学園黙示録~ANOTHER OF THE DEAD~   作:聖夜竜

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お待たせしました!最新話です!

まずは更新が遅れてすみませんでしたm(_ _)m

充電期間を頂いたので、これからまた更新していきます。


お風呂の中で 後編

 

 キッチンで料理中の明が森田と今村に武器について話している頃、とある女性の趣味でかなり広めに設計された浴室では髪の毛と身体を綺麗に洗い終えた女性陣がこのような会話をしていた。

 

「ねぇ、麗……アンタ海動の家族の事は知ってんの? ここに来た時にそんな事言ってたじゃない」

 

「あ、それは……」

 

 話題となるのは明の家族のこと……どうやら女性陣にはそれが気になる者もいるようで、浴室の全員が麗の方へと耳を傾けて集中する。

 

「えっと、私も詳しく聞いてる訳じゃないの……明は家族の話題になると急に冷たくなっちゃうから」

 

 そう言って麗は自分の知る限りの情報を静かに語り出す。

 

 ──その昔、明は両親と共にこの床主市内に豪邸とも言える立派な家を建てて暮らしていた。

 

 明の母親は日本で知らない人はいないとまで言われた超有名なファッションモデルの仕事をしており、父親は日本でもあまり知られていない放射線研究のパイオニアとして専門家達から注目されていた天才的な科学者で、それはまさしく誰もが羨む完璧な両親だったと言えるだろう。

 

 そんなある時、明の父親が度々この家を空けて引き籠っていたという日本海側に位置する“とある片田舎の研究所”が原因不明の大爆発を起こすという悲劇的な事件があった。それによって研究所内部から漏れ出した有害な放射線が日本海側を中心に全国各地へと広がり、その研究所は跡形もなく消し飛んでしまったという……

 

 それがちょうど今から半月ほど前の出来事で、事件当時は日本どころか世界中のマスコミが大々的にこれを報道した。

 

 明の父親である海動博士は研究所の大爆発に巻き込まれて死亡したと発表され、世界中から放射線研究について非難を浴びる事となった。同時に母親は放射線事件の起きた数日前から何故だか行方不明となっており、彼女がそれまでに多く関わっていたファッションモデルの仕事はやむを得ず休業……かつての栄光も虚しく海動家は完全に崩壊した。

 

 そして明は床主市の海動邸に一人で戻って藤美学園に通いながら、幼少期に幼馴染みだった麗や小室孝、高城沙耶と再会する事となった。

 

 そこから先の明については恐らくこの場にいる誰もが知っている事だろう。立派な両親を一度に奪われ、日本や海外のメディアからは酷く付き纏われ、明は逃げるように床主市へと帰って来たのだ。

 

「……ごめん。私が知っているのはこれくらいしかないの」

 

 そうして海動家の話は終わり、女性だらけの浴室にまたしても重苦しい沈黙が流れていく。

 

「……そっか。だからアイツ、こんな裕福な家にたった独りで暮らしているんだ」

 

「ねぇみんな……この話は海動君にはしちゃいけないと思うの。ただでさえ普通の人より辛い人生を送っているんだもの……家族の事は忘れさせてあげた方が彼の為にもいいのかもしれないわ……」

 

 

 悲しげに呟く静香を見て、一同は何も言わないままただ頷く事しかできずにいる。しかし彼女達はまだ知らない。

 

 お風呂から上がって後程聞かされる事となるであろう明の隠していた話の内容……その一部に海動家の存在が今回のパンデミック発生の根本から深く関わってしまっているという、最早どうしようもない避けられぬ悲劇の事実を……

 

 そして、浴室の外に位置する脱衣場にこっそりと忍び寄る二つの怪しい人影が彼女達を狙って動き始めた事を……

 

 

 

 

 

「どうだ? 中の様子は?」

 

「くそ……ガラスが曇っててイマイチ見えねぇな」

 

 そして現在、脱衣場では森田と今村が“ある種のお約束”とも言える女風呂の覗きを働いていた。

 

