学園黙示録~ANOTHER OF THE DEAD~ 作:聖夜竜
今回の話は今後の展開に向けてのいわゆる伏線張りまくりの回ですね(えっ
ストーリーを楽しむ重要なポイントは、チームの誰がどの武器を選択したかです。ここ結構大事ですよ(笑)
それと第4章はチームが二つに分断される為、住宅街をAルート、市街地をBルートに分けて進めていく事にしました。
今のところAルートのストーリーの完成度が高くモチベもあるので、Bルートは後回しになるかもしれません。
これからに向けて
長い間行方不明扱いだった有名人の海動ジュンが床主市西部の市街地にて生存を確認された頃……
床主市東部に位置する住宅街に佇む海動邸では、疲れた者達が少し遅めの朝を迎えていた。
「んんぅ……? まぶし──」
窓から入り込む朝日が気持ちよく照らす明の部屋で、一糸纏わぬ姿で無防備に寝ていた麗。
ぼんやりと目覚めると、その隣では同じく全裸で横になった明が静かに眠っていた。
(そっか……あたしたち、昨日あのまま……)
麗が明の寝顔を見てクスッと微笑み、姉の顔で明の頭を優しく撫でる。
(……本当に、エッチしちゃったんだ。初めてだったのに、あんなに激しく……)
脳裏に浮かぶ昨夜のいやらしい自分達の姿はとても初めて同士とは思えないほどに相性抜群で……
自分の想いを素直に打ち明け、小さい頃から大好きな明と肉体的に繋がった事を思い出した麗は赤面しつつ、ふとベッドのシーツを一瞥した。
よく見ると赤い血らしき痕跡が染み着いており、麗は改めて17年間大切に守ってきた処女を幼馴染みに捧げられた事に女としての幸せを感じてしまう。
(……今なら、いいよね?)
胸の前で祈るようにギュッと手を握り、麗は服や下着すら身に付けない四つん這いの格好で明の身体に跨がる。
「──明、大好き♡」
視線の先は明の唇へと注がれており、麗は念の為に部屋の中を見回してからそっと唇を近付け、甘え声で魅惑に囁いてからチュッと優しいキスを落とす。
明が昨夜何度もしてくれた濃厚な大人のキスとは異なる普通のキスだったが、それでも麗には心地良かった。
「──へぇ~。その様子だと昨夜は二人で随分お楽しみだったようねぇ」
とその時、ドアの方から不意に聞き覚えのある声が。四つん這いの体勢のまま麗が顔だけをそちらに向けると、そこには黒い派手な下着に白いワイシャツという際どい姿の美玖が悪戯っぽい笑顔を浮かべて立っていた。
「ふぇっ!? なっ!? なななな、なんで美玖がここにいるの!?」
「別にぃ~。朝ご飯のカレーが温め終わったって先生達に言われたから、“偶々”手の空いてたアタシが呼びに来たってだけじゃない」
するとワイシャツのボタンを全開にし、ぷるんと揺れる黒いブラジャーに包まれた豊満な胸をわざと丸見えにさせた美玖がベッド脇まで歩み寄って話し掛ける。
「……み、見てた?」
麗はぼんっと頭から湯気を出し、耳まで真っ赤に染めた表情で美玖に訊く。すると彼女はますますニヤァと意地悪な笑みを浮かべ、ベッドの上で四つん這いになった麗に向かってそっと耳打ちした。
「えぇ、もうばっちり♪ これでアンタはアタシの話した計画に乗るしかなくなったワケだけどぉ……」
美玖の話す意味深な言葉に反応した麗は、未だに眠り続ける明を一瞥してからそのままの体勢でこそこそ話す。
「ほ、本当にやっちゃうの? だって──」
「あら、じゃあ逃げる? 言っとくけど、これはアタシ達で今後も生きるんだったら必要な事よ。まぁ答えはまだ聞かないでおいてあげるけど……アタシの邪魔になるって言うなら、誰だろうと容赦なく殺してやるから──じゃあね」
若干ドキドキした様子で確かめるように訊く麗に対し、美玖は淡々と答えてから部屋を立ち去っていく。
(美玖……それでもいいの?)
