学園黙示録~ANOTHER OF THE DEAD~ 作:聖夜竜
醜い獣は理性に目覚め、やがて人に進化する。
そして人は、闘いの中で自然の子へと進化する。
その力、その姿、まさに神か悪魔か……
今、生物としての鎧が溶かされていく……
青白い光をその身に受け、哀れな男は醜いヒトガタの獣に変容していく。
異形なれど……人間の心を宿す漆黒の戦士。
正義も悪も、彼の前には何の意味もなく。
ただ、“ヒト”としての在り方を望み続けた。
そして彼はまた独り、両手で救えるだけの人々を化け物から守っては時の狭間に漂い、次の明日に生き続けていくのだろう……孤独なまでに永久に。
どうやら現在位置は海動研究所の地下らしい。実験室を抜け出した明が全裸のまま母親と妹の居場所を探していると、“自分以外の誰か”が監禁されていたと思わしき地下実験室で“とある研究員の日記”を発見した。
さっそく日記を読んでみると……
『バイオ生命体記録FILE』
○月×日
今日、所長の海動博士が奥さんのジュンさんを連れて研究所にやって来た。
ジュンさんと言えば……テレビ番組や雑誌なんかにも連日引っ張りだこな超有名ファッションモデルだ。
そのうえ誰もが羨む絶世の美女で、とにかく胸がでかくて若い。
最近はファッションモデルの仕事を休んでいると聞いていたが、どうやら博士の子供を妊娠しているらしい。
まさかあの研究熱心な博士が今更放置してきた奥さんと子作りしてたなんて……いったいどうしたのだろうか?
しかしいいなぁ……いずれはあのエロ過ぎる奥さんを好きにしてみたいものだ。
○月△日
何やらジュンさんが激しい剣幕で博士と言い争っている。
裏切られて失望したとか、もう完全に愛想尽かしたとか……
ジュンさんは酷く泣きながら『誰とも会いたくない!アキラのところに帰ります!』と言い出し、用意された自分の部屋に閉じ籠ってしまった。
何人かの助手が咎めたが、博士は全く気にもしていない様子で、今日も地下にある実験室で何やら怪しげな研究を進めているようだ……
○月□日
朝早く、研究所内の人間全員が博士に呼び出された。
何事かと思えば、いよいよ“例のウィルス”を実験体に投与することに決まったらしい。
問題はその実験体だが……なんと博士の奥さんを使うと言い出した。
助手達で必死に止めようとしたが、博士もジュンさんも既にやる気らしい……
最初はあんなに泣いて嫌がっていたジュンさんだったが、この数日で急に人が変わったような従順ぶりを見せて驚いている。
そう言えば……研究所内でたまにすれ違うジュンさんの暗く濁った目がなんとなくだが、時々赤く光っているような気がする……
○月○日
最初の実験は無事に終了した。
様々な器具を肌に取り付けられたジュンさんは、めでたく女の子の新生児を手術台の上で出産した。
博士だけでなく、大勢の助手達にまで見られたくない自分の裸体を堂々と見られ、ウィルスと共に幾つかの薬品を投与されたジュンさんは泣きながらもしばらく気持ちよさそうに喘いでいた。
……正直、そんなジュンさんが嫌がっても否定できない生物的本能に苦しむ姿には胸が昂り、実験の手伝いをしながら勃起してしまった事は博士には内緒だ。尤も、それは自分だけではないようだが……
○月○×日
実験後……酷く衰弱していたジュンさんは生まれたばかりの女の子を博士に取り上げられ、そのまま地下へと監禁されてしまった。
そしてまた博士から新しい仕事が与えられた。
ジュンさんが産んだ娘をしばらくこの部屋で観察してほしいという。
博士の話によると、その女の子の存在こそが博士の求める遺伝子的な生物進化の答えになるかもしれないというのだ。
正直あまり気は進まないが、これも仕事の為……ジュンさん、許してほしい。
○月△□日
あれから1週間が経過した。
観察していたところ、“第1号実験体”は人間を遥かに凌駕する凄まじい成長速度を持っているらしい。
この間までベッドに寝たきりで点滴を欠かさず受けていたというのに、今じゃ部屋のベッドに座り込んでケラケラ笑うようにまでなった。
まるで育成ゲームのペットを育てているみたいだ。かわいいものだ。
○月○□日
食事の時間、運ばれてきた弁当を“第1号”があっという間に完食していた。
こちらがちょうど“第1号”から目を離していた僅か数分の出来事だ。
まだ赤ん坊と変わらない外見だというのに、食欲だけは旺盛らしい。
博士から“第1号”には成人男性と同じ食べ物を与えるように指示されていた為、怪訝に思いながらも“第1号”が綺麗に完食した弁当を回収しに近寄ってみると、弁当の容器がどろどろの液体か何かで溶けているのがわかった。
まったく、こんな弁当を運んでくるとは……これが田舎の弁当屋の営業か。
まぁ仕方ない……味は悪くないから容器に関してのクレームは我慢しよう。
こちらの容器は見たところ溶けてないようだし。それにしても美味しいな。
だが今日のおかずはいつもと違う、生臭い血のような味がしたが……
うっ……これ書いてたら腹がぐるぐる鳴ってきた。
まさか、さっきの弁当の食べ物、すべて腐ってたんじゃ……?
