結城 友奈は勇者である 神の揺り籠   作:ヴィルオルフ

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ひたすらぐずついた天気の7月が終わり、いよいよ8月、夏本番!
今度はやたらと暑くなるんでしょうか?去年はかなぁり厳しかったし、オリンピックやったら熱中症続出か?と言われてましたね、そういえば。それどころじゃなくなるとは思いもよりませんでしたが。

そういえば、神世紀の天候ってどうなんですかね?四季はあるにしても、異常気象は無かったのかな?


第15話「セカンド・アドベント(改めて、勇者部へ)」

 バーテックスとの決戦から数日。

 涛牙が勇者部部室でパソコン画面を睨んでいると、廊下から足音が聞こえてきた。

 振り向くと同時に扉は開かれ、

「おっ。やっとるわね」

 先日、姉妹揃って退院した風が入ってきた。

「ああ――。それは?」

 涛牙が示したのは、風の左目。入院中は、医療用の眼帯がつけられていたのだが。

「フッフッフッ。カッコいいでしょ?」

 今風がしているのは、黒い眼帯。端に小さく花のイラストが入っているが、なるほど全体としてはカワイイよりはカッコイイという印象が来る。

 

「……まあな」

 ――の、かもしれない。涛牙にはよくわからないが。

 よくわからないので適当に答えていると、風がパソコンを覗き込んできた。

 そこに映るは勇者部のホームページ。ただし、バーテックス決戦前の物とは少し違っている。

 

『部員の体調不良につき、当面の間、活動を縮小します』

 

 トップページにそう書かれている。

「これって、白羽くんが?」

「ああ。東郷にやり方を聞いて、昨日一日がかりでようやくだが」

 言いながら、キーボードを見ながらゆっくりと操作して依頼メールを確認していく。

「まあ、確かに今まで通りとはいかないわね……。校内はともかく、校外は」

 自分たちの不調の事を思い出しながら言う。自分は眼帯をしていることもあって一目で分かるし、樹もパッと見で分からないが声が出ないという大きな影響を受けている。静養という意味でも活動縮小は避けられないだろう。

 

「期末テストも近いしな」

 学生の本分を涛牙が言えば、風の顔色はサッと青ざめる。

「そ、そうね……」

(忘れていたな)

 犬吠埼 風。最近テストの成績が落ち込んでいる模様。

 

「まあ、依頼自体がちょうど落ち着いた時期だからな。タイミングは悪くなかったろう」

 急ぐような依頼がない事を確認して、涛牙はページを閉じて大きく伸びをした。

「やはり、電子機器は苦手だ。東郷の帰還が望まれるな」

 そうしているうちに、やはり廊下から足音。

「結城 友奈、来ました!」

 友奈と、その後に続いて樹がお辞儀をしながら入ってくる。

 だが、その後に続く人影がいないことで、風が首を傾げる。

「ん?夏凛はどしたの?」

 風が同級生の友奈に尋ねると、今度は友奈がキョトンとする。

「あれ?わたしより先に教室を出て行ったんですけど……。涛牙先輩、夏凛ちゃんは?」

「――そういえば、見ていないな」

「あら。夏凛らしくないわね。昨日とかは?アタシたちより先に退院してるはずだけど」

 風に言われて涛牙はつと考え込み、

「覚えていないな」

 先ほど風には言ったが、ホームページへの一文追加で画面に齧りついていた。気づけなかった可能性はある。

 

 ――胸元に隠しているディジェルなら気づいたろうが、存在を隠している現状ではディジェルも声を掛けるわけには行くまい。

 

「どんだけ集中してたのよ……」

 呆れたように言うが、風も涛牙が電子機器に不慣れな事は重々承知している。

 と、樹が風の服の裾を引っ張る。気づいた風が顔を向けると、手にしたスケッチブックのページを見せてきた。

『かりんさん、なにか用事があったんでしょうか?』

 それを見て片眉を上げる涛牙に、風が解説を加える。

「ま、声が戻るまでの応急処置ってとこね。スマホにメモのアプリ入れてってのもアリだけど、こっちの方がすぐに書けて見せやすいし」

 ウンウンと頷く樹に、なるほど、と答えてから、涛牙は後を続けた。

「用事があるにしても、断りくらいいれると思うが」

 これまでも何やかんや言いながら部活に参加していたのだ。律儀な夏凛が何も言わずに欠席というのは、考えにくい。

「サボリ、かしらねぇ」

 訝し気に風が呟くが、友奈が口を挟む。

「でも、お誕生日からは欠かさず来てましたよ?」

 ムムム、と涛牙を除く3人が首をかしげるが、これといった理由が思い浮かばない。

 

