学園黙示録~ANOTHER OF THE DEAD~ 作:聖夜竜
この話からは海動による情報提供パートです。
そして仲間からも正式にチート認定される海動ェ……
自室で一服を終えた明が階段を降りてリビングに戻ると、バスタオルを脱いで用意されていた白のワイシャツと下着姿に着替えた女性陣がテーブルの椅子に座っている。
一方で森田と今村はテーブルの隅の方に座っており、二人揃って鼻には何故かティッシュを詰めていた。また何かあったのかと思ったが、考えれば容易に予想できる事情なので明もそれ以上は聞かない事に決めてテーブルに着く。
「なんだ、まだ食べてなかったのか。俺を待たずに食べててよかったんだぞ?」
黒いズボンの上から真新しいワイシャツに着替えた明だが、誰一人カレーライスに手を付けていなかったようで訊ねる。
「だってみんな一緒にご飯食べた方がいいじゃない? これからはもうこんな食事できないかもしれないんだし……」
麗の言う事は一理ある。今日のところは事前に買い置きしていた新鮮な食材と白米を使ったので夕食を作れたが、明日以降は電気ガス水道が止まる可能性だってある。
「……そうだな」
こうして仲間全員で平和に囲む食卓も今日で最後になるだろう……明は納得し、遅れて来た事を謝ってから改めて仲間を見回す。
風呂上がりで女性的な魅力が普段より格段に上がっている彼女達は全員が揃って肉体のプロポーションが良すぎるせいか、明が用意したワイシャツのサイズがまるで合わず、この中で唯一の貧乳である美鈴を除いて巨乳美少女達のボタンは今にも窮屈で弾け飛びそうに胸元や谷間をパンパンに強調し、腹部から下は全員色とりどりのショーツが丸見えになってしまっている。
そのあまりに際どい彼女達の卑猥な姿を見て、明は森田と今村が先程から挙動不審になっている理由を自ずと理解する。
(……こりゃ近いうちに女達の着替えや下着を調達しないといけないな。さすがに目のやり場に困っちまう)
真面目に思いつつ、明はスプーンを片手に食事前の挨拶をきちんと行う。
「それじゃあみんな、いただきます」
明に続けて全員が声を揃え、「いただきます」と言うと夕食会はスタートする。
「っ……!? なにこれ美味しい!?」
「うっま! マジかよおい、ウチの母ちゃんが作るカレーより美味いじゃねーか!」
「ほんと、すごく美味しい! どうやってこんなお店のカレーみたいな味を出せるんですか!?」
「うぅ、悔しいけど負けた……海動、男のくせに料理もできるなんて反則でしょ……」
全員でカレーライスを一口食べた感想は様々だが、明がほとんど一人で作ったというオリジナルのカレーは革新的な味だったらしい。
「ああ。隠し味にチョコレート、リンゴのすりおろし、にんにく、インスタントコーヒーの豆なんかをちょっと入れて煮込んだんだ。カレー本来の辛さを抑える甘みにコクと深みが出てなかなか美味いもんだろ? まぁ、ルーが市販ってのはさすがに勘弁してほしいが……」
そうは言うが、全員のスプーンを動かす手は止まらない。それどころか森田と今村に至っては既に完食して早くもカレーのおかわりを訴えてきた。
「お気に召したようでよかったぜ。だが悪いな……明日の朝用にカレーと米を少しでも残しておかねぇといけないんだ。気持ちは分かるが我慢してくれ」
状況が状況であるが故におかわり禁止と言われては仕方ない。落胆気味の森田と今村は気を取り直すと、森田がリビングに置いていた愛用のギターでムードを盛り上げる演奏を開始する。
全員でカレーを食べながら森田のギター演奏を楽しみ、束の間の一時は平穏無事に過ぎ去っていく。
もう二度と、このような時間をここにいる仲間全員で過ごすのは無理なのかもしれない……誰もが言い表せない明日への不安感をそれぞれ胸の内に秘めながら、冷たい銀のスプーンだけがカチャカチャと食卓の音を立てていた。
その後、全員で夕食のカレーライスを食べ終えると、明は洗濯物は既に室内に干しておいたと女性陣に伝える。
いつの間に終わらせていたのだろうか……休みを知らない明の驚異的な行動力はこのような状況でこそ生存者達の役に立つと言えよう。
「……料理に洗濯、〈奴ら〉との戦いに車の運転もできちゃうなんて……海動君、私達と同じ高校生なのにすごすぎじゃないかな?」
「本当にね。海動さー、自分が明らかに“おかしい”って自覚ある? 私と敏美の間じゃ海動って、学校サボって駅前のゲーセンでずっと独り腐ってるダメな不良ってイメージだったのに」
「だ、ダメだよ美鈴! そんな失礼なこと言っちゃ! 海動君だってきっと私達の為に頑張ってくれてるんだから──」