○月○△日
やられた! なんてことだ!
あの後いきなり激しい腹痛と嘔吐に襲われ、長時間もトイレに籠ってしまった。
研究所近くの診療所の医師の診断によると、やっぱり昨夜の弁当が原因の食中毒らしい。
でもおかしい……あの“第1号”、なんで何ともないんだ……?
それに、まだ歯だって生えてない赤ん坊のはずなのに、いったいどうやって食べ物を口の中に入れたんだ……?
×月○日
あれからもう数ヶ月が経過したのか……
ここのところ“第1号”の子守りを毎日させられて退屈だ。
ジュンさんは相変わらず監禁されているようだし、博士は博士で狂ったように光がどうの生物遺伝子がどうのと呟いている……まったく気味の悪い夫婦だ。
そう言えば、見間違いじゃなければ最近“第1号”の目が赤くなっている。
それもただの赤じゃない。
まるで血に染まったように真っ赤な恐ろしい目をしている。
しかも夜中になると懐中電灯のライトみたいに突然目が不気味に光り出すし……明らかに普通の人間じゃない。
今度、“第1号”の成長観察で気になったことを博士に聞いてみようか。
×月×日
突然、朝早くに騒がしい音が聞こえて起こされた。
部屋の外に出てみると、大勢の研究員が酷く血相を変えて慌てているじゃないか。
なんでも、研究所で事故があったらしい。
そして監禁されていたジュンさんの部屋を見張っていた男が、片腕を無理やり引きちぎられて無惨に死んでいたとか。
博士は全然姿を見ないし……これはさすがに逃げた方がいいかもしれない。
月 日
だれ か ジュ さも
おんなのこ ばけもの にな て
はかせ、みんなあ のこにく われ
つぎ は
こっちのばん いうってる
ごめんなさ ゆるし だれか
たす けて
──研究員の日記はここで途切れている。明はやむを得ず日記を捨て置くと、足下に何やらメモ帳の切れ端が散らばっているのが見えた。
『これは……?』
『~~~』
月 日
パパじゃないヒト ずっと コレ してる
から わたしも マネ してみる
ことば みてたら あたま はいる
おもしろい わからない
月 日
わたしには なまえ がない っていわれた
だから みんな わたしを だい1ごう
ってよ んでる
1って 0のつぎで しょ?
わたし あたま よくなって てるもん
0 0がママ 1がわたし
2がここ いない おにいちゃん
ママ おにいちゃ んに あいたいなぁ
パパ? パパはす きじゃない
だってわた しとママを
いっぱい いじめる
いつか ころ ……じゃないや
いただきま する
月 日
ツマラナイ ツマラナイ
ツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイ
ハヤク ココカ ラダセ
ダラカ セエカ イナサルユ
月 日
きのうの よる だれかに っきかいた?
ワタシ がかい たのかなぁ
あっそ うだ あさ ドカーン
っておと してぐらぐらゆ れた
パパが しらない ヒト いっしょに
ワタシのおへや むかえ きた
でもみんな ヒト ワタシのか
らだみ て にげよう てる
フフフ ダメだよ ワタシは
ふじみで きゅうきょく
のせいめいたい ヒト
すべてこ ろすため
に パパがつくった みにく いバケモ
パパ ワタシ キライなた?
じゃあ もうオマエ いらないや
しんじゃえ
月 日
ネェ ココ カラ ダシ テ?
