結城 友奈は勇者である 神の揺り籠   作:ヴィルオルフ

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夏らしい暑さが次第に身体に堪えるようになってきました。
今年の夏は、暑い中にマスクもするのがマナーになりかねない状態なんですよね。注意しないと熱中症に襲われそうです。
皆さんも無理せず水分タップリとりましょうね。


今回はちょっと短め。
キリがいいところで切ろうと思うとココがいいかな、と。


第14話「ギャップド・ルーチン(違う日常)」

 バーテックスの一斉襲撃を返り討ちにした後、現実世界に戻ってきた友奈たち勇者一同は皆疲労困憊、夏凛を除いて気を失ってしまっていた。

 夏凛からの連絡を受けて讃州中学に急行した大赦によって全員が大赦に所縁のある病院への運び込まれ――その翌日。

 

「……ヒマねぇ~」

 昨日も検査後に集まった談話室で椅子に腰かけて、アンニュイな面持ちで窓の外を見やりながら、風はそうつぶやいた。

 窓の外にあるのは平穏そのものの街の様子。

 

 昨夜のニュースでは、各地で起きた異変――突風、高潮、山火事、水道管の破裂など――を伝えていたが、死傷者がいなかったこともあって今日の報道は落ち着いた様子だった。

 バーテックスによる被害の発生を止められなかったことは悔しくもあるが、誰も怪我をしなかったというのは喜ばしい事だ。

 

「昨日あんだけ動き回ったんだし、ちょうどいいでしょ」

 というのは、テーブルに肘をついた夏凛。こちらも手持無沙汰にしている様子を見ると、暇なのは同じようだが。

「アハハ。夏凛ちゃんがのんびりした事いうなんて珍しい」

 ベッドで上体を起こしている美森に付き添っている友奈の声に、夏凛は少しム、としたものの、言われたこと自体は事実なのでそれ以上は言い返さない。

「まあ、昨日からこっち検査やらで動けないからねぇ」

 風の言う通り、病院に担ぎ込まれた後は身体に異常がないか等の検査をいくつか受け、時間も時間であったのでそのまま病院で一晩を過ごし、今日一日は静養と経過観察に充てられていた。

 今後は、問題ないと診断されたものから家に帰る事となるが、それまでは大人しくするしかないわけだ。

 

「でも、これで御役目も終わったんですね」

 美森が言いながら、わき机に置いたスマホを見やる。

 以前のスマホとよく似ているが、これは大赦から昨日渡された新品だった。

 

 以前のスマホには、風からの指示でインストールした「NARUKO」アプリが入っていた。メッセージアプリに偽装されたソレは、神樹に選ばれた少女に勇者の力を与える、勇者システムのソフトでもあった。そして御役目が終わった以上勇者システムはもう使う必要もない。

 大赦にとって勇者は機密事項そのものだ。なのでソフトをインストールしたスマホは大赦が回収し、勇者システム以外のデータをそのまま移した新しいスマホが各自に配られたわけだ。

 

「そうね……長いようで、結構始まればアッという間だったわね……」

 激しくも鮮烈な時間を懐かしむように風が言う。

 

 と、不意に扉をノックする音が聞こえた。

 どうぞ、と風が呼びかければ扉は開かれ、その向こうから見慣れた仏頂面が覗き込む。

「邪魔をす――どうした」

 常と変わらぬ調子の涛牙の声が、途中で変わる。理由については、まあ心当たりもあるので、風はまあね、と返して室内に招き入れた。

「左目、やられたか」

 涛牙が言う通り、風の左目には眼帯が巻かれている。負傷を負ったのか、という涛牙の問いに、風はフフン、と笑い返し。

「この目が気になるか……。これは先の暗黒戦争で魔王と戦った際に」

 何やら語りだした風に、夏凛がつまらなさそうに補足を入れる。

「左目の視力が落ちてるんですって」

「ってちょっと夏凜! 昨日と同じツッコミ入れないでよ?!」

 ポージングまで取っていた風があたふたするが、それを夏凛は冷めた目で見返す。

「だったらせめて違うコト言いなさいよ。“魔王との戦いで名誉の負傷”って昨日友奈にも同じこと言ってたでしょーが」

 容赦なしのツッコミに崩れ落ちる風を見下ろしながら、涛牙は分かる範囲の事を口にした。

「目を抉られたわけじゃないんだな?」

「エグっ!?そんな大怪我だったらアタシだって大人しく横になってるわよ?!」

 涛牙に言い返しながら立ち上がると、風は一度息をついてから説明を始めた。

「バーテックス7体相手にして大立ち回りの上に『満開』も使ったからねぇ。さすがに疲労が溜まりまくったみたいで、お医者さんが言うにはその影響だってさ。療養してれば治るそうよ」