敏美が改めて明の備える生活能力の高さを褒めると同時に美鈴も呆れた口調で告げる。と、そこにキッチンの方から明の声が──
「腐り切ったダメ不良で悪かったな。言っとくが俺は普段はそんなに本気出してないってだけで、いざという時はやる気になる男なんだぞ?」
水に濡れた両手をタオルで適当に吹きつつ、先程まで夕食に使用した食器をきちんと洗ってから片付け終わった明。今一度仲間全員が集まったリビングのソファーに戻って来ると、疲れた様子でふかふかのソファーに重たい腰を沈めた。
「ふぅ……家事については色々と学んで覚えたんだよ。ある程度の事はできるだけ一人でもやれるようにしておいた方がいいからな」
ソファーに座る全員の視線を一つに集め、明は真面目な口調で自分自身の事を語り始める。
「料理だけじゃないぜ。他にも洗濯、掃除、買い出しはもちろん、車やバイクの運転、小さな子供の世話や幼稚園への送り迎え、さらには女の子達の恋愛相談人生相談まで──んまぁ、大抵の事はできるようになったと思うがな」
「ふぇぇ~……」
「何と言うか、その……改めて聞かされると凄いわね……」
「「いやいやいやいや待て待て待て待て。お前のような不良がいるかよ……」」
「はぁ~……先生のすごく身近なところにこんな素敵な優良物件隠れてたんなら、大学のつまらない飲み会なんか付き合わずにずっと明君だけ狙ってればよかったなぁ~」
「んなっ!? 鞠川先生ッ!? あなたはどさくさに紛れて生徒になんてことを──!?」
「あはは……明のお嫁さんになったら、色々な意味で大変そうね……私ももうちょっとできるようにしなきゃ」
家事ができる男は女にモテるとは言うが──どうやらそれは事実らしい。一時は風呂場を覗いたとして落ちぶれてしまった明に対する女性陣の好感度も目に見えて跳ね上がる中、相変わらずクールを装う明はソファー前のテーブルに置かれたペットボトルの水を一口飲んでから言葉を続ける。
「……俺もずっと前は家事なんざ全くできなかった。だが何年も過酷な経験を積んで、厳しい環境を生きていく中で必要ならばと自分から積極的に覚えていったんだ。今となっては当時の俺に感謝しないとな……おかげで美味い飯にもありつけた訳だしな」
「……海動君。もしかしてそれもあなたが隠しているという秘密に関係するんですか?」
「それについての答えは──“yes”だ」
さすがは天才と言われた藤美学園の優等生である。明の言い方に疑問を抱いた智江が問い掛けた事でリビングが沈黙に包まれる中、明はゆっくりと一息吐いてから自分が現在知っている〈奴ら〉に関する情報や自分自身の秘密を一つずつ開示していく。
──世界が終わった日の少し前、日本国内のとある山奥の研究所で極秘裏に誕生した人間の創りしモノ──“ゾンビ”。
摂理に抗い、天命を冒涜し、神にすら反逆した末に永い眠りより目覚めた究極不滅にして最凶最悪の超生命体だった。
──それは遡る事遥か昔。まだ人間がこの世界に誕生していなかった太古の時代のこと。
宇宙から地球上に奇跡の光が降り注ぐ。その神々しくも邪悪な光は当時の地球上を我が物顔で踏み歩いていた恐竜という種族を瞬く間に滅亡させ、地球全体は暗黒の闇に支配されてしまう。
そんな絶望の最中、他の生物と同様に宇宙から降り注いだ光のシャワーを浴びていた知恵を持たぬ人形の獣は意識を目覚めさせ、やがて人間へと進化した。
老いも死さえも知らず、人間を遥かに上回る成長速度で半永久的に活動する恐怖の生物兵器──それが本来におけるゾンビの提言だ。
しかし現実のゾンビは映画の中に登場する架空の生命体ゾンビとはまるで異なる恐竜的進化を辿ってしまった……
今から半月ほど前、日本海側に位置する人里離れた山奥の研究所で突如『バイオハザード』事件が発生──世界一の災害大国と呼ばれる日本にとっては空前絶後の大惨事となる。
一つの海洋都市は瞬く間に拡散した放射線の光に包まれて壊滅し、その際に大爆発した研究所から漏れ出した放射線が違法ながらも一部の人間に投与されていたという研究中のウイルスと一つに交わった事で、人間は偶然にも次世代に繋がる生命体『ゾンビ』へと生まれ変わった。
この新種のウイルスに感染した人間は自己を永久に喪失する事と引き換えに、驚異的な怪力と人間の数倍以上に及ぶ聴覚、さらには老いる事もない半永久的な肉体を手に入れる。
しかし……人間がゾンビへと進化するには数多くの代償が憑き纏った。〈奴ら〉と呼ばれるゾンビは人間としては既に死亡している為か心臓は動いておらず、生前のような思考能力も持たない。
