学園黙示録~ANOTHER OF THE DEAD~ 作:聖夜竜
今回は麗と美玖に関係するちょっとした話を。
そして海動の謎により深く迫ります。
──床主市、
時間が経つに連れて大渋滞が解消され、ようやく進み出した川沿いの道路をマイクロバスは走っていた。
「こういう時だからこそ! 我々は藤美学園の者としての誇りを忘れてはなりません! 生き残る為に団結しましょう! みんなで力を合わせ、この難局を切り抜けるのです!」
チームのリーダーとなった紫藤による説法は時間と共に影響力を増し、彼を頼ろうと求める何人かの生徒は崇拝でもしているような狂信的な眼差しで紫藤の周りに集まって耳を傾けている。
その反対にバス前列に集結した者達は各々が緊張の面持ちで今か今かと明による離反宣言を待ち続けている。
「……紫藤の奴、自分がリーダーになったからって調子に乗っちゃって。あれじゃまるで宗教ねぇ」
麗の隣席で一人足を組んで座る美玖。車内後方で異様な盛り上がりを見せる紫藤達をつまらなそうに一瞥し、先程明からわがまま言って貰ったココア味のシガレットを一本口元に咥えて呟く。
「……あの、夕樹先輩」
とその時、暗い表情で沈んでいた麗が手に持ったモップの柄を見下ろしながら徐に口を開く。
「ん?」
「明と一緒に何か隠していますよね? 二人だけ知ってて私達にも言えないようなことを」
そう言うと麗は隣に座る美玖を一瞥し、真剣な表情で訊いてきた。これに対しシガレットを真っ二つに折った美玖は溜息をひとつ漏らし、悪戯でも思い付いたような意地の悪い笑顔でニヤニヤと答える。
「……アンタさ、たしか宮本だっけ? なに? お姉さんが海動使って何か危ないことでも企んでると思ったワケ?」
「いえ、そう言うわけじゃ……ただ、夕樹先輩と話している時の明を見ていると、なんだか、その……すごく気になっちゃって」
言葉に詰まってしまう麗。対する美玖はますますニヤァと口元を歪ませ、麗の方に向き直って話す。
「アンタ一応海動の幼馴染みなんでしょ? 学校で一緒に行動してた時にアイツが色々と“面白い昔話”してくれたよ。その中で『守ってやらなきゃいけない大切な妹がいる』ってことも──それ、アンタなんだぁ。へぇ~」
「っ……!」
なんだか酷く小馬鹿にされた気分だ。麗は堪らず頬をうっすらと赤く染めると、他の人には聞こえない声量で「ふざけないでください……!」と控え目に怒った。
「アハハ♪ ごめんってば。まぁ、そうねぇ……海動が仲間に“色々なこと”隠しているってのは正解かねぇ」
「やっぱり……」
麗の疑問にあっさりと答える美玖。しかし軽快な口振りとは裏腹に、目付きの悪い眼差しは目の前にいる麗を何故だか哀れむように見つめている。
「そしてアタシはその秘密の幾つかを直接本人に聞いているわ。正直アタシも最初は海動が何を言ってるのか全然意味わからなかったけど──」
「え!? あ、あの──夕樹先輩っ!?」
言いながら、美玖は突然座席越しに麗へと抱き着くような際どい体勢で顔を近付けた。そして──
「………」
「……っ!? それ……本当に本当の話、なんですか……!?」
「その話の続きは長くなるからまた今度してあげる。そして世話好きな優しいお姉さんから“可愛い妹分”へのちょっとしたアドバイス──宮本、アンタは間違っても自分自身を見失ったりするんじゃないよ? 今の生まれ変わったアタシみたいに自分自身を強く持ちな。それに──」
──アイツ表向きはああ見えてクールでキザなヤツだけどさ、裏じゃ相当えげつない目に遭って精神的にも肉体的にもだいぶ深いダメージ負ってるみたいだからさ。
不覚にもドキッとした麗の耳元で美玖は意味深に囁くと、最後にニヤリと笑ってからもう一度座席に座り直し、再び自分の世界に戻ってしまった。
その一方で麗は美玖にこっそり言われた“ある話の内容”が気になって仕方なかった。
(……うそ……うそでしょ……信じられないわよ、そんなの……明、私は……)
麗の胸に渦巻くモヤモヤとした黒い感情。そして彼女の脳裏に過る身に覚えのない不思議な記憶の断片。
(さっきの……夕樹先輩の話がもし本当にあった事だとしたら……)
──静かに。そして周りに気付かれないように黙って最後まで聞くことね。これはアタシと宮本にとっても重要な運命の分岐点だって海動が言ってたから。
──“どこかの夢みたいな地獄の世界”でアタシらがさっきまで体験してたのと同じような方法で学校を脱出した後、紫藤と一緒にいるのが嫌だったアンタが小室孝って男とこのマイクロバスを降りるのを海動とアタシが見てたんだって。
──でもその後で小室がアンタ守ろうとして〈奴ら〉に襲われて死んじゃったらしくてね……それでも生き残ったアンタは情けないことに自分だけでも守ってもらおうなんて傷付き苦しみながら必死に考えたんでしょうね。
──一度は降りたはずの紫藤達のマイクロバスを独りで探し歩いて、結局またその中に泣きながら戻っちゃって。
──アンタのクラスメート達、毒島、鞠川先生に海動……アンタが一度は見捨てようとした仲間を頼って一人で戻ってきた時には、みんなもう紫藤に逆らってバスを降りた後だった。
──それで結局、バスの中から出るに出られなくなったアタシもアンタも二人仲良く命乞いなんかして必死に身体で媚び売って……その後はわかるでしょ。紫藤とその仲間にたくさん犯され壊されちゃって……そのまま乱交セックスに溺れて身も心も堕ちていくんだって。
──海動がなんで夢の世界のアタシらのそんなことまで知ってるか気になるでしょ。でもその話の続きは長くなるからまた今度してあげる。
(ねぇ、明……だからさっき私がバスを降りるって言った時、あんなに真剣に私を止めようとしてくれたの……? これから未来で起きるかもしれない出来事を既に夢の中で体験しているから……?)
