結城 友奈は勇者である 神の揺り籠   作:ヴィルオルフ

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前話では触り程度ですが、今話ではガッツリと魔戒騎士のバトルが描かれてます。牙狼のアニメ版の動き回るバトルシーンをイメージしています。


第2話 カラミティ・ピクチュアル(禍の肖像)

 4月のうららかな日差しの中、犬吠埼 風は軽快に自転車を走らせていた。鼻歌も軽やかに住宅地を走り抜けていく。

「♪~~、♪♪~♪」

 今風が向かっているのは今回ホームページから入って来た、とある依頼の目的地だ。

「モ・デ・ル~、モ・デ・ル~♪絵、の、モ、デ、ル~♪」

 風が今日取り組む依頼は、画家志望の青年からの肖像画のモデルの依頼だった。それも風を指名である。

 なんでも街で見かけた少女に「これはっ!」というインスピレーションを受け、たまたま『勇者部』の事を知り、探してもらおうとホームページを開いたら活動報告の写真に件の少女がいて、それが風だったという、偶然が重なりあった末の依頼だった。

「これが女子力のなせる奇跡ってヤツね……我ながら恐ろしいわ、女子力……」

 部室で、窓の外を見ながらドヤ顔で呟いた風を、他の4人が反応に困る、という顔で見ていたことは、風は知らない。

 

 その家は、住宅街から離れた場所にあった。敷地を囲う壁から家までは20メートルほどはあるだろうか?庭には木が生い茂り、さながら林の中に家が建っているような錯覚さえ覚える。

「元は農業を営んでいたそうでね。後継に恵まれずに手放した土地と家を買い取ってアトリエに改修して――僕はそれを更に貸してもらっているのさ」

 とは、今回の依頼人でありこのアトリエで絵を描いているという青年、八十村 浩介の言だ。

 自然光を多く取り入れるために一面が全部窓ガラスとなっている部屋で椅子に腰かけながら、風は視線だけで周りの壁に掛けられた肖像画を見る。

「あたしは絵の事はよくわからないんですけど……お上手ですね」

 下書きなしに描き進めるスタイルと聞いていたが、飾られた肖像画はどれも写実的で美しい。絵の具で描かれているはずなのに生命の瑞々しさが表出しているかのようだ。

「いや。ほめてもらえてうれしいな。一度スランプに陥ってから鳴かず飛ばずになったんだけど――どうにか新しい段階に進めたのかな」

 微笑みながらも、八十村は手を止める事もなく筆を走らせる。

 さすがに中学生の身では夜分までいるわけにもいかず、学業や勇者部の他の活動もある以上は何日もモデルをやり続けるわけにもいかない。八十村にもそういった風側の都合は伝えてあり、ならば素早く仕上げよう、という事で話がまとまっている。全身ではなく上半身を画題として、最初に風の肌と絵の具の肌色で色を合わせる事で大まかに描き上げ、後で細かい仕上げをしよう、という流れだ。

 長くは居られないことを謝ると、八十村は「いや。こちらこそ話を請けてもらっただけでもありがたいくらいだ」とその好青年な笑顔を崩すこともなく答えてくれた。

 そうして窓から入る光がオレンジ色になったころ。

「こんな具合、かな?」

 八十村が動きっぱなしだった腕をようやく止める。満足げに頷く様子を見ると、納得のいく仕上がりになったようだ。

「いや、本当に助かったよ、犬吠埼さん。やはりいいモデルに恵まれると、絵筆のノリもよくなるね」

「いえ。こちらこそ得難い体験をさせてもらって、ありがとうございます」

 風も立ち上がると頭を下げる。座りっぱなしなのは少々大変だったが、絵のモデルというのはいい経験になった。今後美術部からのモデル依頼が入ったらマイシスター樹や友奈にも薦めてみよう、とか思いながら。と、八十村が口を開いた。

「じゃあ、完成前だけど一度見るかい?」

「えっと、それじゃ――」

 どんな風に自分が描かれているのか、興味が無いと言えば嘘にもなる。が。

 ピンポ~ン!