「ん……朝、か……」
麗がしばらく悩んでいると、四つん這いになった彼女の胸の下で隠れていた明がゆっくりと目覚める。
「あっ、明……」
「………」
「………」
「ふぅ……とりあえず聞いとこう。お前は朝っぱらから何やってんだ?」
呆れ顔の明が横になったまま口を開くと、麗は瞬時に顔を赤らめて必死に弁解しようとする。
「ち、違うのッ! 明の寝顔見てたら何だかエッチしたくなったとかじゃなくて! だから、えっと、その……ごめん!」
慌てる麗が恥ずかしさのあまりにベッドから急いで退こうと身体を動かすと、不意に寝たままの明にその片腕をぐいっと掴まれてしまう。
「きゃっ!? あ、明?」
「聞け。まぁ、その、なんだ……俺だって好きな女に対する性欲が全くない訳じゃねぇ。ましてや今までに巡った地獄世界で何度も付き合っては抱いてきた最高の幼馴染みだ。本音を言えば、俺だって何もかも放棄して麗と自由気ままに駆け落ちでもしたいさ」
「明……」
思わず、自らの手をギュッと握り締める。明がこれから言おうとしている事がわかってしまっているから……
「だがそれはできないんだ。昨日言ったよな? 俺はお前一人を彼女として愛してはやれないって」
「……うん、聞いた。それは聞いてたよ? でも、あたしは……っ!」
──やめて! そんな言葉もう聞きたくない!
麗の瞳が不安に揺らぎ始める。眼前に居座る明の姿が霞むほどに悲しい気持ちが彼女の胸の奥を痛く締め付けてくる。
「──まだ、この地獄のどこかで生きてく夢や希望を見失い、何かに、そして誰かにすがりたいと泣き続ける女達がいる。堂々と好きな女に愛の告白一つまともに言ってやれねぇ、どうしようもない大馬鹿野郎を世界が移り変わっても待っている、一途で馬鹿な女が、麗も含めてな……」
「っ……わかってる! わかってるけど……ッ!」
気付けば麗はぽろぽろと声も出さずに泣いていた。
フラれた訳ではない。
嫌われた訳でもない。
寧ろ好き過ぎたのだ。
お互いに深く愛し合っていたからこそ、時には一度離れて考えなければならない事もある。故に──
「ねぇ……もう一度だけ、わがままなお願い……言っていい?」
麗は口を開いたものの、ほとんど泣き声にしかならなかったが確かに言った。
「……奇遇だな。俺もちょうど同じこと考えてたところだ」
すると穏やかに微笑む明は自ら麗を抱き締めて濃厚なキスを交わす。これで最後になるかもしれないからと、まるで自分達に言い聞かせるように、切なく……
舌と舌を何度も絡ませ、互いの唾液を含ませ──愛する二人は涙を流してその甘く震える唇の感触を長い時間確かめ求め合っていた。
(──あたし、絶対に生き続けてみせる。まだお腹の奥にたくさん残ってるこの温かい熱が、あたしと明の愛の絆を感じさせる限り、ずっと──!)
麗の中で芽生え始める小さな決意。それは彼女を強く成長させるのか、それとも……
──その後、一階のリビングに集まって夕食の残りに用意していたカレーライスを食べ終えた一同。
昨夜のうちに森田と今村が二階の部屋から運び終えた幾つかの大きめのバッグをテーブルに乗せると、明は改めてパンデミック対策用の荷物の説明を簡単に済ませた。
「──じゃあ、次はチームで共有する武器についてだな。とりあえず〈奴ら〉に対しての効果的な使い方や注意点を一つずつ説明していくから、みんなこれなら扱えそうと思った武器を好きに装備してくれ。それと銃は持ち合わせてねぇから、俺達が〈奴ら〉と戦う際はだいたい近接戦になると思っといてくれ」
そう言って明がまず最初に取り出したのは、藤美学園脱出から海動邸に到着するまで長らく愛用した黒いゲーターマチェットだった。
「これはゲーターマチェット。鋸刃ってやつで、主に森や渓流の草木や枝なんかを薙ぎ払う為に使われる。適度な重さと長さがあってバランス良くグリップも握りやすいから女でも扱えるが、デメリットとして切れ味は多少悪いうえに斧よりは破壊力がない」
続いては黒のタクティカルトマホークアックス──ゲーターマチェットと同じく明が普段より愛用する近接武器の一つだ。
「タクティカルトマホークアックス。日本じゃ許可なく所持するのは銃刀法違反だが、それはこの際無視する。まず戦闘用の突起がついていてガラスや板なんかの障害物をぶち壊すのに使い、ハンドル部分も長めで振りやすく疲れにくい。デメリットもほぼないからマチェットと同じで女にも扱えるだろう」
