バーテックスとの決戦が終わってこのお話も次の段階へと進むわけですが、今回は息抜きというか、本筋に入れてよかったんだけどうまく落ち着かなかったというか。そんな感じの幕間話です。
ヤマもオチもない駄弁り系ですが、どうぞ。
「ねえ、白羽くん」
夕日の差し込む勇者部部室で、風と涛牙は盤を挟んで向かい合っていた。バーテックスとの戦いに備えたシミュレーションだ。
「なんだ。犬吠埼」
盤面を睨んで勇者をどう動かすか思案していた風の呼びかけに応じると、風は視線を動かさぬままに続けてきた。
「ホントに、バーテックスがまとめて来るって思う?」
それは、幾度も行ってきたシミュレーションで勝ちを拾えていない事からの焦りが言わせた弱音かもしれない。
これまで涛牙は7体のバーテックスをまとめて進める戦法を取り、風を蹴散らしてきた。数と質でゴリ押すやり方への不満が含まれた問いに、涛牙は肩をすくめて答えた。
「知恵があろうとなかろうと、それが効果的だ」
「そう?」
眉間にしわを寄せる風に、涛牙は頷き返し。
「勇者が毎度1人ずつ増えてるだろう?」
言われて、風はああ、と返す。
最初の戦いでは、風と樹がヴァルゴ・バーテックスと戦っている最中に友奈が勇者として参戦し、そこから撃破への流れが出来た。
2戦目。3体のバーテックスを相手に3人が苦戦する中、怯えを克服した美森が勇者となり、やはり反撃の起点となった。
そして先日の3戦目。4人の勇者が迎え撃とうとするのを尻目に、夏凛が横合いから突撃。単独で撃破するという快挙を成し遂げる。
「これだけ続けば、知恵があるなら次の戦いで6人目が来ると考えてもおかしくない」
「……いるの?6人目」
聞き返す風に、肩をすくめて答える。
「知らん。だがバーテックスがこちらの都合を知っている道理はない」
むしろ知っていたら怖い。
「話を戻すと、勇者が6人出てくると仮定すれば、6体投入は確実だ」
勇者が6人、バーテックスが6体なら、1対1の状況に持ち込まれれば『封印の儀』が使いづらくなる勇者側が不利になる。
「残りの1体は?」
「6体投入して撃退されれば、残り1体がどれだけ強かろうと数で押されて負けるだけだろう。なら、7体目も投入する方が勝算が増す」
勇者とバーテックスがサシで戦うことになっても、7体目もいるバーテックスは1体が自由に動けることになるわけだ。
「バーテックスに知恵があるなら、そうなるか~」
「知恵がないならないで、攻めてこれる全員が一斉にかかってくるだろうしな」
バーテックスが一度に複数体攻めてこれるというのは既に分かっている。侵攻出来る上限数が分からない以上は、残りのバーテックスが全て現れることを考慮から外すことは出来ない。
「神樹様から、何体攻めてこれるのかの神託があればねぇ」
風の愚痴に返そうとして、ふと涛牙は顔をしかめた。
「……考えてみれば、襲来予報の一つもないな」
勇者達に来る知らせは、バーテックスが襲来したその瞬間の警報だけ。「明日攻めてきそうです」と予報が来たこともない。
「まあ、神樹様を殺そうとするのがバーテックスなんだし、神樹様にも分からないことがあるってことじゃないかしら」
「――そんなところか」
あまり深く考えると神樹様への不敬になりそうな気がして、2人は話を切り上げた。
「ねえ、白羽くん」
夕日の差し込む勇者部部室で、風と涛牙は盤を挟んで向かい合っていた。バーテックスとの戦いに備えたシミュレーションだ。
「なんだ。犬吠埼」
風の呼びかけに応じると、風は視線を口を尖らせて文句を続けた。
「一斉に来られるとどうしようもないんだけど。どうしよう?」
「――どうしたものかな」
言われて涛牙も頭を掻く。
盤上では、バーテックスを表す駒が横一列に並んで前進している。涛牙が考える、最悪の状況なのだが。
「自分でやっておいてなんだが、押し返す流れが思いつかない」
「でしょおぉぉぉ!?」
奇声を発しながら立ち上がり、風は盤を指さした。
「もー!単独で封印出来るのが夏凛しかいないし!夏凛とアタシたちで2つずつ封印出来ても他に手が回らないし!」
「東郷の狙撃で5体を足止めできれば、速攻で数を減らすことで何とかならなくもないが、な」
横一列のバーテックスを、単独封印可能な夏凛と友奈・風・樹のチームで両端から封印・撃破し、東郷は残る5体を狙撃で撃ちまくって反撃をさせないようにする。
さすがに、理想論にすぎる。
東郷の狙撃一発でバーテックスが完全に動きを止めるか。照準を変えながら撃ち続けて百発百中という真似が東郷に出来るか。『封印の儀』をしても御霊は抵抗してくるがそれを即座に潰せるか。
「撃たれても動きを止めないバーテックスがいたらその時点でプランが破綻するな」