 風が答える一瞬前、チャイムの音が響いた。2人揃って玄関の方を見ると、数拍おいてまたチャイム。しかも今度は連続で鳴り出す。

「――いたずらか何かですか?」

「さあ?宅配便の類は縁遠いんだが……まあ、ちょっと見てこよう」

 と言って八十村は部屋を出た。

 

 夕刻になり暗くなった廊下を、特に明かりをつける事もなく八十村は玄関に向かう。その顔は、風に見せていた人好きのする物からは一変していた。内心の苛立ちを抑えきれないように。

 未だ響くチャイムを煩わしく思いながら、ドアチェーンは外さずに玄関ドアを開く。

 その目に、白い炎が突きつけられた。

 

 八十村が部屋を出て。

 風は改めて部屋を見渡す。そっと、鳥肌の立つ腕をさすりながら。

 部屋に入った時はまだ明るかったので気にしていなかったが、夕暮れ色に染まった部屋の中で見る壁の肖像画の群れには、美しい以上に怖さが勝っている。

 実をいうなら。この家に入ってからずっと背筋に冷たい感触があるのだ。依頼人の手前明るく振舞ったが、本音を言えばすぐに立ち去りたいという感覚が消えてくれない。怪談やお化け屋敷の類が滅法ダメな風だが、この家、或いはこの部屋から感じるのはそれらとは違う、もっと差し迫った感覚だ。

 こちらからは見えないあのカンパスに自分がどう描かれたのか。興味があるのは事実だ――ソコに何があるのか、わからないのが怖い、という意味でだが。

 一度大きく息をつき、改めて肖像画を見る。

 美しいとは思う。油絵でカメラに届くほどのリアルさを表現する技術は八十村の稀なる才を示している、はずだ。モデルの生命力をも表現したその肖像画たちは、まるで生きているようにさえ感じる――感じてしまう。

(変ね。あたしってこんな事考える方だっけ?)

 直感が危険を感じ取っているようでどうにも落ち着かない。理性で考えれば、絵が生きているなど馬鹿げた事なのに。

 玄関の方から、何かが激しくぶつかる音が聞こえたのはちょうどその時だった。

「へっ?!」

 激突音はすぐに部屋まで近づくと、最後には扉が砕ける――その破片と共に転がり込んできたのは、八十村だった。闖入者と格闘の末に押し込まれ、最後に放たれた蹴りを受けて扉を砕きながら転がり込んだとは、風にわかるはずもないが。

 勢いを殺そうと1つ後転して起き上がった顔は、先ほど見た好青年の表情は欠片も残っていない。歯を剥いて眼を尖らせて戸口を睨む姿は、むしろ獣という方が近い。

「な、なにが」

 八十村の形相に数歩後退しながら尋ねるのと。

 キイィンッと、奇妙に甲高い音が響いたのが同時。未だ照明のつかない部屋に、蹴破られた扉の方から一瞬の光が差し込む。

 音に誘われて部屋の出口を見て――風は今度こそ言葉を失った。

 そこには、鈍い鉄色の鎧で身を包んだ人影があった。

 全身を覆う鎧はまるでゲームやマンガの中に出てくる西洋――300年前に滅んだ異国――の戦士のよう。部屋に踏み込んでくる足音は重く、その鎧が本当に金属製であることを窺わせる。

 右手に握られた剣は日本の刀とは違い分厚い刃を持ち、剣身とほぼ一体化した鍔からは手を守る機能を持つのか、柄と並行にナックルガードが伸びている。

 だが、なにより異彩を放つのは頭部だった。現実の西洋の騎士や兵士の、バケツやヘルメットのような兜はそこにはない。そこにあるのは、狼の頭。

「狼の、騎士……?」

 風が呟いたその言葉は、闖入者の姿をこれ以上なく正しく示していた。

 その狼の顔は一瞬風の方を見て、次の瞬間には疾風と化して八十村に斬りかかる。斬殺の現場を想像して目を閉じた風の耳に聞こえたのは金属がぶつかる音。見れば、いつの間にか八十村の手に握られたペインティングナイフが騎士の剣を受け止めていた。

 が、騎士は慌てることもなく更に一歩踏み込み、空いていた左の拳を八十村の腹に打ち込む。と同時に右手は剣を逆手に持ち替え下から掬い上げるように切り込む。八十村の着ていたシャツが引き裂かれ、その身体から液体が溢れる。

