学園黙示録~ANOTHER OF THE DEAD~   作:聖夜竜

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川嶋医院

 

 麗達が海動邸から離れた距離に位置する市街地方面に向かったのに対し、明達は住宅街の近所を歩いていた。

 

「………」

 

「ねぇ、さっきから黙ってるけど……やっぱり麗達が心配だったりするわけ?」

 

 バールとバタフライナイフで武装した美玖がチームの先頭を歩く明に話し掛ける。

 

「ん、そりゃな……あいつらが向かった先はここから若干遠い市街地だ。床主駅に駅前広場、駅前商店街──〈奴ら〉が集まりやすい場所は住宅街より比較的多いはずだ」

 

「だったらアキラが市街地に行って物資調達した方がよかったんじゃない? その為に“アレ”を渡したんでしょ?」

 

 美玖の言う“アレ”とは、市街地方面で物資調達する際に何かと役立つと言って、明が予め用意していた組み立て式のリアカーの事である。先程チームで別れる際、麗達にそのリアカーを海動邸の玄関前で渡しておいたのだ。

 

「ああ……だがそういう訳にもいかねぇ事情があってな」

 

「それって、さっき話してた川嶋医院って場所に関係するとか?」

 

 今度は鉈を隠し持つ美鈴が会話に加わってきた。

 

「そうだ。俺が直接行く必要があった。だがそうなると今度は物資の調達に時間が掛かっちまう──川嶋医院の用事が終わったら俺達も市街地に向かって仲間と合流するって決めてたんだ」

 

「決めてた? ってことは?」

 

「……先行き不安だな。実は昨日から嫌な気配にずっと見張られている。恐らくは昨日マイクロバスで俺達や紫藤を襲ってきたあの触手の化け物──その親元だろう」

 

 その一言でハッとなる彼女達。当然心当たりはあった……彼女達も昨夜浴室で感じたあの悪寒は、間違いなく人間が発するものではないと察知していたのだ。

 

 明は途中からその邪悪な存在に気付いており、海動邸で籠城するか直接出向いて“一対一で”戦うかを決め兼ねていたのだが、どういう訳か追跡者は昨夜あれだけ屋内に侵入できる隙があったにも拘わらず、ついに明達の前に姿を現さなかった。

 

 こちらを警戒しているのか、油断しているのか……いずれにせよ、向こうが仕掛けて来ない今が動くチャンス。襲撃されない時点でその“追跡者”が〈奴ら〉より賢く、人間的な知能が全く衰えていないという事を物語っている。

 

 実は先程から明達が武装して町並みを歩いているのもそれが関係する。敢えてこちらのチーム人数を減らし、相手が攻めやすくなった上で明もより動きやすい防衛に集中させたのだ。

 

 追跡者の狙いが〈奴ら〉と同じ“人間の殲滅”ではなく、“人間ではない自分”と接触する事にあるとすれば、恐らく市街地に向かった麗達があの無慈悲な触手に襲われる心配はないと明は内心確信していた。

 

 問題は今も物陰に息を潜めてこちらの出方を窺っている例の化け物だろう。まだこちらを攻撃してくる素振りは見せないものの、いつ触手の群れを忍ばせるかもわからない。

 

 マイクロバスで明のピンチを結果的に救い、紫藤達を襲撃した時に見せたあの恐ろしい攻撃性は消え失せた訳ではないはず……

 

「でも襲ってこないよ?」

 

 可愛らしく首を傾げる敏美のふとした言葉に明は無言で頷く。

 

「ねぇ、海動君。わたし、“あの娘”はそんなに悪い子じゃない気がするの」

 

「あの娘って、まさか見たのか!?」

 

「ううん……昨日の夜、お風呂場の中で何となく女の子に視られてるような気配を感じてただけだよ……ちょっと怖かったけど」

 

(……どういう事だ?)

 

 敏美の話す内容が事実だとすれば、追跡者は既に昨夜の時点で海動邸の敷地内に潜んでいた事になる。監視のつもりなのか、それとも明と一対一で接触する機会を窺っているのか……

 

「それよりさ、これから行く川嶋医院ってとこの事を教えてよ。アタシらはよく知らないんだし」

 

 どうやら美玖達は誰も知らないらしい。川嶋医院は明が幼少期から何か怪我したり病気になったりすると必ず通っていた一軒家ほどの小さなクリニックで、そこの院長先生は明だけじゃなく麗や沙耶、孝とも顔馴染みの関係との事。

 

「ふ~ん。で、頼りになりそう?」

 

「ああ。性格に多少問題ありだが、あれでも医者だから困った時には力になる。まさか昨日の今日で死んでねぇとは思うが……」

 

 興味津々な美玖の質問にどこか複雑な表情で返す明。その会話の間にも明達は川嶋医院に到着する。

 

 明が話していた通り、あまり病院には見えない外見の建物で、それこそ近所のどこにでもありそうな普通のクリニックだ。表の看板に『川嶋医院 小児科・内科』と書かれてなければ、恐らく素通りしてしまってもおかしくない。

 

「ここなワケ?」

 

