学園黙示録~ANOTHER OF THE DEAD~ 作:聖夜竜
銃器を使わない海動のメイン武器も登場です。
なお、某笑顔が素敵な地獄公務員さんの出勤BGMは流れてませんのでまだセーフです(笑)
それはそうと美玖のキャラが今一掴めない……
「……そろそろ時間だ。残念だが、こちらとしてもこれ以上来るかもわからない人間を待つ事はできん」
そう言って冴子は目を閉じたまま静かに席から立ち上がる。いよいよ出発の時が来た。
「そんな……」
「海動……」
「海動君……」
職員室に集まった男子も女子もついに現れなかった明に対して思いを馳せるが、冴子の言う通り脱出への時間はもうあまり残されていない。
ゾンビ映画同様のパンデミックが発生した際、最初の1日でまず何よりも重要視されるのは安全な拠点の速やかな確保である。とくに発生タイミングが日中だった場合、太陽が沈む前には最低その日だけでも過ごせる拠点を見つけておかなければならない。
生存者全員分の武器や食糧、衣服に日用品などの確保は最初の1日を過ぎた後からでも充分可能だが、拠点探しだけはどうにもならない問題である。先程から冴子が何度も職員室に置かれた時計を見て脱出の時間を気にするのはそういった事情が含まれる。
「──先程話し合った通り、家族の無事を確認した後どこに逃げ込むかが重要だな。海動君の事を言うわけではないが……ともかく好き勝手に動いては生き残れまい」
この時点で冴子は既に頭を切り替え、現状のチームで脱出に向けて動き始めようと企てていた。そしてそれはつまり……海動明と夕樹美玖の両名が既に〈奴ら〉に襲われて死亡したものと考えられていた。
孝達の間に沈痛な空気が広がる中、脱出への準備を各々終えた一同は築き上げられたバリケード前のドアに集まる。
「よし──みんな、行くぞ!!」
──今、藤美学園脱出への最終カウントダウンが始まった。
その一方、海動明の集団は職員室のある管理棟ではなく教室棟から一階の正面玄関へと向かっていた。
明も途中で孝や森田、今村の携帯電話に何度か連絡を入れたのだが、今が緊急時だからか案の定誰とも繋がらなかった。
ならばと考え、明は先に自分達で正面玄関に行く事を決めた。マイクロバスのキーがなければ運転して脱出する事は叶わないが、窓を割って強引に車内へと避難──マイクロバスのキーが届くまで籠城する事は一応可能だ。
その後で管理棟二階に位置する職員室の窓から見えるような方法で鞠川先生達をこちらに気付かせれば、恐らく駐車場に向かってくるに違いない。明は当初の思惑よりだいぶ危険性の高いやり方になってしまった事を悔やむが、それだけ予想外に生存者の数が多かったのだ。
(嬉しい誤算ってやつか。だが俺の脱出手段は生存者が少なければ少ないほど立ち回りやすいものだからな……ちっ、難儀なもんだぜ)
自嘲気味に内心呟き、明は正面玄関まで無事に美玖や他の生徒と共にやって来た。
「……〈奴ら〉が入口を塞いでやがるな。おまけに数も多い」
「どうするの? やっぱりアンタが直接行って一人ずつ片付けていく?」
「……まぁ、それが一番手っ取り早いだろうな。それじゃあ夕樹先輩は他の奴らと一緒にここで隠れて待機しててくれ」
とりあえず〈奴ら〉にバレないよう下駄箱に素早く身を潜め、慎重に玄関入口の方を覗き見る明。その隣ではバールを持った美玖が何かと豊満な胸元を押し付けるように密着してくる。
「へぇ、ホントに行っちゃうんだぁ。アタシ冗談で言ったつもりなのにぃ。ん……ねぇ、海動ぅ? 聞く意味ないと思うけどぉ……ここで死んだりしないわよねぇ?」
「はっはっは、そりゃ面白い──まぁ見てろ。人間はただ逃げるだけじゃねぇって事を〈奴ら〉に叩き込んでやらねぇとな」
