「……」
電気の消えた部屋、愛用のヘッドフォンさえも机上に乱雑に置かれたここで一人頭を抱える少女が座っているだけ。
「レイヤ……マスキング、ロック……パレオ! 皆してワタシを否定するって言うの⁉」
ヒステリックになっているチュチュの後ろから現れる一人の人影。
「やぁ」
人影の正体はコナモだ。
「お呼びじゃないわ!」
「酷いなぁ」
神経を逆撫でする喋り方にチュチュは怒鳴り散らすがコナモは全く態度を変えずに語る。
「バンド活動は……上手く行っていないみたいだね」
「shut up!」
「ひどいなあ。プレゼントも用意したのに」
「プレゼント?」
「……」
この日もチュチュのマンションの入り口でレイヤが一人練習をしており、本人も真剣な顔で演奏を続けている。
一通り演奏を終えた時、警備員の男性が声を掛けてきた。
「今日も精が出ているね」
「ありがとうございます。注意はしないんですか?」
「言った所で、最上階の玉手さんが納得するまで止めるつもりは無いんだろう?」
「まあ、そうですね」
「と言っても、こっちも仕事だからね。今日はお開きにしてもらえないかな?」
「分かりました」
警備員に言われレイヤはベースをしまい出し離れる準備を始めている中、警備員が聞く。
「そういえば、最近玉出さんに会った?」
「? いえ、ありませんが……」
「ちょいちょい外で見かけたって話を聞いてね。どこか鬼気迫っている感じがしたって話らしいよ」
「チュチュが外に?」
「最近は、不可能な事件が起きていると……」
放課後が近づいている花咲川、香澄らは教師の長話を聞いておりクラスメイトらは真摯に聞くものもいれば、ほぼほぼ聞き流している人もいる。
香澄は一応前者なのだが、聞かなければと分かっているのに長い話に舟をこぎ出し始めた。
「寄り道をしないよう……」
長話は終わりに差し掛かり始めたその時下の方から響いて来る。
「うわっ⁉ 地震⁉」
香澄は驚きで飛び上がる中、窓際の席にいる生徒は窓から下の方を覗き込む。
「ガアアアア! ガアアアア!」
窓の外、中庭では二つ頭の犬の怪物が校舎の壁を何度も叩いて大暴れをしていた。
自分の学校に怪物が現れたとなると、生徒達はパニックを起こし、教師はそれを止めようとする最中、冷静に状況を見る者もいる。
「戸山さん! 何でエクスードがうちに来てんの⁉」
「分からない! とにかく止めないと!」
「香澄!」
香澄は美咲に言われ、迷わず鞄からスタートレットとDバレットを出すと、有咲の制止を無視して教室を飛び出す。
廊下の窓を全開にすると、縁に足を掛けて外へと飛び出した。
「音撃チェンジ!」
宙で変身し、地上に着地する寸前で姿を変え、剣を両手に立ち向かう。
「はぁぁぁ!」
香澄の縦斬りに対して怪物は、振り下ろされた刀身を掴み香澄ごとぶん投げる。
「ガアアアア!」
「うわああ!」
剣から手を離して地面を転がると、怪物は奪った剣を捨て香澄に馬乗りになると両腕を掴む。
「え?」
「ガアアアア!」
次の瞬間、怪物は香澄の両腕を引きちぎる程の勢いで引っ張り出した。
「うわあああああああああ!」
身体から火花が飛び散り、香澄もそれに悲鳴を上げていた所に怪物の背中に銃撃が当たる。
「香澄!」
既に変身しているこころが校舎から飛び降りながら、怪物に発砲。
地上に着地して迫っていく。
「大丈夫⁉」
「彩先輩!」
更に、変身している彩も駆けつけて香澄の肩を貸して立たせた。
「あのエクスード……いつもと違う……!」
香澄は痛みに顔を歪めつつも彩に自身の考えを語る。
「ここだと危険だよ! 場所を変えよう!」
彩はスチームバレットを出すとコンパクトに装填。
『スチーム!』
水蒸気が発生し、それが晴れる頃には一体と三人の姿は無かった。
場所は変わって駅前広場、三人がかりで戦うが怪物の薙ぎ払いで三人は地面を転がされる。
「うわぁ!」
「きゃあ!」
そんな香澄、彩、こころの元に残りの四人も駆けつけてくる。
「香澄!」
倒れる三人の前に蘭、友希那、ましろ、レイヤが装備を構えて叫ぶ。
「音撃チェンジ!」
「Raise Your Hands!」
姿を変えて参戦するが、未知の相手に手も足も出ず思う様に攻撃できない。
そんな中、怪物はレイヤを見つめると口角を上げて息を吸うと上を見る。
「アオオオオオオオン‼」
耳をつんざく怪物の咆哮に全員が耳を塞ぐ。
「うるさっ!」
「何て大きさなの⁉」
「頭が割れる~!」
それぞれが悶えながら感想を言っていたその時
ガシャン!
