学園黙示録~ANOTHER OF THE DEAD~ 作:聖夜竜
魅力的な美少女・美女もだいぶ増えた事ですし、そろそろ海動のヒロインも考えないと……
藤美学園内でのパンデミック発生から一時間ほどが経過した現在。
それぞれ武器を手に〈奴ら〉の襲撃から逃げ延びた少数の生存者達は校舎2階に位置する職員室に集まっていた。
「──鞠川先生、海動は?」
ペットボトルに入った水で貴重な水分を補給しつつ、学ラン姿の黒髪の男子──小室孝は鞠川静香に訊ねた。
「ううん、いないわ……まだこっちに来てないみたい」
残念そうに首を横に振り、静香は適当な席にぐったりと座り込んだ。
「海動君に言われた通り、保健室から役立ちそうなものはとりあえずバッグに入れて持って来たけど……」
「すまない。先程から言っている“海動”という人物は何者なのだ? 聞いた限りサバイバル知識を持ち得ているようだが」
血の付着した木刀を手にした紫髪の巨乳美少女──毒島冴子が孝と静香に訊ねてきた。
「あ、えっと……」
「海動は僕や麗の幼馴染みで友達の一人です。いつもは保健室か屋上で授業をサボってたりするんですけど……こういう非常時には絶対頼れる奴だと思います」
静香が口を開く前に孝はきっぱりと言い切った。そこまで海動明という人間を信頼しているという事なのだろう。
事実、屋上でパンデミック発生の瞬間を目の当たりにした孝が2年B組の教室に戻った際、想い人で幼馴染みの麗の他にもう一人だけ一緒に連れ出したいと願っていた人物が明だった。
既に〈奴ら〉に感染して死亡した井豪永も充分に頼れる奴ではあったが、孝や麗にとっていつも親身になってくれたのは、自分達よりずっと大人っぽい明の存在が大きかったのだ。
「毒島先輩は知らないと思いますけど……孝と明が組めば学園最強のコンビになれるって、私達の間じゃすごく有名だったんですよ?」
「……随分信用されているのだな。そう言えば、鞠川先生に職員室に集まるように言い出したのも彼が最初だと聞いたが?」
剣道部所属の3年生、毒島冴子は愛用する木刀を手に、たった独りで襲い掛かる〈奴ら〉と渡り合ってきた。そんな中で冴子が保健室に辿り着いた時にはちょうど静香と何人かの生徒が侵入した〈奴ら〉に襲われている最中……あと少しでも冴子による静香の救出が遅れていたら、保健室に逃げ込んだ生存者は恐らく全滅になっていただろう。
「えぇ。彼──海動君とは保健室で授業中よく一緒に話したり色々手伝ってもらったりしてたから……職員室に来れば会えると思ってたんだけど」
何の因果か、吸い寄せられるように自然とここに集まった生存者が期待を胸にただ待つのは、未だ姿を見せない海動明の到着のみ──と、その時。
「──なによ。みんなして海動海動って頼りにしちゃって」
先程職員室の前で〈奴ら〉に襲われたショックで泣き崩れていたピンク髪のツインテール美少女──高城沙耶が眼鏡越しに泣き腫らした目で孝達を睥睨した。
「あたしも知り合い以上の関係だけど、あいつはそんなに良い奴じゃないわ。見た目通り危険で凶悪な──それこそ“野獣か悪魔みたいな男”なのよ」
「高城! 何もそんな言い方しなくたって──!」
「じゃあなに!? 海動なら絶対に何とかしてくれるって言えるわけ!? 現に今ここに来てないじゃないッ!! あたしだって、あたしだってほんとは海動に……ッ!」
沙耶の悲痛な叫びが職員室内に響いた。
「「「「「………」」」」」
沙耶の涙混じりの激しい怒鳴り声に誰も口を開こうとはしなかった。実際のところ、この職員室で明と無事に合流できたとしても、それはイコール安全に学園から脱出できるという事には繋がらないのだから。
だからこそ、沙耶の悲痛な叫びは他のみんなにも理解できた。結局、ここから生存者が一人か二人増えるかどうかでは自分達に劇的な変化など起きるはずもないのだ。
それこそ明が学園脱出までのルートを既に頭に思い描いていて、全員で逃げ込んだ先がひとまず安全な場所だとすれば、誰も彼を仲間に加える事に反論しないだろうが……
その時、静寂の中で不意に聞こえた奇怪な足音。