「――無断欠席の罰として、腕立てとかやらせようかしら。1,000回くらい」

 などと風が言うが、

『かりんさんならできそうだね』

 樹のツッコミに冗談冗談と答える。

 

 そんな中で、友奈は意を決した目で風に問いかけた。

「……風先輩、今日って勇者部の依頼はありますか?」

「ん~?特にはなさそうだったけど……。白羽くん?」

「ああ。図書委員からの資料整理くらいだな」

「ならわたし、夏凛ちゃんを探してきます!」

 言うと友奈は外へと駆け出していく。

 

「居場所に心当たりが?」

 が、涛牙の一言で立ち止まる。

「――ないな?」

 涛牙の念押しに、軽く視線をさまよわせながらも友奈は頷いた。

「で、でも家は分かってますから。いざとなれば夏凛ちゃんの家で待ってれば」

 確かにそれはそうだが。では“いざとなる”まではどうするのか。

「……暑い中で走り回るのか」

 なんとなく予想がついた涛牙の質問に、友奈はアハハ、と引きつった笑いで返事をした。

「いや、友奈。それはさすがにダメでしょ」

 風の言葉に樹も頷く。だが、友奈が、行方をくらました夏凛の事が気になってしょうがないという事は涛牙にも察せられた。

「まあ、心当たりはある」

 言って涛牙も席を立った。

 

「犬吠埼、悪いが」

「OK、図書委員の依頼はアタシと樹でこなしてくるわ」

 ウインクを交えた風の返事に軽く頭を下げて、涛牙は友奈を引き連れて部室を後にした。

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 緩やかに赤みが増していく空の下。

 引っ越してきてから鍛錬に使っている海岸で、夏凛はいつも通りに二振りの木剣を揮っていた。勇者部部室には顔を出さずに。

 揮う剣の軌跡は流麗。身のこなしもさすが訓練を積んだ完成型勇者らしい堂に入ったものだ。

 だが。

 

(戦い、終わっちゃった……)

 

 内面は千々に乱れ切っていた。

 訓練を受け、最終アップデートを経た勇者システムを揮う完成型勇者。それが自分だと、夏凛は強く意識していた。

 他の、偶然に神樹様に選ばれた勇者たちの先頭に立ち、12体のバーテックスを撃破し、完全勝利を人類にもたらす。そのために夏凛は訓練を積み重ねてきた。

 

 だが、蓋を開けてみれば初陣の次に全戦力の決戦に突入、それ以前から戦っていた素人4人がゲージが溜まっていた『満開』を駆使してバーテックスを屠る中、自分に出来たのはフォローくらい。

 さらに、戦いが終わった時、不意に夏凛は気づいた。気づいてしまった。

 御役目が終わった後、どうするのか。それを考えていなかったことに。

「フッ、ハッ!」

 こうして鍛錬に励むのも、技量を磨くためというよりも、習い性になった行動を繰り返すことで気持ちを落ち着かせるためと言った方が近い。

 

 もっとも、それで考えが纏まるなら苦労はしない。

 結局汗みずくになるまで身体を動かしても、これからの事については何も思いつけない。

 砂浜に仰向けに倒れこみ、浮かない表情で空を見上げながら、ここしばらく頭に渦巻く言葉を口に出す。

 

「私、これからどうすれば良いんだろ……」 

 

