自分はバンドリーマーじゃないです。
それでは良いお年をお迎えください。
「今年ももうすぐで終わりですね」
「ええ、けれどワタシ達は変わらずに練習するわよ。当然その理由は分かっているのよね?」
「はい! 年明けに行われる、生放送スペシャルライブですよね!」
「Yes! しかも向こうから直々のOfferよ。聞けばパスパレもロゼリアも参加が決まってるし、雌雄を決するには最高のSituationとしか言えないわ!」
「そこのお嬢さん」
パレオと横に並んで歩いて会話をするチュチュだったがその横から入って来た声によって止められた。
路肩に座り込んで、シーツの上に液体の入った小瓶を並べており、その傍には『香水売ります』と書かれた質素な札が立て掛けてある。
「二人共、若くて元気そうだね」
呼び止めてきたのは無精ひげが似合う初老の男性、微笑みながら軽く手を振る。
「誰?」
「俺はぁ、しがない香水売りだぁ」
「香水の路上販売ですか? けれど、この辺りは人通りが少ないですよ?」
パレオは物珍しさから関心と疑問を抱く。
「俺はぁ、あまり目立つのは好きじゃないんだぁ。だからぁ、こうやって敢えて人通りの少ない場所を選んでいるんだぁ」
「へぇ~」
「だからお嬢さん達ちゃあラッキーだなぁ。さて、どれにするんだぁ?」
「瓶の形も色々あって可愛いですね!」
興味を持ったパレオはしゃがみ込んで一つ一つを手にして眺め始める。
「パレオ、そんな事より早く行くわよ」
「チュチュ様は香水はいらないんですか?」
「生憎だけどNo Thank you。必要無いわ」
チュチュの言葉に男性はムッと顔をしかめるとそれを隠すためにすぐに微笑む。
「そっか……でも、これを使ったら考えが変わるかもね」
「What⁉」
男性はチュチュの手首を掴むと、無理矢理小瓶を掴ませる。
ハートの形の瓶、その中では薄ピンクが揺らめいていた。
「ちょっと! だからいらないって!」
「まあまあこれは初めましての一品って事でね。君もこれで大人の女性に近付けるよ」
「大人?」
男性はチュチュに渡すと荷物をまとめだす。
「あれ? もういいんですか?」
「ああ、俺はぁ一個売ったら場所を変えるスタンスなんだぁ。場所を特定されたくないからなぁ」
「そんなので利益は出るの?」
「ボランティアみたいものだからなぁ」
「あっそ」
去ろうとする男性にチュチュは素っ気なく返すと、男性は手を振りながら見えなくなった。
「大人ねえ……」
「何を貰ったんですか?」
「Oh⁉」
瓶を見つめていたらパレオが横から覗き込んできて小さく悲鳴を上げる。
「折角ですし、後で使ってみてはどうでしょうか?」
「ひ、必要無いわよ!」
「それじゃあパレオが貰ってもいいですか?」
「No! これはワタシの物よ! とにかく行くわよ!」
チュチュはそう叫ぶと逃げる様に走り出しパレオもそれを追う。この時、二人は男性の上着の裾の下に隠れていた装置に付いていなかった。
一方男性は、人のいない通りをスキップしながら歩いていたのだが、彼の目の前に友希那とレイヤを除いた音撃戦隊の面々が立ちはだかる。
「ん? 君達、どうしたんだぁ?」
「すいません。貴方最近、この辺りで香水を売っていますか?」
「ああ。そうだぁ」
香澄の質問に答えると、待っていたと言わんばかりに彩が独り言を言いだす。
「パスカル、どう? 感じる?」
『うん……人に化けてるけど……エクスードだよ……』
「あの人、エクスードだって!」
「やっぱり……!」
「ええ⁉」
彩の言葉に全員が男性に対して警戒を始めると男性は驚いた顔をわざとらしく見せ、腕の装置を弄りだす。
すると、男性形が歪んでいき本来の姿に戻った。
「だとしたら、君達が音撃戦隊なのかぁ⁉」
黒の身体に所々が白いスカンクのエクスードも構える。
「そうだよ、人がおかしくなってる話を聞いて探してたんだけど」
「皆行こう!」
香澄の号令に全員が答え、装備とDバレットを構えて叫ぶ。
