学園黙示録~ANOTHER OF THE DEAD~   作:聖夜竜

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運命の分岐点

 

 チームのメンバーが装備する武器の選択が終わる。ここで下着にワイシャツのみという極めて破廉恥な格好をした女性陣が一旦昨日の服装に着替えてくると言って、それぞれ自分の武器と共にリビングを退室していく。

 

 こういう時、女の準備とは決まって時間が掛かるもの……そうとくれば明は何かを決意した深刻な顔で残る二人の仲間を一瞥する。

 

「行ったか……よし。森田、今村──ちょっとこっちに来てくれ。これからのことで話がある」

 

 男だけがリビングに残ったその間に明は森田と今村の二人を近くに呼び寄せる。それまでは何やら談笑していた二人はお互いに一瞬だけ顔を見合せ、それぞれ金属バットと大鎌をリビングの端に置いてから近寄ってきた。

 

「なんだよ海動。そんな怖い顔しなくたって、俺達もう女の子の着替えは覗いたりしねぇよ。さっきまで充分眼福だったし」

 

「そうだぜ。けどお前、このタイミングでお呼びってことは──さては海動、女達がいるとできねー話か?」

 

「ん、まぁ……」

 

 何故だか歯切れの悪い明はそう言ってリビングの窓から見える真新しい青空を一瞥する。

 

「そんなところだ」

 

 明の様子を受けて二人もシリアスな空気を読んだのか、固唾を飲んで明の言葉を待つ。

 

「──これから先、何かと都合悪くチームで別行動する機会も増えるだろう。現に小室や沙耶達とはやむを得ず離れている訳だしな。そしてもしそうなった時──“〈奴ら〉に襲われない”俺の力無しでお前らにもあいつらを守ってもらう必要がある」

 

 明が昨夜から一人でずっと考えていた事……それは今後どこかで緊急事態に陥って結束したチームがバラバラになってしまった時、果たして他の仲間達が“海動明というチート”を使わずにしっかり行動できるかという事だった。

 

 明ならば万が一バラバラになった少数のチームが〈奴ら〉に襲われて集団戦になったとしても、自分だけが唯一襲われない特性を利用して音で〈奴ら〉を誘き寄せたり、襲われない事を良い事にこちらから一方的な地獄の虐殺を開始し、仲間の危機的状況を一発で切り抜ける事も“容易くできて”しまえる。

 

「どうだ? お前らにそれができるか?」

 

「「そ、それは……」」

 

 しかし森田と今村は違う……普通の人間だ。〈奴ら〉にだって当然襲われるし、万が一噛まれてしまったらその時点でゾンビウィルスによる感染が確定する。明のように死んだら時を巻き戻して世界のすべてをゼロからリセットなんて最終手段も絶対に使えない。

 

 仲間を援助する囮役、仲間を守って防御する役、仲間と共に攻撃する役──その行動どれもが常に〈奴ら〉を相手に生死の駆け引きをしなければならないという危険に繋がる。

 

 世界中でゾンビによるパンデミックが発生した時、常識的に考えて人間は通常狩られるだけの“弱者”となる。ゾンビ映画やゾンビゲームのようにウィルスに対する特別な耐性があるならば話は別だが、例外は基本的に数少ない。

 

 そしてそのような絶望的状況下で迅速に求められるのは“生きる為に戦う人間の力”である。

 

 古来より人間は自らの手で石や木を削り、武器に変えて様々な動植物を狩って食べてきた。

 

 電気も存在しない夜の暗闇に支配されたならば火を燃やし、雨が降らなければ尊い生贄を捧げて飢饉を凌いできた。

 

 ──それは生きる為に戦う力。宇宙から降臨した光の神様が何を考えてか地球という惑星を選び、その星のありとあらゆる生き物の中で気紛れに人間を選び、人間が現代まで進化し繁栄してきたすべてに繋がるのだ。

 

 中身は違えど同じ人間として、仲間達にはこの地獄で共に学び、共に泣き、共に笑い、共に戦い、共に強く生きていてほしいと──明は切にそう願っていた。

 

 確かに愛する彼女達をこの無敵とも言える力で守ってやる事は男のプライドである。しかしいつまでも誰かから守られてばかり、頼られてばかりの弱い人間にはなってほしくない。

 

 住宅街の中では比較的安全な海動邸に到着したばかりのこのタイミングで、一度チームの分断を敢えて決めたのも実を言うと仲間の成長を促す為だった。もちろんそれ以外にも色々理由はあるが……

 

 というのも明が昨夜、海動邸に到着してから一人で自分の部屋に戻り、仲間に隠れてこっそり煙草を吸っていた時のこと──

 

 

 

 

 

『あー、もしもし? こちら川嶋医院。久しぶりの電話ありがたいが生憎こんな状況だ。悪いけど患者ならウチはもう受け入れてないよ。あっ、何なら可愛いおっぱいちゃんなら話は別──』

 

『よし、まだ携帯は繋がったか! 川嶋のおっさん、俺だ! 海動明だ! 聞こえるか!?』

 

