結城 友奈は勇者である 神の揺り籠   作:ヴィルオルフ

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バーテックスとの戦いが終わった勇者一行に、大赦からのプレゼントが。


第18話「サマー・サンシャイン(楽しい夏休み)」

 夏には魔物が棲んでいる。

 

 抜けるような青空。汗ばむ陽気。昂る気分。そういったものが重なって、夏の時期、人は驚くほど無防備になる。

「へぇ~ここがそう?」

「肝試しに使えそうじゃん!」

 ビーチで男どもにナンパされて、うら若き美女たちが海岸沿いの洞窟に踏み入れたのも、そんな緩んだ気分の故か。

 街中なら、同じようにナンパされたとしても、相手のお誘いにホイホイ乗ることはないだろう。如何なギャルとてそこまで気を緩めはしない。

 だが、真新しい水着を着て颯爽とビーチで遊んでいる時にナンパされれば、油断の一つもするのも無理はない。

「あ~、夜はここ難しいかもなぁ。潮が引いてないと歩きじゃ入れないさ」

 先導する若者――日焼けした肌に染めた髪、ピアスをつけたいわゆるチャラ男が言うと、ギャルたちは何が可笑しいのかケラケラと笑う。

「まだ奥があるんだ。天上に穴開いててさ。陽がさすとキレーなんだわ」

「うわ~。メッチャ楽しみ!」

 ギャルたちの後ろから続く、これまたチャラ男の言葉にギャルたちは更に盛り上がり、濡れた足場に気を付けながら進んでいく。

 

 自分たちの前後を行く男たちの目が血の色に染まっていることに気づくこともなく。

 

 ――夏には魔物が棲んでいる。

   

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

「青い空!」

 夏の太陽が眩しく輝く空を指さし、風が吼える。

「青い海!!」

 続いて指を前方に突き出し、白波が陽を照り返す海を示し。

「そして浜には――この、ア・タ・シ!!!」

 最後にはセクシーポーズ、とでもいうのか、どこかクネッとしたポーズを取る。

 オレンジ色のツーピース水着に包まれた肢体は15歳ながらナイスバディといっても差し支えないモノ。同年代の男子なら注目すること間違いなし。

「……いや、ホントに何やってんの?」

 そんな風の背中に、呆れた声を掛けるのは夏凛。こちらも白の水着姿で、風の物と比べるとスポーティーな出で立ちだ。 

「フ。夏凛には分からないかしらね。ワタシから溢れる女子力の波動が」

「うん。分からないし分からなくていいわ」

「も~、10台の夏なんだからもっと弾けなさいよね~。せっかく鍛えられてていいスタイルしてんだから」

「アンタはちょっとはっちゃけすぎよ。ホラ、樹だって困り顔よ」

 そういって夏凛が示した先では、エメラルドグリーンの水着を着た樹が苦笑しながら風の様子を眺めていた。

「ムゥ……。せっかくの旅行なんだから全力で楽しまないと損なのに……」

「そこはまあ、分からなくもないけどね」

 残念そうな顔をする風から海へ目をやって、夏凛はしみじみ呟いた。

 

「大赦が用意した、勇者へのご褒美だものね」

 

 そんな夏凛の視線の先では、ピンク色の水着を着た友奈が、ビーチ用の車椅子を押しながら美森と笑い合っていた。

「ン~!波が気持ちいい~!」

「そうね。まだクラゲが湧く頃でもないし、海で遊ぶにはちょうどいいわね」

 足元に寄せる波にはしゃぐ友奈を見上げながら、美森も柔らかく微笑む。

「これで夜は温泉かぁ……。すっごく贅沢してる気分だな~」

「海で遊んで旅館で温泉につかって……。行き来の交通費も宿の代金も全部大赦が持ってくれるというし、至れり尽くせりね」

「ううん、ここまで来るとなんだか悪い気がするなぁ……」

「まあ、世界を守った報酬といったところだし、たっぷりと遊びましょう?」

「――うん!そうだね!」

 美森の言葉に納得して、友奈は車椅子を押しながら軽く駆け出した。

「涛牙先輩も来ればよかったのにね」

 そんな友奈の言葉に、美森は浜辺にパラソルを広げた勇者部の方を見る。そこに涛牙の姿はなかった。

「……まあ、『勇者』へのご褒美、とは涛牙先輩も言っていたけど」

 