先輩の美玖から言われた無理難題をまるで簡単だとばかりに応える明。それこそまるで、「これから一仕事してくる」とでも言うような態度で凶悪な笑顔を浮かべている。
「アハッ♪ 今の海動、気持ちいいくらいに“イイ顔”してるわよ? ゾンビ殺すの楽しくなってきちゃった感じ?」
「はっ、言ってろ。そういう先輩もさっきから口元えらい緩んでるぜ? ──じゃあな、イイ子で待ってろよ」
「あん、もう……すぐそうやってはぐらかすぅ。ほんっと意地悪なんだから……♪」
普段人前で見せないようなニヤニヤと気味の悪い笑顔で見送る美玖に対して背を向ける明。2年A組の教室に残していた自分のバッグから回収してきた新しい武器──ゲーターマチェット、タクティカルトマホークアックスの二つを携え、音もなく〈奴ら〉の集まる方向へと向かって進む。
「さてっと……最近めっきり運動してなかったからな……ちょうどいい。ここいらで俺の活躍も見せとかねぇと……なぁッ!!」
海動明──袖を通さずに両肩から羽織っただけの黒い学ランを風に靡かせ、夥しい鮮血に染まった二刀の得物を構えたその美しき闇の姿──まさしく狩りに飢えた鬼か悪魔か。
いま──本当の地獄が始まる。
──不気味なほどに静まり返る薄暗い正面玄関。そんな極度の緊張感と恐怖心に耐えられなくなったのか、美玖の後ろに固まっていた生徒達が静かにざわめき出した。
「ね、ねぇ……あの人本当に行かせて大丈夫なの……!?」
「そ、そうだよ……! たしかにあの人がめちゃくちゃ強いってのはさっきまでの戦いを見てわかったけど……それでも今度は一人で行くなんて無謀すぎる!」
生徒達の不安げな主張は至極当然だった。いくら武器があるからと言って、たった一人で正面玄関を徘徊する大勢の〈奴ら〉を全滅させるなど到底人間にできるはずもない。
「あっはははは! ──くだらない。アンタ達、そんなに怯えなくたって大丈夫よ?」
そう……それは海動明が“普通の人間”であれば、の話である。
「“アレ”を見ちゃえばアタシみたいに今の状況がすごく“馬鹿らしく”思えちゃうから──フフッ♪ だって海動にはあんな連中いくら襲い掛かって来ようが全部“無駄”なんだから──フフフ♪ ねぇ?」
まるでこの状況が楽しくて仕方ないと言わんばかりの狂気に満ちた“イイ笑顔”で、美玖の口元がニタァ……と邪悪に歪んだ。
職員室を出た孝達が階段を降りて一階の正面玄関に到着しようかという頃、生存者全員で駐車場に向かう為にたった一人で先陣を切った明は校舎の外で迫り来る大量の〈奴ら〉に取り囲まれていた。
「チッ。次から次へと来やがって……これじゃタバコ吸う暇もねぇな」
その中心で真っ赤な血を滴らせた黒のゲーターマチェット、黒のタクティカルトマホークアックスを武器にポーズを取った明は正面玄関から背を向ける形で敵対する〈奴ら〉を鋭く睨み付ける。
『ぅ……あぁ……ぁ、ぁ……』
自分の腹部から零れ落ちる臓器をブチブチと踏み潰しながら歩くもの、抜け落ちた眼球を宙に揺らして歩くもの、片腕を千切られたように無くしたもの──
少し前は彼らも普通に生きていただろう……だが、今はもう見るに堪えない醜悪な化け物へと成り果てた。
明の眼前を〈奴ら〉の群れがゆらゆらと進んでいく……友や先輩、あるいは教師に喰われて死んで逝った彼らの為にも、明は今一度二刀の武器を構え修羅となる。
「……お前らはもう人間じゃなくなった“醜い獣”と同じだ……遠慮はしねぇ、ちょっとばかし手荒にいくぜッ!」
──咆哮、そして豹変。明らかに普通の“人間がしていい顔”じゃなくなった明は残忍且つ凶悪な面構えで学ランを宛らマントのように勇ましく翻す。
続けて豪快な破裂音を鳴らして砕け散った〈奴ら〉の肉片や血飛沫が次々と舞い散り、正門前は鮮血の雨が降り注ぐ地獄の戦場と化した。