「音撃チェンジ!」
五人も姿を変え、武器を片手に立ち向かう。
斬撃に射撃と打撃を軽々とかわしていき懐から小瓶を取り出し、手始めにこころに向けて投げつけた。
「はっ!」
だがこころは、放物線を描きながら迫るそれを撃ち落とすと、瓶が割れて中身が地面に撒かれそのまま染み込んでいった。
「今の瓶は⁉」
「もしかして毒⁉」
警戒する香澄と彩だったがエクスードは首を横に振る。
「俺の名前はぁ、クンクン・パヒュム。香水作りのエキスパートだぁ」
自己紹介を終えると即座に懐に手を突っ込み何度も、香水瓶を投げ始めた。
「わわわ!」
「みんな、あれを浴びないで!」
彩の指示だしにましろは盾で防ぎ、蘭とこころは射撃で、彩はセンターメガホンの音波で撃ち落とし、香澄は避けながらパヒュムに近づいていく。
「はぁ!」
香水瓶を避け目の前に到達すると、横一閃にパヒュムを切り裂いてしまった。
「おおう⁉」
「……」
パヒュムのわざとらしいやられ声と僅かな沈黙、それを破ったのは
「臭~い!」
パヒュムに一番近かった香澄だった。
「うぶっ⁉」
香澄を皮切りに彩も鼻を押さえて悲鳴を上げ、それにつられて三人も悲鳴を出す。
「臭い! 臭すぎるわ!」
「は、鼻が! うわあああん!」
「ヴェえええヴェええええ!」
地面に転がって悶えだす五人。
「よっと」
パヒュムは香澄を蹴飛ばし、距離を取ると香水瓶を投げつけた。
「あっ!」
それに気づいた香澄は、条件反射で自分の攻撃圏内に入った瓶に剣を振り上げる。
「香澄! ストップ!」
だが一足遅く、剣を振り下ろし一升瓶の形をした香水瓶を割ってしまう。
中身がぶちまけられ香澄の頭から豪快に被る。
「うぇ……」
だがそれ以上に、香澄は曲がってしまった自分の鼻に気を取られて大きく気にしていない。
「よし、これで戦闘不能だなぁ」
香澄の今の姿を見て満足して、飛んでいってしまった。
「待って!」
「香澄ちゃ~ん」
香澄は追いかけようとしたが彩がそれを止める。
「彩先輩?」
香澄が振り返ると顔が紅潮した四人が千鳥足で近づいてきた。
「お姉ちゃんが愛でてあげるよ~」
手を上げながら香澄に近づき抱き付く。
「彩先輩今はそんな事してる場合じゃ……お酒臭い⁉」
彩の口臭が飲酒したわけでもないのに、酒臭かったのだ。
「じゃあ皆は⁉」
彩を振り払い残りの三人の様子を見る。
「私の水道水を飲め!」
「アーッハッハッハ、ましろとっても輝いているわ!」
「やだぁ……止めてよぉ……」
ましろは蘭にアルハラをし、それを大笑いで肴にするこころ、その光景に香澄は絶句する。
「よ、酔っぱらってる……」
「おい香澄ぃ!」
ましろに怒鳴られ、身体を震わせると、大股で歩いて来て胸倉を掴む。
「アンタも私の水道水を飲め!」
「あ、彩先輩がしてくれるから!」
「んぇ?」
何も知らない彩が二人の顔を見る。
「彩先輩! これは私が解決するから、三人を見ていてください!」
「はーい!」
元気よく手を上げる姿を見て香澄は全速力でその場から離れていくのだった。
場所は変わってチュチュのマンション、今日はRASの練習の為メンバー全員が集まっているのだが、チュチュは自室でさっき貰った香水瓶を見つめていた。
「……」
『君もこれで大人の女性に近付けるよ』
男性、もといエクスードに言われた台詞が頭を反響する。
「ちょ、ちょっと使ってみようかしら?」
瓶を手にして、穴が開くほどに見つめる。
「これは……そう、一環よ! 曲作りにはInspirationを得るのも必要なのよ!」
必死に自分に言い聞かせて、蓋を取り除く。
「……えーっと……こう?」
しかし、使い方が分からなかったチュチュは瓶の中身を少し手の平に流し、それを顔に塗りたくってしまう。
「チュチュ様~、遅いですけどどうかしましたか?」
「Sorry、今行くわ」
パレオに言われ、チュチュは皆の元に向かう。だが、チュチュは目を光らせるパレオには気づいていなかった。