「女達のブラもパンツも全部ここに置いてあるけど、これじゃいったい誰が誰の下着か全然わからねぇし……なぁ森田、お前こういう情報に詳しいんだろ? 鞠川先生と林先生の下着がどれかだけでもわからねぇか?」

 

「出たよ今村のオバコン。まぁその点俺様は藤美学園可愛い美少女ランキング上位トップの麗お姉さまに智江委員長、敏美ちゃんと美鈴ちゃんペア、あとはやはりセクシー過ぎる美玖先輩のがいいけどな」

 

「んだよ、お前だってお互い様じゃねーか」

 

 ひそひそと声を落として話す二人。彼らは脱衣場の床に彼女達が1日中身に付けていた色とりどりの下着を並べて座り込んでおり、一つ一つ綺麗な下着を手に取って見ては良からぬ妄想に耽っていた。

 

 ……その時、森田と今村の肩が不意にぽんぽんと叩かれる。

 

「「ん? なんだ……よ?」」

 

 怪訝な顔をした二人が気になって一緒に背後へと振り返ると、そこにはいつの間にか怖い顔付きの明が無言のまま腕を組んで仁王立ちしているではないか。

 

「こんばんは」

 

 開口一番、二人と同じ視線の高さになるように両膝を折った明がそれは実に“イイ笑顔”で挨拶する。

 

「「……こ、こんばんは」」

 

 額から溢れ出る大量の汗を止められないまま、森田と今村は真っ青な顔で反射的に挨拶を返す。

 

「少し様子を見に来てみれば……お前ら二人揃って仲良く女の風呂場を覗き見か? 人ん家で随分いいご身分だなぁ──なぁ? そうは思わねぇか、え?」

 

 まずい……これはもう仲間に殺されても文句は言えねぇ……この時、明によって痛いほど肩を力強く掴まれていた森田と今村は青ざめた表情で全く同じ事を思っていた。

 

「え、えっと……これはその……ほ、ほら! 女の子達が脱ぎ散らかした下着を洗濯機に入れてあげようかなーってほんの親切心が働いてよぉ──」

 

「そ、そうだぜ! 俺達女の子にはマジでノータッチな紳士なんだって!」

 

「ほぉ? それで洗濯機に入れる前にご丁寧に全部並べて拝んでた訳か。そりゃ親切心じゃなくスケベ心が働いた変態紳士の間違いじゃねぇか?」

 

「「うぐっ……お、おっしゃる通りで……」」

 

 ……下手な言い訳すらこの男の前には通用しない。明は深い溜息と同時に二人の肩から両手を放した。

 

「はぁ……女達には黙っといてやる。だがこれに懲りたらカッコ悪い真似してねぇで、ちょっとは女達にイイ男でも見せるんだな」

 

「「か、海動……! す、すみませんでしたーーっ!!」」

 

 目に反省の涙を浮かべ、下着が散乱した脱衣場から謝罪の言葉を述べつつ一目散に逃げ出す二人。その反動で広々とした床に並べられた様々な下着がふわりと宙に舞い上がる中、苦笑する明はそれらの下着を自分の頭や肩、それに腕や手を上手く使って一つ一つ見事にキャッチした。地味な仕草に見えてなかなかの身体能力である。

 

「ったく……よくこんな状況で女の裸なんざに興味持てるな」

 

 溜息混じりに呟き、明はそれらの下着を不恰好に身に付けたまま脱衣場付近の洗濯機に彼女達のセーラー服やスカートを放り込んでいく。明も最低限の洗濯くらいは人並みにできるのだ。

 

「へぇぇぇ……あきらぁ、私達ってそんなに興味持たれてないんだぁ……」

 

 ──とその時、洗濯機の前に立つ明の背後でふと麗の恐ろしい声が聞こえてきた。

 

「お、お前ら……」

 