──海動明による地獄開始から数分後、生き残る為にチームを組んだ孝一行の大集団は正面玄関へと辿り着いた。
「あっ──ねぇ、あれを見て!」
麗が咄嗟に指差した先には、下駄箱に身を潜める数人の生徒の姿が。
その中には明と一緒に行動していたはずの夕樹美玖の姿も確認でき、一行の間で歓喜と悲嘆の声が湧き上がった。
「生きていたようだな」
……と、暇を持て余していた美玖のもとに木刀を手にした冴子が歩み寄る。この二人は同じ3年A組の生徒であり、当然認識はあった。
「あら、誰かと思えば……毒島、アンタいつから後輩の面倒見るようになったの? そんなお節介キャラじゃないでしょうに」
「フッ……そう言う君こそ、随分海動君とやらにご執心のようだが?」
「言い方うっざぁ。アンタほんとヤなヤツよねぇ」
美玖のツンとした挨拶に冴子もまた笑みを浮かべて言い返す。二人の仲は普段そこまで良くないが、こういう時くらいは水に流した方がいい。それは緊急時故にお互い理解している事でもある。
だからこそ冴子は嫌われていると知りながら美玖に向かってそっと手を差し伸ばし、自分の主張を真面目に伝える。
「協力……してくれるね?」
「はぁ? 誰がアンタなんかに……このアタシに気安く命令しないでくれる? まぁ、そうねぇ……どうしてもって言うのなら考えてあげてもいいけどぉ?」
嫌味っぽく言いつつ冴子からの握手を払い除けた美玖。口ではやだやだと不満を漏らしつつ、一緒に待機していた後輩達を引き連れて下駄箱に身を潜めた孝達のチームに然り気無く加わるのだった。
その様子を見逃さなかった冴子がどこか嬉しそうに微笑んで呟く。
「夕樹……フッ。君は変わったよ」
「僕らは学校から逃げ出す。一階に来るか?」
孝からの誘いに残っていた生徒達は頷き、また一つ脱出に向けたチームはその規模を増す。
「ところで誰か、2年A組の海動を知らないか? 夕樹先輩がここにいるなら一緒にいた海動も生きているはず──」
「あ、あの人は……なぁ?」
「あ、ああ。だって……なぁ?」
孝から問い掛けられると、明に助けられた名前も知らない生徒達は完全に血の気が引いた青ざめた顔を見合せ、それぞれ意味深に唇を震わせる。
──その時、正面玄関より向こう側の方角から荒々しい戦闘音が。直後に〈奴ら〉と思わしき無数の呻き声が絶叫、正面玄関にまで鳴り響いた。
「「「「「!?」」」」」
……はっきりと、この場にいる生存者全員の耳に届いた。正門前の広場で今、“誰か”が大勢の〈奴ら〉に襲われている。
「な、なんだ? いったい外で何が起きてるんだ?」
「おい、何だかヤバくねぇか……?」
遅れてやって来た孝達の頬を嫌な冷や汗が伝う。見れば明に助けられたという生徒達は“始まった”と言わんばかりに引きつった笑顔を浮かべている。
唯一他の生徒と違うのは美玖だ。この場にいる者の中で彼女だけは武器にした血濡れのバールを手に、まるで堪え切れないという様子で腹を抱えて小さく震えていた。
「な、何がおかしいんですか……?」
先程から不気味に鳴り響く激しい破裂音やら衝撃音の出どころが気になって仕方ないのだろう。モップの柄を手にした麗が様子のおかしい美玖にすぐさま歩み寄って訊ねる。
すると彼女はニタァと笑い、麗の眼前で心底楽しそうに言い放つ。
「わからない? 退屈だった世界が突然終わって、新しい地獄が突然始まったのよ」
「地獄? まさか──明がここにいないのと何か関係があるっていうの!?」
……言われたところで麗や孝達には何の事かもわからない。その間にも正面玄関の窓ガラスにビシャァッ!!というグロテスクな音が短く響き、大量の血飛沫で窓ガラスが所々赤く染まっていく。
「ひっ……!」
美玖を通してその残虐な光景を目の当たりにしてしまった麗の身体がビクンッと無意識に泣き震え、女子高生らしい彼女の純白のショーツにじわりとエッチな染みを一つ増やした。
