学園黙示録~ANOTHER OF THE DEAD~ 作:聖夜竜
遅れてすみません。前回の更新のあと、今後の展開を見直していた途中で家族の風邪をもらってしまい、そこから1週間ほど風邪と高熱で執筆する気力もなく……(>_<)
まだ全然治ってないんですけど体調的には執筆できるまでには回復したので今日から更新再開していきます。
川嶋のいなくなった部屋では四人のセーラー服を着た美少女が残って今後の話し合いを進めていた。
「それで? アタシ達だけになっちゃったけど、これからどうするわけ? アキラもいつ戻ってくるかわからないし」
部屋の鍵を閉めた美玖がドアに寄り掛かった体勢で訊ねると、美鈴が居ても立ってもいられない様子で喋り出した。
「どうするって? そんなの決まってるでしょ? 私達でここから逃げて、もっと安全な場所に向かうのよ! それこそショッピングモールとか避難所とか──」
手にした鉈をじっと見下ろす美鈴は焦燥感に駆られているように見える。先程からチラチラと部屋の外ばかりを気にする素振りも時折見せており、どこかいつもの彼女と違って様子がおかしい。
「アキラや川嶋のおじさまをここに置いて? 悪いけどアタシは反対。智江と敏美はどうなの?」
「私は、そうですね……ここに滞在する時間にも寄るかと。海動君の用事が終わるまでは一応待ちますけど、あまり長居はしない方がいいと思ってます。静香先生達との合流の約束もありますから」
……智江には、まだ皆に話していない隠し事がある。それを彼女個人で早急に解決する為にも、できるだけ川嶋医院から移動したいというのが本音だ。
しかしまだ皆には話さない。今の状況で仲間達に話してはいけないと思うからこそ、智江は黙って成り行きを見守る事にした。
「そ。じゃあ敏美は?」
「わ、わたしは……海動君と一緒にいられたらどこに行っても……いいかな?」
美鈴や智江が川嶋医院脱出に向けた具体的な案を出し合う一方で、人一倍に心優しい敏美はまだ明を頼ろうと考えているようだ。しかしそこに苛立って反発する声が──美鈴だ。
「はぁ!? ちょっと敏美! この状況でもまだ海動について行くのがいいって思ってるの!? さっき外で話聞いてたでしょ!? 〈奴ら〉よりもヤバい化け物がずっと海動や私達を追い掛けてきてるって! それのどこが安全だって言うの!?」
怒りに身を任せて敏美へと詰め寄る美鈴の表情は恐ろしい気迫に満ちている。どうやら彼女は明と行動する事そのものが間違いだと考えているらしい。
「うぅ……で、でも美鈴? わたしたちだけじゃ何もできないんだよ? 素直に海動君や大人の言うことはちゃんと聞いておいた方が……」
敏美も間違った事を言っている訳ではない。チームの中で誰よりも経験豊富な明と長く行動するのはそれだけで味方の生存率向上に繋がるし、力強く生きる希望を与えてくれる。
一方でたしかに、美鈴が言うように明は〈奴ら〉とも違う未知なる強敵に狙われている。そして明と一緒に行動する彼女達にも危険が迫っているのもまた事実である。
だからこそ美鈴はここにきて一人だけ強い焦りを感じていた。果たしてこのまま明の言いなりになっていてもいいのだろうか?、と……
「ッ……! いい加減にしてよ敏美ッ! またそうやってあんたは! 美玖の言う通り、ちょっとは自分で考えて動いてみたらどうなの!?」
「そ、そんな言い方ってないよぉ……! ぐすっ……ひどいよぅ美鈴……わたしはただ、みんなの為にって……」
右手に大きな鉈を持って激しく怒鳴り散らす美鈴に怯え、とうとう泣き始めてしまう敏美。落ち着きのある明や川嶋がいなくなった事で彼女達の心の拠り所が一時的に失われ、この場の空気は明らかに不穏な方向へと流れ始めている。
それを肌で感じたのか、藤美学園の学級委員長でもあった智江は近くで様子を見ていた美玖と共に危険な二人を引き離して仲裁に入った。
「な、仲間割れはダメですよ! みんな、頭を冷やして落ち着いて! 頼れる人がいなくなって不安に思っているのはわかるけど……いま私達が取り乱したら却って仲間を危険に晒してしまいます!」
「智江の言う通りよ。美鈴、アンタは一度落ち着いて考えた方がいいわ。敏美とは二人ずっと仲良しなんでしょ?」
「っ……まぁ、そうだけど」
美玖の言葉に顔を背けて不機嫌に呟く美鈴。その近くで智江に抱き着いて小さく泣き続ける敏美を忌々しげに睨み付け、鉈を握るその手に力を込めた。
「だったら敏美と二人で話し合って仲直りするのね。アンタがさっきから何にイライラしてるのかは別にアタシ興味ないけど、こんなところで喧嘩なんてされても面倒なだけよ」
「ッ……わかった。悪いけど、しばらく一人にさせてもらうから邪魔しないで!」
美玖に厳しく言われてしまい、鬱憤の溜まった美鈴は川嶋に隠れているように言われていた部屋を荒々しく飛び出していった。
「……彼女、本当に一人にさせて大丈夫でしょうか……?」
智江が美鈴の身を案じていると、美玖がやれやれと溜息を一つ吐いて言った。
「ほっときなさいよ。ああいうのは口で言ったってわからないんだから。昨日のあんたとおんなじ」
「うっ、それはその……ごめんなさい。でも美玖さんの言う通りでした。仲間達の心の繋がりが脆くなって危ない時こそ、ちゃんと謝って仲直りすることが大切ですよね?」
