学園黙示録~ANOTHER OF THE DEAD~   作:聖夜竜

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お待たせしました。最新話です!

それと急に本作へのアクセス数が一時すごい事になってたのでびっくりしたのですが……どうやら知らないうちにランキングに入っていたようです(^_^;)

たくさんの評価や感想ありがとうございます!


マイクロバスに乗って

 

 藤美学園脱出に向けた2つのチームは短い時間の中ですんなりと決まった。

 

 まずは正門前で大勢の〈奴ら〉と無謀にも戦い続ける海動明に加勢及び救出するチームだが、これには各々武器を手にする小室孝、宮本麗、夕樹美玖、毒島冴子、有瀬智江、今村隼人、そして数名の生徒が自らの意思で出願。

 

 その一方で正門前と距離的に近い駐車場に残されたマイクロバスを確保しに行くチーム。こちらは職員室で手に入れたキーを所有し、尚且つ軽自動車の運転免許を持つ鞠川静香を筆頭にチーム護衛役の平野コータ、武器を持たない高城沙耶、一条美鈴、二木敏美、森田駿、林京子、その他生徒達で一気に突入する手筈となった。

 

「最後に確認しておくぞ。海動君の助太刀に行くとは言え無理に戦う必要はない。避けられる時は避けろ! 転がすだけでもいい!」

 

「連中、音にだけは敏感よ! それから普通のドアなら破るぐらいの腕力があるから掴まれたら喰われるわ! 気をつけて!」

 

 冴子と沙耶が最後の意思通達を行う。藤美学園を脱出したら今ここにいる面々は2台のマイクロバスに分かれて走行する事になるのだ。

 

 都市部に続く道路の混み具合によっては途中でやむを得ず別行動しなければならない事もあるだろう。そこに未来への不安もあるが、今は誰も表に出さず協力し合って困難に立ち上がろうとしている。

 

 そう──人間はいつだって強いのだ。

 

「走れ!!」

 

 金属バットを構えた孝の合図で二手に別れたチームが行動を開始する。

 

 全員で正面玄関から飛び出すと、武器を持つ孝達はそのまま正門前に、静香とその他生徒は外側から回り込む形で駐車場に急ぐ。

 

「──いたッ!? 海動!」

 

 そして孝達は見た。否、見てしまった。

 

「「「「「──えっ?」」」」」

 

 勇気を出していざ外に来ると、あれだけ大勢いたはずの〈奴ら〉があちこちで血を噴き出したまま動かなくなっているではないか。

 

 その凄惨な戦場の中心に怪我一つ負った様子のない明が夥しい血飛沫を浴びて立っている。

 

 そこに孝達がやって来ると、まだ明の殲滅対象に入ってなかった〈奴ら〉の生き残りは先程までの怠慢な動作が嘘だったように、すぐ目の前にいる明を“何故か”無視して孝達の方へと一斉に襲い掛かって来た。

 

「!? みんな、来るぞ!!」

 

 孝達はそれぞれ武器を持って〈奴ら〉の襲撃に身構える……が、しかし。

 

「危ないから下がれ! そいつらの相手は俺がやる!」

 

 それよりも早く動いた明は手にしたタクティカルトマホークアックスを宛らブーメランのように勢いよく投げて〈奴ら〉1体の頭に突き刺し、もう片方の手に握られたゲーターマチェットで孝達に向かう〈奴ら〉の首を次々と斬り裂いてはあっという間に殲滅していく。

 

 その中で〈奴ら〉の返り血を浴びている明は楽しそうに凶悪な笑顔を浮かべていた。

 

「「「「「っ……!?」」」」」

 

 全員が明に対して明確な恐怖を抱く中、既に明と行動を共にしていた美玖だけはギラギラとした狂気の眼差しで明を恍惚に見つめ、ようやく一息吐いた明へと歩み寄って声を投げ掛ける。

 

「お疲れ海動。アンタにしてはちょっと時間掛かったんじゃない?」

 

「美玖! それにお前らも!」

 

 孝達の姿に気付いた明がいつも通りの軽い口調で笑いつつ歩み寄る。

 

「それはそうと、ねぇ海動ぅ? アンタいつからアタシを名前で呼び捨てするようになったの? アタシ達まだそんな関係じゃないでしょう?」

 

