結城 友奈は勇者である 神の揺り籠   作:ヴィルオルフ

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ようやっとアニメ「ゆゆゆ」第1期の折り返しまで来れました。
3期が始まる前にどこまで進められるかなぁ・・・。


第16話「サドン・インパクト(祖父、来たる)」

 夏の夕焼けが空を染めだす頃、今日も友奈は美森の病室に見舞いに訪れていた。

「東郷さ~ん、お邪魔しま~す」

「あら、友奈ちゃん。今日もお見舞いに来てくれたのね」

「もちろんだよ!学校であったことを東郷さんに話すのは新しい楽しみだもん!」

「フフ、ありがとう」

 言いながら友奈が席に座るのに合わせて、美森は手元のノートパソコンを閉じた。

「東郷さん、何か調べ物してたの?」

 聞かれて、美森は一瞬困った顔をしたが、すぐに元の穏やかな笑顔に戻す。

「え、えぇ。大した事じゃないけど……」

「う~、気になるなぁ~。あ!教えてくれたらわたしも手伝えるかも!」

 友奈にそう言われれば、美森に敢えて沈黙するという選択肢はない。

 

「調べていたのは、この国についてのことよ。私達が暮らすこの国の歴史や文化、特殊性及び正しい在り方を神世紀以前からの国家に比較考察して現在の護国現想の源流をヤマト神話との関連性に求める事の意義そして私達が今後担う時代の正しい在り方を」

 意気揚々と話し出した美森に、

「えっと、ごめんね。何ノ話かワカラナイヤ」

 思考がショートしそうになった友奈がなんとか口を挟む。

 

「あっ。ごめんなさい。つい熱が籠っちゃって」

「う、ううん。いいよ東郷さん。わたしこそ分からなくてごめんね」

 そうして、友奈は今日の出来事を話し始めた。授業の事、勇者部の面々の様子に今日の活動――

 

「そうだ!実は今日、部室にお客さんが来てね――」

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 7月も半ばを過ぎ、暑さが堪えるようになってきた。

 そんな夏の放課後。教師に頼まれて書類運びを手伝った涛牙が勇者部部室に来ると。

「……………」

「……………」

 友奈と風が机に突っ伏していた。

「――」

 さすがに訳が分からず棒立ちしていると、2人の傍にいた夏凛が軽く手を挙げながら挨拶してきた。

「来たの?少し遅かったわね」

「まあな。それで、これは?」

 身じろぎもせずにいる友奈と風を示すと、夏凛は苦笑いを浮かべて、

 

「テストの成績が悪かったんですって」

 

「「ぐはあっ!?」」

 夏凛がそう言うと同時、友奈と風が跳ね起きながら苦悶の声を上げる。再び突っ伏すことはなく、しかし頭を抱える2人を見て、涛牙もため息を一つ。

「そこまで落ち込むか」

 そんな涛牙のぼやきに、風が言い返す。

「だぁって!今まで見た事ないよーな点数だったのよ?!かつて『神童風ちゃん』と呼ばれた身としてはショックよ?!」

 言い募る風の視界の外で、樹がヒョイと上げたスケッチブックには『テストの点はともかく、その呼ばれ方は初耳』と書かれているが。

 

 また、友奈も、

「とーごーさんがいなくてー学校の楽しみが4割減しててー。なんだか授業にも集中できなくてー」

「東郷の割合が多い?!」

 夏凛のツッコミに、

「ちなみに夏凛ちゃんが勇者部に来ないときは更に3割減だったよー」

「友奈は学校に勇者部しに来てるんかい!?」

 追加のツッコミを入れてから、まあこんな感じよ、と肩をすくめる夏凛に、涛牙は頷き返した。

「大体わかった」

 分かってしまえばそれ以上追及することもないので、大人しく空いていた窓際の席に着く。

 

 もっとも、友奈の調子が出ない事については美森の不在だけではないだろうと皆分かっている。

 

 先日、部活終わりに友奈がお菓子を買ってきた事で判明した、友奈の味覚異常。

 美森から友奈の味覚異常を聞かされていた風がうっかり口を滑らせたことで樹や夏凛もそれを知る事となった。

 勇者の御役目に巻き込んだ形の風や、この時に『満開』を用いた勇者が全員不調を抱えたことを知った夏凛はひどく落ち込んだが、それも友奈当人が「すぐに治るよ」と言った事でみな明るさを取り戻した。