これら2つの武器に続き、明が取り出したのは藤美学園で美玖が〈奴ら〉の鮮血で血塗れになるまで愛用していたバールだった。
「一般に“バールのようなもの”と言えばこれだ。本来はドアやハッチなんかを抉じ開けるのに使うが対人武器としてもいける。〈奴ら〉相手でも破壊力は出てリーチも耐久性もそれなりにある。女でも扱える部類だが、デメリットとして〈奴ら〉の頭を至近距離で的確に叩き潰す必要性があって難しい。美玖みたいにある程度の度胸や実戦慣れがねぇと選ぶのはまず避けた方がいいだろう──ということでこのバールは美玖が引き続き使ってくれ」
「ふふっ──ありがと♪」
事前に風呂場のシャワーで綺麗に血の汚れを洗い落としていたバールを美玖へと渡す。受け取った彼女は何やら不敵な笑みを浮かべてバールを掴んでいたが、その殺気高い凶器が今後〈奴ら〉ではなく人間へと向けられない事を切に祈ろう。
「次に金属バット──説明するまでもねぇ。銃がそう都合よく手に入らないこの日本じゃ、恐らく最も代表的な対ゾンビ武器だ。木製バットに比べて重くはなったが耐久性も良く〈奴ら〉の頭を確実に叩き潰すという破壊力なら申し分ない。使い手の腕力にもよるが、どちらかと言えば女より男向けの武器だな。ほら、森田と今村でちょうど1本ずつだ」
2本あるうち、明が事前に用意していた真新しいものを森田に渡し、今村には藤美学園で使用していた中古の金属バットをそのまま使ってもらう。
「次は鉈か……ホラー映画なんかじゃ狂った人間が凶器に使うイメージが強い。アックスやバールよりリーチが短い代わりに携帯性があり、護身用、戦闘用、障害物撤去用と何でもいける便利なメリットがある。女でも扱える初心者向け武器だが、〈奴ら〉と戦う際はデメリットに注意が必要だ」
ひとまず鉈をテーブルに置くと、明は一旦リビングを後にして何やら大きくて長い物を幾つか運んできた。
「こいつが大鎌だ。農業用に使われる鎌を俺がテープで補強して戦闘用に改造した丈夫なやつだ。普通の短い鎌に比べてリーチが長く携帯性に欠けるが、上手く〈奴ら〉の首を掴んで引き寄せれば腐った骨ごと切り落とす事も可能だ。とは言え使い方が難しいから上級者向けだな」
まずは大鎌──握りやすい持ち手の部分に黒いテーピングが厳重に施されており、見た目通りに振り回して使う事も考慮されている。
「続いては十文字槍。これは槍術部所属の麗の為に俺が“あるツテ”で用意した専用武器だ。そのリーチは身の丈ほどもあり携帯性はないが、刺す、突く、引く、払うといった〈奴ら〉に有効な手段を臨機応変に使えるメリットがある。上級者向けだが麗には使いこなせるはずだ」
十文字槍を麗に渡すと、彼女はすぐに気付いたのだろう。しばらくその十文字槍を黙って見ていたが、やがて言葉少なく「ありがとう」と言って受け取った。
「刺又──警察がよく暴れる犯人を取り押さえるのに使う鎮圧用武器だ。リーチの長さは槍や大鎌と同じ最高レベルだが、破壊力や殺傷力といった攻撃性は皆無という特徴がある。まぁこれは鎮圧用だから、あくまで〈奴ら〉に対する足止めで使えって事だな」
そう言って大鎌と刺又を一旦リビングの床へと慎重に置きつつ、明は言い忘れた事を全員に伝えておく。
「それともうひとつ──十文字槍、大鎌、刺又などの長物はそのリーチの長さが却って仲間の邪魔になる事もある。誤って仲間に当たって傷付けたり、壁かどこかに接触して〈奴ら〉を引き寄せる音を鳴らしたり──集団戦で使う際は周りの障害物や仲間との距離感に注意だ」
長物の説明を終えると、次に明は木刀を取り出した。これはこの場にいない毒島冴子が藤美学園で使用していたので知らない者はいないだろう。
「木刀──リーチも長く破壊力も高い強力な武器だ。耐久性はそれなりにあるが、携帯性はなく扱いは難しい。毒島先輩のように上手く使いこなすには技術が必要だから初心者にはオススメしない。それと最後に──」
本来であれば冴子が使う予定だった木刀を置きつつ、明は様々なデザインのナイフを一本ずつテーブルに並べていく。
「ナイフ類も数は揃えてある。フォールディングナイフ、バタフライナイフ、ランボーナイフ──それとコロンビアナイフは既に学校で委員長に渡してあるから、それを含めて4本だな」
