結城 友奈は勇者である 神の揺り籠   作:ヴィルオルフ

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結城 友奈の章、ようやく折り返し。



第20話「エクストラ・ステージ(終わらざる戦い)」

 9月。楽しかった夏休みも終わり、讃州中学は2学期に入った。

 勇者部も夏休みモードから平常運転へ戻り、生徒や近所から入る依頼を請け負っていく。

 

「それじゃ風先輩、行ってきまーす!」

「お~う。よろしく友奈。樹も頑張ってね!」

 風の声援を受けて頷き返して、樹と友奈は校外へ。

「じゃ、そろそろあたしも」

「頼む」

 夏凛は剣道部からの稽古相手に。

「風先輩。今日はみんな現地解散でしたね?」

「うん。友奈と樹は遅くまで掛かりそうだし、剣道部も夏凛が腕利きだから熱が入るらしくてね。東郷の資料整理は早く終わりそう?」

「はい。ですがそういう事なら、私も終わったら友奈ちゃんに合流しようと思います」

「あー。集中し過ぎると時間が過ぎるの忘れるからねぇ、友奈は。じゃそっちはお願い」

「お任せください。東郷 美森、これより活動を開始します」

「うむ。ご苦労!」

 そんな小芝居をして美森も今日の部活へ出発する。

 涛牙は今日は特段予定はなく、風は文化祭に向けた演劇の台本作りをする予定だ。

 

 そうして手元の原稿用紙に向き直って。

 風は、にこやかに保っていた表情を消す。それは台本に集中するため――ではなく。

「ねえ、白羽くん」

「ああ」

「バーテックスの残党、来ないわね」

「そうだな」

 終わったはずの御役目にまだ部員たちを付き合わせなければならない。その後ろめたさからの無表情だった。

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 事の始まりは、夏休みも終わりに近づいたある日の事。風のスマホに入った大赦からのメールだった。

 

『敵の生き残りを確認。次の新月より40日の間で襲来――』

 

 風からの連絡を受けた涛牙と共に部室を訪れた風が見たものは、ジェラルミンケースに納められたスマホ。以前自分たちが使っていた、つまりは勇者システムが入っているソレ。

「嘘、なんで……。バーテックスは、全部倒して……」

 豪華な食事と温泉旅館でのリラックスからまだそう日もたっていないのに、この急転直下。慄きながら言う風の肩に手を乗せて、涛牙は鋭く言った。

「大赦が把握していた全部、だったんだろう」

「でも!それって神樹様からの神託なんでしょ?!それで分からないって!」

 言い募る風に、涛牙は小さく首を振る。

 

「神樹様は、万能じゃない」

 

 確かに神樹は今の世界の要。その恵みが与えられることで四国に住む人々は何不自由ない生活を送れている。まさしく神の所業と言えるだろう。

 だが、逆に言えば神樹の力で出来るのは四国の維持だけ。バーテックスを倒すには、神樹の力を揮える勇者が必要だし、そもバーテックスの発生源とされる、かつて全世界に広がった殺人ウイルスを駆除することも出来ていない。万能とは言えない。

「見落としがあった――そういうこと?」

 風の言葉に頷き返す。そして涛牙は静かに告げた。

「――戦いは、終わっていない」

 

 

 

 

 翌日、部室に召集された勇者部の面々は、風から御役目の延長を聞かされた。

 終わったはずの戦いに、脈絡なく告げられた延長戦。

 聞かされてすぐは、みな困惑した表情を浮かべていたが。

 

「まっそいつを倒せば済む話でしょ?生き残りの1体や2体どんと来いよ!」

 

 夏凛の勝気な言葉が停滞した空気を打ち破る。

「そうだね!この間の一斉攻撃だって何とかなったんだし!」

「残党、というからにはそう多くもないでしょうしね」

『勇者部五箇条、なせば大抵なんとかなる!』

 キリ、と表情を引き締めた樹が掲げたスケッチブックの言葉に、風は心から感動した。勇者の御役目が始まってからこっち、樹がどんどん頼もしく成長している。

「いきなりな事なのに――ありがとう、みんな」

 ならば。みんなが怖気ず勇気を示すならば。勇者部部長にしてチームリーダーたる風自身が引っ込んでいては始まらない。

 

 窓際に立ち、風は外に向けて声を上げた。

 

「よーしバーテックス! いつでも来なさい!!」

 

 

 

 

 といった事があったのが、夏休み中の事。

 2学期が始まってもうすぐ2週間。バーテックスの残党とやらは未だ現れない。

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

「――全然来ないね、バーテックス」

 あくる日。美森の車椅子を押しながら、不意に友奈が呟いた。

 何の前触れもなしに襲来されるのも嫌だが、来ると予告されておいて来ないでいられるのもそれはそれで気になってしまう。

 そんな、普段より少し表情のすぐれない友奈に、美森は微笑みながら言う。

「敵を気にしすぎるのも良くないわ、友奈ちゃん」

「東郷さんは落ち着いてるなぁ。どうしたら落ち着いていられるの?」

「そうね……。やはり、かつて国を守り戦った英霊たちの記録を見返して、常在戦場の気持ちを心掛けているからかしら?友奈ちゃんも良ければうちで見る?」

「出、出来れば分かりやすくアニメになってるのがいいな~」

 

