学園黙示録~ANOTHER OF THE DEAD~   作:聖夜竜

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マイクロバスでの会話パートその2です。

こんなこともあろうかと海動はまた便利なアイテムを持ち歩いてました。

こいつのポケットはちょっとした四次元空間に繋がっているんだ(嘘です!

そしてチラッと登場。謎の血染めワンピース幼女先輩(誰?


海動の筆談/地獄からやって来た幼女

 

 一時はリーダーとなった紫藤が乗るマイクロバスから降りると言っていた麗が明に従ってもうしばらく車内に居残る事を決めてから一時間近くが経過した。

 

 床主市内の道路はどこも避難者の車で渋滞しており、静香の運転するマイクロバスも一向に進まない膠着状態が続く。

 

 とは言え時間というのは人間にとって都合の悪い出来事を忘れさせてくれるものなのか、藤美学園を脱出した当初はあれだけ不穏な空気を漂わせていたマイクロバスにもようやく生徒達の談笑の声がちらほらと聞こえてくるようになった。

 

「それぞれが勝手に行動するよりどこか……安全な拠点を得た後に行動すべきです。例えば家族の安否も。規律のある集団としての準備ができてから──」

 

 ──無論、多数決でリーダーに選ばれたこの男も先程から車内後方に居座る何組かの生徒達に怪しげな説法を続けている。

 

「紫藤の奴も、こんなに嫌われてるのによくやるわ」

 

 明の席のすぐ傍で足を組んで座っていた美玖が溜息混じりに呟く。

 

「放っておけ。それよりどうだ?」

 

 明が声量を落として慎重に“何か”を確認すると、足を組んだ体勢で自分の太ももをいやらしく指先で撫でて暇を弄ぶ美玖が悪戯っぽい笑顔で頷いた。

 

「よし。それじゃあの眼鏡馬鹿が説法に夢中になってる間に始めようか」

 

 ……実は明、麗の暴走途中下車を未遂で止めた辺りから密かに“ある作戦”を立てていたのだ。

 

 その為に必要な人間もほぼ自身の近くに揃えた。ゆったりとした後部座席を一人で独占する紫藤の傍に座っていて最初から声を掛けれない冴子、この状況で居眠りしているコータとその隣に座る沙耶、そして先程から麗と明を避けているのか、冴子の隣に逃げるように移動していった孝達四人は残念ながら車内前列に居座る明側との座席が離れている事もあって呼ぼうにも呼べずにいた。

 

 仮にここで四人に直接声を掛け、下手に不審な動きを見せてしまえば紫藤に自分達のやろうとしている事を気付かれてしまう恐れもある。

 

 明には先程交わした麗との約束の件もあってそれがどうしても嫌だった為、今回あの四人は自分達のチームに加えない方向に決めた。

 

 孝達がいない事に多少の不安はあるが、彼らもあの藤美学園を脱出してきた強者──決して馬鹿ではない。まさかこのまま紫藤が支配するマイクロバスに残ろうなどと考えてもいないはずだ。

 

 ──やむを得ない。いずれ孝達と何処か別の場所で合流できた場合にはちゃんとチームに回収しようと思う。尤もそれはすべてが上手くいけばの話だが……

 

「海動君、これから私達どうするの? このまま紫藤先生の言うことに従っちゃうなんてこと……ないよね?」

 

「渋滞で出来たこの時間に乗じて私達をこっそり周りに呼び寄せて……海動君、次は何を企んでるんですか?」

 

 明の前の座席から少し顔を出した敏美と隣に座る智江が今後すべき行動を明に相談してくる。

 

「まぁ待て。いま説明してやるから」

 

 ──ちなみに現在、マイクロバスの座席はこのような配置になっている。

 

 

 

 京子先生    鞠川先生(運転席)

 バスのドア   森田&今村

 美玖      敏美&美鈴

 麗       海動&智江

 モブ男子    モブ女子&モブ女子

 不良モブ    沙耶&コータ

 根暗モブ    孝&冴子

      紫藤

    (後部座席)

 

 

 

「それよりもう少し静かにしてくれ。疲れて寝てる奴もいるんだ。今はちょっとでも休ませてやらねぇと」

 

 言いつつ明が学ランの懐から取り出したのは、どこにでもある普通の黒いボールペンとメモ帳だった。そこから1ページを千切り、不良にしてはやけに綺麗な字でさっと何かを書き記した。

 

『ここから先、重要な話は筆談で。俺が考えている今後のサバイバル計画と“Day1”を過ごす拠点への移動についてみんなに伝える。筆談の内容は絶対に秘密。紫藤と俺達以外の人間には気付かれないようにすること──OK?』

 

 そのように書いた切れ端のメッセージを智江に渡して見せると、明はニヤリと笑みを浮かべて口を開く。

 

「──にしてもだ。これだけ渋滞が続くと車内でやることねぇな。暇だぜ」

 