「そうか」

 フム、と頷いて、涛牙は持ってきた手提げ袋を机に置いた。

 

 何か、と他の面々も集まる中、袋から出てきたのは紅茶の飲料と紙箱に紙皿、フォーク。

「なら、この土産はちょうどいいか」

「も、もしや?!」

 気づいた風が顔色を変える中、箱を開けると中から出てきたのは果物がたくさん載ったケーキ。

「「「おおおっ?!」」」

 それを見た面々が驚きの声を上げる。

「見覚えあるわ、コレ。たしか白羽くんの」

「ああ。下宿先の売り物だ」

 涛牙は現在、夏凛同様一人暮らしをしている。ただし、彼が住んでいるのは商店街から少し離れた雑居ビルに店を構えるダイナー、つまりは夕方から開くレストランだった。

 曰く、「親類の知人の伝手で住まわせてもらっている」と、以前風は説明を受けたことがあった。

「……売れ残りじゃないぞ」

 そんな事を言いながら、涛牙は皿にケーキを盛り付けていく。

「なるほど。疲れた体には甘いものが効くってわけね」

「甘味は幸福を味わえる」

 風の言葉に涛牙が返すが、一方夏凛は少し渋い顔。

「……甘いものが嫌いってわけじゃないけど――健康的にはどうなの?サプリや煮干しの方が」

「それは、退院してからでもいいんじゃ」

 苦笑しながら美森が言う傍で、樹もまたウンウンと頭を振って――。

 

「?」

 その様子に涛牙がつと眉間にしわを寄せると、それを察した風が小さく手招き。

 配膳を終えた涛牙が近寄ると、風は声を潜めて樹の現状を説明した。

「樹もアタシと同じでね。樹の方は声が出なくなっちゃったのよ」

「なんだと?」

「こっちも療養すれば治るって言われてるわ。だから変に気にしないで」

 そういう風だが、その表情には微かに暗いものが混じる。一時的とはいえ、樹に不便をかけることになったことが心苦しいのだろうと涛牙は思った。

「風せんぱ~い。いただいちゃいますよ~」

 友奈が声をかけてきたので風も席に戻るとケーキを取る。

「よっし!昨日もお菓子で乾杯したけど、今日もやるわよ!勇者部おつかれ~!」

「「「お疲れさま!」」」

 言って全員がケーキのおいしさに舌鼓を打つ。

 

 そんな中で。ケーキを口にした友奈の表情が一瞬曇った事に涛牙は気づいていた。

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 讃州中学 勇者部は、その名の通り部活動である。

 ただ他の部活動と違い、その活動範囲はかなり広い。校内の他の部からのヘルプが多いが、一方でホームページを見た一般市民からの依頼もちょくちょく入ってくる。

 そう、ホームページは勇者部の窓といっていい。故に。

 

「――ページに一文追加したいので教えてくれ」

 翌日再び病院を訪ねて、涛牙は美森に教えを請うた。

 夏凛は今日退院していたがその他の面々は退院までまだ少しかかると、昨日涛牙は聞いていた。特に美森は検査に時間をかける必要がある、と。

 加えて、風の左目と樹の声が不調をきたしていることは、軽く考えていいものでもない。樹はしばらくは一人での活動は出来なくなるし、風も片方の視界が効かないとなれば外での活動は控えめにするほかない。

 

 つまり、今までのような頻度で依頼を受けていくわけには行かなくなった。

 ホームページで告知することで、依頼件数を減らす必要があると、涛牙は考えたのだ。

「なるほど。確かに連絡文を入れておくのはアリですね」

 涛牙からの説明を受けた美森もなるほど、と納得する。

 以前から勇者部にはけっこうな頻度で依頼が舞い込んできていた。それらを美森が中心となって振り分け、部員全員で各々力を尽くして依頼をこなしてきたのが勇者部だ。

 それが校外も含めた各方面からの好評に繋がっているのだが――そこに今回の一件だ。今まで通りに依頼を受けていくわけにもいかない。

「私が退院してから――とも思いますが」

「いつ退院か分かったのか?」

「いえ、まだ。――そうですね、兵は拙速を尊ぶとも言います。早いうちに告知した方がいいですね」

「やり方を教えてもらえれば、俺で何とかする」

「……涛牙先輩、パソコンの類は苦手ですよね?」

 と聞く美森に、涛牙は頷きながら、

「まあ、なんとかする」

 勇者部五箇条、一つ。なせばたいてい何とかなる。

「わかりました。じゃあ一通りの流れを――」

 

