口調で言われ、麗、智江、敏美の三人は揃って顔を赤らめてしまう。

 

「なんて言うか、意外……夕樹先輩──美玖ってもっと怖い感じの人かと思ってた。学校でも色々と危ない噂があったから」

 

 麗が呟くと、美玖は短く笑ってから足を組み直しつつ真面目に語り出す。

 

「アタシはいつも自分の事だけ考えてがむしゃらに生きてきたからさ。こうして不良になったのも親父に虐待されてたって影響もあるのよ」

 

 美玖は笑って自分の秘密を話すが、その鋭く光った瞳には冷たくて暗い闇が広がっている。

 

「美玖さん、その……家族とかは?」

 

「誰もいないわ。母親はどっかに別の男作ってアタシ見捨ててとんずら──それ以来一度も会ってないしもう二度と会いたいとも思わない。父親は酒とギャンブルで狂った挙げ句にあちこち借金作って危ない薬にまで手ぇ出して──」

 

 そこまで話すと、美玖は深い溜息を吐いて浴室の天井を見上げた。

 

「……アタシさ、いつも他人から虐待されてた。親父はアタシの身体使って援交とか売春させたりして金を稼げるだけ稼がせて自分は偉そうに威張り散らしてばっか。あの女は汚い親父連中に無理やりセックスさせられて泣きじゃくるアタシを助けようともせず邪魔者扱いして自分だけさっさと逃げて──そこで思ったんだ。このつまらない世界で頼れるのはいつだって自分だけ──だからアタシも生きようと必死だった」

 

 美玖の瞳からぽろぽろと小さな涙が頬を伝うと、彼女は立ち上がって黙々と聞き入る全員の顔を見回す。

 

「生きるってことはさ、戦いなのよ……孤独で虚しいたった一人の頑張り物語。そしてアタシは負けじとそれに戦いを挑んだ──」

 

 それからの美玖は凄まじい変化を遂げた。より淫らでよりいやらしく、より残酷でより危険な悪女へと……一年生になった辺りで藤美学園の不良だった当時の先輩達に媚び売って不良グループの仲間入りを果たすと、自身が長年掛けて磨き上げた年齢不相応の美貌と悪い大人達から散々教え込まれた快楽の技術で心身共に彼らを骨抜きの虜にした。

 

 そこから美玖は頭角を現し、先輩達が卒業した後も藤美学園が誇る最強最悪の不良女子として暗躍する事に──そして今日の朝にパンデミックが発生し、美玖が退屈に感じていたこの世界は唐突に呆気なく終わりを迎えた。

 

「……まだ本質は昔の悪いアタシのままかもしれない。けどアタシだってもう逃げたくないからさ……だからこれからは海動と一緒に戦う。アンタ達も救えるだけ守って、アタシがアタシでいられる証をこの新しい世界で見つけてみせるのよ!」

 

 美玖の独白と胸に秘めた覚悟を聞いて他の彼女達は口にこそ出さないものの、各々が衝撃を受けていた。美玖の黒い噂が真実だった事はもちろん、それ以上の知ってはいけない彼女の深い闇を覗いてしまった気分だ。

 

「──って、何よみんなして! アタシのことはもう忘れていいからアンタ達もさっさと恥ずかしいところサービスしなさいよぉ!」

 

 ……言い過ぎた。美玖はせっかくの入浴タイムが自分のせいで楽しくなくなっては彼女達に悪いと思い直し、一度空気を変える為にもボディソープを付けて身体を洗う途中だった麗、智江、敏美の魅力的なむちむちボディに冷たいシャワーを勢いよく浴びせ掛けた。

 

「「「きゃんっ!?」」」

 

「んん~? あらぁ、可愛い反応ねぇ♪」

 

 突然の行為に敏感な反応を見せる三人。各々が涙目で美玖を恨めしく睨み付けると、その中で一人立ち上がった麗が冷水の溜まった桶を掴んで彼女の豊満な巨乳目掛けてお返しとばかりに冷水を浴びせ掛けた。

 

「やぁんっ♪ 冷た~い!」

 

「うぐっ……この人全然堪えてない……」

 

「アハハ♪ まだまだ甘いわねぇ。どうせならこういうところにしないと──ほぉら、捕まえた♪」

 

「ひゃっ!? ぁ……んっ……やぁ、そこだめぇっ! あっ、あぁ……んんっ……!」

 