「ね、ねぇ孝……誰かがだんだん近付いてきてる……」
「あ、あぁ……それに一人分じゃない。もしかしたら海動と他の生存者かもしれない」
頷く孝の行動は早かった。仲間に目で合図を送り、自分は金属バットを片手に慎重な足取りで職員室のドアに忍び寄る。その後ろに木刀を持った冴子、モップの柄を握る麗、改造済みの釘打ち機を構えた平野コータがそれぞれ待機する。
「はぁ、はぁ、はぁ……おい!? 職員室のドア開かねぇぞ!? クソッ!」
「や、やべぇよ……こんな逃げ場のない行き止まりで〈奴ら〉に襲われたらッ!」
「開かない? いいえ、そんなはずありません! ……もしかして、誰か中に立て籠っているんじゃ?」
「林先生っ! 職員室の鍵とか持ってないんですか!?」
「ねぇ海動君、そこにいる!? 私達です! 2年A組の二木敏美です! 林先生やみんなも一緒です! お願い、いるならここを開けてっ!」
「早く! 早く助けてよぉ!」
孝達のすぐ前方で激しくドアを叩く音が聞こえてくる。と同時に何人かの助けを求める声も一緒に聞こえてくるが……
「その声、森田と今村か!? 俺だ、小室だ!」
「小室!? 小室か!? 俺だ、今村だ! 森田もいる! なぁ頼む! 俺達を助けてくれ!」
「俺達、途中まで海動の奴と一緒にいたんだ! そしたら海動に職員室に向かうように言われて──!」
森田と今村がバリケードで固められたドアを挟んで孝に事情を説明する。その間にも孝はドアの前を塞ぐ椅子や机を退かそうとするが……
「ちょっ、ちょっと待ちなさいよ! まさか全員この中に入れるんじゃないでしょうね!?」
すると、遅れてこちらにやって来た沙耶が信じられないとばかりに反発の声を上げた。
「冗談じゃないわッ! 今はまだ無事かもしれないけど、その中にもし噛まれてる奴がいたら、関係ないあたし達だって危険に巻き込まれるかもしれないのよ!?」
「うるさいッ! そんなことわかってるッ! それでも……ッ! それでも目の前で必死に助けを求める友達を見捨てられるほど、僕はまだ──“人間辞めてない”ッ!」
「孝……っ!」
……今までは麗と一緒に明の後ろに隠れるだけだったかもしれない。逃げる途中で麗を庇って永が感染し、「人間のまま殺してくれ」と苦しそうに頼まれたあの時……
もしあの場に明がいれば、同級生を撲殺する事への恐怖感に怯えた孝と違って躊躇する事なく永の最期の願いを叶えてあげられたかもしれない。
そうしたら永を〈奴ら〉にしてしまう事も、三人の男に挟まれて不安定に揺れ動く麗の気持ちをまた傷付けてしまう事だってなかったかもしれない。
(……なぁ? これでいいんだよな? 海動、永……)
ここにきて感情を爆発させた孝の叫びに合わせ、職員室のバリケードは一時的に解かれた。すぐさまドアは開かれ、明によって導かれた6人の男女は素早く安全な室内へと雪崩れ込む。
「誰か感染している者はいるか?」
「はぁ、はぁ……い、いません。それより、あの……剣道部の毒島先輩ですよね……? 私達を保護してくれてありがとうございます!」
冴子に聞かれ、智江が全員無事である事を感謝して伝える。その後ろでは孝、コータ、森田、今村の男性陣が再びバリケードを築いている最中だ。
そんな彼らの交流を見守りながら、麗と沙耶は室内に設置された薄型テレビの電源を入れる。
「………」
「……明だったら、あの人なら絶対に助けてくれるって信じられるの。孝や永とは似てるようでまたどこか違う……うまく言えないけど、明はそういう不思議な気持ちにさせてくれるの」
「……海動のこと、好きなの?」
いつしかジト目になっていた沙耶にそう訊かれ、平然を保っていたはずの麗の顔は見る見るうちに耳元まで真っ赤に染まってしまう。そして……
「……うん」
恥ずかしい気持ちを抱きつつ、麗は恋する乙女の顔で静かに、しかしはっきりと頷いた。
「……はぁ……あたし、今すごく小室が可哀想に思えてるわ」
明に対する麗の密かな想いを知った沙耶はやれやれと溜息を一つ吐き、呆れた口調で孝を同情するようにぽつり呟いた。