 そんな弱気な独り言に被るように、不意に聞きなれた声が夏凛の耳に届いた。

「夏凜ちゃーん!」

 身体を起こして声の方を見ると、手を振りながら友奈が駆け寄ってきた。その後ろには落ち着いた足取りの涛牙も見える。

「やはり、ここだったか」

「ど、どうしてここに?」

 自分がどこで鍛錬しているのかを他の面々に話したことはなかったのになぜここに。

 そんな意図を含めて夏凛が尋ねると、友奈も自身を連れてきた涛牙を向く。2人の視線を受けて、涛牙は肩をすくめた。

「鍛錬と言えば砂地だろう」

 讃州中学に近く、人目も少ない砂地と言えば、この海岸に他ならない。

 そんな推理を披露されて、友奈は感心しきりに、夏凛は痛いところを突かれたような声を漏らした。

 

(――まあ、実際は様子を盗み見してただけだが)

 気配を隠して夏凛の様子を伺うくらいは涛牙には朝飯前だ。まあそれは口にすべきではないので黙っておく。

 

 その間に、笑顔の友奈に後ろめたさも感じながら、夏凛は口を開いた。 

「……で、何しに来たのよ」

「何って、決まってるよ。夏凜ちゃんが勇者部に来てなかったから、誘いに来たんだよ」

「……………」

「このままじゃ、サボりの罰として、腕立て500回とスクワット3,000回、更には腹筋10,000回させられる事になるんだけど」

(犬吠埼の軽口よりも桁が増えている……?)

 シレッとした顔で友奈から飛び出た言葉に涛牙の頬が軽くひきつった。

「でも、今日部活に来たら全部チャラになります! さぁ、来たくなったよね?」

 もはや誘いではなく脅迫の類と化した言葉に、しかし夏凛は首を横に振った。

 

「……ならない」

「えっ? 部活来ないの?」

「――まあ、行かなければ罰もクソもないな」

 涛牙の呟きはスルーして、夏凛は言葉を続けた。

「……もう行く理由がないのよ」

「え? 理由って?」

 怪訝な表情で問い返す友奈に、夏凛は淡々と答える。 

「私は、勇者として戦う為にこの学校に来た。勇者部にいたのは、他の勇者と連携を取った方が何かと都合が良いからよ。それ以上の理由なんて、ない」

「夏凜ちゃん……」

 最初静かだった夏凛の声は、次第に強くなる。

「大体、何考えてんのよ! 勇者部はバーテックスを殲滅する為の部なんでしょ! そのバーテックスがいなくなったら、そんな部、もう意味なんてないじゃない!」

 

 その叫びに友奈が返したのは、静かな否定。

「違うよ」

 穏やかに、気遣う優しさをにじませながら、友奈は続ける。

「勇者部は、みんなで楽しみながら人に喜んでもらえる事をしていく部だよ。そして、今は夏凛ちゃんも仲間なんだよ」

「……大赦の後押しがあっても、バーテックスを倒すための部活、なんて設立理由が通るわけもないな」

 その言葉に、夏凛は先ほどの激情から覚めたように、躊躇いながら否定の言葉を重ねる。

「でも……、私、戦う為に来たから……。もう戦いは終わったから……。だからもう、私には何の価値もなくて……あの部に居場所もないって思って……。そもそも、私があそこにいられる理由なんて何も……」

 視線を逸らしながら言い募る夏凛に、ふと気づいたように涛牙が口を開く。

「転校の指示でも来たか」

 その言葉に、友奈が誰よりもたじろいだ。

「ええっ?!夏凛ちゃんが!?」

「元々援軍として学期の途中に転校してきたからな。引き上げの話があってもおかしくない」

「そ、そんな?!本当なの?!」

「来てない!来てないわよそんな話!?」

 友奈につられるように夏凛も慌てて否定するが、涛牙はむしろ腑に落ちない表情を見せた。

「そうなのか?」

「そ、そうよ!――今のところは、だけど」

「なら、話が来るまでは、部活も含めて今まで通りでいいじゃないか」

 そう言われてしまえば、反論の余地がない。

 今のところ、大赦からは今後の身の振り方についての連絡は来ていない。どこか別の学校に行くとか、大赦本部に召集されるとか、そんな話は何もない。だからこそ夏凛は学校には来ていたのだ。

 ならば。一度は入部届を出した以上部員であり、部活に出ない道理はない。

「で、でも……」

 それでも何か言おうとする夏凛に、涛牙は追い打ちをかける。

「三好」

「な、なによ」

 