 こうして美森から教わったことをメモに取った涛牙は、病室を後に

「涛牙先輩。聞きたいことがあります」

 しようとしたところで、美森から呼び止められた。

「なんだ?」

 振り返ると、美森は何か思いつめたような表情を虚空に向けていて。

 

「――『満開』について、何か知りませんか?」

 その曖昧な質問に、涛牙の方が顔をしかめる。

「どういうことだ?」

「……私は今、左耳が聞こえません」

「なに?」

 美森の告白に、涛牙は視線を鋭くする。

「友奈ちゃんも、味を感じないそうです。最初は気のせいと思ってたみたいですが、昨日のケーキが決定打になったようで」

 

 美森が友奈の異常を察したのは、実を言えば決戦の当日。検査を受けた一同が集まった場で、ジュースを口にした友奈が変な顔をした時だ。

 そして昨日のケーキ。普段なら美味しいと味の感想を言う友奈が、舌ざわりの滑らかさといった感触の感想しか言わなかったことで異常が確実なものと気づいた美森は、友奈と二人っきりになった時に友奈を問いただし――味が分からなくなったことを知った。

「それは――悪い事をしたな」

「いえ、友奈ちゃんも決戦当日は気のせいだと思ってたそうですから」

 

 そういうと、美森は一度気を静めようと深呼吸し、後を続けた。

「私の耳、風先輩の目、樹ちゃんの声、友奈ちゃんの味覚。お医者様は疲労や勇者として戦った反動だと言いますが、私は――何だか納得できないんです。危険な攻撃は精霊バリアが守っていたし、これまでの戦いの後に、疲労や反動で不調が起きたこともありません」

 『満開』を使ったことで普段は無害化されていたものが表に出てきた、と考えられなくもない。だが、それならそう言えばいい。「『満開』のせいで不調が起きた」と。だが、医師たちは過労のせいだという。勇者システムの不備や限界ではなく、ただの疲れだと。

 

 顔色の悪い美森の横顔を見やって、ふと涛牙は尋ねた。

「?三好に異常は」

「夏凛ちゃんは何の異常もないようです。不調があるとは言ってませんでしたし、煮干しの消費量も普段と変わりませんでした」

「……煮干しを健康バロメーターにするな」

 確かに夏凛が常日頃から煮干しを食べているが。それで好調不調を測るのはいかがなものか。

 ともあれ。涛牙が答えられることはただ一つ。

 

「――犬吠埼が知る以上の事は、俺は知らない」

 この事実だけ。

 

 そんな涛牙の返事に、美森はそうですか、と返したが。

 涛牙に向けられた視線に、小さな疑念が混ざっていることはすぐに分かった。

 美森にしてみれば、あくまで大赦から勇者の代表として指名された風と、その風を補佐するために“上”から派遣された涛牙とでは、涛牙の方がより事情に通じていると見えるだろう。

 それが、「何も知らない」と言い出せば、何がしかの裏を感じるのは自然なことだ。

「――ひとまずは、様子を見ろ」

 そして、涛牙が返せるのもこんな返事だけ。

 なにしろ、勇者システムについては涛牙は本当に何も知らないのだ。以前風が部員に向けて語ったこと以上の事は、何も。

「そう、ですね。私の考えすぎかもしれませんし」

 そんな美森の声を背に受けて、涛牙は美森の病室を後にした。

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

「何が、起こっている……?」

 

 その呟きの答えられる者は、彼の周りには誰もいない。




FGO、復刻ラスベガスやってました。
去年もストーリーは最後まで行けたしやれるかなと思ったんですが…なぜか最後まで進めず。
寝る間も惜しんでとか金リンゴ食べまくってとかやった覚えはないんですが、実はかなり無理くりやってたのかなぁ…?
FGOの復刻イベントって、「ライト」という割にはライトじゃない気がするんですが、どうなんでしょう?
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