 

 数日前、風のスマホに大赦から届いたこの慰安旅行の件。

 大赦から誘われていたのは、涛牙を除く5人だった。

 不審に思った風が涛牙についての連絡を入れるも、返ってきたのは『この度の旅行は、神樹様に選ばれバーテックスと戦い、これを撃破なされた勇者様へのせめてもの御礼でございます』との返事。

 一人残される涛牙が不憫と思いつつ当人に言えば、

「いや、妥当だろう」

 と返される。

「身体を張ったのはお前たちだ。補佐役程度の俺まで厚意にあずかるわけには行かない」

 と固辞され、更には私用が入っているとまで言われて結局少女5人で遊びに来ているわけだ。

 

 

「……ちょうど涛牙先輩にも用があったというし。お土産話を持ち帰るのが一番かしら」

 美森の言に、友奈は残念そうな顔を見せるが、そこはそれと気を取り直す。

「お土産かぁ。何がいいかな?……海藻の押し花?」

「それは、押し花に分類していいのかしら……?」

 友奈の呟きに冷や汗を一つ垂らしながら、美森はそう答えた。

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 そうして勇者たちは日が暮れるまで海での遊びを満喫した。

 風と夏凛が水泳競争をしたり。

 水に浮かぶ車椅子に乗る美森と並んで友奈も動物型の浮き輪に乗って波に揺られたり。

 砂浜では棒倒しをしたり、或いは美森が砂で城の立体像を作ったり。

 スイカ割では、最初に挑戦した樹が見事一撃でスイカを割って見せたり。

 

 夕焼けが空を覆うまで楽しんだ後、旅館に戻って温泉を堪能して海水と一日の疲れを洗い流して今日泊まる部屋に戻れば、そこにはすでに夕食の準備が整えられていた。

 

「え?」

「なに、これ……」

 唖然、とした声が誰ともなく漏れる。

 

 全員が座れる大きな机の上に並ぶのは、大きなカニ。船盛になった新鮮な刺身もさることながら一人につき1杯のカニのインパクトはすさまじかった。

『すごいごちそう!』

「このカニ、カニカマじゃないよ! 本物だよ! ご無沙汰してます! 結城 友奈です!」

 興奮した友奈に至ってはカニのハサミを摘んで握手する始末。

「あ、あの……。部屋、間違えてませんか?」

 さすがの風も驚愕を通り越して困惑する。恐る恐る、といった感じに女将に問いかけるが、

「とんでもございません。どうぞごゆっくり」

 そういって部屋を後にする。つまりこの、人生で一度お目にかかれるかという御馳走が。

 

「え?あ、これ、食べていいんだ……」

 呆気に取られた様子で呟く風の口元には、早くも涎が垂れかけている。

 その様子に、このまま放っておくとマズいと感じた美森が席に付く。

「ま、まあこれも御役目を果たしたご褒美でしょうし。席に付きましょう?」

 その言葉に、それもそうかといった感じで各々手近な席に付く。

 だが、ふと気づいたように樹がスケッチブックにこんな事を書き込んだ。

『でも友奈さんが……』

「あ……」

 その一文で全員が思い出す。友奈の味覚異常は、まだ治っていない。当然これだけ豪華な料理であっても味は感じられない。

 気まずい雰囲気が漂い始めたその時、友奈が箸に手を伸ばし、刺身を取るとパクリと食べてしまった。

「おぉっ! このお刺身のコリコリした歯ごたえ、たまりませんねぇ!」

「え」

 更に他の刺身を食べて、幸せそうな表情を浮かべる。

「ん~! この喉越しもいける!」

 唖然としていたが、不意に気づいて美森が口を開く。

「もう、友奈ちゃんったら。いただきますが先でしょ」

「そうだった、ごめんね!でもお腹ペコペコで、つい」

 そんなやり取りに風は叶わないな、という顔をした。

 

 友奈は、自分の味覚異常で他の面々が気まずい思いをしないようにと率先して料理を口にしたのだ。そして美森もそれを察して友奈の行儀をたしなめた。

 そんなごく普通のやり取りを通して、友奈は皆に「気にするな」というメッセージを送ったのだと、風は理解した。

 

「――そうね。昼は思いっきり遊んだんだし。せっかくの御馳走、早くいただきましょう!」

 風の言葉に夏凛や樹もああ、と納得し、改めて料理に向き直り。

 