──同時刻、職員室などがある管理棟よりも危険な2年A組の教室に戻った明と美玖。誰もが羨む美男美女のコンビはそれぞれ新しく手に入れた武器で迫り来る〈奴ら〉の攻撃を回避し、適度に足払いを仕掛けながら血に濡れた殺人現場を駆け回っていた。
「た、卓造……っ!」
「だ、大丈夫……! この人達について行けばきっと助かるから!」
先頭を歩く明と美玖の後ろには道中で偶然にも救出した数名の男女も引き連れている。彼らはどこからか持ち出した金属バットや刺又で〈奴ら〉に対抗していたようで、明としてもあのまま見過ごす事などできなかった。
「………」
「ねぇ、ちょっとぉ──アタシたち職員室に向かうんじゃなかったの?」
そして血に濡れたバールを左手、同じく血で汚れたモップの柄を右手に装備した二刀流の夕樹美玖。彼女は明の隣を素早く通り抜けると同時に〈奴ら〉の頭や手足を的確に潰していく。
「ん? あぁ、そのつもりだったんだがな……」
そして今……明は一つの難しい決断を迫られていた。本来であれば美玖と二人で教室を出て職員室に向かっていれば良かったのだが、道中で大勢の〈奴ら〉と戦っていた生徒を拾った為、このまま職員室に全員で向かうとお土産の〈奴ら〉まで一緒に誘き寄せてしまう事になる。
それでもこの人数程度なら事前に武器を揃えられたという事もあって、明でも何とかカバーできる範囲だが、今頃職員室で待機しているであろう静香や他の生存者もといったら確実に犠牲者を増やす事に繋がる。
「……失念してたな」
「海動?」
「ああいや……すまん。だいぶ昔、“先輩に似た女”から怒られた事を思い出してたんだ」
儚げに呟き、生存者達の先頭を勇猛果敢に進む明はその後方で〈奴ら〉に襲われる美玖や他の生徒を守りながら再び思考に入る。
(……良かれと思って準備してきた行動も、裏を返せば結局自分が助かる為の偽善に過ぎないってわけか。なるほどなぁ……)
心の中で苦々しく思いつつ、明はふと隣を歩く美玖の涼しげな横顔と、わざとらしく開けた胸の谷間に何気なく視線を送る。多少の返り血を浴びてはいるものの、まだ完全に腐った血臭と狂気に染まってない美玖を見て、明は誰にも気付かれないように唇を強く噛み締めた。
(……それでもだ。それでも俺はみんなを守ると誓った。あの地獄から這い上がり、地獄の底から生き返ってきた……今度は終わらせねぇ……俺は、俺達は人間として生き残ってみせるッ!)
本作における海動と原作主要キャラの関係について簡単に紹介。
小室孝→海動とは幼少期から付き合いがあり、弱気で臆病だった自分にとって頼れる兄貴分だった。今じゃ不良仲間兼悪友。幼馴染みの麗に片想いしている。
宮本麗→原作とは異なり、仲の良い孝や永とは一度も付き合ってない純粋な乙女。兄貴分な海動を慕い、孝や永の事で何かと相談しては助言されたり慰めてもらっている。自分にとってあまりに都合の良い海動に片想いしているが、孝や永の事もあってなかなか気持ちを言い出せずにいる。紫藤絡みの件は原作とほぼ同じ。
毒島冴子→海動との面識なし。原作と変わらない。
高城沙耶→原作とほぼ変わらない。海動に対しては何かしら知っているようだが……?
平野コータ→海動との面識なし。原作と変わらない。
鞠川静香→海動とは仲の良い話し相手兼保健室の先生と助手的な関係。同級生の男子とはどこか異なる海動の言動や仕草に時折ドキドキさせられる事も。何故だか海動を放っておけないお母さん的な気持ちを抱いているが、それが何かのかは自分にもわからない。
井豪永→原作と異なり、麗とは付き合ってない。とは言えずっと前から麗に片想いしているらしく、それが原因で麗を庇った際に噛まれ、〈奴ら〉の仲間になってしまった。
……ついでに。
希里ありす→海動との面識あり。自宅の隣が偶然にも今村の家という事あって、よく学校帰りに家の前を通る海動には両親共々昔からお世話になっている。
紫藤→海動との面識あり。海動を藤美学園始まって以来の最悪な問題児と思っており、麗が巻き込まれた留年騒動の一件以来、海動とは互いに敵対心を抱いている。それ以外は原作と変わらない。