「アタシに勝とうなんて百年早いわよ、麗。さぁ~て、後の二人はどんな可愛い声でエッチに鳴いてくれるかしらぁ? フフフ……」

 

 そうして始まる美少女達の裸の交流。美玖を巻き込んで四人全員が全裸で揉みくちゃになってイチャイチャ楽しんでいると、美玖と麗にEカップの巨乳を揉まれていた敏美が突然冗談ではない本気の悲鳴を上げた。

 

「敏美!? ど、どうしたの!?」

 

 敏美と仲の良い美鈴がユニットバスから立ち上がって慌てて訊ねると、片手でぷっくりとエッチに膨らんだピンク色の乳首を隠した敏美がすっかり怯えた顔で窓ガラスを恐る恐る指差した。

 

「あ、あそこの窓……さっき誰かが私達のこと覗いてたような……」

 

 先程までの快感とは明らかに違う意味で身体を震わせた敏美が言うには、浴室の窓から怪しい人影がこちらを覗いていたとの事。

 

 ただ事ではないと感じた麗と美玖が浴室の中からその窓を開けて二人で外の様子を確認するが、浴室の近くに誰かが立っている人の気配はない。

 

「ねぇ、敏美ちゃん……誰もいないわよ?」

 

「敏美、アンタほんとに見たの? アタシ達のおっぱい攻撃から逃げようとデタラメ言ったんじゃないでしょうねぇ?」

 

 麗と美玖に怪訝な表情で振り向かれ、敏美も恐る恐る開かれた窓ガラスに歩み寄っていく。

 

「ほ、本当に見たもん! その……お風呂の湯気であんまりはっきりとは見えなかったけど……女の人の顔みたいな影がぼや~って窓の外に見えてた……と思うけど」

 

 敏美が窓の外で視たモノについて話していると、その場にいた全員が突然悪寒のようなものを肌に感じ、得体の知れない不安と恐怖からブルッと身体を震わせてしまう。

 

 これは窓の外から浴室に入り込む冷たい夜の外気が原因ではないと、ここにいる全員が何故だか直感した。

 

「た、たぶん気のせいよ。ほら、身体冷えちゃったしもう窓を閉めよ? ねっ?」

 

「……そうした方がよさそうねぇ」

 

 何やら危機感を察知した麗と美玖が急いで窓を閉めていく。その様子を海動邸の敷地内の物陰から二つの発光した血眼が瞬き一つせずにジーっと浴室を覗いていた。

 

 ……そして、一言。

 

「……見ィつけたァ♪」

 

 クスクスと笑う女の子の声は不気味に囁いてからその姿を瞬時に消し去るのだった。

 

 

 

 

 

 浴室で女性陣が楽しそうに水浴びして騒いでいる頃、エプロン姿の明は今晩の夕食に使う新鮮な野菜を包丁で切っていた。

 

「……おっと、そういや大事なもん忘れてたな」

 

 そこでふとある事を思い出し、包丁をまな板に置いた。明はキッチンの棚から調味料や隠し味に使う材料を探し始めると、事前に買い置きしていたそれらを並べていく。

 

「やっぱカレー作るには必要だからな。せっかくならみんなには美味いもん食わせたい」

 

 得意気な顔をする明が次々に取り出したのは、市販の辛口ルーの他に醤油、にんにく、リンゴ、チョコレート、インスタントのコーヒー豆だった。

 

「おーい海動! ちょっといいかー?」

 

「ん? どうした?」

 

 リビングにいた森田と今村からお呼びの声が掛かるが、ちょうど料理で手が離せない明は二人に何事かと訊いてみる。

 

 聞けばこれだけの物資を事前に用意していたのだから、〈奴ら〉と戦う為の武器なども用意しているんじゃないのか?との事。言われてみれば納得の質問に頷いた明はちょうどいい機会だと思い、ここで少し武器に関する話を真面目に語り始めた。

 

「対ゾンビ用の武器になり得そうな物しか用意してねぇけどな。ま、それはまた後でみんな揃ってから話すとして……先にお前らには武器選びで大事なことを言っておくか」

 

「な、なんだよ急に……」

 

「例えばの話だが──B級のゾンビ映画なんかだと、やたら乳のでけぇ主人公の美女がチェーンソーで派手に斬り込むシーンがあるだろう? あれは数ある対ゾンビ武器の中じゃ一番あり得ない最悪なパターンだ。お前らそういうのほんと好きそうだから予め釘を刺しておく」