「おっと……すまん。昔の癖が抜けなくってな……他人の空似だ。忘れてくれ」

 

 言いつつトマホークが顔面に突き刺さったまま停止した〈奴ら〉の頭部からそれをブチィっと引き抜く。と同時に孝達の見ている前で動かなくなった死体を邪魔だとばかりに蹴り倒す。

 

「こんなもんか──おっ、そこのお前。悪いがそのタオル貸してくれないか? 少し顔を拭きたいんだ」

 

「えっ? あ、はい、どうぞ……」

 

「すまん、助かる。それとひとつ言わせてもらうとだ。タオルを首から下げるのはやめときな。〈奴ら〉に掴まれ易くなって危険だ」

 

「は、はぁ……」

 

 言いつつ卓造という名の男子生徒が首に下げていた白いタオルを借りると、明は血に汚れた顔を気持ちよさそうに拭き始める。と、そこに……

 

「──待ってくれぇっ!!」

 

 正面玄関の方からスーツを着た若い眼鏡の男が何人かの生徒と一緒に走って来るではないか。しかも校舎内にまだ残っていた大量の〈奴ら〉まで引き連れて来るという最悪なオマケ付きで。

 

「誰だ?」

 

「あれは……3年A組の紫藤だな。私や夕樹の担任だ」

 

 先頭を走るその男の事を知らなかった孝に冴子が簡単に説明する。

 

「紫藤……」

 

「ちっ……ここにきて一番面倒なのが残ってやがったか」

 

 紫藤と呼ばれた男の姿を見て何やら険しく表情を変えた麗。タオルで顔を拭いていた明は舌打ちし、夥しい血が付着したゲーターマチェットとトマホークを再び構える。

 

「お前らも鞠川先生達を追ってマイクロバスに乗ってろ。俺はまだやらなきゃならねぇ仕事がある」

 

 そう言うと、怖い顔をした明はゆっくりと紫藤達のもとに歩き始める。不良らしくボタンを全開にした学ランを風に靡かせ歩くその後ろ姿からは、どこか死地に飛び込んでいく黒い戦士を思わせた。

 

「そんな!? 海動君はどうするんですか!?」

 

「そうよ明! まさか……囮になって〈奴ら〉と一人で戦う気じゃないでしょうね!?」

 

 静かに去っていくその後ろ姿に不安とも取れる“恐ろしい何か”を察知したのか、血の気が引いて怯えた様子の智江や麗が必死に彼を呼び止めようと叫ぶ。

 

 しかし明はただ無言でクールな笑みをひとつ浮かべただけ。

 

 大丈夫だ、心配するな──その背中が語っていた。

 

 

 

 

 

 遅れてやって来た紫藤達を救出する為、自分を囮にしようとする明。麗や智江は未だに納得できない様子だったが、生存者を出来る限り救出したい孝としてはこのまま立ち止まっている訳にもいかない。

 

「……行こう、みんな」

 

 孝が静かな口調で呟く。その真剣な表情には強い覚悟が表れていた。

 

「そんな!? でも……ッ!」

 

「海動が大丈夫って言ってるんだ! さっきの戦いを見ただろう!? 僕達は先にマイクロバスに乗っていた方がいい!」

 

 大丈夫、必ず生きて帰って来るから……周りの仲間に、何より自分に強く言い聞かせる。孝は麗や智江を落ち着かせ、明の去った方へと一度も振り返る事なく全員で駐車場を目指して走り出す。

 

「うわ……ッ! ぎゃああああああ!!」

 

「あ、あぁ……! ひぃぎいいぃ!!」

 

 それでも駐車場を目指す道中、何人かの生徒は紫藤達が連れて来た〈奴ら〉の集団に掴まれてしまう。

 

「卓造!? 卓造ぉぉぉぉぉっ!!」

 

「うわあああああああっ!!」

 

 愛する恋人や友達が見ている目の前で無惨にも喰われては次々と脱落していく生徒達。走っても走っても〈奴ら〉は執拗に生きている人間をターゲットに追い掛け、乱暴に襲っていく。そして、また一人の生徒が犠牲に……

 

「………」

 

 ある日突然このような形で世界が終わりを迎え、理不尽に奪われていく沢山の弱き命を見せられ、運良く感染を免れた人間は生きる事に疲れてしまったのだろうか。

 

「これが……海動君が言っていたこの世の地獄ってやつなのかしら……」

 