『おぅ!? なんだその声は明か!? まったく、心配したぞこっちは! それでお前いまどこに──』

 

 実を言うと明は所持していた携帯電話で“ある緊急連絡先”に電話していた。

 

『学校の方で色々あってな……どうやら“そっち”はまだ大丈夫みたいだな』

 

 電話の相手はこの住宅街に位置する川嶋医院の院長先生──明が普段よりお世話になっている頼れる人物だ。

 

『大丈夫って……おいおい、そうも言ってられんぞ。今のところはウチで雇ってるおっぱいナースちゃん達で何とか回してるが、こう次から次へと患者が来られてもなぁ──』

 

『そうか……じゃあそっちには行かない方がいい感じか……ちっ、仕方ねぇ』

 

『おっと、そうは言ってないだろう? それに明なら“血の制約”のこともあるんだろう? だから困って頼れるパパに電話したって──』

 

『黙れエロ医者。うるせぇなら切るぞ』

 

『はっはっは! とか言って明君、本当は今ここで電話を切ったら次は恐らく“二度と繋がらない”ってちゃんと理解してるくせに──それにだよ? “この私”がいなきゃ君の身体は“1日と持つかわからない”──だろう?』

 

『ちっ……ああ。例の研究所爆発事故からだいぶガタがきてる。そして俺の家にはもう残ったものもねぇときた。今はとりあえずタバコ吸って誤魔化してるが──』

 

『おいおい……だからいつも言ってるだろう? ジュンちゃんと妹ちゃんを早く見つけて、家族三人揃ってウチにおいでって。そしたらパパが本当の家族になってあげるよ?』

 

『……なぁ、川嶋のおっさん。明日、朝早くから病院やってるか?』

 

『っておいおい、そこで無視するかフツー……ん、まぁいい。もちろん我が川嶋医院は君とその連れに限りいつでもウェルカムさ』

 

『悪いな先生……いつも助かる』

 

『明? お前なにか──っと、すまん明! ナースちゃん達がお呼びらしい! 夜の診察は何かと体力使うからおじさん大変で──ああ、そういうことで悪いが電話切るぞ? 明日、必ず来てくれよ? 避難しないでずっと待っててやるから』

 

 そう言い残し、川嶋医院の先生は忙しそうな悲鳴を上げる若いナース達の怒鳴り声と共に通話を終わらせるのだった。

 

 

 

 

 

 明が昨夜、仲間達に内緒で川嶋医院に連絡していた理由──それは自分の身体に関する事と、仲間達をそこの院長先生に会わせる為でもあった。今まで経験してきた世界ではパンデミック発生当日のうちに川嶋医院から姿を消して行方不明になっていた為、残念ながら一度も会えなかったのだが、どうやら“この世界では”今のところ無事に生きているらしい。

 

 それを昨夜ようやく繋がった電話で知ったからこそ、明は予定より早く行動を起こす事にした訳だ。医者としては鞠川静香と同様に性格に若干の難点があるものの、彼もまた静香と同じくチームに欠かせない強力な助っ人になってくれるはず。

 

 明は森田と今村が悩んでいる間にそのような事を思考していた。

 

「なぁ海動……俺達も一緒じゃダメか?」

 

 やがて口を開く森田と今村。不安な表情を隠せない様子に明も仕方ないとばかりに答える。

 

「悪いがそういうのは無しだ。俺達野郎は二手に別れて女達を連れて行った方がいい。今後の為にも俺抜きで〈奴ら〉と戦える力は最低限身に付けてくれ」

 

「うっ……まぁ、やっぱそうだよなぁ……」

 

「……仕方ねぇ、か」

 

 一度は明に断られてしまうが森田と今村も納得し、そうなったからにはやるしかないと覚悟を決める。

 

「俺は昨夜の事もあって色々気になる事もあるから委員長と一緒に行動させてもらう。お前らも自分達で守れそうな女を選んで連れて行け」

 

 明は智江を連れて行くと話すと、森田と今村は少し悩んで相談した末に、静香と京子の女教師二名を連れて行くと伝える。ちなみに、この人選に熟女好きの今村の意見が強く出ているのは内緒だ。

 

「OK。静香先生と京子先生はお前らに預ける。となるとこれでそっちは四人か……」

 

「だったらよ、二木と一条を海動が連れて行けばバランス取れるんじゃねぇか?」

 

「それもそうだな……」

 

 森田と今村の助言を受けて、智江に加えて敏美と美鈴が明と同じチームになる。これでまだどちらになるか決まっていないのは麗と美玖の二人だけだが……

 

「麗と美玖でちょうど五人ずつになるな……どちらかはお前らに選んで──」

 

「お待たせ。みんな準備できたわよ」

 

 そう言い掛けたところで、着替えを終えて綺麗になった藤美学園のセーラー服を着用し、明から渡された武器でしっかりと武装を施した彼女達がリビングに戻って来た。

 

「どう? みんな見違えたでしょ?」

 