それぞれが不気味な最後で終わっている研究員の日記、そしてこの実験室に監禁されていたと思われる“ある女の子”の書いた日記を読み終えた。
明はまだ生まれたばかりの赤ん坊だったはずの妹が、海動博士の人体実験によって恐ろしい化け物へと変わってしまった事実を知る。
『……母さん、すまん……! 妹を……約束を守ってやれなかった……!』
懺悔の言葉を残し、明はもう一度二人の姿がいないか研究所内を探し回る。
そうして行方不明になった妹を探す途中で、今度は母親のジュンが監禁されていた部屋を偶然にも発見した。
明は鍵の掛かったドアを蹴破って突入するが、ホルマリン漬けにされたカプセルの中で死んでいたはずのジュンがいなくなっている事に気付く。
ジュンを閉じ込めていたカプセルの強化ガラス、実験用に使われた無数の器具や装置などはすべて粉々に破壊されており、妹と同様ジュンの遺体だけが忽然と消え失せていた。
『母さん……まさか、生き返ったのか? いったいどこに……』
その後、地下の探索を終えた明が階段を登って地上に脱出すると、海動研究所はどういう訳か跡形もなく消し飛んでおり、町の外は不気味な黒い雨が冷たく降り注いでいた。
自分が研究所の地下で1週間も寝ていた間に何が起きたのか……
雷鳴と共に青白い稲光が激しく繰り返される異常な闇空の下で、明は両足を震わせる危なげな足取りで歩き出す。
『ハァ……ハァ……ハァ……』
まだ本調子じゃない明は躓いて雨が降り注ぐ地面に倒れ伏す。視界に入った水溜まりに青い稲妻が光り、その刹那に映し出された自分の顔を見てみると、不気味なほど真っ赤に光り輝く眼をした悪魔のような凶悪な顔付きの男が、その血眼から黒い涙を流し震えていた。
『ウゥ……ウゥ、ァ……アァ……グガァ……!!』
そして突如、痩せ衰えていたはずの筋肉が激しく脈動し、肉の大地が山となって盛り上がっていくではないか。
『うぅ……ッ! うぁ、あ、が……ッ!』
手足の骨が砕かれては別の骨と組み込まれ、新しく、そして少しずつ溶かされていく……
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!』
度重なる激痛と高熱で頭が恐ろしい悲鳴を上げる中、明の胸元を覆う皮膚が真ん中からビリビリと音を立てて引き裂かれ、中身が露出された左胸の位置には喪失した明の心臓を呑み込むように、痛々しい血を流す巨大な眼球がぎょろりと不気味に蠢いていた。
『ァ……あぅ、あぁ……ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……うぅ、ぐっ……こ、れ、は……ダレ、ダ……?』
進化を促す神の光をその身に浴び、グチャグチャに蕩けて変容していく自分の身体。背中の筋肉が力強く膨れ上がり、両手の肘からは母親のジュンと同じように折れ曲がった漆黒の翼が宛ら触角のように歪んで生えていた。
『俺、は……ダレ、だ……?』
頭を震わせ、もう一度、水溜まりに映る自分を見る。この邪悪で醜い姿こそ……海動博士の人体実験によって生まれ変わった生物兵器『ゾンビ』としての自分なのだと嫌でも脳が理解してしまった。
ちょうどその時、冷たい雨が降り注ぐ真っ暗な空から明目掛けて真っ直ぐに落ちてくる青い稲妻。生まれたばかりの姿で震える明は全身に膨大な光のエネルギーを受け続ける。何度も激しい雷に打たれたにも拘らず、黒い雨に濡れた肉体はまるでびくともせず、宛ら鋼鉄の城を思わす屈強さで。
その肉体は稲妻を浴びた事でうっすらと青白いスパークを迸り、明は喉が壊れるほどの凄まじい絶叫と共に怒りに震える拳を黒雲渦巻く天空に向かって大きく突き上げ、明の身体中に帯びた青い雷光を勢いよく頭上の空へと解き放つ。
『ハァ……ハァ……ハァァァァ……俺は、俺は……化け物……? 違う……俺はまだ……人間だぁ……ッ!』
こうして……地獄の実験で心身共にボロボロにされた明は普通の人間ではなくなり、海動博士が生物兵器として誕生させた正真正銘の不死身の生命体『ゾンビ』の試作品としてこの世界に醜く爆誕した。
研究所の大爆発には巻き込まれなかった海動ですが、研究所に保管されていた放射線を浴びた事で、海動博士が投与したウィルスの活性化が促され、身体が突然変異するように強制的に変身してしまいました。
海動の変身シーンは『真・仮面ライダー 序章』のオマージュです、はい。
ちなみに変身後の姿のイメージはホラー系やクリーチャー系ガレキで知られるヘルペインター関連の作品っぽい、生物的なリアルさでグロテスク……だけどそれがかっこいい感じの怪人キャラを想像してます。
化け物になった身体は表面的に黒く染まり、胸の辺りから心臓を隠すように現れた『第3の眼』とも言う巨大な眼球は真っ赤になってますが。
そう、まるでバイオハザードに出てくるG……
そして次回で海動の回想パートも終わり、海動や〈奴ら〉誕生の真実を知った仲間達とのシリアスな問答の場が待っているのでしょう。
もうすぐ……もうすぐストーリーは第4章に入ります。