「――お前。これから先、何十年かの人生。ほんの一時“勇者”だったことだけを誇って生きていくつもりか?」

 

「!」

 予想外の方向から痛いところを突かれて、夏凛が息をのむ。

 大赦内はともかく、一般社会では“勇者”は存在自体が極秘。勇者の健闘が知られることはない。いや、大赦の中でさえ“勇者”として称えられる事はあれど、それだけで、例えば大赦中枢に席が設けられるような事はない。

 つまり、部活に出ない夏凛が外からどう見られるかと言えば、「幽霊部員やっている一女学生」でしかない。

「――そ、そんなわけないでしょ!」

 喰ってかかる夏凛に、フ、と鼻を鳴らし、涛牙は言った。

「なら、部活にも出ることだ。三好向けの依頼はそこそこある」

 そのまま友奈と夏凛に背を向けて歩き出す。言いたいことは終わったというように。

「ったく。なんつー言い草よ……」

 そんな背中にぼやく夏凛に、友奈はフォローを入れた。

「まぁまぁ。あんな言い方だけど、涛牙先輩なりに夏凛ちゃんを気にしてるんだよ。……きっと、たぶん……」

「そこは自信ないのね、あんたでも」

 半眼で指摘する夏凛にタハハ、と苦笑いしながら、友奈は続けて言った。

「でも、さっき夏凛ちゃんが言ってた、戦いが終わったら居場所がなくなるなんて、そんな事は絶対ないよ。夏凜ちゃんがいないと部室は寂しいし、夏凜ちゃんと一緒にいるのが楽しいと思ってる。わたしは夏凛ちゃんの事、大好きだよ」

 友奈から素直な好意を向けられて、夏凛は顔を赤く染めて、ため息を一つついた。

「まあ、確かに涛牙のいう事も一理あるし。そうまで言われたらしゃーないわね。もうしばらく付き合ってあげるわよ」

「やったぁ!」

 夏凛の返事に喜んだ友奈は夏凛に飛びつき、砂浜に少女たちの歓声が響いた。

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 図書委員からの依頼中に不意に震えたスマホ。一言断って廊下に出てから、風は美森からの電話に出た。

『風先輩、相談したいことが』

「どうしたの?東郷」

 その返事にしばしの沈黙を挟んでから、美森は相談を始めた。

『その、『満開』について詳しく知りませんか?例えば――後遺症とか』

「――後遺症?」

 不穏なセリフに聞き返すと、意を決したように美森は後を続けた。

 

『実は、決戦の後から私や友奈ちゃんも不調が起きたんです。友奈ちゃんは味覚、私は左耳の聴力がなくなりました』

 

「――え?」

 言われて、今日の友奈の様子を思い出す。今までと何ら変わらない様子だった。

 

「そんな……。あの子、そんな素振り少しも」

『……友奈ちゃんですからね。心配を掛けまいと思って黙っていたんだと思います。問い詰めるまでは私にも黙っていたくらいですから』

「なるほど……」

 親友である美森にも打ち明けていないとなれば、こちらから言い出さない限り黙っていただろう。

 

『後遺症の話に戻りますが、先日涛牙先輩にも尋ねたのですが、知らないとの事で。風先輩はもしかしたら、と』

「……ゴメン、アタシも初耳よ。大赦からは何も聞かされてないし――」

『――大赦も把握出来ていなかった、ということですか?」

「……多分、ね」

 

 そう。勇者システムは()()()()()()()()使()()()()()のだ。実際に使ってみたら思ってもいない事が起こることだってあり得る。

 そのはずだ。

 

「ともかく。アタシから大赦の方には確認を入れてみるわ。お医者様だって治るって言ってるし、気にしすぎても却ってよくないでしょ」

『それは――そうですね。何の関係もないかもしれませんし』

「うん。何かあったら連絡ちょうだい。それじゃね」

 電話を切って、風は外を見た。

 

 夕暮れに染まる空に、何故か背筋が冷える気配を覚えて、風は小さく身震いした。

 




ネットサーフィンしていたら、「ゆゆゆ3期」が始動とのこと!
……え?それなりに綺麗にまとまってた勇者の章の続き?また敵が出てきて戦うの?

これこそが、終わる事のない生き地獄……ッ?!
 
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