結城 友奈は勇者である 神の揺り籠   作:ヴィルオルフ

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2020年最後の投稿となります。

ようやっと友奈の章の山場に入る事が出来ました。2020年中にここまで来れてよかったです。
・・・ええ、亀の如き更新速度でスイマセン。


第21話「メイズ・ワンダラー(さ迷う願い)」

 昨日とは打って変わって、低い雲が立ち込める空の下。

「先代勇者……?勇者は死なない、代わりに――身体を供物に捧げる?」

 友奈と美森から昨日起きたことを聞かされて、風は力なく呟いた。

 

 昨日。バーテックスの残党襲来を――多少のトラブルもあったものの――危なげなく撃破した後、友奈と美森が讃州中学の屋上に戻されなかった。

 NARUKOにメッセージを入れても反応はなく、電話を掛ければ圏外。陽も沈んで警察や大赦に連絡しなければ、となった頃にようやくNARUKOに返事があって安堵したのもつかの間。

 風にだけ、普段は使わないメールを通して入ったメッセージ――「明日朝、屋上で」

 美森からのその連絡に従って屋上を訪れて、風は、友奈たちから昨日の説明と――彼女たちが聞かされた事実を伝えられた。

 

 風の呆然とした呟きに、美森は一つ頷いてから話を続ける。

「決戦の後――いいえ、『満開』を使った後、私たちの体はおかしくなりました。お医者様たちは過労による一時的なものと仰っていましたが、あれからふた月経とうというのに治る様子はありません。そして彼女、乃木 園子によれば、この身体機能の一部欠損は『満開』の代償。莫大な力を得る代わりに身体機能を供物として差し出す『散華』によるものだと」

 美森の言葉に身体を震わせながら、傍らの友奈を見ると、友奈もまた強張った顔で頷いた。

 

「で、でもさ。そんな、先代勇者なんて聞いたことないし。その、園子さん?の妄想だとか」

 いささか失礼だと感じつつも、風は反論する。自分が大赦から聞いていた説明では、以前のバーテックスは追い返すので精いっぱいで、倒すためにこそ勇者システムが生まれた。そのはずなのだから。

 だから、自分たちが初代勇者。自分たち以前の勇者はおらず、故に先代勇者などいない。

 そんな思いは、しかし。

 

「乃木 園子は言っていました。自分たちの時は、追い返すので精いっぱいだった、と。神――神樹様に見出されるのは無垢な少女のみ、穢れなき身だから大いなる力を宿せるとも」

 

 美森の言葉に退けられる。その説明は、自分が大赦から受け、春に自身も勇者部部員たちを前にした説明と同じだったから。

「なにより、話の最中に現れた大赦の神官たちが、乃木 園子の一声で平伏したんです。彼女は大赦でも崇め奉られる立場だと言っていました。本来神樹様をこそ崇める大赦が、個人をそれほど崇めるという事は」

「……何度も満開して、身体のほとんどが神樹様への供物になった。だから、神樹様に近しい存在になった?」

 美森の言葉を先取りすると、美森はハイと返す。

「満開を繰り返すと、より神樹様の力を授かれる。勇者システムの解説にはそうありましたが、その意味するところは、そういう事ではないかと」

 つまり、身体の一部が神樹様の供物となるから、神樹様から与えられる力も増える。そういう事か。

 そして、その可能性はすでに示されている。

 夏凛以外の勇者は、精霊が増えた。『満開』した勇者たちは。

 

 背筋を這い上がる冷たい気配に身体を震わせながら、しかし風は一度大きく深呼吸する。騒ぎ出そうとする感情を、どうにか抑え込む。

「それ、樹や夏凛には話した?」

 確認のために尋ねると、ここまで口を閉ざしていた友奈が答える。

「いいえ。まずは風先輩に相談をって」

 その言葉に、ホッと胸をなでおろす。

 

 出てきた話はあまりに重大すぎる。今聞かされたばかりの風も、そして友奈や美森も。もたらされた情報をどう受け取ったらいいのか分からず、持て余している。

 

 ならば。

 

「じゃあ、2人にはひとまず話さずにおいて。確かなことがわかるまで、不安にさせたくはないのよ。アタシはこれからも大赦に問い合わせて、何かわかったらすぐに連絡するわ」

 ひとまずは現状を静観することを伝える。

 

 実際のところ、乃木 園子からの情報は真偽の確認も出来ていないことではあるのだ。美森の話に出てきた神官たちも、園子の仕込みでないとは言い切れない。

 友奈と美森も、迂闊に話を広げる気にはなっていなかった。風の言葉に2人も頷き、

「それと、涛牙先輩にも内密に」

 硬い声で付け加える美森に、風は顔をしかめる。

「え、なんで?」

 その問いに答える美森の顔は、ひどく厳しかった。

「涛牙先輩は、大赦から送り込まれた人間です。それも、自分は戦わずにいます。彼は、補佐という名目で私たちを観察、いえ、監視する人間ではないですか」

 そんな美森の不信を拭うことは、風にはできなかった。その材料も、なかった。

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 友奈たちから『散華』の事を聞かされて数日。

 何かの歯車がかみ合ったかのように、風の下には心を痛める出来事が立て続けに起きた。

 

