学園黙示録~ANOTHER OF THE DEAD~   作:聖夜竜

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集う生存者

 

 さて……海動明が独り静かに行動を開始する少し前に時間は遡る。

 

 世界が終わったその瞬間、藤美学園2年A組の教室でも生徒によるパニックは起きていた。

 

「邪魔だ! どけっ! どけぇ!」

 

「逃げるんだよぉ!」

 

 男女関係なく目の前の生徒を突き飛ばし、蹴り飛ばし……教室で授業中だった大多数の生徒は我先にと階段を駆け降りて一階へと向かう。

 

「ちょっ──!? 落ち着いて! みんな落ち着いてッ! ちゃんと先生の言うことに従って──!」

 

 ……中には、この状況でも自分の安全より他人を優先する者もいる。

 

 有瀬智江(ありせともえ)──2年A組が誇る天才学級委員長にして、特徴的なアホ毛と眼鏡が似合う背の低い女子生徒だ。トランジスタグラマー──所謂ロリ巨乳要素を持つEカップの小柄な美少女だが、彼女は喧騒の中でも負けじと声を張り、荒々しく教室を飛び出して行く大勢の同級生を必死に制止させようと頑張っていた。

 

「うるせぇ! もたもたしてるとみんな殺されるぞぉ!」

 

 だが彼女の思いは届かず、瞬く間に2年A組の教室は智江を含む少数の生徒と教師が残るのみとなってしまった。

 

「そんな……みんな……林先生……」

 

 静まり返る教室内を見回し、智江は悲しい表情で教卓の後ろに立っていたスーツ姿の女性を一瞥する。

 

「……有瀬さん、しょうがないわ。それより私達も安全な場所に逃げましょう。他に残っている生徒は!?」

 

 林京子(はやしきょうこ)──校医の鞠川静香と並び、藤美学園が誇る二大巨乳美女として生徒・職員問わず人気がある30代の教師だ。2年A組を受け持つ担任教師で担当学科は数学。その他には卓球部顧問もやっている。

 

 彼女はJカップという異次元級の胸を持つ鞠川静香に次ぐHカップの爆乳の持ち主でありながら未だ独身だが、その知的でクールな雰囲気通りの真面目な授業を心掛け、先程の校内放送で授業が中断しても決して取り乱す事なく慌てる生徒を落ち着かせようとしていた。

 

「「林先生、私達もいます!」」

 

 一条美鈴(いちじょうみすず)──2年A組に所属する個性派揃いの生徒の中では今一つ印象に残らない地味な女子生徒だ。シニヨンと呼ばれる短い髪型が特徴的で、何かと高校生とは思えない巨乳の女子が多いこの学園では貴重な貧乳少女である。

 

 二木敏美(にきとしみ)──2年A組のアイドル的人気を誇る三つ編みの美少女で、ベストフレンズと呼び合う美鈴とはいつも一緒にいる。彼女の特徴は何と言ってもその三つ編みヘアー、そして心優しい性格と可愛らしい見た目に似合わないグラビア顔負けのムチムチとした肉体だろう。

 

 とくに学生服の上からでもはっきりと分かる豊満な巨乳(推定Fカップ)はB組の巨乳美少女である宮本麗(みやもとれい)高城沙耶(たかぎさや)と同様、多くの男子の視線を釘付けにしてしまうほどの破壊力を持つ。

 

「有瀬さんに一条さん、二木さんだけ……やっぱり海動君達はいないのね」

 

 教室内に残った生徒の確認を終えた京子の言う海動君達……とは、藤美学園でも有名な不良達の事だ。隣の2年B組に所属する小室孝(こむろたかし)、そしてA組の海動明、森田駿(もりたしゅん)今村隼人(いまむらはやと)から連なる四名は毎回授業をサボっては屋上に集う頻度が高く、京子を始め職員の間では悩みの種になっている。

 

「林先生、海動君達ならまた屋上じゃないでしょうか?」

 

「……ふふ、ふ……私の授業をサボって自分達だけ安全な場所にいるなんて……どうやら説教が必要のようね」

 

 そう呟くと京子は目付きを鋭く光らせ、闇雲に逃げずに教室に居残った三人の女子生徒に告げる。

 

「有瀬さん、みんな! 行くわよ! 私達も屋上に行って海動君達と助けが来るのを待ちましょう! 先生から離れないで! 団体行動です!」

 