 

 ……どうやら完全に図星だったらしい。森田と今村はゾンビ用の武器として明がチェーンソーを用意しているものだと思っていたらしく、その明からチェーンソーの使用はあり得ないと言われて驚きを隠せないようだ。

 

「マジかよ……俺ああいうことするんだってちょっと憧れてたのに」

 

「そうだよなー。チェーンソーかっこいいと思うけど駄目なのか?」

 

「おいおい、お前らなぁ……そもそもチェーンソーってのは威力こそ確かに派手で強力だが銃以上に騒音が激しいんだ。おまけに〈奴ら〉を斬り刻んだ過程で飛び散る血や肉片ですぐ使い物にならなくなる。それにチェーンソー本体を充電しながら戦う問題だってある。かっこいいと思って目立って死にたい馬鹿でもねぇなら、間違っても仲間のいる場所でチェーンソーを使おうなんざ思わねぇでくれよ?」

 

 ゾンビに関する知識が他人より豊富な明がそう言うのだから間違いないのだろう。はっきりとチェーンソー使用禁止を言い渡されて落胆した様子の二人は次に気になっていた事を質問する。

 

「じゃあ銃! 銃とかはさすがに家にあるんだよな!? な!?」

 

 期待する森田と今村に対し、明は静かに首を左右に振る……つまり“ノー”だ。

 

「そりゃ映画の観過ぎだ。第一この日本で本物の銃なんざそう都合よく手に入るわけないだろ? それに現実の〈奴ら〉と殺り合うのに銃はそんなに必要ねぇ。あれは素人が撃つと命中率が極端に下がるうえに撃った時の音で〈奴ら〉を余計に呼び寄せてしまうからな」

 

「……なんかそれ、本物の銃を前に撃った事あるみたいな言い方だよな?」

 

 キッチンでリンゴをすりおろしながら淡々と答える明に対して森田と今村が思わず疑問に感じた事を聞き返すと、明の手先が一瞬ピクッと反応した。

 

「……考えてみればわかるさ。“構えて狙って撃つ”──弾が飛び出すまで三行程も掛かってその間こっちは自由に身動きが取れねぇんだ。他に心強い仲間がいるなら銃を使ってもいいが、俺としてはあまりオススメできねぇな」

 

 二人の疑問は適当にはぐらかされた気もするが、森田と今村は大人しく引き下がる事にした。何しろお風呂に入っている女性陣が出て来たら改めて用意した武器の紹介と説明をすると明が言っているのだ。

 

 ならばここは素直に待った方がいいと二人は思い直したらしい……とその時、浴室の方から敏美と思われる悲鳴がはっきりと聞こえてきたではないか。

 

「おぉ、すげー声。なぁ、今のって敏美ちゃんかな? 結構ガチっぽい悲鳴だったけど……」

 

「さぁ? けどあいつらも何かあったら風呂から出てこっちに逃げて来るだろ。それがないって事は多分何もなかったんじゃね?」

 

「……ったく、あいつら……騒ぎ過ぎだな」

 

 しかしその悲鳴を聞いても男子達は顔色一つ変えずに平然としていた。というのも先程から何度も女の子達の騒ぐ声が浴室から聞こえていた為、今回の悲鳴も他の娘に襲われた敏美が思わず叫んだものだろうと考えたらしい。

 

 そこで明はカレー用の鍋に入れていた水が放置していて沸騰している事に気付き、慌てて持ち場に戻っていく。色々と大変そうな明を見ていても手伝える事はなさそうと思ったのか、森田と今村は誰もいないリビングを抜け出してこそこそと何処かへと立ち去るのだった。

 

 

 

 

 

 




最初はもうちょっとエロいこと細かく書こうと思ってたけど、あまりにもエロくやり過ぎて全年齢版からR18版にやむを得ず移行してグダグダになってしまった作品の前例があるので、今回はエロ方面に関する文章力を最低レベルまで落としてこの辺でやめときます。

後編パートはまぁ定番のお約束ネタですかね(笑)

原作では孝もコータも結局やらなかったので今回はしっかりやらせてもらいます。

そう、男の子には誰だって意地があるんです。

何はともあれこれで第3章も折り返し地点まで進んだ感じかな?

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