学園黙示録~ANOTHER OF THE DEAD~   作:聖夜竜

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秘密の多い主人公ってなんかいいですよね。
普段だらだらしてやる気ない感じなのに、裏では一人悩んで苦労してそうな……

今話では原作の孝一行に代わるポジションになりそうな主要キャラ集結です。


生き残る為に

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!」

 

 それぞれ黒いギターケースと金属バットを背負い、学ランを着たチャラい見た目の男二人が息を切らして走って来る。その後ろには2年の教室階ではあまり見慣れない学生服姿の女子が続いている。

 

「森田と今村……それに3年の美玖──夕樹先輩か!」

 

「「海動!」」

 

 森田と今村は倒れ込むように膝を着くと、肩で息をしながら自分達を落ち着かせようとする。

 

 森田駿(もりたしゅん)──いつも手にした愛用のギターと刈り上げた金髪が特徴的な2年A組の男子生徒だ。明とは同じ不良仲間であり、パンデミックが発生する以前は授業をよくサボっては屋上でギターを弾きながら独創的な歌を披露して明達を笑わせていた。

 

 今村隼人(いまむらはやと)──赤く染めた長髪にシルバーのピアスやアクセサリーを身に着けた2年A組の男子生徒。彼もまた友情に熱い不良仲間であり、未成年でありながら堂々と屋上やゲームセンターで喫煙していた明に影響されたのか、自分も煙草を吸い始めるようになったとどこか嬉しそうに話していたのが明の記憶にも懐かしい思い出として頭の片隅に今も残っている。

 

「森田君に今村君も! よかったぁ、みんな無事だったんだ……!」

 

「はぁ、はぁ、はぁ……無事、だって? はぁ、はぁ……無事なもんかよ……くそっ!」

 

 よく見ると今村の持つ金属バットには所々に真新しい血が付着しており、それだけで彼らの身に何があったかを理解するのは容易だった。

 

「なぁ、海動……俺、俺……っ! 人を……人をこの手で……!」

 

 今村は青ざめた表情で震えると、凶器に使用した金属バットを明に押し付けるように渡そうとする。

 

「わかってる。何も言わんでいい──今村、よく頑張って森田と夕樹先輩を守ったな」

 

 その言葉で今村の目に大粒の涙が溢れ出した。唇を強く噛み締め、泣きたくても声だけは絶対に漏らさないという彼の決意と覚悟が見て取れる。

 

「そのバットはお前が持っておけ。これから先、俺達が生き残るには必要になる。今村……それまで“人だったモノ”を殺すってのはたしかにどうしようもなく怖いだろうさ……俺だってそうだ。だが、時には覚悟を決めなきゃならねぇ時が男にはある。わかるか?」

 

「っ……! ぁ、ぁ……あぁ……っ!」

 

 何度も小さな嗚咽を漏らしながら、今村は頷いて血が付着した金属バットを固く強く握り締める。

 

「意外……海動君達って近寄り難い不良だと思ってたのに」

 

「ふふっ。優しいんだね、今村君も森田組も」

 

「へへっ……うるせぇよ」

 

 美鈴と敏美が感心したように言うと、今村は微かに涙を浮かべて小さく笑った。

 

 そうだ……今村や森田も一言に不良とは言っても、根は友達思いで真っ直ぐな心を持つ気の良い奴らである。それをこれまでの長い付き合いで嫌というほど目の当たりにしている明にとっては間違いなく信頼できる仲間に違いない。

 

「ふ~ん……アンタが海動明なんだ」

 

 男達で再会を喜んでいると、一人離れた場所で様子を伺っていた女子生徒が話し掛けて来た。

 

 夕樹美玖(ゆうきみく)──3年A組の先輩にして藤美学園随一のセクシーな美貌を持つ不良系美少女だ。親友の森田が作った『藤美学園極秘美少女リスト』の情報によれば、彼女には色々と黒い噂が絶えないらしい。

 

 注目は何と言ってもその高校生離れした抜群のプロポーションが誇る推定Gカップの巨乳だろう。そして綺麗に染めた明るい前髪を黒いカチューシャで上げているのが特徴で、耳には今村と同じようにピアスを通している。