 明と合流していた孝達より先にマイクロバスに到着していた静香は運転席に座って悲しげにぽつり呟く。

 

「ほんの少し前まで、みんな普通に過ごして生きていたのに……」

 

 運転席の窓ガラス越しに広がる〈奴ら〉の醜悪な光景を見せられ、打ち疲れた暗い表情の静香は全てが終わった世界にはこのような絶望の未来しか残されていないのかと嘆いてしまう。

 

 ならば逸そ“用意された死”を受け入れ、ここで愛する人達と最期まで添い遂げてしまった方が楽なのかもしれない、と……

 

「急げ! 急げ!」

 

「小室君! 急げ! いつまでも支えられんぞ!」

 

「毒島先輩が先に! 麗、どこだ!? 麗!?」

 

 ここで静香チームと合流を果たした孝達も駐車場に停められていたマイクロバスに乗り込んでいく。ところが麗だけはなかなかマイクロバスに乗ろうとせず、ドアの近くで明の方を心配そうに見据えていた。

 

「麗! 急げ!」

 

「もう出せるわよ! 乗って!」

 

 孝や静香はマイクロバスに早く乗るように叫ぶが、どういうわけか麗は黙って首を横に振った。

 

「……ごめん。孝……私、明がちゃんと来るまでここで待ってる」

 

「なっ!? 麗!? 何を言ってるんだ!」

 

「だってッ! 私達には明が必要だものッ! それに私には……私には明がいてくれなきゃダメなの……ッ!」

 

「っ……! そんな……麗……っ!」

 

 そう言って涙を見せつつ明を待ち続ける麗の姿を見て、孝は彼女の胸に秘められていた本当の気持ちを察してしまったのだろう。

 

 孝はマイクロバスの車内で握られた拳を悔しげに震わせ、麗の名前を弱々しく呟く。しかし彼女からの返事は来ず、孝は子供の頃あれだけ好きだと言ってくれた幼馴染みとの心の距離感が擦れ違ってしまったと感じずにはいられないのだった。

 

 

 

 

 

 一方その頃、最後尾を走る紫藤達を守りながら明もまたマイクロバスへと向かっていた。

 

(まずいな……ここにきて武器の切れ味が落ちてきやがった。まだだいぶ〈奴ら〉も残ってるってのに……ちっ!)

 

「皆さん急いで! 絶対に助かりますよ!」

 

「はい! 先生!」

 

 手慣れた仕草で〈奴ら〉を足払いしていく明に護衛された紫藤含む残りの生存者。彼らのすぐ後ろまで迫り来る〈奴ら〉に追い掛けられながらも、誰一人欠ける事なく紫藤達はマイクロバスへ我先にと駆け込んでいく。

 

「行けるわ!」

 

「もう少し待ってください! 麗と海動がまだ──!」

 

「前にも来てる! 集まり過ぎると動かせなくなる!」

 

 ……現状これでマイクロバスに到着していないのは明のみ。開かれたドアの前で辛抱強く立っていた麗が必死に手を伸ばして明の名前を呼ぶ。

 

「明! こっちにきてぇっ!!」

 

「くっ……間に合えぇぇぇっ!!」

 

 珍しく余裕のない表情で汗を流す明。ドアの前で待ち続けていた麗をその場に押し倒す勢いで二人は揃って車内に倒れ伏す。

 

「これ以上はもう無理! 行きます!」

 

 運転席でハンドルを握った静香がマイクロバスのアクセルを力強く踏み込んだのはその直後の事だった。あと僅かでも車内に突っ込むタイミングが遅れていたら、明と麗は間に合わず〈奴ら〉の餌食となっていただろう。

 

「もう人間じゃない……人間じゃない!!」

 

 言い聞かせ、人間から〈奴ら〉へと成り果てたかつての生徒を次々に轢いていく運転席の静香。マイクロバスで藤美学園を脱出する事に成功した彼らに待ち受けるもの……それが何なのかはまだわからない。

 

 




これで第1章【藤美学園】は完結です。

次回から始まる第2章【海動邸】はもう少し早めの更新になると思いますのでお楽しみに。

それと海動のヒロインの件ですが、今のところ原作の小室組から麗と鞠川先生が外れそうな予感。

人数減っても原作組だし何とかなる……かな?(^_^;)
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