「ヒッ?!」

 風が引きつった悲鳴を上げる。だが八十村はそこで倒れる事もなく大きく後ろへ跳ぶ。助走なしに数メートルを、どす黒い――人間の血とは違う黒い血を零しながら。

「オノレ……私の芸術の――邪魔をスルナ!」

 濁ったような声で叫びながら、両手を振り上げ――近づこうとする騎士に向けて、交差するように振り下ろす。途端に、壁の肖像画から黒い腕が伸びて騎士にまとわりつこうとする。騎士は接近を止めてその場で宙がえり――しながら刃を振るい黒い腕を切り払う。さらに着地と同時に独楽のように身を翻して近づく腕を切り刻む。

 斬られた腕は霧のように散るが、肖像画の周囲には同じような黒い霧が渦巻いている。

 一度距離を取れた事で少し落ち着いたのか禍々しく口角を吊り上げる八十村に、騎士は切っ先を突きつける。

「芸術?……食事の間違いだろうが」

 兜越しのくぐもった声に、明白な怒りと侮蔑を乗せて。それが八十村の癇に障ったのか。

「キサマァァァ!」

 咆哮と共にその身体がまるで内側から弾けるように膨れ上がり――その姿は異形へと化けた。絵筆やキャンバスを中心に絵画道具を寄り集めて人型にしたような、怪物としか言い表せない姿へ。

「な、なによ、これ……」

 気づけば風は尻餅をついてその場を見上げていた。あまりの事態の急変に頭がまるでついていけない。

 そんな風を捨て置いて、怪物と騎士が切り結ぶ。肖像画の群れからの腕、怪物から放たれるドブ色の液体(絵の具だろうか?)、手に握られたパレットナイフやペインティングナイフらしき凶器が騎士に襲い掛かるが、騎士は踊るようにその全てをいなし、怪物に肉薄――が、怪物の方も身軽に天井まで跳んで刃の間合いから逃れる。そんな攻防が瞬く間に繰り広げられる。

 尻餅をついたまま窓の方へと後ずさる風は、途中でふと視線を感じた。そちらを見ると、乱闘の中で床に転げたのだろうイーゼルと、そこに乗った自分の肖像画がある。仕上げには確かに遠いのだろうが、そこには確かに風の上半身が描かれていた。

 そんな、キャンバスの中の風が、絵の中から現実の風を睨む。絵だと思っていたソレが、実は人間でした、とでも言うように。

 更には絵が動いて両腕を前に突き出すと、それは黒い霧のように伸びて風を絡めとり、キャンバスへと引きずり込もうとする。

「い、イヤァァァッ!」

 悲鳴を上げながら風は悟る。八十村の肖像画が生きているように見えたのは、間違いではない。絵は生きているのだ――自身のモデルを引きずり込んで、絵の中に閉じ込めて。

 態勢が悪いせいで風は踏ん張る事も出来ない。キャンバス――いや、キャンバスに見えるナニカが迫るのに為す術もない。

 だから。風が助かったのは騎士の刃のおかげだった。

 悲鳴を聞くや騎士は自身の剣を風を掴む腕へと投げつけた。まっすぐに飛んだ剣は腕を刺し貫き風を解放する。

 代わりに、それまで怪物の攻撃を阻んでいた剣が手元から消えた騎士は怪物の攻撃を徒手空拳で阻むしかなかった。霧の腕は殴られたくらいではものともせず、逆に殴り掛かった左腕に、そして脚に絡みつき、騎士の動きを封じる。

 その様子に怪物はニンマリと笑う――もはやその形は人間の物とはかけ離れているのに、そういう気配が伝わる。

「バカメ。剣ヲ捨テルトハナ」

 その声は禍々しく濁っていて――しかし八十村の物とわかる。先ほど騎士からぶつけられた侮蔑をそのまま返すように怪物は動きを封じられた騎士に嬲るように近づく。

「驚カサレタガ、所詮半人前ノ魔戒騎士ダッタカ」

 その余裕からか。騎士の空いた右手が一瞬動き、1枚のカードを取り出すところを見落とした。右手を振り上げカードを握りつぶすと、光と衝撃が周囲に走る。

「グオッ?!」

 霧の腕はその衝撃で霧散。自由を取り戻した騎士は即座に剣の下へ駆ける。壁の肖像画からの腕が遅れて騎士の後を追うが、剣を拾いなおす方が早い。そのまま身を翻して刃を一閃。腕の束をまとめて薙ぎ払う。