「「「「いただきます!」」」」

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

「あ~。美味しかった~」

 皆が思い思いに楽しんだ食事も終わり、従業員が片付けと布団のセッティングをして戻った後。

 ダラリと足を楽にしながら友奈は満足しきりな声を上げた。

『ほんとうに』

 樹もとろけ切った顔でスケッチブックに書き込む。

「いつかあんな料理を日常的に食べられる身分になりたいわね。自分で稼ぐなり、良い男見つけるなりして」

 風の言葉に、樹はサラサラと書き込んでスケッチブックを掲げる。

『後者は女子力が足りませぬ』

 樹が的確な指摘をするも、風は首を傾げるばかり。

「ええ~そうかなぁ」

「風、結構ガッついてたでしょが。東郷くらいに綺麗な仕草してから言いなさいよ」

 そういう夏凛も、厳しく見ればマナーに悖る事をしてはいたのだが。細かいところまで指摘してせっかく楽しい場を盛り下げるようなことは美森もする気はない。

「東郷さん、普通に食べてるはずなのに綺麗だったよねぇ」

「そ、そうかな?あまり気にせずにいたけど」

 友奈に褒められて照れる美森に、ムムム、と風は唸る。

「メガロポリスを擁しながら礼儀作法もごく自然にやってのける……。よもやこの女子力王の大敵が身近にいようとは」

「メ、メガロって……?」

 温泉に浸かっていた時も羨ましがられた両胸に再び視線を向けられて美森はたじろいだ。その仕草が心のナニかの琴線に触れたのか、風はグヘヘ、とでもいうような笑みを浮かべる。

「いやぁ。敵に学ぶってのも大事な事だし?普段何を食べてどんな事をしたらメガロポリスな感じになるのか……。ぜひとも聞かせてほしいなぁ」

 にじり寄る風に座ったまま後退りながら、美森は樹に顔を向ける。こんな時に風を止めに入るのが樹なわけだが。

「――」

 樹もまた、興味深そうに美森を見ている。更には、偶然視界に入った友奈も、顔は赤らんでいるが止めに入る様子はない。

(あ。これは助けにならない)

 迫る風に絶望的な気配を感じながら、美森は身をすくませ。

「大概にしときなさいよ、女子力カッコ笑い」

 風の後頭部に夏凛のツッコミが冴えわたるのだった。

  

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 そうして夜が深まるころ。

 全員が布団に入るに合わせて、風が口を開いた。

「さて。年頃の女子が集まった旅の夜。どんな話をするか、分かるかしら?」

 そう話を向けられて、夏凛は少し考え込み、

「えっ? えっと……。辛かった修行の体験談……とか?」

「違う」

「はい! 正解は、日本という国の在り方について存分に語り合う、です!」

「東郷、それは多分アンタの話をみんなして聞くしか出来ないわ。下手したら徹夜になりそうだし」

 自信満々に答えた美森にダメ出ししつつ、風は答えを知っている妹に問いかける。 

「樹、正解は?」

『コイバナ……?』

「そう、恋の話よ!」

 風の言葉に、なるほど、と友奈は頷く。確かに夏凛や美森の提案よりは年頃の少女らしい話題だ。

 だが。

「じゃあ、誰か恋をしてる人は……」

 言って見回すが、挙手する者は誰もおらず。

「ま、まぁ勇者とかでみんな忙しかったし!」

「そもそも、プライベート以外は部活でほぼみんな一緒にいるわよね」

 夏凛の指摘に、それもそうかと苦笑い。

 そこで夏凛が話題の張本人に水を向ける。

「……っていうか、そういうアンタは、何か体験談とかあるの?」

 そう聞かれて、風は懐かしむような目で口を開いた。

「……そうね。あれは」

『チア部の話はなしで』

 話し出した風を遮るように、樹がスケッチブックを差し出す。

「チア部……?」

 分からなかった夏凛が友奈に尋ねると、苦笑いをしながら友奈が話し出した。

「去年なんだけど、依頼で風先輩がチアリーディングの助っ人に出てね。で、チア姿に一目惚れ?しちゃった人からデートに誘われたらしくて」

「へえ」

「まあ、実際にはデートにはならなかったんだけどね」

「オイ」

 白けた目を向けられて、風が抗弁する。

「イヤ、だってさ。同年代の男子って、なんか子供に見えるもん。そいつもスマホにイヤラシい画像とか入れてて、休み時間に男子達に見せてるようなやつだって知ってたし」

「それをコイバナで話そうとした、と」

 夏凛が呆れた様子で言うと、美森も後に続ける。

「ついでにいえば。事あるごとに私たちはこの話を聞かされました。そろそろ2ケタに届くかしら?」

「ええ……」

 件のチア部の依頼がいつかは知らないが、去年の初夏頃の話として月1ペースではなかろうか?