 そしていつの間にか開かれていた浴室のドアの奥に立ち並ぶ全裸の美女と美少女達。全く警戒していなかったのか、誰一人として胸元や大事なところを隠しておらず、それら全ての贅沢な景色が明の眼前にいやらしくも美しく広がっていた。

 

「海動君……なんて言うか、その……不潔ですよ……」

 

「……最低」

 

「やっぱり女の敵よね」

 

「海動君……あとで先生とゆっくりお話ししましょうか。もちろん逃げるのは許しませんから覚悟なさい?」

 

「うっ……あ……いや、その……これはつまりだな……」

 

 頭に誰のかもわからない大きなカップサイズのブラジャーを幾つか乗せ、肩や腕に可愛らしいショーツなどを落ちないように器用に引っ掛けていた明が狼狽えて後退りしてしまう。

 

「ねぇ海動君……ひょっとして私達の下着にしか興味ないの? あっ、そっか……だからさっき私達の服だけ脱がせて下着はそのままにしろって言ってたの?」

 

「いや、だから別に見たくないって意味で言ったわけじゃ──」

 

「「問答無用ッ!!」」

 

「っ……すまんみんな!」

 

 代表として麗と智江の二人から気持ちのいい音を響かせるビンタを盛大に2発喰らった明。一方で身体の全てを見られて恥ずかしがりつつも明の反応が気になって一喜一憂する全裸の美少女達をその場に残し、哀れ明は大量の下着を洗濯機に投げ入れると同時に脱衣場から退散するのだった。

 

 

 

 

 

 ちなみにその後、キッチンに戻った三人の覗き魔はというと……

 

「海動、今村……俺、さっきから涙が止まらねぇよ……どうしたらいい?」

 

「言うなよ森田……今の俺達にはこれがお似合いってことだろ。なぁ海動?」

 

「……うるせぇ。くそ、今日に限って玉ねぎがやけに目に沁みやがる……泣けるぜ」

 

 作業の途中だった玉ねぎをまな板の上で切り出した明。その両方の頬には真っ赤な紅葉模様が綺麗に描かれ、それを見た森田と今村は色々と察したのだろう。

 

 二人揃って申し訳ない気持ちで夕食のカレー作りを手伝うと言い出し、当初の予定よりもだいぶ遅れて海動家自慢のカレーライスは完成するのだった。

 

 

 

 

 

 ──それから数分後、リビングの広いテーブルに完成したばかりのカレーライスを装った皿に銀色のスプーンを人数分並べていた森田と今村。

 

 そこに白いバスタオルだけを羽織った美玖がいつもしている特徴的なカチューシャを外し、珍しく髪を下ろした様変わりの姿でリビングに入ってくる。

 

「男たちぃ、お・待・た・せ♪」

 

「「ぶほぉっ!?」」

 

 まるで隠す気のない綺麗な乳首丸見えな胸の谷間を堂々と見せつける無防備な美玖に対し、完全に油断していた森田と今村は興奮のあまり大量の鼻血を一気に噴出してしまう。

 

 さらに美玖の後ろから湯上がりで火照った身体を魅力的に濡らした麗、静香、智江、敏美、美鈴、京子が全員バスタオルをきちんと巻いた姿でリビングにやって来るではないか。

 

「ちょっと美玖さん!? なんてはしたない格好で男の子達の前に出てるんですか!? 色々と見え過ぎです! 破廉恥ですよ!」

 

 その中でいつも掛けている眼鏡を入浴中はきちんと外していた智江が慌てた様子で駆け寄り、美玖が首からぶら下げただけにしている際どいバスタオルを急いで結んで強制的に隠させてしまう。

 

「あら、いいじゃない別に。サービスサービスぅ♪ってやつよ? ほら、アンタ達も今のうちにアタシ達を見てしっかり喜んでおきなさい?」

 

「「はい! ありがとうございますお姉さま! くぅ~~ッ! 生きててよかったぁ~~!」」

 