 京子の力強い言葉と同時に智江、美鈴、敏美の三人はそれぞれ怯えた表情で教室から既に人のいなくなった廊下へと出る。教室近くの階段の下の方からは逃げ急いだ生徒達の絶叫や怒号が聞こえてくる。

 

「先生……」

 

 先頭に立つ京子の後ろで生徒三人が恐怖と不安を隠さずにいる中、京子は落ち着いて思考を纏めようとする。

 

「……今はまだ下には行かない方が良さそうね」

 

「先生、教室棟は先に逃げた人でもういっぱいです! 渡り廊下から人の少ない管理棟に渡って屋上に逃げた方が……!」

 

 京子と同様に脱出方法を考えていた智江がそう伝えると、美鈴と敏美も賛成とばかりに頷く。

 

「そ、そうね。それしかないわね……みんないい!? なるべく音を立てないで急ぐのよ!」

 

 その選択が正しいのかどうか……この時の彼女達にはわからなかった。だが、屋上なら安全かもしれない……何より“彼なら”安心できるかもしれない……

 

(海動君……彼なら、彼ならきっと何か考えてくれるはず……!)

 

 警戒心を解かずに早歩きで渡り廊下を移動する四人。そんな中、智江だけは会えるかもわからない海動明に脱出への望みを託す。

 

(お願いです、神様……! 海動君達と無事な姿で会わせて……!)

 

 戦う武器も持たず、丸腰の彼女達に頼れるものは知恵と勇気、そして協力者のみ……

 

 

 

 

 

(ちっ……やってくれる)

 

 比較的安全な道程で校舎内の上階を慎重に目指した明……彼が現在いる場所は管理棟の最上階廊下だ。そして今のところ校舎に侵入してきた〈奴ら〉は最上階までは到達していない。

 

(数人の歩調スピードと足音から伝わる焦りと怯え……ふぅ。どうやら俺も出会いってやつには恵まれているようだ)

 

 警戒して近付いて来る方向を睨んでいたが、その歩行速度と重なる数からすぐに〈奴ら〉の気配ではないと感付き、明は冷や汗を流しつつ安堵の息を吐く。

 

 ゾンビというのは基本的に足が遅い。数ある映画の中には走って襲うようなチートも確認されているが、明のよく知る〈奴ら〉は走る事も泳ぐ事もしない。

 

 管理棟を進む間に薄々気付いていたが、学園侵入から教室棟の被害が出るまでの時間を考えても〈奴ら〉の移動速度は人並みと同じかそれより低い。

 

 だと言うのに学園内の感染スピードが予想以上に早い理由は先程の放送に煽られてパニックを引き起こした生徒達の勝手な自滅行為だと明は認識しているが、〈奴ら〉が最上階まで到達するにはこちらも避難するまで少しばかりの余裕がある。

 

(とはいえ、今のうちに安全な籠城場所を確保しておいた方がいいか……)

 

 ここから向かうなら階段登ってすぐの屋上が一番近いが、屋上には他の場所と違って欠点がある。

 

 それは……仮に生存者が屋上で籠城したとしても逃げ道がこの階段以外にない事だ。

 

 屋上には明や孝といった不良仲間も使わせてもらっている天文台があるとは言え、時間が経つとすぐにでも〈奴ら〉はこの階段を使って屋上まで到達するだろう。

 

 武器になりそうな物があれば屋上の様子を見に行ってもまだ何とかなるが、今の明には生憎武器と呼べる物が手元にない。

 

 今後の方針で明が迷っていると、廊下の角から数人の人影が飛び出してきた。

 

「ッ!? 海動君!?」

 

「「「海動君!!」」」

 

 担任の京子、そして智江、美鈴、敏美──明と同じ2年A組のメンバーだ。

 

「林先生に委員長、それに仲良しコンビか! お前ら無事だったんだな!」

 

 現れた人影の正体が自分もよく知る人間であった為、明も珍しく笑顔を見せて彼女達との再会を喜ぶ。

 

「“無事だったんだな”じゃありません! 海動君! あなたまた私の授業をサボって──」

 

「あの先生、今はそれどころじゃ──」

 

「そうです! 早く安全な場所に行かないと──」

 

「急がなきゃ、ここまで来ちゃいますよぅ……!」

 

「っ……そ、そうね」

 