 のみならず風の襟首をつかむと、風を上に放り投げつつ窓に向かって剣を振りぬく。その剣圧により――有り得るとすれば――窓ガラスがまとめて砕け散る。

 その様子を、スローモーションとなった視界で風も見ていた。自分を捕まえようとしていたのだろう霧の腕が、放り投げられた自分の下を通り抜けるところも。剣を振りぬいた騎士が更にもう1回回転して回し蹴りを放とうとしている様子も。その蹴りがちょうど自分が落ちる軌道に重なる事も。

(ちょっ?!)

 見えていても避ける事は出来ない――何しろ空中にいるのだから。せめてもと自分を抱きしめるように腕を回すのと、蹴りが風の胴体に打ち込まれるのはほぼ同時。

 そのままアトリエの外まで蹴り飛ばされ、地面にバウンドして中庭の木に叩きつけられる。

「ゴホッ、ゲホォ!」

 激痛と、肺から空気が絞り出されるような息苦しさでむせる。視界は涙で滲み、意識は苦痛で閉ざされようとする中で何とか顔を上げると、アトリエの天井が爆発したように砕けたのが見えた。

 黄昏の空に浮かぶ不似合いな黒――怪物の異形。だがそれは次の瞬間には両断されていた。狼の騎士が振るった剣で。夕日を浴びて、その鉄色の鎧は橙色に染まっている。まるで――

(炎……) 

 怪物が塵と化す中、風の意識も闇に落ちていく。その一瞬前、コートを羽織った男の姿が見えたように、風には思えた。

 

 次に意識が戻った時。風は病院にいた。

「あれ……?」

 ベッドの上で起き上がると身体のあちこちが痛むが、見る限り大きな怪我はなさそうだ。と、病室の扉が開き、

「お姉ちゃん!」

 目を覚ました風を見つけて、泣きはらした顔の樹が抱き付いてくる。

「あ、樹?ってイタ、イタタタ!」

 加減無しに抱き付いてきたせいで痛みが走るが、樹は構わずに抱きしめ続ける。そんな騒ぎに、廊下から更に覗き込んでくる顔があった。

「あ!風先輩起きたんですね!よかった~!」

「安心しました。樹ちゃんから急報が届いた時はどうしたものかと……」

 制服姿の友奈と美森が病室に入ってくる。美森は車椅子だが、神世紀300年の病院はバリアフリーも極めて進んでいる。2人も目を覚ました風を見て心から嬉しそうな表情をしている。

「友奈に、東郷?えっと、あたし、何が?」

 なんで自分が病院にいるのか、風にはわからない。起きる前の記憶では、自分は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()覚えていない。

 そんな疑問に答えたのは、最後に入って来た涛牙だ。

「依頼人の――八十村、だったか?のアトリエでガス爆発があったそうだ。で、犬吠埼はそれに巻き込まれて担ぎ込まれた――だったか、樹?」

「ガス爆発……?」

「そうだよ!ホント、お医者さんから急に電話が来て、お姉ちゃんが意識不明で入院って!」

「あ~、そうだったの?」

 全然覚えていないので、風としてもそう答えるしかない。涛牙は1つ頷くと、

「まあ、怪我は大したことないらしい。気絶も頭を打ったわけでもないそうだ。明日には帰宅して構わない、と」

 壁にかかった時計を見れば、時刻はすでに夜8時を回っている。そこそこ長い間気を失っていたらしい。

「そっか……ごめんね樹。心配かけちゃって」

「うん――本当に心配したよ」

「わたしたちも心配しましたよ、風先輩!」

「まさかこんな事が起こるなんて、思いもよりませんでした」

 友奈や美森もベッドに近寄り風の手を握ってくる。見れば樹だけでなく2人も瞳は涙で潤んでいる。

 涛牙は一歩離れたところで様子を眺めているが、感極まった様子こそないものの普段より少し緩んだ表情は、安堵している内心の現れのようだった。と、涛牙の表情が少し変わる。片方の眉が少し上がり眉間に皺。更に軽く首を傾げる。

