学園黙示録~ANOTHER OF THE DEAD~   作:聖夜竜

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今回、ついに海動がやる事やります。

傷付いた鞠川先生や林先生、智江のフォローも考えてはいるんですが、それやるとまた話が長くなっていきそうなので彼女達の事は次回以降に先送りします。


眠れぬ夜に

 

 その夜──明達は海動邸の二階に位置する各部屋を寝床として使う事にした。まずは自分の部屋にあるベッドをこのメンバーで恐らく一番疲れている明が。

 

 その隣に位置する空いていた二部屋は対策準備の段階で明が予め買い置きしていた布団を敷いて麗&美玖&智江、敏美&美鈴ペアがそれぞれ使い、明達が寝る三つの部屋から少し離れた場所に位置する和室を大人である静香&京子ペアが。

 

 最後に残った森田と今村の二人は明の部屋で男子三人で寝る事を拒み、自分達から一階のリビングでソファーに寝転がると言い出した。

 

 実は明の想定を上回る生存人数だった為に部屋数が足りなくなってしまったのだ。そこで相談した森田と今村は心身共に疲れているであろう明や女性陣を気遣い、自分達は気にしなくていいからと言って部屋の使用権を譲ったのだ。

 

 その言葉に甘える形で明と女性陣は二人に感謝しつつ二階に上がり、全員明日から始まる本格的なサバイバル活動の為に早く寝る事を決めてそれぞれ部屋に入った。

 

 それから既に四時間近くが経過した真夜中の午前二時過ぎ……

 

 藤美学園の保健室で日頃から頻繁に利用していた寝心地の良いカーテン付きのベッドには及ばないが、一人用の狭いベッドの上に寝転がった明はぼんやりと薄暗い部屋の天井を眺めていた。

 

 明がいつも出歩く時に肩から羽織っている黒い学ランは壁の装飾に巧い具合に掛けられ、現在は黒いズボンに白いワイシャツという高校生らしくラフな格好でベッドに潜っている。

 

(ふぅ……あいつらには色々と悪い気にさせちまったな)

 

 今日一日で起きた濃い内容の出来事をベッドの上で物思いに耽る明。今になって思うと、〈奴ら〉との壮絶な戦いのない平穏らしい時間というのは今日の夜で最後になる気もした。

 

 ちなみに明は過去の件で落ち込んでいたから一人になりたいと言った訳ではない。単純な話、あの重苦しい話の後で仲間達──とくに幼少期から仲良しだった麗と会わせる顔がなかっただけの事だ。それに感情を爆発させた智江の事だってある。

 

(……麗や美玖、静香に智江……誰にだって自分だけの物語がある。俺の知らない物語ってやつが……それを少しでも話してもらえるくらいの関係には、これから先なれるんだろうか……?)

 

 この世界の中の自分が、床主市をしばらく離れていた間に麗やみんなに何があったのか気にならないと言えば嘘になるし、できる事なら知りたさもある。しかし人間にはこれから起こるかもわからない未来の事など普通は知り得ないもの。だから人間はそこに至れるようにただ先の道を信じて目指すのだ。

 

(……なんてな。今はあいつらの事を考えても仕方ない。気持ち切り替えていかねぇと……)

 

 ぽつりと呟き、明は溜息を吐く──と、その時だった。

 

「ん……?」

 

 不意に部屋の扉の奥から微かに物音が聞こえてきた。続いて耳に入ったのはコンコンと控えめに扉を叩く音。どうやら幻聴ではないらしい。

 

(まさか……俺が思うに解散してから四時間は経ってる。普通なら寝床に就いてなきゃいけない時間だろうに)

 

 生憎時計が置いてないので正確な時刻は分からないが、明の寝ているベッドを幻想的に照らし出す窓越しの月明かりを見るに、今が深夜という時間帯なのは間違いない。そして……

 

「明……起きてる?」

 

 ──そのまさかだった。

 

 聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと、鍵の掛かっていない木製の扉がゆっくりと開かれる。明の居場所からでは薄暗くて余り良くは見えないが、部屋の入口に黒い人影らしき気配がぽつんと立っているのが感じ取れた。

 

「その声は麗か? しかしお前なんだってこんな時間に……美玖や委員長と一緒に寝てたんじゃなかったのか?」

 

「そうなんだけど……ねぇ、そっち行ってもいい? 何だか今日だけで色々なことあり過ぎて眠れなくて……」

 