智江は智江なりに頼れる委員長として不安感を隠せずにいる彼女達を一つに纏めなくてはならない。しかし時にはこうやって仲間同士道を違える事だって起きてしまうのが人間の困ったところである。そしてそうなった場合、大事なのは別れた先でもう一度繋がるかどうか……それは敏美と美鈴の強い友情の絆を信じるしかないのだろう。
「あら、アタシはここでピーピー喚かれても耳障りだったから言ってやったってだけ。それより敏美──美鈴の言う事も間違ってはないわ。さっきお姉さんが言ったでしょ? アンタはもう少し自分にも仲間にも“悪くなりな”って」
今までの人生で友達など誰一人として欲しなかった美玖は言う。友達同士の喧嘩や仲間割れは何も悪い事ばかりではないと。麗が明に言ったように、時にはお互い距離を置いて絆を確かめ合う事も必要である。
そしてその時間が長ければ長いほど、再び二人が出会った時にきっと役立つはずだと──それまではずっと孤独に浸るだけで、ロクな人付き合いなどしてこなかった藤美学園の不良女子には生憎絆など語ってもわからない。
しかし今の敏美を見ているとどうしても気になってしまうのだ。それはまるで、幼い子供の頃の弱かった自分自身を見ているようで……
「で、でも……わたし、美鈴とは小さい時からずっと仲良しで……いつも美鈴がわたしの為に色々してくれて……」
「ほら、そういうのがダメって言ってんの。アンタさぁ──これから先もそうやって頼れる誰かに面倒見てもらおうなんて、甘ったれた良い子ちゃんぶってると──いつかホントに“信じてた人”に裏切られて死ぬよ?」
その言葉に大きなショックを受けたのか、泣き顔の敏美は綺麗な唇を震わせながら小さく「ごめん……」とだけ呟くと、美鈴の後を追い掛けるように部屋を飛び出して行った。
「はぁ……どいつもこいつもアキラがいないと使い物にならなくなって……これだから親友とか家族とかってヤツ、アタシ“大嫌い”なのよねぇ」
「………」
静けさの残る部屋には美玖と智江の二人だけ……智江は相変わらず暗い表情で俯いており、どんよりとした空気に我慢できなくなった美玖はわざとらしい溜息を吐き出して一言呟いた。
「……な~んかイヤな感じ」
その頃、川嶋医院の待合室では二人組の若いカップルが落ち着きのない焦った様子で待合室を行ったり来たり歩き回っていた。このカップルは先ほど住宅街の道路で運悪く〈奴ら〉に見つかって襲われてしまい、怯えた彼女を〈奴ら〉の攻撃から庇った彼氏が敢えなく負傷──
その時ちょうど現場に居合わせ、“何故か数人の〈奴ら〉に一度も狙われる事なく”カップル二人をこっそり観察していた黒髪に赤いワンピース姿の可愛らしい女の子を強引に引っ張って保護した。
そして三人で逃げている最中に彼女の方が川嶋医院と紹介された建物入口の看板を目撃──病院なら誰か負傷した彼氏を治療できる医師が残っているかもしれないと切に願い、しばらく助けが来るのを待つ事に決めたようだ。
「ねぇ、本当に病院の人いると思う? もうみんなどっかに逃げちゃってるんじゃ──」
「俺が知るかよ……っ、痛てぇ……でもさ……この娘をあのまま外に放っておく訳にもいかなかっただろ……」
そう言って負傷した右腕の痛みに耐える彼氏の男が辛そうに視線を向けた先には、誰のものかもわからない大量の血に染まって変色している穢らわしいワンピースを纏う可愛らしい女の子が立っていた。
生まれてからただの一度も自分の髪の毛を切らずにいるのか、足下の床に真っ黒な毛先が着くまで伸び放題となった見るからに鬱陶しくて邪魔そうな黒髪を振り撒いて歩く。
女の子はどこか世間知らずな印象をカップルに抱かせ、先程から子供っぽい無邪気な表情で物珍しげに待合室の床に散らばった大量の漫画を小さな素手で拾っては、興味深くページを捲って書かれた文字を凝視して頭の中で読み取っている。
と、そこに……
「おーい、君たち!」
薄暗い通路を白衣姿に無精髭を生やした眼鏡の男──川嶋が小走りで待合室まで駆け寄ってきた。
「うそ!? 先生!? いたじゃん!」
「いや~すまないすまない。ちょっと手が放せなくてね」
急いでカップルの前に現れた川嶋は一度呼吸を整えてから喋ると、後頭部辺りを右手で掻きながらカップル二人の様子をじっくり観察する。
「それで? 君たちは──」
「お願い! 助けて! さっきそこの道路で私の彼氏と迷子になってた女の子が襲われちゃって──」
川嶋が質問するよりも先に彼女が慌てた様子で言い出した。その口振りから察するに、余程恐ろしい目に遭ったらしい。
「なるほど……ならとりあえず診察室で診てみよう。さぁ、こっちにきてくれ」
川嶋に誘導され、負傷した彼氏と彼女はお互いに寄り添う形で診察室の中へと消えていく。その様子を離れて覗き見ていた女の子は手に持つ漫画を後方に放り投げ、川嶋が先程走ってきた通路の奥を真っ赤に光る血眼で凝視する。
「にぃ……いるの? そっち?」
導かれるようにふらふらとした足取りで女の子は通路の奥に進んでいく。その先で待ち受けるものが何かも知らないままに……
親切なカップルのおかげでいよいよヤバい彼女が来ちゃいました。そして漫画を読んで人間の言葉や文字をとりあえず吸収……
海動、お前マジで病室で休んでる場合じゃないぞ(笑)
あっ、次回は嵐の前の静けさ的な感じですかね。
間違いなく惨劇が起こりそうなヤバい展開になります。