 何気ない口調で呟きつつ、明は膝の上に乗せたメモ帳に向かってボールペンを走らせていく。

 

『委員長、今渡したそのメッセージを紫藤達に気付かれないように周りの席に座ってる仲間にこっそり回してくれ』

 

 明から渡されたメモの切れ端を見た智江はその内容に驚いてしまう。そして同時にある期待もする。

 

(海動君……よかった。やっとやる気になってくれたのね。私の一番好きなあなたに……そうよ、ふざけてない時のあなたが私達の生きる希望なんだから)

 

 託されたメモの切れ端を掴み、智江はこの車内で唯一立っている紫藤の視界に入らない位置から明のメッセージを慎重に周りの座席へと渡す。そうして信頼できる仲間一人一人に確実にメッセージの内容を伝えていく。

 

「ああそうだ、鞠川先生!」

 

 その間にふと、運転席でぼんやりと退屈していた静香に向かって明が思い出したようにわざと声を大きくして呼び掛ける。

 

「えっ!? あっ……そ、その声は海動君ね!? どうしたの!? 先生に何か用? 悪いけど、まだ当分はこのままよ?」

 

 いきなり後ろの座席から声を掛けられた静香はビクッとしてしまう。何故だかわからないが、どうも彼女は顔を赤らめた恍惚の表情で遠くを眺めて物思いに耽っていた様子。

 

(やだ、どうして……!? さっきの宮本さんと海動君の恥ずかしいやり取りを見ちゃってから私……何だか胸とあそこの辺りがすごい疼いちゃってる……この不思議な感覚は何なの? ねぇ、海動君……)

 

 ──静香には以前から不思議な夢をよく見る事があった。今の状況とほぼ変わらない大量のゾンビに囲まれたどこかの建物内で学ランを着た黒髪の男に守られている。

 

 仲間は他に誰もおらず、夢の中の静香は何度も「もうイヤ……死にたい……」と絶望して泣いてはその男を困らせてばかりいた。それが不思議と海動明に似通っている事から、静香はいつしか夢の中にだけ毎回現れる年下の男子高校生に急激に心惹かれていった。

 

 今頃は恐らく県警特殊急襲部隊SATの任務に就いているであろう親友の南リカにも何度かその話をした事もあったが、その時は欲求不満じゃないかと笑われて本気にされなかった。

 

 しかし静香には確信に近い思いがあった。この奇妙な夢はきっといつか現実になるんじゃないかと……

 

 そして──夢はその通りになった。今から一年ほど前に初めて藤美学園の保健室にふらりと現れた傷だらけの新入生を見た時は内心とても驚いた。

 

 それは彼の腹部や背中の至るところに深く刻まれた怪我の深刻さや数にではない。──ああいや、もちろん保険医としてこれだけ重傷の生徒を見て驚きはしたし、自分の声が涙と怒りで枯れるほど叱りもした。

 

 しかし静香が本当に驚いたのはそういう事ではない。何故なら傷だらけの逞しい肉体は、夢の中で自分が「ごめんなさい……!」と何度も謝り泣いてしまうほど見知っていた“その想い人”の傷と完全に一致するものだったのだから……

 

「……ねぇ、海動君?」

 

「ん? ああいや、別に用ってわけじゃないんだが……ほら、鞠川先生もずっと運転で疲れただろう? 渋滞の時くらいこっち来て少し休んだ方がいい。どうせこの混雑だ。道路はしばらく使えない」

 

 ……と、このように表向きは静香と会話している風に装い、その裏で紫藤を出し抜こうと明はまた新たにメモの切れ端にメッセージを走り書きしては仲間に情報を共有していく。

 

『俺達は頃合いを見てこのマイクロバスを降りる。当然、生き残る上でクソの役にも立たない紫藤達とは別行動する。問題は全員で降りてからだが──』

 

「え? でも……わ、私も……そっち行ってもいいの?(ダ、ダメっ! さっきから海動君を意識しちゃってる……いま海動君の傍に行ったら、私きっと……)」

 

「ああ、っと──鞠川先生、ちょっと待ってくれ。なぁ紫藤先生? ここいらで鞠川先生にも休憩を与えてやってはくれねぇか?」

 

 静香との会話を一旦中断した明が不意に座席から顔を覗かせ、一番後ろに立っている紫藤に話し掛ける。

 

「おや、そうですね……まぁいいでしょう。鞠川先生もだいぶお疲れでしょうからね。ただ彼女を休ませる席が既に私のところしか空いてないようですが──」

 

「ああいや、俺が鞠川先生に席を譲るから大丈夫だ。俺はドアのところにでも立って見張り役をやらせてもらう」

 

 自ら席を立って紫藤にそう伝えたのには理由がある。マイクロバスのドアの床は車内の座席より一段低い位置になっている為、紫藤の死角で筆談しやすい絶好のポジションになるのだ。

 

 その間にもまた新たなメモの切れ端が紫藤の知らないところで回されていく。

 