 などと話しながら、2人は部室へ入る。

「結城 友奈入りまーす!」

「こんにちは」

 部室には、すでに友奈たちを除くメンバーが集まっていた。

「お!2人とも来たわね」

「ウィーッス」

『ウィースです』

「全員そろったか」

 各々挨拶しながら定位置に付く。

 

「さて。今日は特に依頼が入ってないのよね。東郷、ホームページの方は?」

「えぇと。風先輩、こちらも今日は何もなしです」

「なんだ、じゃあ今日はやる事なしね」

「依頼の方はね。じゃ、今日は文化祭に向けた準備を進めましょうか?」

 

 そう話す風と、部屋の隅でジッとしている涛牙を見て。美森は胸中で不審を募らせていた。

(もう、この間の決戦から1ヶ月以上経っているのに、誰も不調が治っていない)

 美森自身の聴覚、風の視力、友奈の味覚、樹の声。

 激闘による過労と医者から説明を受けていたが、ひと月経っても回復しないというのはおかしい。

 医者が誤診した?

 ありえなくはない。だが、幾度かの検査でそれとなく聞いても「身体に異常はありません」の一点張り。

 

 そして、おかしい事はもう1つ。

 

「あわわ?!また出てきちゃった!?」

 友奈の慌てた声にそちらを向くと、友奈の傍には牛鬼と、そして手足が燃えている猫のような精霊が現れていた。これは『火車』。今回渡されたスマホと共に友奈が手にした、新しい精霊だ。

 牛鬼と違って素早い火車を友奈が追いかけているうちに、その騒ぎに触発されたのか皆の精霊も次々に飛び出してくる。

 

 風のスマホからは、犬神と、名の通りイタチのような姿をした『鎌鼬』が。

 樹のスマホからは、木霊と、鏡を頭上に乗せたような姿の『雲外鏡』が。

 美森のスマホからは、青坊主、刑部狸、不知火、そして新たな精霊である『川蛍』が。

 夏凛のスマホからは、義輝が。

 

 飛び出し、好き勝手に動き回る様子は、さながらお遊戯の時間の幼稚園の如く。美森の号令で、美森自身の精霊は整列出来るが、それほどの躾をしているのは美森くらいのようだ。

 

(これも、おかしい)

 

 整列して落ち着かせた自分の精霊を見ながら、美森は考える。

 なぜ、精霊は増えた?精霊は勇者の武装を司ってもいる。事実説明書を確認すれば、美森の使える武器に浮遊砲台が加わっていた。他の面々も新機能が追加されているのだろう。

 

 ならば、なぜ夏凛には精霊が――新しい機能が追加されていない?例えば遠距離攻撃が出来るようになれば、夏凛はより強力な勇者となれるのに。夏凛だけ強化しないのはおかしい。

 

 自分たちと夏凛の違いは?完成型勇者であるか否か?訓練を受けているか否か?或いは――満開しているか否か。

 

 そういえば、満開することで勇者はより強く神樹様の力を揮えるようになるという。精霊や使える武器の増加が、勇者の強化といえるのなら。

 

 満開をした自分たちとしていない夏凛。身体に不具合が起きた自分たちと起きていない夏凛。精霊が増えた自分たちと増えていない夏凛。

 嫌な符号が重なっていく。

 

「ってギャアァァァァァ!義輝ぅぅぅ!」

「ああっ!ダメだよ牛鬼!食べちゃダメ!」

「友奈……。東郷ほどじゃなくていいから、精霊を躾ときなさい」

 

 大騒ぎしている他のメンバーを眺めながら、美森は嫌な考えが膨らむことを止められなかった。

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 どうにか全ての精霊を落ち着かせて。誰ともなしに大きく息をつきながら、ふとした様子で風が口を開いた。