「ほぉ……なかなか様似になってるじゃねぇか。まさしく戦う乙女達だな」

 

 身の丈ほどもある十文字槍を片手に携えた麗を中心に、各々の戦闘準備を終えた女性陣。その一方で、マイクロバスにてナイフを持った紫藤に衣服を破かれてしまった静香と京子の教師二名は、結局ブラジャーを外して胸元がはだけたままの衣服をそのまま着続ける事で一致したらしい。

 

「先生達はその格好でいいのか? 言っちゃ悪いが胸辺りが色々はみ出してるし、男からすればかなり卑猥だぞ?」

 

 後ろで目を輝かせている森田と今村を無視して明も驚いて訊くが、よくよく考えてみればこの家で彼女達が着れる服は元々藤美学園で着ていたものか、男物でサイズの合わないワイシャツしかないのもまた事実。

 

 覚悟を持った表情の静香と京子は「今更でしょ?」と言って、どこかのお店で新しい洋服を見つけるまではこれで我慢すると話した。野蛮な男や〈奴ら〉に性的な意味で襲われるとまるで考えていない辺り、森田に今村、そして明が彼女達に少なからず信用されているという事なのだろう。

 

「それで? 明達は三人で何を話してたの? まさかまたあたし達の着替えを覗こうなんて“やらしいこと”考えてたんじゃないでしょうね?」

 

「ん? ああ、いや……今後のチームの分担でちょっとな」

 

 ジト目で問い掛けてきた麗に上の空で答えるその間、リビングの周りでは敏美や美鈴、智江に美玖が自分達の武器を自慢するように話しては楽しそうに見せ合っている。

 

(……これならいけそうだな)

 

 武装した彼女達の前向きな様子を見て、それまでの世界では保身のあまり自ら進んで戦おうともしなかった他力本願な彼女達を知っている為か、ここで明は感慨深い気持ちになって彼女達のちょっとした成長を微笑ましく眺めていた。

 

「ねぇ、アキラ──そのチームってやつはどうなったの? 聞いてる限りだとアタシ達ここで別れるのよねぇ?」

 

 ……とそこに、彼女達を保護者のように眺める明の視線に気付いた美玖が女子同士の談笑をやめてこちらに歩み寄ってくる。その後ろをまだ少し不安な様子の敏美や美鈴、智江に教師二名が続く。

 

 全員が一つに揃ったところで明は今後に向けてのチーム分担を発表。森田、今村、静香、京子には住宅街から距離的にも離れた市街地方面の『床主駅前商店街』で様々な物資調達の任務についてもらう。

 

 対する明、智江、敏美、美鈴はこのまま住宅街周辺を探索するほか、明曰く“個人的に解決したい用事がある”と意味深に話した。

 

 そして残るは現状有力な戦力候補に数えられる麗と美玖──

 

 二人の将来的なエースは並んで明に詰め寄り、どちらのチームになるのかと問い掛けてきた。

 

「それを今考えてたところなんだが、その……」

 

 どうやらまだ決まってないらしい。ならばと麗と美玖はお互いに危ない武器を持ったまま向き合う。そして……

 

「──明、あたしは森田君や今村君達と一緒に行くわ。美玖は明が連れて行って」

 

「なっ──!? いいのか? こんなことを言うのもあれだが……麗も美玖も必ず俺と居たがるって思って言い出せずに悩んでたんだが」

 

「だと思った。でもあたしはもう大丈夫──明にいっぱい勇気を貰ったから」

 

「麗、お前……」

 

 意外な事に頑固な麗がここで素直に一歩引いたのに明は驚きを隠せない。それは普段の彼女の性格を知る他の人間にとっても同じ事だった。

 

「明に守られて、助けられて、頼ってばかりの弱い自分じゃ、これからこの地獄を生きていけないって気付いたから……だから明、あたし達はここで距離を置いて、お互いに別々の道を進もう?」

 

 涙は流さない。明の前でもう散々流してきたから……だから、今は泣かない。力強い眼光を放つ麗はそう決めていた。

 

「──あたし、強くなる。みんなと一緒に強くなって、必ず明のところに戻ってくるから……!」

 

「麗……ふっ、どうやら未練がましかったのは俺の方だったようだな」

 

 やはりいつの時も女は強い──明は改めて実感し、“麗と離れずに一緒にいたい”と言いたい、本当の自分の気持ちを胸の奥に仕舞い込む。

 

 

 

 

 

 ──ここで“さよなら”は言わない。みんなでまた、生きて再会する為に──

 

 だから今は──“いってきます”を言おう。

 

 




チームが分断されました。今後の行き先としては↓

Aルート(住宅街)→海動、美玖、智江、敏美、美鈴
Bルート(市街地)→麗、静香、京子、森田、今村

それぞれのルートには何人かのお助けキャラが用意されてますが、同時に過酷なイベントが多数控えてます。

分断された2チームは後ほど第5章の舞台となる【ショッピングモール】で合流させる予定ですが、果たしてこの中の何人が無事に生きて辿り着けるか……
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