 

 だが、だからと言って何を食べても味がしないという状況が、風ほどではないが食べる事が好きな友奈にとって調子が上がらない原因となるのは当然ではあった。

 

「さて、今日はなにやろうかしらねぇ」

 落ち込むのを止めて身体を起こした風が、そんな事を呟く。

「依頼は来てないの?」

「さっき見たけど、今日はなんも来てないわね~」

 涛牙がホームページに入れた一文、そして生徒の口を通して広まった勇者部の現状。それらが影響を及ぼしているのは間違いあるまい。

 

 無関係の第三者から見れば、ある日突然部員のほとんどが入院し、退院しても視力やら声やらに不具合を抱えた状態。その上1人はまだ入院中。何かがあったと誰でも考えるし、そこに詳しい説明がされなければ何やら得体のしれないコトが起きていると感じてもおかしくない。

 神樹、という形で神の実在が証明された神世紀。説明できない不審事にオカルトが絡んで語られることも少なくない。なんとなく得体が知れなくなって、頼みごとをし辛くなるのも不思議はない。

 

「じゃあ今日はどうするのよ?」

「ん~。文化祭の演劇の話を詰めようかと思ったんだけどね~」

 大道具の準備は涛牙の独壇場だし、音響のような裏方は得意とする美森から教わって樹も出来る。風や友奈は人前で演じる事には慣れているし、夏凛は何事もそつなくこなせるだろう。

 だが、それ以前のハードルがある。

 

「衣装とか脚本とかは、東郷も交えて話さないとうまく行かないでしょうね」

 足が不自由という点を除けば、美森は全てにおいて人並み以上に出来る。人形劇での人形の衣装や脚本も美森が中心となって作り上げてきた。その美森抜きで動くのは宜しくない。

 

『じゃあすることがないね』

 樹がスケッチブックに書いた文字に、そうね、と腑抜けた声で答えて、風は決断した。

「……もういいや、今日は全力でだらだらしよう!」

 そういうと、風は扇風機を自分の横に置いて机の上で溶けたようにだらだらし始めた。

「風先輩、扇風機取るのずるいですよー」

 友奈も同じようにだらけて机に転がる。

「いーのよ。アタシ部長だから。アタシ部長だから」

「ずるいっ! 権力の悪用だー」

 などと言いながら、樹も交えてだらけだす。

 

 首を振る扇風機1台を囲む3人に夏凛は呆れた顔を見せるが、ひとまず愚痴を言うのは止めておいて、真面目にしようと心がける。

「涛牙。その、人形劇とかの台本って残ってる?」

「ああ」

 戸棚の中からファイルに挟まった台本を取り出して渡すと、夏凛は中身に目を通し始める。勇者部としての経験が一番少ない夏凛は、これまでの台本を見ることでイメージトレーニングに使おうというわけだ。

「真面目だな」

 一言呟いて、涛牙は自分の席に戻る。大道具中心の裏方である涛牙はあまり台本の類は使わない。

 

 そんな中でも、だらけた3人はウダウダとぼやき合うが、そのうち、不意に風が声を上げる。

「何かが足りない……そう、東郷の牡丹餅が足りない!」

 なんとなく予想していた友奈は驚くことなく風を見上げ、

「急に叫ぶんじゃないわよ?!」

 いざ台本読みに集中、としていた夏凛は驚いてツッコミをいれ、涛牙はため息一つで風の奇行をスルー。樹はササッとスケッチブックに筆を走らせ、机にだらけたままでヒョイと見せる。

『たべものなんだね』

 と書かれた文字に込められたのは姉の食い意地に対する呆れか、女子力を謳いながらそれが下がる言葉を口にする事への哀れみか。

 

「健啖なことだ。なかなか元気でよろしい」

 

「東郷の牡丹餅はおいしいからね~。暑くてもイケるわ」

「ですよね~。季節に合わせて味付けも変わるんですよね~」

「どんだけこだわりがあんのよ、牡丹餅に――ん?」

 だらけきった風と友奈の言葉にツッコミを入れながら、ふと夏凛は顔をしかめる。割り込んできたた声に聞き覚えがない。

 気づいた友奈や風、樹が声の方に顔を向ければ、いつの間にやら部室に見慣れぬ人物が入り込んでいた。

 