「そうだ。普段は玄関の下駄箱に靴を入れてスリッパを履くんだが──今は非常時だ。土足で上がらせてもらうぞ」

 

 正面玄関から靴を脱がずに荒らされた待合室へと踏み入れる明達。昨日はまだ結構な患者数がいたと思われる待合室は無人で電気が点いておらず、薄暗い寂れた雰囲気を演出している。

 

(妙だな……静か過ぎる)

 

 明は他の仲間がちゃんと靴を履いたまま後ろに続いている事を確認し、待合室の状況を改めて見回す。

 

 待合室の壁際に位置する大きな本棚には院長先生の趣味なのか、様々なジャンルの漫画が並べてあったようだが、今はどれも乱雑に放棄されて床下に散らばっている。

 

(キューティーハニーにデビルマンレディー、ふたりぼっち伝説にトリアージX……おいおいおっさん、小児科のくせにこんな漫画置いとくなよ……ったく、子供が見たらどうすんだ)

 

 足元付近に転がっていた『トリアージX』という題名の漫画を適当に一冊拾ってみる。表紙にはやたらと巨乳な美少女がグラビアアイドル並みのエッチなポージングで描かれており、明は相変わらずといった様子に苦笑してしまう。

 

 ──と、その時だった。

 

『~~~~!? ~~~ッ!?』

 

 待合室と隣接する診察室の方から何やら騒がしい物音と人間らしき声が聞こえてくる。

 

「「「「「!?」」」」」

 

「ねぇ海動君、今のって……!?」

 

 敏美の不安げな発言を尻目に明は舌打ちし、素早くゲーターマチェットを構えたまま急いで診察室へと走り出す。

 

(死なせねぇぞ……絶対になぁッ!)

 

 暗がりの通路に明の羽織る黒い学ランが宛らマントのように勢いよく揺れ動いた。

 

 

 

 

 

 ──その頃、診察室では白衣姿に眼鏡を掛けた40代程の男性が〈奴ら〉と化した巨乳のナース達に襲われていた。

 

「くそっ……! やはり噛まれただけで感染するのか……!」

 

 恐ろしい呻き声を出しながらゆっくりと歩み寄る変わり果てたナース達。医者らしき眼鏡の男は適当に患者のカルテやボールペンなどを投げ付けながら壁際に追い込まれていた。

 

「こんなところで死ねないってのに……! ああ、くそっ……!」

 

 〈奴ら〉と化した数名のナース達に退路を塞がれ、完全に絶体絶命の状況……診察室の壁に背中を合わせた状態で右に左にと身体を揺さぶってみるも、目の前に迫り来るナース達にはまるで通じていない。万事休す。

 

「おっさんッ!」

 

 ──とその時、診察室と書かれたドアノブ付きの扉を人間では不可能な力強さで勢いよく蹴破った黒い学ランを羽織った黒髪の高校生が荒々しく室内に押し入ってきた。

 

「明!? 来てくれたのか!」

 

「悪い! 話は後だ! 先に片付ける!」

 

 その派手な登場音に何事かと振り向いたナース達だが、それよりも早く明は行動を完了していた。怯む事なく一瞬で近付き、手にしたゲーターマチェットで次々と顔色の悪いナース達の首を無駄の少ないスタイリッシュな動きでクールに撥ね飛ばしていく。

 

 その後ろから武器を持った美玖達が遅れてやってくると、明だけで診察室にいた数名の〈奴ら〉は見事に首を斬り落とされて全滅していた。

 

「うそ……」

 

「すごい……」

 

「ふぅ……とりあえず制圧完了か」

 

 一息吐き、目の前で起きた一瞬の出来事に呆然としている白衣の男に向かって明は改めて声を掛ける。

 

「にしても危ないところだったな、おっさん」

 

「あ、危ないところってお前なぁ……もうちょっと来るのが遅かったら、俺は今頃傷を負ってゾンビになったナースちゃん達に喰われてたぞ? まったく……」

 

 軽口を叩く男は先程まで危ない目に遭っていたにも拘わらず、もう平然としている……彼はこういう男なのだ。

 

「この人が海動君の話していた先生ですか? 何だか胡散臭いような……」

 

 不思議そうに見据える智江の問い掛けに対して明が頷いて答える。

 

「そうだ。川嶋のおっさんは──」

 

 彼女達に紹介しようと口を開く明をそっと押し退け、『川嶋のおっさん』と呼ばれた白衣姿に眼鏡を掛けた無精髭の男が一歩前に出て勝手に自己紹介を始め出した。

 

「その通り、私がこのクリニックの院長やってる謎のカリスマ医師だ。君たちとは今後とも長い付き合いになりそうだし、何かあったらこのナイスミドルなおじさんをよろしく頼むよ! あっ、可愛い女の子には診察料タダにしてあげるから是非ともご贔屓に」

 

 額に手を当てた明がやれやれと呆れ顔で溜息を漏らす間、執拗に握手を求めてくる胡散臭い笑顔の川嶋に対し、彼女達は若干引き気味に後退りしてしまう。

 

「こんなのが先生って……」

 

「……正直、ドン引きです」

 