 

 明ほどではないにしろ目付きは悪く、先程の噂の件もあってどこか近寄り難い危険な雰囲気を醸し出している為、学園では普段から独りでいる事が多い。

 

 実はパンデミックが発生する以前、明は授業をサボっている時に屋上で彼女と偶然会っては退屈しのぎに談笑した事がある。

 

 その時はお互い名乗る事もなくあっさり別れた為、まさかこうして無事な姿で再会する事になるとは思ってもいなかったのだが。

 

「さっきそこの後輩二人が言ってたんだけど……アンタ、やけにゾンビに詳しいんだって?」

 

「ん? あぁ……それこそ“もう見たくない”ってくらいにはゾンビと関わり深いな」

 

 一見ふざけているようにも取れる意味深な発言を聞き、益々怪訝そうな表情を見せる美玖。どうやら明の事を信用するかどうか見定めているようだ。

 

「まぁ、俺の事はただのゾンビ好きな馬鹿とでも思っといてくれ。絶対安全かは保証できねぇが、地獄までの片道分はお姉様を退屈させねぇって約束してやる」

 

「……ぷっ! あっはははははっ! やっぱりアンタ変わってて面白いわね!」

 

 一瞬呆気に取られた後、美玖は腹を抱えて笑い、目元にうっすらと涙を浮かべて明の姿をまっすぐ見つめる。

 

「ふふ、いいわ──アンタ気に入ったわ。アタシは3年A組の夕樹美玖よ。一応アタシもその地獄ってところについてってあげる」

 

「ほぅ。それはまた光栄なことで」

 

 言い合い、明と美玖は互いにニヤリと笑みを浮かべた。それはまるで、二人の間に何者も入り込めない複雑な“何か”があるようにも見えた。

 

「そ、それより海動! これからどうするよ!? さっき今村と二人で少し戦ったけどよぉ……あいつら、絶対“普通じゃねぇ”って!」

 

「やべぇよ、バットで頭潰してもまだしばらく動いてたくらいだし……海動、ありゃあマジモンの化け物だぜ!」

 

 森田や今村の焦りと怯えは明にもわかる。脳と心臓が動いていないにも拘らず永続的に活動する腐った肉体……まさしく“化け物”を前に人間はあまりに非力過ぎる。

 

(……普通じゃねぇ化け物、か。そう言われるのは何度目だったか)

 

 生きている人間以外はすべて化け物──それを事実として知っているからこそ、明は長い繰り返しの中で普通を捨て去る事ができた。今までは自分だけが“そうだった”──恐らく、今回もそれは同じだろう。

 

「そりゃそうだろうな。だがそれを言うなら俺達だってこの地球上で長いこと生き残ってる天下の人間様だぞ? 案外〈奴ら〉からしたら、俺達人間の方が“普通じゃねぇ”のかもな」

 

 寂しげな表情で意味深に呟き、明は全員を傍に集めて今後の方針を伝える。

 

「さて……俺達はこれからこの階段の下を降りて職員室に向かう。そこで集まって来た他の生存者と合流した後、駐車場に停めてあるマイクロバス2台を使って学園を脱出する」

 

「「「「………」」」」

 

 仲間達の間で緊張が走る。自分達で本当にそのような事が無事にできるのか……そう言いたげな重苦しい空気の中、明はようやく立ち直った様子の森田と今村の二人を合図でこっそり呼び寄せた。

 

「なんだよ、海動……」

 

「海動……」

 

 二人は先程のようにもう震えてはいない。それでも彼らの口調には微かな恐怖感が見え隠れしている。

 

 死にたくない……みんな同じなのだ。

 

「いいか、二人とも……俺はちょっとばかし教室に戻って武器を調達してくる。お前らは女の子達を連れて職員室に行け」

 

「「なっ──!?」」

 

 明からの予想外な指示を聞き、森田と今村は思わず声を発してしまう。二人はすぐさま片手で口元を押さえるが、少し離れた位置に固まって待機している女性陣は怪訝な表情でこちらを何度か見ているだけ……どうやら会話の内容が聞かれたという訳ではないらしい。

 

「おい正気か!? お前一人であの教室に戻る気かよ!?」

 