「さて……来たるNewYearライブの事なんだけど……」
スタジオに入ったが練習前にミーティングをして始めたが
「おい」
チュチュの話を遮りマスキングが話しかける。
「何? 質問なら後から受け付けるわよ」
「チュチュって可愛いよな」
「はぁ?」
突拍子もない言葉に、チュチュが首を傾げた。
「あー! 分かります! ぬいぐるみみたいですよね! 愛でたい愛でたい!」
「はい! けれど、チュチュ様はパレオの物ですからね! おさわり厳禁ですよ!」
「ちょっと!」
チュチュを放置して会議を始めてしまった三人に怒鳴るが全く言う事を聞かない。
「何勝手に私語を始めてるの⁉ これはMeetingよ⁉」
すると三人が一斉にチュチュに熱っぽい視線を向け、それに怯えたチュチュはさっきから黙っていたレイヤの傍による。
「三人共! チュチュが怯えてるよ!」
「そうでしょうか?」
「おい、レイ。チュチュをこっちに渡せ」
「まさかレイさん。チュチュ様にいかがわしい事を……大罪ですよ⁉」
「はぁ……そんなことしないから」
呆れ顔でチュチュの肩を抱き寄せて擦る。
「みんなで揃いも揃ってふざけるのは止めよう? チュチュだってこんなの望んでいないだろうし」
「レ、レイヤァ……」
「それに」
「ん?」
「チュチュは私の物だから」
チュチュが顔を上げると、レイヤが目を細めて見つめていた。
「うわああああああああ!」
レイヤも敵だと悟ったチュチュは悲鳴を上げてスタジオ、部屋を飛び出し、エレベーターに飛び乗る。
「逃げるな!」
「ちゅっちゅさせて下さ~い!」
「いかがわしい事をするのはこのパレオなんですぅ~!」
「私は三人と違って悪いようにはしないわ!」
鬼気迫る顔で走ってくる四人にチュチュは一目散に一階のボタンを押す。
「閉まれ閉まれ閉まれ閉まれ!」
チュチュは必至に閉じるボタンを連打する。
それに応えてくれたのか、ドアが閉まり、誰一人入る事は無かった。
「はぁー……」
エレベーターが黙々と降りていくその中で、チュチュは考え込む。
「四人が可笑しくなるなんて……エクスード絡みは確実、だとしたら……」
まず自分のみの周りを思い返していくと一つの結論に着いた。
「あの香水! You beat me! 油断していたわ……」
まず最初にしたのはエクスードを探す事、その為にポケットからスマホを出すが画面端に映る赤く点滅する電池マークを見て難しい顔をする。
「Oh……Batteryが少なくなってる」
仲間もあてに出来ず、僅かに考えるとある人物に電話を掛けた。
「カスミ! 今何をしているの!」
『今、エクスードを探してて』
「! そいつの特徴は⁉」
『香水瓶を持ってた!』
まさかの一発で目標を達成し称賛の声を上げる。
「marvelous! 今、何処にいるの⁉」
『江戸川楽器の近くだよ』
「江戸川楽器……ワタシはマンションの前にいるから今すぐ来て頂戴!」
『……』
「カスミ!」
突如、香澄からの応答が消え予感したチュチュが画面を見るとスマホのバッテリーが底を尽き、その証拠に画面はただ暗転していた。
「マズイわ……伝わったかしら……」
その時、エレベーターのドアが開き周囲を警戒しながらマンション一階の廊下に入る。
自分の言葉がどこまで伝わったか不安になりつつ外に出るとその光景にチュチュは足を止めてしまう。
「チュチュ、いきなり逃げるなんて酷いんじゃない?」
変身したレイヤを先頭にRASの面々がそびえ立っていた。
「な……なんでここに居るのよ……」
「私が変身して三人を抱えて飛び降りたからかな」
「最上階から⁉ ウソでしょ⁉」
「そこはパレオの愛ぢからでカバーしました!」
「ハッ!」
「どうした?」
「今、誰かが
「何ですって⁉」
「このままだと、果実でもありこの世のイブでもあるチュチュ様とアダムが生まれてしまいます!」
「よく分からねーがそいつはマズイな!」