 白髪に、顔には深く刻まれた皺。目元は穏やかそうに見えて鋭く、シャンと伸びた背筋と相まって活力に満ちているように見える。

 服装こそ、黒を基調に装飾が施された見慣れない恰好だが、そこに違和感を感じないのはよほど着慣れているからか。

 

 そんな闖入者を見て、涛牙は。

「!」

 一拍の硬直の後に即座に開いていた窓へと飛び出そうとして、

「ぐぎえっ」

 窓から飛び出そうとしたところを襟首掴まれて引き戻された。

 

「え?」

 呆気に取られた声を上げたのは、突如として闖入者が視界から消えた風か夏凛か。ジタバタ暴れる涛牙を見た友奈か。

「まったく、突然飛び出そうとは何事だ?」

 落ち着いた声音からは涛牙の奇行をまるっきり気にしていない様子が伺える。そのままヒョイと涛牙を放り出すと、床を転がった涛牙は軽くせき込みながらその男性を見上げた。

「じ、じじじ、じ、じじ――」

 悠然と向き直る老人に、涛牙は震える声を上げた。

「――じいちゃん!?」

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 突然の来客に、勇者部一同が慌てて姿勢を正しながら椅子を促すなどしてしばし。

「初めまして。白羽 海潮(うしお)と申します。孫が世話になっているようで」

 椅子に腰かけて、その老人――海潮はそうあいさつした。

「あ、えっと。アタシ、部長をやってます犬吠埼 風です。えと、先ほどは見苦しいところをお見せして」

「いや、こちらこそ急にお邪魔してしまい。驚かせたようで申し訳ない」

「いえいえ。アタシたちも何だか気が抜けていたみたいで。すいませんでした」

 そんな穏やかな挨拶を交わす風と海潮を眺めながら、友奈たちは視線を涛牙に移す。

 

 大きめの机を囲んでいる勇者部一同と海潮から離れて立っている涛牙の様子は、明らかに普段と違う。

「なんか、無茶苦茶ソワソワしてるわね」

「どうしたんだろうね?時々窓の外を見てたりするし」

 夏凛と友奈のヒソヒソ話に樹も首を振って同意する。

 常日頃の、表情乏しく冷静沈着な涛牙とはまるっきり違う。時々身体を揺らしては何かを探るように周囲に視線を飛ばす様は、落ち着きのない子供のようだ。

 

「てか何で窓の方見てんのよ。飛び降りようとか?」

「まっさかー。怪我しちゃうよ」

「そうよね」

 小声でそんな事を言い合っていると、ついに涛牙が口を開いた。

 

「それで、何でここに?」

 普段通りの、しかしどこか震えが混じる声で尋ねると、海潮はごく当たり前といった様子で答えた。

「なに。久方ぶりに孫の顔を見たくなったのでな」

「なら部屋に来ればいいだろ。……何もないけど」

「学校の様子を見に来てもよかろう?」

「――」

 何か言い返そうとして、しかしどう返せばいいのか思いつかず、涛牙は難しい顔をしながら黙り込んだ。

「犬吠埼さん。うちの涛牙、何か問題を起こしたりはしていませんかな?」

「いえいえ。確かに無口だし普段から仏頂面だったりしますけど、細かいところを見てたりするんで、幼稚園で子供たちと遊ぶ時なんかは結構頼りになりますよ。体力勝負な依頼だと本当にVIPですから」

「ほほう。いや、人見知りする方なので人との交流が多いと気後れしているかと心配しましたが。なるほど、それは安心だ」

 にこやかな海潮の言葉に、

 

「ひ と み し り」

 

 意外な事だというように風が呟く。

「何時の話だよ、まったく」

 涛牙が小声で呟くが、その表情は普段の鉄面皮からはずいぶん崩れて、拗ねた子供のようだった。そんな涛牙を見ながら風はニヤニヤと笑顔を浮かべる。常日頃の年不相応な落ち着き具合とのギャップは、付き合いの長い風からしても目新しく新鮮だ。

「なんか、年相応って感じね」

「そうだね。こっちの方が話しやすそう」

『いつもは声を掛けづらいですからねぇ』

 そう話す夏凛たちを涛牙が睨むが、威圧は通じなさそうだ。

 