「犬神たちが戻ってきて賑やかなのもいいけど、こうバーテックスが来ないと不安にもなるわね」

 その言葉に、樹も困った表情で頷く。

「神託で、いついつ来ます、って分からないかな?」

 友奈の疑問に口を開いたのは涛牙。

「以前も、いつ来るか分からなかっただろう?」

「ですよね~」

 グダる友奈に、今度は夏凛が言う。

「ま、あたしの勘では来週辺りが危ないわね」

「勘、かぁ」

「何よ?昔から言うでしょ、女の勘は当たるって」

 まして自分は完成型勇者だ。戦いの勘は鋭い、はず。

 そう続ける夏凛に苦笑いを浮かべながら風は会話に入ろうとして。

 勇者のスマホから流れてきた『樹海化警報』が、勇者たちの平穏を打ち破る。

「えぇっ!?」

「噂をすれば、ね」

「狙ったようなタイミングで来ちゃったわね」

 ぼやくように言って、しかし風は、そして他の勇者たちも顔を引き締める。

「いよいよね。バーテックスの残党、きっちり殲滅してやるわ!」

 夏凛の宣言に勇者一同頷き、そして――。

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

「狙ったようなタイミ」

 涛牙が聞き取れたのは、そこまで。勇者たちは神樹の力で時間が止まった中でも動けるが、涛牙はそうはいかない。

 そして、世界が終わっていないなら、勇者の勝利で戦いも終わっただろう。

「……茶でも入れておいてやるか」

 美森が牡丹餅をよく持ち込むので、勇者部部室にはいつのころからかポットと湯呑と茶葉と急須が揃った。牡丹餅と合わせて出せば疲れも和らぐだろう。

 そう思って涛牙が準備をしていると、不意にバタバタという足音が聞こえてきた。

「?」

 焦ったような気配を感じて涛牙が眉を顰めると、同時に部室の扉が音を立てて開かれる。

 そこにいたのは、やはり焦った表情をした風。

「どうした?」

「……友奈と、東郷は?!」

 慌てふためいて辺りを見渡す風に、さすがに剣呑なものを感じとる。

「ここにはいない。何があった?」

 涛牙の質問に、答えてきたのは夏凛だった。こちらも焦った表情をしているが。

「戦いが終わって帰ってきたら、友奈と東郷がいないのよ!」 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 樹海が解除される光に瞼を一度閉じて。

 友奈が目を開くと、そこは見慣れた讃州中学の屋上ではなかった。屋上の物と似た祠があるが、それ以外は見たこともない景色だ。

「あれ?……どこ?」

 覚えのない風景に首を傾げる。次いで周囲を見渡すと、車椅子に座った美森がいた。――美森しか、いなかった。

「と、東郷さん。ここ、どこか分かる?それに他のみんなは?」

「……いえ。私にも分からないわ」

 言いながらスマホを取り出し、現在地を確認しようとする。友奈も、こちらは風たちに連絡を取ろうとスマホを取り出して、しかし端末が何も反応しないことに気づいた。

 

「電波が、入っていない?」

 異常の原因に気づいた美森が呟く。だが、今の四国で電波が届かない場所などそう思いつかない。

 訝しみながら改めて周りを見ると、遠くにひしゃげた橋のシルエットが見えた。

「あれは……瀬戸大橋?2年前に事故で壊れた……」

 とすれば、讃州市からはそこそこ離れている。なぜこんな場所に?

 

「よかった~、うまく行ったね~。会いたかったよ、わっしー」

 

 不意に、知らない声が聞こえた。

 柔らかく、のんびりとした少女の声だ。

「え?」

 声の出処を探ると、友奈たちからは祠の陰になった位置に、大きなベッドがあった。

「ええっ?!」

 さすがに驚いて、友奈はつい大声を出してしまう。だがそれも仕方ないだろう。そのベッドは、まるで病室にあるようなベッドなのだから。

 どう考えても、外に置くようなものではない。

 

 そして、そのベッドに横たわる人物の姿に、今度は友奈と美森は息を呑んだ。

 見える限りではほぼ全身を包帯に覆われ、口元と左目だけが露わになっている少女の姿を見れば、そうもなる。

「あ、あの」

「あなたたちが戦っているのを感じていてね~。こっちに来てーって呼んでたんだよ。うまく行ってよかった~」

 それは、友奈たちの身に起こった事の説明だったのだろう。美森を見ると、ひとまず納得できた、というように頷いた。

「あの!あなたが、わたしたちをここに連れてきたんですか?」

 

「うん、そうだよ~。私、あなたたちとお話がしたくてね~」

 それはつまり、この少女は、神樹様の力に手を出せる、ということだろうか?途方もない事を聞かされながら、ひとまず友奈は会釈をした。

 

「あ。あの、えっと……。わたし、結城 友奈って言います!」

「……私は」

 

「東郷 美森、さんでしょ?」

 

 名乗るよりも先に名を当てられて、美森が身体を震わせる。なぜ、私の名前を?

「えへへ~。一応先輩だからね~。後輩の名前くらいは知っておかないと~」

 先輩、後輩。

 そう言われても、友奈はこの少女に心当たりがない。自分の知る限り、身近にこんな大怪我を負った人はいない。

 では、美森か?そう思って美森を見るが、美森も首を横に振るだけだ。

「ああ。まだ名乗ってなかったよね。私は、乃木 園子」

 そうして、少女は自身が何者かを告げた。

 

「2年前に勇者として戦った――そう、先代勇者、ってところかな」

 




風のズンドココースターまで、もう少し。
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