金属の塊の叩きつけられる音が聞こえ、六人は一斉に目を向けるとギターアックスを地面に落とし、両手で頭を押さえるレイヤの姿だった。
「あ……あ……ああ……あああ……!」
目を見開き、か細い声を出して下を向くレイヤ。
「レ、レイヤちゃん……?」
「レイヤさん?」
彩と香澄が恐る恐る聞いた瞬間。
「ヴワアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
空に向かって怪物と共鳴するように咆哮をあげる。
「何⁉」
「レイヤ! どうしたの⁉」
友希那とこころも動揺するが声は届かない。
今の彼女の目は白目の部分が真っ赤に光り、紫の瞳は真っ黒に染まっていた。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「レイヤ!」
「ひぃ!」
それを皮切りに全身が黒の鱗に覆われ出し、爪は鋭く、太く伸び、顔も異形の姿になっていく。
そんな光景をコナモは、ビルの屋上から見下ろしていた。
「ふふ、ようやくセーフティを生かせる時が来たみたいだね」
レイヤの変貌が嬉し気なコナモはウキウキ気分でそれを見つめ続ける。
「アアアアアア……」
咆哮が終わりと共に姿を変わったレイヤは黒龍の怪人。正にエクスードと同じになっていた。
「ヴワ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」
怪人体レイヤは発狂しながら手始めに近くにいた友希那に爪を振り下ろす。
「きゃあ!」
斜めに裂かれて地面を転がっていき、元の姿に戻ってしまう。
「止めろ!」
蘭は迷わず、弦を引いて矢弾を放つが、怪人体レイヤはそれをものともせず、突撃していき蘭の顔を片手で掴むと後頭部を地面に叩きつけ、倒れた所で腹を踏みつける。
「がッは!」
「止めて下さい!」
「レイヤちゃん!」
香澄、彩、ましろの三人がかりで羽交い絞めにするがそれを軽々と振り払う。
「え⁉」
更にましろの足を掴むと、武器の様に振り回し始めた。
「わああああ!」
傍にいた香澄と彩は飛ばされ、止めにこころに向けて投げ飛ばす。
「ましろ!」
何とか彼女を受け止めるが、顔を上に上げると怪人体レイヤが目の前におり、こころの顔面を殴った。
「んぐっ⁉」
こころは後ろに倒れて気を失う。
「ガアアアア!」
「……」
怪人体レイヤは倒れている六人を見下ろすと、怪物と共に何処かへ去って行った。
「こころ様、お身体は?」
「大丈夫! 黒服さんありがとう!」
人が消えた駅前広場で、六人は駆け付けた黒服の治療を受けていた。
「レイヤちゃん、一体何があったの……?」
「まさかレイヤさん、エクスードになっちゃんじゃ……」
彩とましろがレイヤの豹変に曇っていた。
『香澄』
「ポップ?」
香澄の中のポップが声を掛けてきて、それに応えるとポップが肩に現れる。
「あれはエクスードなのか?」
「どういう意味?」
「音撃戦士をエクスードにさせるエクスードなんてありえるのか?」
「けれど……現に目の前で起きたし……」
「だったら何故、レイヤだけなんだ? 彼女だけをピンポイントで狙った様にしか思えない」
「エクスード……ううん、あの怪物って一体……」
香澄が言いかけたその時、スマホに着信が入る。
「有咲?」
液晶に映った着信相手に疑問を浮かべつつも通話を開始する。
「もしもし?」
『香澄か……来てくれないか?』
「有咲何て?」
『商店街の近くにいる早く来てくれ!』
「分かった!」
有咲の救援の為にスマホをしまい、立ち上がる。
「戸山さん? 市ヶ谷さんは何て?」
「有咲の身に何かあったんです! 行ってきます!」
「私達も行くわ」
「我々も同行しましょう」
友希那らもよろめきつつも立ち上がり現場を向かうのだった。
「有咲!」
駆け付けた香澄が見たのは、傷だらけの有咲と、路地裏で抱き合って怯えているりみと沙綾の姿だった。
「おっせーよ……」
「有咲、一体何があったの?」
「そうだよ! どうして……こんなボロボロに……」
蘭に続いて、香澄が聞くと有咲がぽつぽつ語りだす。
「お前が学校から離れた後、緊急事態だ、って一斉下校になったんだが……帰り道にエクスードが襲ってきたんだ」
「エクスード⁉ どんな姿だったの⁉」
「確か……頭が二つあったな」
「二つ頭……」
「さっきの怪物の事ね!」