麗はどうしようもなく不安な表情で最前列の運転席に座っている明の後ろ姿を見つめてしまう。
……そう、現在マイクロバスの運転席でハンドルを握っているのは静香ではなく明なのだ。
長く続いた渋滞が終わると見た明は筆談を終えて運転席に戻ろうとする静香を強引に座らせ、紫藤には自分が今後マイクロバスを運転すると提案した。最初は紫藤だけでなく静香や京子、そして他の生徒達も驚愕していたが、明が無免許ながら運転技術を持っていると知ってからは紫藤も特別に運転席に座る事を許可した。
“家族探し優先”という明確な点から明達とは既に目的が異なる孝達には生憎伝えられていないが、現在このマイクロバスの行き先を知っているのは運転する明と、彼を信じ共について行くと決めた者達だけである。
(最初聞いた時はみんな驚いてたけれど……まさか本当に車の運転もできるなんて……)
そして麗と同様、隠し事の多い明の事が気になって仕方ない様子の女性がここにも一人……
(そしてこのメッセージ……海動君、あなたはいったい何者なの?)
明がそれまで座っていた席で、静香は明が筆談用に書いたメモの切れ端を膝の上に置いて眺めていた。
『鞠川先生、たしか南リカって名前の親友がいると言ってましたよね? その人の自宅の鍵を持っているって。だったら話は早い。その鍵を家までの簡単な地図と一緒に小室達へこっそり渡してやってほしい』
静香個人に向けて新しく書かれた明の指示……これも明の思い付きだった。この後マイクロバスから飛び出す可能性の高い孝達が紫藤達とバスを捨てたとして、そこから新たに拠点を探す時間などないだろうと察知していた明。
このまま準備万端とは言えない孝達をこれから夜の闇が支配するであろう外の世界に放出してしまうのはあまりに危険過ぎると、明は懸念していた訳だ。
(すごい……リカの家のことまで知ってる……あれ? でも私、海動君にそんなプライベートなこと話していたかしら……? うーん、思い出せない……)
静香の記憶が正しければ、親友の南リカの事を藤美学園の生徒の誰かに話した事などないはず。しかし明は静香とリカが親友である事、仕事柄留守にしがちなリカの家の鍵を静香が代わりに預かっている事まで詳細に知っている様子。
(やっぱり気になる……私の夢に何度も出てきたあの男の子が海動君本人だとしたら、あの夢の内容はこれから起きる未来を暗示していたって事なの……?)
だとすれば明と自分以外の人間はあの地獄の世界で一体どこに消えてしまったのか……思考中だった静香は明から渡されたメモの切れ端を握り締めると、覚悟を決めて座席から立ち上がる。
見れば紫藤を尻目にバス中列辺りにこっそり固まる孝、冴子、沙耶、コータの四名は既に紫藤に見切りを付け、独自に脱出の相談をしている様子。
緊張のあまり汗を掻いた静香は深呼吸をしつつ、静香や孝達に対して背中を向けて立つ紫藤が不審に思わないように適当な作り話で孝達の傍に歩み寄るのだった。
……そうだ、それでいい。静香から代わった運転席で黙々とハンドルを握る明は心の中で小さく呟く。
(だが……その前に邪魔な紫藤とその信者共をバスと一緒にどこかに捨てていかねぇとな)
マイクロバスの行き先は川沿いの道路を抜けて
──次回、海動チームVS紫藤教。
恐らく第2章最初で最後の山場突入です!
そして本作最初のエロシーンが入るかも……!?
ゾンビ=地獄
ゾンビ=内輪揉め
ゾンビ=エロ
ゾンビ=グロ
ゾンビ=触手(おい待て