 焦りを隠せない女子三人からの指摘に京子も明に対する怒気を放棄し、呆れ顔で両手を腰に押し当てた。

 

「それで海動君? あなたはどうして一人でここに? 森田君や今村君と屋上にいたんじゃ──」

 

「いや、俺も逃げてる途中ですよ。森田と今村……あいつら今日は俺と一緒じゃなかったんだ。屋上にいる可能性もあるが……」

 

 そこでふと言葉を止めると、明は黙ったまま四人の格好をじっと見つめる。

 

「えっ、あ、あの……か、海動君……?」

 

「わ、私達に何か……?」

 

「うぅ……怖いけど、か……かっこいい……」

 

 頬をほんのりと赤らめ、思わずドキッとしてしまう四人の美女・美少女。

 

 ……実を言うと明の学園内での女子人気は高い。初対面では“凶悪”、“野獣”と恐れられたり泣かれる事も多々あるが、そのクールで整った男前の顔立ちに加え、どこか同世代の男子とは異なる大人びた危険な雰囲気が惚れる女子に受けているのだ。

 

「何も持ってない、か……いや、なに。武器になりそうな物をちょっとは期待してたんだが……まぁ、突然こんな事に巻き込まれたら丸腰ってのが普通か……ふっ」

 

 パンデミックが発生しても不気味なほどに冷静過ぎる自分が既に“普通じゃない”のだと受け止め、明はやや自嘲気味にクールな笑みを浮かべた。その表情や仕草がまたすごく似合っていて、異性との恋愛経験などない女性陣は明を見てどこか恥ずかしい気持ちを抱いてしまうのだった。

 

「海動君は何も持ってないの? 私達、それをアテにしてたんだけど……」

 

「アテか……あるにはある。が、この状況での対ゾンビ対策用武器とは言えんな」

 

 智江に訊かれて明が学ランのポケットから取り出したのは黒い専用シースに収納された2本のナイフだった。

 

「ナ、ナイフ?」

 

「こっちのはランボーって昔の映画で有名になったサバイバルナイフだ。そしてもう1つがコロンビアナイフ。本来の用途は色々あるが……まぁ護身用ってやつさ」

 

 言いながら明は思考する。ナイフはゾンビ映画の中でも比較的登場頻度の高い手頃な武器だろう。日常での入手難易度も低く、非力な女性でも扱える手軽さが特徴だ。短所としてはリーチの短さ、ゾンビを相手するには火力不足である事くらいだ。

 

「海動君! あなたそんなものを学校に持って来てたんですか!?」

 

 教師の京子が怒るのも無理はない。正当な目的なしに刃物を携帯するのは日本だと犯罪になる恐れがあるのだ。

 

「普段から用心してたってだけさ。それに……いつまた地獄が始まるかわからねぇからな。あとは長物じゃねぇが女でも扱える武器はまだ他に用意してある」

 

「「海動君、本当!?」」

 

「ああ。だがナイフと違って携帯するにはちょっとばかり目立つんでな。A組の教室に行けば俺のバックに幾つか隠してある」

 

「えっ、じゃあなんで海動君は管理棟に……?」

 

 智江達の疑問は正しい。普段からゾンビに対抗できる武器を所持していたのなら、避難する前に回収しておく必要があったのでは……と。

 

 それについて明は冷静に答える。

 

「そりゃ保健室で寝てたからな。こっちに逃げて来たってことはお前らもわかってると思うが、今このタイミングで教室棟に行くのは危険が伴う。たしかに武器は集めたいがまずはチームを作った方がいい」

 

「チーム?」

 

「生き残る為の仲間ってやつさ」

 

 言いつつ、明は2本のナイフをいつでも抜けるようにしておく。できればナイフを四人の中の誰かに渡しておきたいところだが、初心者の女性にいきなりナイフを持たせても〈奴ら〉相手には危険過ぎるだろう。

 

 となれば、戦闘でのリーチに優れた長物の確保に行きたいところだが……

 

「……誰か来たな」

 

 短く息を吐き、明は素早くシースからランボーナイフを抜き、鋭く磨かれた銀色の刀身を露出させた。

 

「まさか、もうここまで登って来たんじゃ──!?」

 

 高まる緊張感に身構える明と後方の女性陣。だが……明達の滞在する廊下の反対側を通ってこちらに走って来たのは、またしても見知った顔だった。

 

 

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