 もじもじと恥ずかしそうに聞いてくる麗。明日はチーム全員で市街地に出て足りなくなってきた食糧と女性用の衣服や下着などを確保しなければならない明としては、そのまま美玖や智江と一緒に何事もなく部屋で眠っていてほしかった。しかし起きてしまったのなら仕方ない。誰にだって眠れない夜はあるものだ。

 

 明はやれやれとベッドから起き上がり、月明かりの届かない薄暗い場所に立っている麗を部屋の中に招き入れる。この時、しっかりと目が冴えていた明の脳内では、恐らくこの後に起きる可能性がある“巨乳美少女とのエッチな夜這いイベント”に対して早くも警鐘を鳴らしていた。

 

「……まぁ、断る雰囲気じゃねぇしな。にしても麗は明日の楽しみで興奮しちゃったのか? その歳にもなって自分だけ眠れねぇとは……くくっ、何かとダメダメだったガキの俺の世話をしつこく焼きたがってたお姉さん気取りが随分と昔のように思えるな」

 

 どことなく妙なエロさを感じさせるキザな笑みを浮かべ、明は窓際に位置する自分のベッドを手でぽんぽんと軽めに叩いて言う。

 

「けどいいぜ──今日は特別だ。眠れるまでは俺がお前の子守唄になってやるよ」

 

 さて……海動博士との確執や今までのタイムリープの経験上、海動明本来の大人しい性格を大きく歪ませた現在の明は、それまでの長過ぎる人生で通っていた床主市内の様々な学校の女子や女性に対して何度かキザな台詞を言う事が日頃から多々あった。それは性格の変わった明が極限状態の中で知らず知らずに身に付けた悪い癖というか、ある種の治らない病気のようなもの。

 

 明は知らない女子から告白された回数こそ数え切れない程のモテモテぶりを誇るクールな不良男子だが、“人前でかっこつけたり悪ふざけしたがる”残念な性格が災いし、毎回調子に乗っては女子達を知らずうちに口説いてしまっている。

 

 それが結果的に告白してきた女子達に爆笑か憤慨か赤面か逃避かのランダムな反応を見せ、共通して言える事は全員が明とのその後の付き合いを控えるようになるくらい。

 

 その為か未だに特定の彼女を作るには至っておらず、目付きや顔付きはいかにも不良というべき凶悪さで近寄り難い危険な大人の雰囲気があったとしても、いざ勇気を出して話して見れば意外にも女の子には無愛想ながら優しいという隠れた評判があった。

 

 しかしその割りに未だ童貞でそのくせ性知識だけは何故か達者という──実に“残念な男”に落ち着いてしまうのだ。

 

「う、うん……ありがと」

 

 ところが意外な事に、麗の素直な反応は明が望んでいた──否、見知ったものではなかった。これがいつも通りの麗ならば、今頃はドキドキさせて顔を赤らめつつもキツい言葉の一つでも容赦なく浴びせているはずだからだ。

 

 それが今夜はどうだろう。やけに素直過ぎると言うか……その態度や仕草から、麗ができる限り自分をか弱く見せようと、明に甘えようとしている様子がひしひしと伝わってくる。

 

 思えば麗の怪しい挙動は夕食後のあの過去話が始まった辺りから見え隠れしていた。明が自分の家族の秘密やタイムリープの事を話している時も、麗だけはどこか落ち着かない様子で明にチラチラと意味深な視線を向けていたのだ。

 

 麗の様子が目に見えて変わったのは、明が海動博士の人体実験に利用されて死んだ妹の話をし始めてからだった為、それが何かしらの影響を彼女に与えた事は想像に難しくない。

 

「あたしも……明に聞いてほしいことがあるの」

 

 言うと同時に焦らすようなゆっくりとした足取りでベッドに近付いて来る。薄暗がりの部屋で華奢な足下から徐々に明るみになっていく彼女の姿は──

 

「なっ!?」

 

 どういう訳か、下着だけを身に付けた何とも卑猥な姿だった。そうして明の眼前で晒された白い肌は染み一つ見当たらない新雪を思わせる。

 

 女の子らしいレースとリボンで装飾されたピンク色の可愛い下着は別に濡れている訳ではないのだが、布地がうっすらと透けて見える紐パンタイプ。一般的には極小スキャンティと呼ばれるその大胆過ぎる下着は清純っぽい感じを出しながらも、見る人が見れば破壊的なエロさを強調しているようにも映る。

 