「お姉ちゃん?」

「――へ?」

 樹の声にふと我に返る。

「なんで、涛牙先輩を見てるの?」

 言われて、自分が涛牙をじっと見ていたのだとようやく気付く。だが、風にしても何故涛牙を凝視したのかはまるで分からない。

「あー、なんだろ。ボーッとしてたみたい」

「起きたてだからな。まあ、今日は養生するといい。では俺はこれで」

 言うと、涛牙はサッサと踵を返して病室を出ていく。背中越しに軽く右手を振ったのはバイバイのつもりなのかもしれない。

「――もう、涛牙先輩はなぜこうもさばさばしているのかしら。御国の男児たるもの情に厚くあるべきだわ」

 美森が少し怒ったようにいう。基本的にドライな涛牙と、大和魂を重んじ情緒を好む美森はあまり反りが合わない。

「ま、白羽くんはあんなモンでしょ」

 涛牙とは勇者部を設立した頃からの付き合いだ。長いとはいえないが、涛牙の人となりは多少わかる。

 口数少なく表情もあまり変わらないので冷たい人間と思われがちだが、他人を突き放しているわけではない。以前、幼稚園で園児たちの遊び相手を依頼されたことがあったが、その時涛牙は園児たちに囲まれて無表情ながらアタフタしていたが追い払ったりはしなかった。思うに人付き合いが得意ではないのだろう。

 今回も、きっと知らせを受けてからずっと不安だった樹たちが風とたくさん話せるようにしたのだろうと、風は思う。

 それはそれとして。

「明日には退院ってことだけど――樹、今夜は大丈夫?1人で寝られる?」

 家事全般がダメで朝起きるのも苦手な樹の心配の方が重要だ。幸いというべきか、明日は休みなので起床については今は心配しなくてよいが。

 聞かれて、樹はあ~、と苦笑いを浮かべた。

「……その、ちょっと、怖いかな……。あと、お料理も」

「夕飯のおかずはまあ作り置きがあるけど。でも樹が夜の家で1人、ってのはあたしも気になっちゃうわね」

「じゃあ、樹ちゃん、今日はわたしか東郷さんの家でお泊りだね!」

 早速友奈が食いつく。美森も少し考え込む――フリをして、

「私の家なら、樹ちゃんと友奈ちゃんが揃って来ても大丈夫よ。お部屋も布団も用意できるわ」

「決まりだね!東郷さん、お邪魔しま~す!」

「え、え?え!?」

 瞬く間に埋められていく外堀に樹の方が目を白黒させる。半ば予想通りの流れに苦笑して、風も樹の背中を押してやる。

「ほら。お世話になるんだから 樹も東郷にお礼いいなさいな」

「え?いいの、お姉ちゃん?」

「モチのロンよ。仲を深めるいい機会だと思いましょ」

 風に言われて、樹も心が決まる。1人で夜を過ごすことになるかも、と内心怯えていたのだからむしろ渡りに船と言える。

「じゃ、じゃあ東郷先輩。今夜はよろしくお願いします!」

 

 それからしばし雑談に花を咲かせてから、友奈たち3人も病室を後にした。

 改めてベッドに横になれば、眠気が押し寄せてくる。一度気絶したから眠くならないかとも思ったがそうでもないらしい。

 ぼんやりと睡魔に身をゆだねながら、ふと、風は思った。

(そういえば、幼稚園の人形劇ってもうすぐだっけ……)

 週が明けたら練習しないと。そう思いながら、風は再び眠りの世界へ旅立っていった。

 

 ――八十村 浩介が消息不明となった事。そしてアトリエの跡地から、数か月前に行方不明になった女性の所持品が見つかった事を知るのは、数日後の話だ。

 




「牙狼」のクロスオーバー作品なのに出てきた騎士が黄金でないというこの詐欺具合よ……
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