フォールディングナイフ──ブレードがハンドルに収納可能という折り畳み式のタイプで、手のひらに収まるほどに小型でとにかく目立たず、携帯性に優れて女性でも楽に扱えるのが特徴だ。
バタフライナイフ──フォールディングナイフと同じく折り畳み式ではあるが、またちょっと特殊なタイプがこれである。ブレードが一枚なのに対して溝のついたグリップが二分割されており、ブレードを上下で挟むように収納するのが特徴。また一般的なフォールディングナイフにはない、“片手で刃物を振り回して素早く開閉する”という独特のアクションがあり、慣れるまでは開閉操作の練習が必要だが、使いこなすと非常に素早く開閉可能で安全性も他のナイフに比べて比較的高い。またナイフとしてはかなり大型の部類に入り、とにかく目立ちやすい。
ランボーナイフ、コロンビアナイフ──シース(鞘)ナイフの一種で、ブレードとハンドルが一体で固定化されているのが特徴。折り畳み式ではない為に安全の問題から携帯には注意が必要だが、その分堅牢に作られていて非常に壊れにくい。
「リーチの短さでわかるとは思うが、〈奴ら〉相手に実戦でナイフをいきなり使うのはリスクが高い。どちらかと言うと突然襲われて手元にまともな武器がない場合の護身用ってところか。切れ味はどのナイフも悪くないが、〈奴ら〉の頭蓋骨を潰すだけの破壊力はないから決め手に欠ける。ただこれだけデメリットの大きいナイフも上手い人が使えば〈奴ら〉を倒す武器として活躍するから、そこは実際に使って覚えていくしかない」
ここで武器に関するすべての説明を一通り終え、一同は誰がどの残りの武器を装備するかで真剣に話し合った。
結果として藤美学園で多少は実戦経験のある麗が十文字槍を受け取る代わりにモップの柄を手放した。
美玖は元々使用していたバールに加え、“使ってみたい”という単純な理由からバタフライナイフを追加で手に入れた。
智江は誰も選ばなかった木刀と明から預かっているコロンビアナイフに決まり、森田と今村は先程話した通り新品と中古の金属バットをそれぞれ引き継ぐ事に加え、大鎌は森田が金属バットと使い分ける事に。
また、今までに一度も〈奴ら〉との戦闘経験がない敏美は自分は後回しでいいという他者優先の考えから、明が愛用するランボーナイフ──さらに明が元々使用していたタクティカルトマホークアックスをセットで受け継ぐ事になり、美鈴は小回りが効いて便利そうとの理由で鉈とフォールディングナイフをセットで選んだ。
そしてチーム内の非戦闘員である静香には武器ではなく治療キットを……京子には万が一の保険として刺又を渡す。
残るゲーターマチェットに関しては使用者不在の為、明がそのまま使う事で話し合いは終わった。
「──これで決まりだな。しかし委員長、本当に木刀使えるのか? 俺は頭脳戦メインでそっち系はてっきりダメだと思ってたが──」
それぞれが新しく手に入れた武器の感触などを興奮した様子で確かめている間、明はふと気になって木刀を触っている智江に声を掛けた。
「むっ、海動君失礼ですね。こう見えて、ウチのお爺ちゃんから手解きは受けてますよ。私はあまり好きじゃないですけど……こんな世界になった以上、“あれ”を受け継ぐ心の準備は昨日の夜にたっぷり泣いて決めときましたから」
などと意味深に答える智江だが、どうやら普段から家庭内での木刀の使用経験があるらしい。彼女の言う“あれ”が何かはまだわからないが、明は内心感付いていた。
(委員長……昨日の今日で朝からやけに吹っ切れた顔してると思ってたが……)
本来であれば木刀をメイン武器とする毒島冴子の為に明が予備に一本用意しておいたのだが、これはこれで嬉しい誤算だったのかもしれない。
ただ同時にそれは、智江に隠された恐ろしい剣士としての才能を開花させる事に繋がるのだが……
最近、執筆の合間に海動達のチーム名を考えている作者です。
今のところ候補としては『スカルフォース』、『ワイルドセブン』とかまぁいろいろ……(おい
問題はそれを作中で採用するかですが、現状はチームの名称自体がそもそも没になる可能性も……(^_^;)
そんなわけで次回はチーム分断とその理由、そして悲劇の幕開けとなる海動邸からの出発までをお送りする予定。