 と、風と談笑していた海潮が不意に涛牙に話を向ける。

「ところで涛牙よ。こういう時は冷たい飲み物を用意するのが、お前の為すべき事と思うが?」

「ん?あ、ああ」

 答える涛牙に、海潮はひょいと財布を放り投げた。

「皆の分、適当に買ってきなさい」

「――わかったよ。……確かに、気が利かなかったか」

 ため息一つついて涛牙が外に出て行く。 

 

「え?おじいさん?そんなアタシたちは」

 慌てた風が止めようとするが、海潮は鷹揚に笑う。

「ハッハッハッ。気になさらず。孫が面倒見てもらっているお礼と思って」

「は、はぁ……」

 穏やかそうに見えて意外と押しが強いんだな、と風が思っていると、海潮は微かに居住まいをただした。

 

「涛牙は先も言った通り人見知り――いや、正直に言えば人と触れ合う事が苦手な男です。務めとは言え多くの人間と関わる事には慣れておらず、何かよからぬ事を起こさないかと不安でした」

 真剣な顔でそう言われて、風は頭を振った。

「大丈夫です。白羽くんはしっかりした人ですよ。そりゃあ、無口で無愛想なところもありますけど、周りに無関心だとか、離れたがってる事はないです。勇者部の活動もアタシのサポートもちゃんとやってくれています」

 風の言葉に、友奈も頷く。

「はい。涛牙先輩はわたし達が見落としたことや気づいてない事を見てくれる人です!」

 ウンウン、と樹も夏凛も同意するのを見て、海潮は厳めしい顔を綻ばせた。

「そうですか。涛牙も良い人の縁に恵まれたようだ」

 感慨深そうに頷いて、海潮は微笑んだ。 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

「――それで、涛牙先輩が買ってきたのが普通に水でね。みんなでそれはないだろー!ってツッコミ入れちゃったんだ」

 そう締めくくった友奈の話、美森は穏やかに笑みを浮かべて聞いていた。

「そっか。涛牙先輩、実は人見知りする人だったのね」

「みんなで驚いちゃったよ」

 にこやかに笑い合いながら時間は進む。

 

 やがて見舞いの時間を過ぎて友奈が帰ってから、美森は閉じていたパソコンを開いた。

 その画面に映っていたのは、しかし、美森が語ったような論文の類ではなかった。

 勇者部の――いや、勇者の御役目を果たした5人の名前と日付が項目となった表。その日付はバーテックスとの決戦の翌日から続いていて、各員の欄には、夏凛を除いて同じ一言が書き込まれている。

 

『改善の兆しなし』

 

 その表は、決戦後に勇者たちが負った不調がどうなったのかを記したもの。

 決戦からすでに1週間以上経ち、しかし不調を負った4人の不具合は何も変わらない。

「……私たちと夏凛ちゃんの違いは、『満開』を使ったか否か」

 小さく呟いて美森は改めてパソコンの電源を落とす。

 

「涛牙先輩の親族が勇者部に現れた。――大赦の関係者が」

 風は両親が大赦に働いていて、そこから讃州中学の勇者候補の取りまとめ役となった。そして涛牙は、上役からの指示で風の補佐をしていると言っていた。

 つまりは涛牙は風以上に大赦と関わりがあるはず。その祖父も大赦の関係者と見て間違いないだろう。

 

 そして大赦の関係者という点で言えば、当然のことながらこの病院とそこに勤める医者も大赦の関係者だ。

「夏凛ちゃん以外は、身体機能の一部が失われたまま。なのに病院は不具合を残したままで3人を退院させている」

 そんな判断を下したのが、大赦と関わりのある医者たちである。

 ならば涛牙の祖父、海潮の来訪が意味するものは。

 

「退院した勇者の様子を窺いに来た。そういう事、よね」

 

 窓の外に目をやれば、夕焼け色の空は次第に暗く移り変わっていく。

 窓の外を鋭く睨む美森の瞳には、暗い影が浮かんでいた。




ゲリラ豪雨、というか、一時に集中してガッツリと雨が降るのって1日雨降りなのよりも鬱陶しさというか厄介な気分になりませんか?一日雨なら最初からしっかりした傘を持ちだせるけど突発的だと折りたたみに頼るしかなくなるし・・・
そして外に出ている時だけ大雨という流れに。
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