有咲の説明に友希那とこころが呟き、香澄はもう一つの疑問を聞き出す。
「そうだ……そうだ! おたえは⁉ 一緒にいないの⁉」
「攫われた」
「え?」
「攫われたんだよ! エクスードに!」
有咲の怒鳴り声とその内容に皆は声を失う。
『香澄』
「ポップ」
ポップが現れ、香澄に問いかける。
「やはりあのエクスード擬き、何かがおかしいな。学校での戦いでも君に対して殺意が高かったし、ポピパだけを狙うだなんて……」
「どうして私だけじゃなくて、みんなが……」
「香澄ちゃん……」
香澄は自身のせいで周りに被害を与えてしまっている事に項垂れてしまっている中、ましろが横を見ると塀に一枚の封筒が貼られていた。
「あの、香澄さんこれ……」
「手紙?」
「とにかく読んでみようぜ」
ましろの肩に出てきたフォルが強きに言って香澄は封を開く。
中に入っていたのは二枚の紙。
「えーっと何々……」
一枚は地図、もう一枚は
『Dバレットを全て持って立体駐車場に来なさい! 来なければ人質の命は無いと思いなさい! 玉手ちゆ』
「これって……!」
「確定だな」
受け取った脅迫状に口に手を当てて驚く香澄に対してポップは冷静に言い放つ。
「相手の目的は君だけじゃない、君の周りもろともだ」
「それもだけど、この玉手って人って知ってる?」
彩の言葉に皆が首を横に振った。
「な、なぁ一体何が分かったんだ?」
完全に蚊帳の外に出されていた有咲達が声を掛ける。
「怪物は私達が狙いで……そのせいでおたえが……」
「お前は何も悪くねーだろ」
「戸山さん」
友希那が話しかけた。
「一応聞くけど、花園さんを助けに向かうの?」
「はい!」
「そう言うと思ったわ」
友希那は香澄の台詞を想定してたのか続けて言う。
「私と美竹さんは戸山さんの護衛を、三人は市ヶ谷さんを診たら和奏さんを救う方法を探して頂戴」
「その必要はありません」
「いつの間に⁉」
突如、黒服が現れ有咲は驚いているがこころが平然と言う。
「みんなが手紙を見ている間にあたしが呼んだの!」
「市ヶ谷様の診断は我々に任せて、それぞれ動いて下さい」
「ありがとうございます!」
黒服に感謝を述べてそれぞれ行動をしようとした時、有咲が香澄に向けて叫ぶ。
「気を付けろよ!」
「分かってる!」
目的の立体駐車場にやって来た香澄ら三人。
人気の無いこの場所で香澄が叫ぶ。
「約束通り来たよ! おたえを返して!」
その叫びに答える様に柱の影からレイヤがゆっくりと歩いて来た。
「レイさん……」
「レイヤ」
「来ちゃったんだね……」
その姿に名前を呟くしかできない香澄と蘭。
「和奏さん、体はもう大丈夫なの?」
「今は……ですかね」
友希那は普段と変わらず淡々と聞く。
「今は?」
「ええ、私は……」
『マッドドック!』
何かを言いかけたその時、Dバレットの音声と同時にレイヤの全身に電流が走る。
「うわあああああああ!」
「レイさん!」
「喋り過ぎよ」
今度は、レイヤが出てきた柱とは別の柱から二人の影が、一人は歩いて、もう一人は襟を掴まれたまま引きづられていた。
「貴女は……!」
「チュチュ!」
「久しいわね。ミナトユキナ、ランミタケ。……トヤマカスミィ……!」
「おたえ!」
並々ならぬさっきを滲ませるチュチュと動かないたえ。
「Dバレットは持ってきたんでしょうね?」
「ええ」
友希那の台詞に合わせて香澄はDバレットが入った袋を掲げる。
「そいつをこっちに渡しなさい」
「おたえが先だよ!」
「No! Dバレットよ!」
両者譲らない状況に蘭が案を出す。
「だったら、Dバレットをここに置く、欲しかったらこっちに来て。その代わりあたし達もたえの方に行くから」
「……OK」
チュチュは不服そうにだが、その案を飲み込んだ。
互いに睨み合いながら、ゆっくりと目的の場所へ歩いて行く。
「おたえ!」
後数メートルの先で香澄は走り出し、膝をついてたえの顔色を伺う。
「おたえ! 大丈……」
しかし、このたえには顔が無かった。更に
「……」
彼女の身体は突如、砂となり崩れ落ちそれが意識を持って香澄を覆った。
「きゃあああ!」
「香澄!」
「戸山さん!」
香澄の悲鳴に二人は急いで寄るが、香澄は完全に砂に呑まれ、その砂もコンクリートに染み込む様に消えてしまった。
「香澄に何をした!」
「それに花園さんは? 約束が違うわよ」
二人は既にDバレットを手にしているチュチュを睨みながら臨戦態勢をとる。