 大胆に身体を揺らしつつ、濡れたバスタオルの下からチラリと覗くむちむちっとした健康的な太ももを美玖はわざと見せ付けてリビングを歩き出す。森田と今村は予想外にも訪れた歓喜の時に震え、鼻血と涙で顔をぐちゃぐちゃに汚しながらお互いにガシッと力強く握手を交わして盛大に感謝するのだった。

 

 もしもこの時、全員が集まったリビングに家主である明がいたとしたら、恐らく呆れ果てた表情で「馬鹿が……」とでも呟いていた事だろう。

 

 ではその明はというと……夕食に用意したカレーライスをリビングのテーブルに運ぶのを森田と今村の二人に任せ、自分は一階の階段を登って二階に位置する自室へと戻って来ていた。

 

「ふぅ……まさかまたここに戻って来るとはな」

 

 下の方から森田と今村、そして女性陣の賑やかな談笑の声が微かに聞こえてくる中、明は自分の部屋の窓を開けて独り静かに冷たい夜風に当たる。

 

「……なぁ? まだそこにいるのか?」

 

 どこか諦めた様子の明が窓の外に向かって声を掛けると、“聞き覚えのある女の子の楽しげな笑い声”が脳裏に嫌でも響き渡る。

 

「……“お前”とも長い付き合いになるよな──って、そりゃそうか。呪われた血で結ばれた兄妹だもんな」

 

 独り言のように呟き、エプロンをキッチンで事前に脱いでいた明は自室の机の引き出しに置いてあった煙草のケースから一本だけを取り出して自然な仕草で口元に運ぶ。今度はマイクロバスで披露した駄菓子のシガレットではなく、二十歳未満は購入できない本物の煙草にマッチで火を点けた後、身体に悪い煙を肺いっぱいに吸い込んだ明はゆっくりと口から紫煙を吐き出す。

 

「ふぅ……ひとつ“お前”に聞きたい。“この俺”をどうしたいんだ?」

 

 明には以前からどうしても気になっている事がある。その得られない答えを探し求め、今回のパンデミックに巻き込まれて〈奴ら〉との戦闘で死ぬのが望みかと考え、「いや違うな」と即座に出した答えを否定する。

 

 ──海動明という人間は死ぬ事がない。それは文字通りの意味であり、たとえ銃弾を何発と浴びようが鋭利な刃物で全身を斬り裂かれようが、血湧き肉躍る限り何度死んでも必ず生きてこの世に舞い戻るのだ。

 

 それはまさしく完全無欠な不死身の生命体である。この存在を世に生み出した明の父親である海動博士はこれを古い映画の化け物に倣って〈ゾンビ〉と呼んでいたようだが、不死身の体現者となった明にしてみれば今更名称などどうでもいい話だった。

 

 不死身であるはずの自分自身の最期すら思い出せないまま、彼は幾度となく似たような世界を渡り歩いてきた。

 

 その度に仲間を救い、仲間を失い、仲間に裏切られ──そうして守ってきた仲間が誰一人いなくなっても明は独り静かに未来永劫、時の狭間に囚われた地獄の世界に落ちていく。

 

 明は自身が宿す不死身の能力を『無限地獄』のようだと勝手に呼んでいるが、それはある意味正しいと言えよう。

 

 生前に悪い行いをした人間が死んで行き着くと言われるあの世の冥界──地獄。地獄は全部で8つの階層から出来ており、その中でも最下層に位置するというのが『無間地獄』である。

 

 地上から一番下まで落ち続けるのに軽く2000年以上は掛かり、その深すぎる地獄に落ちたらもう二度と上層へは這い上がって来れないとされる最恐最悪の終着が無間──その名前を取って『無限』だと。

 

「………」

 

 明はもう何度目かもわからない見慣れた自宅の景色を眺め、煙草の紫煙をゆっくりと吐き出してはしばらく孤独に浸るのだった。

 

 




次回は夕食会。

いよいよ海動が全ての秘密を仲間に打ち明けます。

そして新しく登場する海動の母親と父親なる謎のオリキャラ……舞台は少しずつダークでバイオレンスな世界へと進みます。

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