「そうだぜ海動! ここと違って教室棟はもう化け物みたいな連中でいっぱいなんだぞ!?」

 

 二人の抗議は明としてもわかるものだ。しかしこれだけの人数を一度に守るとなると、森田のギターや今村の金属バットではあまりに心許ない。

 

「それでも全員で行動するのは危険だ。味方の数は多いに越した事ねぇが、時にはそれが足手纏いになる事だってあるんだ。このまま纏まって進めば“経験上”何人かは〈奴ら〉に喰われるぞ」

 

「で、でもよぉ……!」

 

 納得いかないのか、二人はどうしても明を引き止めたいらしい。

 

 ──と、その時だった。

 

「ねぇ──だったらアタシが海動と一緒に2年の教室まで行くってのはどう?」

 

 驚いた事に夕樹美玖が近寄って提案してきた。いつの間に盗み聞きされたのか……他の女子達はまだ気付いてないようだが。

 

「「夕樹先輩!?」」

 

「こっそり聞かせてもらったのよ。それより海動、アンタ一人で行こうと思ったくらいなんだから、きっと何か面白いことあるんでしょ? 団体行動って嫌いだしぃ、アタシも連れて行きなさいよ」

 

「……はぁ。やっぱり先輩に隠し事は通じないってか。とは言え素直に『はい、そうですか』と引き下がるタマでもねぇしな」

 

 いや参ったとばかりに小さく笑い、若干困り顔の明は美玖に向かって近くに来いと手招きする。そしてピアスが見える彼女の耳元でそっと何かを囁いた。

 

「………」

 

「……えっ?」

 

「まだ誰にも言うんじゃねぇぞ」

 

「う、うん……」

 

 ボソッと小さな声量で呟いた明に美玖は素直に頷きはするものの、正直どうしていいかわからないといった様子で相変わらずクールな明をまじまじと目に焼き付けていた。

 

 無理もない。それだけ彼の囁いた何気ない言葉が、美玖にとっては到底信じられない衝撃的なものだったのだから……

 

(海動……アンタ……)

 

「あー、林先生、みんなもこっちに来てくれ。ちょっとばかり予定変更があった」

 

 わざとらしい口調で待機中の仲間を呼び寄せ、明は先程話したように自分は一度2年A組の教室に戻ると説明する。今度は美玖も一緒に連れて行く。

 

 明の一方的な取り決めに対し、当然のように抗議の声が上がる。とくに明を頼ろうとしていた智江達女子は行かないでとばかりに不安と動揺が広がっていく。

 

「俺と夕樹先輩で武器を調達次第すぐに追う。それと俺のナイフを一つ渡しておくから、万が一襲われた時には〈奴ら〉の首を狙え。頭さえ潰せば動きは完全に止まる。だがそれはあくまで多数に囲まれて戦闘を回避できなくなった時だけの対処法だ。武器があるからといって無理に〈奴ら〉と戦おうとせずに、まずは全員で逃げる事を考えて行動しろ。作戦命令は『いのちだいじに』──OK?」

 

「OKって……海動君がそう言うなら……私達は従います」

 

 渋々といった様子で頷きながら、A組の学級委員長である智江がシース入りの綺麗なコロンビアナイフを明から受け取った。

 

「でも海動君、私……これきっと返しませんよ?」

 

「おいおい、そいつは困るなぁ。昔から使ってきたお気に入りのナイフなんだ」

 

「ど、どうしてもって言うのなら……あ、あとで私達のところまでちゃんと奪い返しに来ること! いいですか!?」

 

「奪い返しに……あぁ、わかったよ委員長。約束しようじゃねぇか」

 

 小さな恋でも始まりそうな明と智江の別れの一時を近くで見守っていた森田と今村が悔しそうに揃って身悶えしている。そしてそれを美玖が笑いながら茶化し、京子は眼鏡をクイッと上げながらブツブツ何やら呟き、美鈴と敏美は仲良く手を繋いだまま一緒に苦笑いを浮かべている。

 

 ──この世界が終わる前、確かにあったはずの懐かしい日常の光景がそこにはまだ残されていた。

 

 

 

 

 




そろそろ孝達も出したいですね。
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