 想像して見てもらいたい。下着越しに無毛の恥丘とも言うべき秘部がぷっくりと盛り上がっており、布地が食い込んで縦筋がくっきりと浮き上がってしまっている。このまま指先で優しく突いてやれば、ぷにゅぅっと卑猥な音を出しながら柔らかそうに自分の指を易々と呑み込んでいくのだろう。

 

 続いて明るみになったのは麗がスキャンティに合わせて選んだピンク色のブラジャーに隠された豊満な胸。たわわに実った白い果実は推定Eカップは余裕にあり、ブラジャーの上からでもはっきりと分かる二つの膨らみが明の視界に映り込む。

 

 さらにはキュッと引き締まった腰の括れが描く滑らかなラインが奇跡あるいは反則とすら表現できる絶妙な肉体美を表現しており、まさに抜群のプロポーションと言える。

 

「麗、お前……」

 

「ほら、バスの中で約束したでしょ? 一つだけあたしの願いを“何でも”聞いてくれるって。だから……ねっ♡」

 

 そう言って彼女は明の寝るベッドに潜り込んできたのだった。

 

 

 

 

 

 そしてそれは……麗が明の部屋に夜這いに来てから数分後の事だった。

 

 狭苦しいシングルサイズのベッドに寝転がった明は隣にいる麗がベッドから落ちたりしないように端の方をできるだけ陣取り、ベッドの広範囲に潜り込んだ麗には背中を向ける。しかし背後から激しい程に伝わる麗の柔らかくてムチムチぷりぷりっとした抱き心地最高の感触に内心では苦悩していた。

 

「……ねぇ、明。背中向けたままでいいから、あたしの独り言を黙って聞いてほしいの」

 

 そんな時、気まずい沈黙を破るように話し掛けてきたのは明ではなく麗の方だった。

 

「……あたしね? 今日ずっと明の傍にいて改めて思ったの。明はいつも授業サボったり、孝や森田君、今村君と悪ふざけやってるように見えて、実はちゃんと色んな事を考えてる人なんだなぁって──」

 

 部屋を訪れるまでは赤面していた麗が表情を真剣なものに変えて話し始める。一方で黙り込んだままの明の背中に白く華奢な両手を静かに当て、麗は大胆にも自らの肉体を上手に使って寄り添ってくる。

 

「正直、今だって頼りになるかわからないくらい不安なの。明はいつも自分だけで物事を解決しようと無茶ばかりやって頑張り過ぎるし、いつも肝心な時にあたし達の傍にいてくれなくて勝手にどっかいなくなっちゃうし……明が家族を追い掛けてその研究所に行ってる間、約束を裏切られたあたしと沙耶がどれだけ明の為に泣いて待ち続けたかも知らないでしょ? あたしはもう許したけど……沙耶ったら、それで未だに明のこと“大嫌い”ってずっと悪く言ってるんだから」

 

「それは、その……今でも本当にすまないと思ってる」

 

 彼女の主張はすべて事実だった。しかし明はその事に関して今更言い返したりなどはしない。

 

 何故ならこの時、大人しく聞き入っていた明は彼女の胸の奥底に隠された本当の気持ちに気付いてしまったから……

 

「ほんと、昔っから“かっこいいところ”なんてこれっぽっちもない、あたしと沙耶にとってはいつまでも可愛いダメダメな弟くん……そのはずだったのに……っ!」

 

 まるで切ない感情が言の葉に集約されたかのようだ。ピンク色のブラが背中越しに伝える温ぬくもり。明の逞しい背中へと強引に押し付けられた二つの柔らかい乳肉。

 

「それなのにあたし、明がちゃんと床主市に帰って来た時からずっと明の事しか考えていなかった! 紫藤に嵌められた留学の問題とか、マイクロバスで無理やり出て行こうとしたあたしを必死に引き留めてくれたこと、あたしや先生達を守ろうとして紫藤に怪我させられたこと……あたしが嫌だって感じていたことも全部明が忘れさせてくれるの……っ!」

 

 その温かい胸の内から聞こえてくる溢れんばかりの“大好き”という熱い鼓動。このまま耳を澄ませば、彼女の胸の高鳴りが明にも気付かれてしまいそうだ。

 

「だから明が普段から一人で色々パンデミックに備える準備とかしていて、それでも明が話してくれた今までに終わった世界みたいに“どこか遠い場所”に離れていなくなっちゃうのが怖くて……だからもっと、“あたしの傍にいてほしい”って……そ、そう考えてただけ! ほんとにほんと……ただそれだけなんだからぁ!!」