(あ……いま私……やだ……)
不幸中の幸いか、普段よりホラー耐性のない彼女が恐怖心のあまり少し漏らしてしまった事はまだ他の誰にも気付かれていない様子。人前で恥ずかしい思いをした麗は目の前に立つ美玖や孝達に悟られないよう下腹部に軽く視線を落としつつ、可愛らしく頬を赤く染めてはゆっくりとスカートの中に自らの手を伸ばし、濡れてしまったショーツの染みを隠そうとする素振りを見せる。
その一方で、麗の恥態に気付いてない様子の美玖は高まるテンションを隠そうとせずに興奮した口調で続ける。
「そう、地獄──アンタ達も“人間として”生きているんだったら感じるでしょう? 身体が燃え上がるくらいに興奮して頭くらくらしちゃうほど気持ちよくなれる最ッ高の刺激と快感♪ ──と言ってもアタシ達は“地獄の生き餌”なんかじゃないわ」
──地獄。それはきっと人間ではなく、〈奴ら〉にとっての──
今まで以上に悪そうな顔付きをした美玖が囁いた最後の一言……それは直後に聞こえたおぞましいほどの断末魔によって小さく掻き消された。
「な、何が起きているんだよッ?」
「か、海動君……ひょっとして襲われているんじゃ……」
「状況が掴めん。この中の誰かが直接外に出て確かめるしかあるまい」
先程から続く怪奇現象に訳もわからず混乱する孝達を見て冴子が口を開く。
確かめる……口で言うなら簡単だ。しかし問題は“誰が”ということ。冴子の一言で高まる緊張感と恐怖感を前に、その場にいる全員が行きたくないとばかりに押し黙ってしまう。
「……僕が行くよ」
そんな状態が数秒ほど続いた後、悩んだ末に孝が切り出した。
「そんな……!? ダ、ダメよ! 孝が行くくらいなら私だって──!」
「ならば私が先に出た方がいいな」
「あ~くそっ! こうなったら俺達も行くぜ!?」
「そうだぜ! 森田や俺だってやる時はやる不良の男だ! だいたい、小室と海動ばかりに良い格好させられるかよ!」
すると孝の発言を聞いて麗や冴子、森田に今村までもが明の生存確認に向かうと言い出すが、それでは結局全員で行くのと変わらない。
このまま誰が外に行くかで揉め合っていると、緊張気味に顔を強張らせた静香が恐る恐る自分の意見を提案した。
「ね、ねぇ……だったらこういうのはどう? 正門前で〈奴ら〉と戦っている海動君を救出に行く班、駐車場まで走ってマイクロバスを手に入れる班の2つにチームを分けるっていうのは──」
「「「「「!?」」」」」
その言葉に驚いたのか、思わず口を閉じる一同。普段は見た目のイメージ通りにのんびりとした雰囲気を纏った彼女の口から、まさかそのようなまともな考えを言われるとは思ってもいなかったのだろう。
「あ、あのぅ……私、もしかして変なこと言っちゃった……?」
静まり返る一同。そして……
「そうか! その手があったのか!」
「鞠川先生すごい!」
先程の微妙な空気から一転。孝を始めとした生徒達は静香の提案に賛同の声を次々に上げる。言い出した本人は若干首を傾げながら褒められる事に困惑していたが……
「なるほど……我々で学校から脱出するのと同時に、今後必要になってくるであろう海動君と移動手段を纏めて手に入れようというわけだな?」
これには冴子も納得の表情で頷き、鋭い目付きで他の生徒達を見渡す。だが一人一人に答えを聞く必要などない。
「──では諸君! 行くとしよう!」
学園からの脱出という命懸けの行動を目前に控え、全員の心は一つに纏まった。
ここで作者からお知らせです。
今日明日はリアルの方で外せない用事がありますので、執筆の方は1日お休みさせて頂きますm(_ _)m
本日分の投稿は事前に予約してましたので大丈夫ですが、明日もちゃんと投稿できるか未定です。
時間見つけて筆が乗ればとだけ……それでは!