夏凛とて、1体を封印・撃破しながら他の1体を相手にするような真似は無理だろう。
「ホント、きっついわ」
大きなため息をついて、風が座り直す。
「何か、いいアイデアない?」
聞かれて、涛牙はフムと考え込み。
「――東郷が動き回れれば、攻め方の自由度は増すか」
足が不自由な美森は固定砲台となるしかない。その前提で、これまで机上演習は進めてきた。美森が最終防衛ラインであり、そこから先に進まれてはならないというわけだ。
だが、美森が動きながら攻撃できるようになれば、取れる戦術の幅は増える。勇者を無視して神樹へ侵攻するバーテックスがいても、無理して止めずに、神樹到達前に追いついて倒せればいいわけだ。
だが。
「どうやってよ。そりゃ勇者装束に足代わりのアームがあるけど、アレじゃ走り回れないのよ?」
過去の事故の影響で足が不自由な美森は、勇者になっても移動補助用のアームでゆっくりとしか動けない。自転車でも持ち込んでアームでペダルを漕げたところで、勇者の移動力に追いつけるものではない。
風の指摘に、涛牙は一つ頷いて、
「樹がおんぶするのはどうだ?」
樹の武装は右腕のワイヤー射出機。徒手格闘の友奈や、両手で武器を握り揮う風、夏凛と比べれば、腕を振り回さなくてもいいし、樹のポジション自体が他のメンバーのフォロー役だ。美森を背負って動き回れば、美森の移動砲台化には大きな貢献となるだろう。
「補助用のアームで樹にしがみつくようにすれば、樹の両腕が塞がる事もないしな」
そんな涛牙の言葉に、風はその様子を脳裏に思い描く。
攻め来るバーテックスに突き刺さる狙撃。
バーテックスがそちらに向かって反撃しても、その時には狙撃手はその場を離れてまた別の標的を抉る。
地上の物陰から、或いは上空からの銃撃がバーテックス一行の動きを混乱させ、ダメージ覚悟でバーテックスが向かっていっても、ワイヤーに動きを阻まれ銃撃に晒され、遂には封印の憂き目にあう。
そうして、樹海の大地に雄々しくたつのは、美森を背中に背負った樹――
「うん、ダメね」
「なぜ」
即答した風に涛牙が聞き返すと、風は軽く頭を振って、
「東郷の思った通りに樹が動き回るにも、樹の動きに東郷が合わせるにも、付け焼刃じゃね」
それもそうか、と返す涛牙に、“建前の”言い訳がうまくいったと風は思った。
風の脳裏に浮かんだ、美森を背負った樹。
その瞳から、ハイライトが消えていたから。
「ねえ、白羽くん」
夕日の差し込む勇者部部室で、風は涛牙に問いかけた。
「なんだ。犬吠埼」
風の呼びかけに応じると、風は少し首をかしげて疑問を口にした。
「なんで東郷には声を掛けないの?」
東郷 美森は、勇者部切手の才女だ。
頭の回転は速く知識も豊富。
凝り性の気があり、一度興味を持てばとことんのめり込む気質もある。勇者部のホームページは美森が作っているが、彼女がホームページ作成に手を出したのは入部の後。僅かな期間でプログラミング技術を身に付けてみせたわけだ。
そんな美森が作戦立案に加われば、自分よりよほど良い作戦を練れるだろうと風は考えたのだが。
涛牙は、苦笑の気配を漏らしてから答えた。
「確かに、東郷は頭がいいが、俺の見立てでは、アイツは秀才型だ」
知識や経験を力に変えられるタイプだ。イレギュラーな事態がない限り、確かに美森が作戦を立てるのは有効ではある。
「だが、その分未知の事態に即応出来るタイプではない――実際、勇者に選ばれた時にはかなり困惑していたというしな。バーテックスの能力は未知の部分も大きい。下手に知った気になると知らない事が出てきた時にパニックになる恐れがある」
「……なるほど」
「付け加えると、東郷は凝り性だ。直感でしかないが、こうと決めたらそこから抜け出せない気配がある。作戦を立てたらその流れが変わる事を許容できない、というか」
「あ~確かに。カッチリしすぎてるというか」
「しかも事は自分も含めた生命に関わるからな。迎撃プランを考えさせたら張り切りって作ってガチガチの代物になりかねん」
立案者が知る情報だけで戦場が推移する、などという事はない。思いもよらぬことが起こるのが現実で、バーテックスはそれこそ未知の部分の方が多いくらいだ。実際、残る7体のうち2体はその能力さえ分かっていない。
「――そういうわけで、東郷には声を掛けなかった。事前に先入観を持たせるより、現場で得た情報から対応をくみ上げた方がいいだろう」
涛牙の答えに、風もなるほど、と頷く。
「そっか……。白羽くんも色々考えてるのね」
「まあ、な」
そうして2人は、改めてバーテックス迎撃のシミュレーションで向かい合う。
7体のバーテックスの総攻撃の日は、もうすぐだった。
高機動型東郷 美森!おぶった人間は(メガロポリスの下敷きになって瞳が)死ぬ!