『実はこの道路を抜けて住宅街に入った辺りに俺の家がある。そこならある程度の食糧や飲み物、仲間全員に配る為に俺が普段から集めていた対ゾンビ対策用武器も既に蓄えてあるし、そこそこ広い風呂や洗濯も使える。とりあえず“Day1”はそこを仮の拠点として利用させてもらう。また、俺の家を目指す道中に〈奴ら〉がいた場合には俺が前に出て仲間の安全を確保する。その後の行動については俺の家に到着してから改めて全員に話す予定だ』

 

「なるほど……さすがは海動君。学校では悪評ばかり目立つ不良と聞いていましたが、どうやら女性には紳士的なようですね。フッフッフ、このような状況では女性は大事ですからね……実に頼もしい限りですよ。海動君、これからも私達チームの為に働いてもらいますよ?」

 

「OK、リーダー。そうなった時は俺も喜んであんた達に従って協力するさ。困った時はお互いに助け合っていかないと生き残るなんざ不可能だからな」

 

『できれば小室や毒島先輩達も一緒に連れて行きたかったが、今回は断念した方がいいと判断した。この筆談が紫藤にバレて邪魔な人間を俺の家に招待する訳にはいかないのも理由の一つだが、小室や毒島先輩達は自分達の家族との合流を第一に行動していくらしい』

 

「聞きましたか皆さん? まったくその通りです! これは海動君の評価を改めなければいけませんねぇ……フフフ」

 

『家族の安否を心配している者には残酷な選択をさせるかもしれないが……これから先、俺と一緒に行動する場合は自分達の家族の事は諦めてもらう。これは生きているかどうかの確認も取れない人間を探してわざわざ人間が多く集まる建物に探しに行く事を避ける為でもあり、チーム全員を感染させる危険に遭わせたくないからと思っての事だ。とは言えまったく家族を探さないという事ではない。今すぐには無理だが……誰かの家族の生存が確認できた場合に限り、俺を含むできる限り少数の武装チームで迅速な家族の救助活動に向かう。それ以外の者は俺が幾つか考えている安全な拠点候補に残って待機──という方針でいく。早く家族に会いたいかもしれないが、今はみんなで生き残る為にも我慢してほしい』

 

 この車内で一番危険な紫藤と敢えて自分から会話する事で上手くカモフラージュしつつ、重要な情報は信用できる仲間にのみ筆談にて開示していく。その途中で明の思惑通りに運転席を離れてくれた静香も仲間に加わり、明が描く安全な未来への筆談は更に続いていく。

 

 

 

 

 

 ──ちょうど、その頃。床主市内の住宅街の道路をふらふらと無防備に歩く一人の女の子が路頭にさ迷っていた。

 

「……呼んでイル。もうすぐアエル……フフ、フフフフフ……」

 

 真っ赤な血の色に染まった所々が破れてしまっているぼろぼろのワンピースだけをその身に纏い、足下近くまで伸びた長過ぎる黒髪を風に靡かせる不気味な風貌の幼女。

 

 ちょうどこの時間帯、避難する家族で主要な道路がどこも混雑する中、幼女が歩くこの道路は何故か他に誰も人間が通らない。

 

 人形のように小さい背丈の幼女は時折不気味な笑みを浮かべながら、ふらふらと危ない足取りで道路の真ん中を歩いていく。

 

 ──と、その時。別の道路から避難する途中だった子連れの夫婦が異様に目立つその幼女の姿を視界に捉えた。

 

「そ、そこの君!? ダメじゃないか! こんなところを一人で歩いてちゃ! 殺されるかもしれないんだよ!?」

 

「まぁ可哀想に……ねぇ大丈夫? パパかママはいないの? 困ったわ、どこの家の娘かしら……服は血で汚れてひどいけど怪我はしてなさそうだし……」

 

 どこにでもいそうな若い男と女の夫婦だ。そしてその二人の後ろに隠れるように一人の小学生くらいの可愛らしい女の子が何やら酷く怯えた様子で幼女を震えながら覗いていた。

 

「んぅ……人間、か……?」

 

 まるで虫けらを見るような冷たい目付きで暗く濁った邪悪な赤い血眼を光らせ、血染めのワンピース幼女は避難途中にわざわざ声を掛けてきた親切な家族と運命的に出会った。

 

 ──否、“出会ってしまった”というべきか。何故ならその幼女もまた恐ろしい血の惨劇を呼ぶ闇の存在。

 

「……ハラ、減った……肉、クワセロ?」

 

 ──生きながらに死を迎えた〈化け物〉の成れの果て“ゾンビ”なのだから。

 

 




ここにきて海動に続く二人目のオリキャラ登場。

多分オリキャラはこれで最後です。

そして食べ物の匂いに釣られてふらふらと現れたこの幼女はいったい何者なのか……?

幼女A「ジュルリ……オマエ、ウマソウダナ?」

幼女B「ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ」

人間とゾンビのホラーな交流が始ま……るのか?
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