 

 言いながらぽろぽろと大粒の涙を溢し始める麗。それを見ていつの間にか彼女の方へと向き直った明は穏やかな表情で微笑み、麗の目に溢れた雫の跡を指先でそっと拭いてあげた。

 

「言っただろ? 俺がこの世界にいられる理由はここにいるお前ら最高の仲間を何が何でも〈奴ら〉から守り、地獄に染まったこの世界を俺達人間の手に奪い返す為だってよ」

 

 明が優しい口調で甘く囁いてやると、互いに向き合った体勢で麗は明の背中に両腕を回し、宛ら抱き枕にしがみつくようにぎゅうっと力を加え始める。

 

 だめ……それ以上の言葉を続けると戻れなくなる。明の事を愛しく想う気持ちで胸がいっぱいになるとわかっている……わかっている、はずなのに……

 

「じゃあ……明のこと、このまま傍で感じ続けていてもいいの……?」

 

 消えてしまいそうなくらい小さな声量で麗は明に囁き掛ける。その可愛らしい乙女全開な表情はいつの間にかぽろぽろと溢れ落ちる温かい涙に濡れ、薄いピンク色に潤んだ唇は小さく震えている。

 

「フッ──好きにしな。それに俺がこの世界に生きている以上、俺には“麗姉ちゃん”がやっぱり必要だ」

 

「ぁ……いまあたしのこと、麗姉ちゃんって……子供の頃みたいに呼んで……」

 

 そう言われた時、堪らず泣き始めた麗を明がどこか嬉しそうな様子でニヤニヤと見つめている事に、彼女自身も涙混じりのぼやけた視界の中で気付く。

 

「やっ、やだっ……! 見ないで明……お姉ちゃんのこんなところ……は、恥ずかしいから見ちゃ、だめぇ……っ!」

 

 明の温ぬくもりでドキドキしながら泣いているところを見られた……途端に恥ずかしい気持ちが彼女の中で溢れ出す。

 

「落ち着け。今は俺とお前だけだ。それにちょっとくらい可愛いところ見られたって俺には何ら問題ない」

 

 明はそう言うが否や、大粒の涙に濡れた彼女の赤らめた頬にそっと指を添えてクールに囁く。

 

「一緒に寝たくてこっち来たんだろ? なら今夜はこのまま俺に抱かれて眠れ」

 

「ぁ……う、うん……♡」

 

 その言い方にドキッとしてしまった麗……彼女にはすぐにわかった。明が自分の身体を本気で欲しがっていると……

 

 それはただ“エッチがしたい”という意味で訴えているのではなく、純粋な気持ちで大切な幼馴染みと真剣に愛し合いたいと告げているのだ。

 

 ──嬉しかった。今まで一度も異性を恋愛的に意識した事がない麗が初めて出会った運命の相手。

 

 幾つもの世界を時間と共に超越し、どの世界だろうと出会うべくして惹かれ合い結ばれる不思議な関係。

 

 ──海動明だったから良かった。もしも他の人間だったら、この素敵な想いは生まれなかったかもしれない。

 

「ねぇ、明……」

 

「ん? なんだ?」

 

「あたし……明のこと好き……大好きなの♡」

 

 小さく──けれどもはっきりと、甘く蕩けた声で囁く。好きという気持ちに気付いてしまえば、あとはもう全力で“好き”を突き抜けるだけ。

 

 だから今、愛という感情が止まらない──その夜、二つの人影は薄暗い部屋のベッドの上で一つに重なり、お互いが求めるままにしばらく淫らに抱き合い果てるのだった。

 

 




今回の話で本作序盤にあたるストーリーはすべて終わりです。

次回から始まるストーリー中盤第4章【市街地】からは海動達が移動手段の入手と物資確保の為にいよいよ街に駆り出すんですが……ここで作者からお知らせがあります。

平穏だった第3章と異なり、〈奴ら〉や人間同士の過激な戦闘シーン続出な激動の展開となる第4章は我らが海動が一旦主人公の座を降り、海動のヒロイン達がそれぞれの思惑を胸に活躍していきます。

その結果、何人かの仲間はやむを得ずストーリーから退場する事になってしまうかもしれません。

そして今までは海動の影で目立ってなかったヒロイン達も、この第4章でいっぱい傷付いて殺して泣かされて、心身共にたくましく凛々しい女に成長していくでしょう。

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