「せめてデートしたとかならともかく、ねえ」

 なるほど、樹さえもが冷めた眼差しで風を見るわけだ。

 そんな夏凛の言葉に風はグヌヌ、と顔をしかめ――しかし不意にニヤリと笑った。

「そんな事を言っていられるのも今のうちよ……。なにせ、アタシ、今日、ナンパされたから!」

「「「な、なんだってー?!」

 

 

 

 そう、あれは屋台にお昼を買いに行った時の事ね。

 何を食べようかな~って思ってたら、急に声を掛けられたのよ。

「ねぇ、そこの彼女。俺たちと遊ばない?」

 振り向いたらさ、まぁ少し年上?くらいの男がいたのよ。まぁ髪は伸ばしてるわ染めてるわ、表情はだらしないわで。チア部の男子どもと同じくらいにイヤラシそーな奴が何人か。

 いくらアタシだって、「こりゃダメだ」くらいには思うわよ。で、断ったらマァしつこい。

 『穴場のスポット知ってるぜ』だとか『君みたいな美人が1人だと悪いヤツに捕まっちゃうよ』だとか。そりゃアンタらでしょっての。

 友達連れとか言ったら更に食いつきそうだし、どうしたもんかな、って思ってたらさ。

「お嬢さんが困ってるぜ?その辺にしときなよ」

 って別の男が割って入ったのよ。

 いや~これが最初の連中とは大違いでね。

 多分、大学生くらいかしら。背は高くてスラッとしてて、でも見てわかるくらいに筋肉ついてて。

 同じように髪を染めてても、こっちはチャラい感じはしなかったわね。夏に浮かれてって感じがなかったわ。

 で、睨まれた連中は尻尾を巻いて帰っちゃってさ。お礼を言ったらさわやかに笑って、

「礼を言われるほどじゃないさ。だが、男っていうのは美女に弱いもんさ」

 で、アタシの顎をクイッとして言うのよ。

「邪魔じゃなければ、君の隣にいてもいいかい?」

 

 

 

「どう?これぞ女子力って感じでしょ!?」

 キャ~、とでも言いだしそうな勢いで語る風に、オォォ……と全員が感心した声を漏らす。

「こ、これが本当のナンパ……」

『お姉ちゃん、すごい』

 頬を染めた友奈と樹にフフン、と得意げな顔をする風。一方の夏凛は、やはり顔を赤くしていたが、

「フ、フン。1人で歩き回ってたらそんな事もあるでしょうよ。――まぁ、確かに黙ってれば風は美人だし?」

 斜に構えた言い方をしてしまうが、得意満面な風にとっては色恋沙汰に縁のない夏凛の負け惜しみにしか聞こえない。

 そして最後に、興味津々な様子ではあるが平静を保つ美森が尋ねる。

「それで、その男性とは?」

「……連れの女の人がいて。耳引っ張られてどっか行っちゃいました……」

 一転して落ち込み、枕に顔をうずめる風に、一同はしばし顔を見合わせ。

「「「『ご愁傷様』」」」

 ――他に、どういえばいいのか分からなかった。 

 




カニって綺麗に食べようとすると大変ですよね。
足から身をほじくり出してるうちに細かくなった身が飛び散ったりする印象が。きっと本当の料亭で出るようなカニは軽い力で大きな身が出るんだろうなぁ。


話変わって、FGOやってるんですが最近終わったぐだぐだイベント、短い間に新登場のキャラがガッツリ活躍してて、笑いとシリアスもキレイに混ざっていて面白かったです。
で、キャラがよかったんで貯めてた石でガチャを引いて……

卑弥呼と斎藤さんが来てくれました!

ガチャ運がすこぶるよくない自分としてはうれしかったですね。
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