食欲、あるいは性欲に激しく飢えており、基本的には人間だった頃と同じように生存本能の赴くまま行動する事が確認されているほか、〈奴ら〉は仲間同士で襲い合う事は決してなく、とにかく生きた人間だけを狙うが、犬や猫などといった人間以外の動物に関しては捕食の対象ではないらしい。
ゾンビの血液、唾液、精液──つまるところ〈奴ら〉の体液が何かしらの要因で人間の体内に混入した時、人間は初めて放射線ウイルスに感染して醜く蕩けた化け物の姿へと変容するが、幸いな事にこのウイルスは空気感染しないようだ。
同時に人間だった頃の言語能力は完全に失われているが、全く声を出せない訳ではない。
〈奴ら〉の歩行能力は極めて低く、基本的に走る事はできない。また、建物などの階段を登る事はできるが木、壁、塀といった障害を乗り越える事はできず、水中を泳ぐ事はできない事も海動明の独自調査から明らかになっている。
こうして見るとデメリットばかりが目立つ“〈奴ら〉化”だが、ゾンビになった事で得られる能力も幾つかは判明している。
その一つに〈奴ら〉は暗闇でも完全に人間の位置を把握できる特殊なセンサーのようなものを内蔵しているようで、人間の数倍以上に聴覚に優れているが逆に視覚は人間より遥かに衰えている事。
また、〈奴ら〉の肉体自体はとても脆いが腕力は非常に力強く、頭部以外へのありとあらゆる攻撃を受け付けないといった強みもある。
そんな〈奴ら〉がどうやって日本海側の災害区域から遠く離れた太平洋側に位置する床主市にやって来たのだろうか……
いつになく真剣な態度で聞き入っている仲間達に向かって明は幾つかの仮説を話す。
その一つがパンデミック発生源である日本海側から太平洋側に向かって大きな境目となっている床主山を越えてきたというもの。ご存知の通り、床主市の北部から西部にかけては床主山と呼ばれる広大な山々によって隔てられており、高速道路や新幹線などの交通手段無しで地方からこの床主市に向かう事は〈奴ら〉の足では到底難しい。
加えて放射線が漏れ出した研究所があった都市部はその閃光と爆音によって何もかもがグチャグチャに消し飛び、とても人間が災害区域に直接立ち入れられるような状況ではなくなっている。
とすれば、いったい誰が〈奴ら〉という化け物を日本の小さな都市から列島各地、そしてアジア諸国を通して世界中にまで拡散させてしまったのだろう……
はっきり言ってこの感染スピードは異常と言わざるを得ない。研究所から拡散したウイルスとはまた別に何かしらの外部的要因があるはずなのだ。
そしてもう一つ、明だけは誰よりも詳しく知っている今回のパンデミック発生の根本的な原因となった出来事がある。
「ちょっと待ってくれ」
それを全員に話す前に、明はソファーから立ち上がってリビングの棚上に飾ってあったとある写真立てを持ってきた。
「お前らには初めてになるか……」
そう言って明がテーブルに置いた一枚の写真には、この海動邸の庭で撮られたと思わしきごく普通の家族が揃い写っていた。
写真の真ん中に大きく膨らんだお腹にそっと片手を置く若々しいロングヘアーの女性が清楚な笑顔を浮かべて立っており、その右側に立派な白髭を生やした厳格な顔付きの科学者らしき白衣姿の男性。
そしてその反対側で妊婦の女性と仲良く恋人繋ぎで手を握りつつも、明らかに嫌々という態度で無愛想にカメラ目線から顔を背けている学ラン姿のクールな不良少年──
「紹介するぜ。俺にとって誰よりも大切な家族だった母さん──海動ジュン。そしてこいつが、こいつが──ッ!」
「あ、明……?」
「海動君……?」
「……こいつが、今回のゾンビ騒動を引き起こし、今まで俺が経験してきたすべての世界を地獄へと破滅させた思い出したくもねぇ邪悪な悪魔の化身──海動賢博士──認めたくねぇが俺のクソ親父だ」
──その写真に写る人物は間違いなく海動明とその両親だった。
黙って聞いていた全員の表情にかつてない衝撃と驚愕が広がる中、明は家族写真に写る健全な姿の両親を無言のまま見下ろしながら深く息を吸って口を開く。これより語られるのは海動明とその家族による、この世界が終わる日までに起きた悲劇の出来事である。
次回は引き続き説明パートですが、本来は番外編でやろうとしていた海動の回想とも言うべき過去話でも。
歴史の裏側に葬られた海動ファミリーの残酷な末路。
狂気のマッドサイエンティスト海動博士の放射線実験によって醜い化け物へと改造させられた海動が次第に人間ではなくなっていくその過程、そして母親ジュンと謎の触手ゾンビ幼女ちゃんの正体が判明します!