「また変なのが仲間入りしたわね」

 

「うん……でもちょっと海動君に似てるところあるかも……」

 

「おい二木、ちょっと待て。そりゃどういう意味だ?」

 

「はぅ!? ご、ごめんなさい……」

 

 反応は様々だが、既に川嶋=奇人変人という印象が彼女達の中で出来上がりつつあるらしい。

 

「ははは、言うねぇ彼女。でも少しくらい似てて当たり前だよ。何せ明を半人前に育ててやったのは何を隠そう“この私”だからね。どうだい? 不良ながら立派なもんだろう?」

 

 敏美の言葉を聞いていた川嶋は明の隣で笑って話すと、眉間に皺を寄せた明はぶっきらぼうに口を開く。

 

「お前ら、このおっさんの話は真に受けなくていいぞ。いつも口から出任せに適当なことほざいてるだけだからな」

 

「おいおいおいおい、そりゃひどいよ明。私はね? “女の乳は掴んでも嘘はつかない”性分なんだよ?」

 

「言ってろ、エロ医者」

 

 互いに言い返す明と川嶋──やがて二人はどちらとも我慢できずにニヤリと笑い合った。

 

「明、生きててくれてありがとう。おかげで俺もこの命拾わせてもらった」

 

「ああ。あんたはここで死なせちゃならねぇ重要な人だからな(それに……やっと“あんたの生きてる世界線”に辿り着けたんだからな……)」

 

 呆然と二人のやり取りを見つめていた女性陣を尻目に、真面目な口調で話し始めた明と川嶋。「だろうな」と意味深に笑う川嶋に対し、彼女達はどうしても気になって質問する事に。

 

「あの……さっきから二人で何の話を?」

 

 代表として話し掛けてきた智江を見て川嶋はチラッと彼女達を一瞥すると、何やら意味ありげに明へと向き直った。

 

「なぁ明、このお嬢ちゃん達は──?」

 

「……あぁ、だいたいの事は昨日の夜に伝えてある。悪いがおっさん、あとは頼んだ。それとどっかの空き部屋一つ借りるぞ」

 

「はいよ。しばらく顔見せに来ないから結構な量を保存しといてやったぞ」

 

「えっ、ちょっ──海動君!?」

 

「どこに行くの!?」

 

 不安を煽るような突然の言動に心配した智江達。一人で診察室を出て行く明の後を追い掛けようとドアの壊れた出入口に慌てて向かうが、それよりも先に川嶋が彼女達を引き止めた。

 

「あ~君たち、ちょっと待ちなさい。明は用を足しに行っただけだから、そう焦らんでもすぐ戻ってくる」

 

「……本当ですか?」

 

「嘘はつかない、乳はつく。私の言葉を信じなさい」

 

 この男怪しいとばかりに睨み付ける智江。すると川嶋は首から上を無くしたナース達のグロテスクな死骸──とくにその胸元を見回し、酷く落胆した様子で溜息混じりに呟く。

 

「しかしここじゃ居心地が悪いな……あ~君たち、私について来なさい。少し場所を変えて話をしよう──さぁさ」

 

「「「「「………」」」」」

 

 明が豪快に破壊したドアには目もくれずに診察室を出て行く川嶋に促され、彼女達も仕方なくといった様子で彼の後に黙って続く。彼女達は屋内の薄暗い通路を固まって歩きながら、先頭を進む川嶋に若干距離を置いてひそひそと内緒話を始める。

 

「ねぇ、ちょっと……このおじさん本当に信用するの? 何だか海動と同じで胡散臭さMAXじゃない。口では安心させるような事言っといて、裏では私達を油断させとくつもりなのかも」

 

「それは……私にはまだ何とも言えません。たしかに怪しいですけど……」

 

「美鈴も智江も気にする事はないわ。アキラがわざわざ訪ねてきたって事は、この男がチームに必要だと考えているからってだけ──今はお互いに様子見の段階よ。それにアタシの見た限り武器は隠し持ってないようだし」

 

「わっ、すごいね美玖ちゃん。何だかまるで海動君みたい」

 

「あのねぇ……敏美、アンタはアンタで他人の言うこと何もかも信じ過ぎ──もう少し“疑う心”ってのを覚えなさい。でないと、いずれその“仲良しこよし”がアンタ自身を破滅させる事になるかもしれないのよ?」

 

「むぅ……でも……」

 

 各々が警戒心を募らせつつ聞かれないように小声で喋っている間にも、黙々と先頭を歩く川嶋はとある部屋の入口で不意に立ち止まった。

 

「ところで君たち──明を待ってるついでに私の“ちょっとした願い事”を引き受けてくれないか? どうせやる事なくて暇だろう?」

 

 振り返り、川嶋はニヤリと笑って彼女達のセーラー服に収まるたわわに実った大きな胸(約一名を除き)を舐め回すようにいやらしく、じっくりと観察してからそう話し出した。

 

 




新キャラ登場。

川嶋医師は原作に登場した幾つかのヒントをもとにこちらで勝手に考案したオリキャラです。

まぁいわゆるAルートにおけるチームお助けキャラの一人ですかね。
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