 例えば、廊下で樹がクラスメイトらしい女子たちとやり取りしているのを見かけた。  

 女子たちが残念そうな顔をしてその場を去っていくのを見て、気になった風は樹に声を掛けた。

「今のって、クラスの友達?」

 気づいた樹が頷くのを見て、風は後を続けた。

「なに、遊びに誘われたの?行ってきたらいいのに」

 妹に友達が増える事は風にとっても嬉しい事だ。なのでそう促すと、樹は手元のスケッチブックに文字を書き込み、それを見せてきた。

『カラオケで歌うのが好きな人たちなんだ』

『私がいると、気を使ってカラオケ行けないから……』

 そんな樹の表情は、微笑んでこそいるが寂しさが隠し切れないほどに滲んでいて。

 風は、そんな樹に何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 例えば、樹の担任から話があると呼び出され、

「樹さんについてですが、一部の授業に支障が出ております」

 と、衝撃的な一言を告げられた。

「えっ?! あの子が、誰かに迷惑をかけたんですか……?」

 樹に限ってそんな事は、と前のめりになる風に、教師はひとまず落ち着くように言ってから、

「いえ、樹さんご自身についてで……。音楽の時間に歌の練習が出来ませんし、他の授業でも教科書の音読や指名からの発表に問題が……。ある程度は対応出来ていますが、今後も続けられるか、となると……」

「……………」

 教師の言葉に、風はただ俯くしかできない。

 音楽は言うに及ばず、他の教科でも質問に答えたり意見を発表したり。声を出す必要がある場面はいくらでもある。

 樹から何も言ってこないのは、教師が不自然にならないように努力しているのだろう。だがそれもいつまでも続けるわけにもいかないし、いつかは樹自身が気づく。

 それを理解して、風に出来る事は、ひとまず樹とも相談してみると伝えることくらいだった。

(大丈夫……。きっと、治るから……!)

 そう心で繰り返す風は、自身の足元が覚束なくなっている事にも気づけなかった。

 

 

 

 

 

 そして、つい先ほどだ。

 

 以前、犬吠埼家の食卓は賑やかな声が飛び交っていた。お互いに今日あった事を話し、或いは取り留めのない会話を重ねながら食事をとっていた。

 決戦以来、そんな風に会話が弾む事はなかった。樹が声を出せなくなり、スケッチブックで筆談するしかないとなれば、無言の時間になる事は避けられない。

 

 ここ数日続いた心配事に加えてそんな重苦しい気配が漂うことに、風の方が耐えきれなかった。

 なんとか盛り上がる話をしようとして、口を開く。

「あー、えっとさ!」

「?」

「ほら、ここんところずっと天気良くないじゃない?折り畳み傘とか、用意してた方がいいわよ?いつ降るか分かんないし!」

 言われた樹はコクコクと頷くが、結局それ以上は会話が広がらない。なんとかしようと、風は別の話題を出した。

「あ~……。そういえばさ、文化祭の劇、そろそろ練習を始めないとね!」

 だが、風は気づいていなかったが、この話題こそが地雷だった。

「……………」

 浮かない顔をした樹に、風も怪訝な表情を見せる。

「ん? どしたの樹?ハッ!まさかアタシの脚本がダメダメだとか?!」

 そんな風に、樹は迷ったような様子を見せて、しかし箸をおいてスケッチブックに言葉を綴る。

 

『私、セリフのある役はできないね』

「……あ、そっか……」

『だから、舞台裏の仕事をがんばるね』

 健気な樹の態度に息を詰まらせる風は、どうにかして妹を励ます。

「だ、大丈夫だって! 文化祭までには治るよ!」

 そんな風の励ましに返ってきた樹の頬笑みは、しかし、どこか余所余所しい、取り繕ったような笑みのように風は感じた。

 

 

 

 

 

 夜も深まり樹が寝静まったのを確かめてから、風は鏡に映った自分の顔を見つめる。

(治らないなんて、あってたまるか。絶対に、治る)

 そう自分に言い聞かせるが、しかし鏡の中の自分の左目は、退院した時と変わらず光を映さない。

(何も悪い事なんてしてないのに……。そんなのってないわよ)

 樹だけではない。友奈も美森も、顔も知らぬ多くの人々の平和を守る為にあんなに頑張った。

 見上げるほどの巨体を誇示するバーテックスに立ち向かい、誰に知られることもなく世界を守ったのだ。

 そんな、命を賭けて頑張ったみんなに待っているのは平和で幸せな未来であるはずだ。

 

 そう、御役目を果たした自分たちに神様が報いてくれないはずはないのだから。

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 そうして迎えた週末。風は努めて普段通りに家事を行っていた。

 朝に弱い樹がノロノロと起き出せば着席した樹の前に暖かいミルクコーヒーを差し出し、樹の頭が回転しだしたころにオムレツとトーストを出す。

 普段と変わらない休日の朝だ。

 

 違いがあったのは、それからしばしして。正午になろうかという頃だった。 

 さて昼食の後はどうしようか、久しぶりに樹とショッピングでも行こうかしら、などと考えていた風の肩を、樹がポンと叩く。

「ん?どしたの、樹?」

 なにやらリクエストが?と思って振り向くと、樹が手にしたスケッチブックにはある一文が。

『これからちょっと出かけて来るね。お昼は外で食べるから』

「うん、OK。気を付けるのよ?」

 うん、と頷く樹に、風はふと気になった。

 確かこの間、クラスメイトに誘われたのを断っていたような。

「あ、樹。出かけるって、この間見たクラスの人と?」

 聞くと、樹は首を横に振った。

 では、散歩だろうか?それにしては時間が半端というか、微妙というか。

 

 まさか。

 

「ま、まさか樹、デ、デデデ、デートとか?!」

 不意の思いつきに、つい樹の肩を掴んでしまう。

 小動物的な可愛らしさを全方位に振りまくマイシスターだ。引っ込み思案が改善された樹のラブリーさに死角はない。ならば異性とのお付き合いがあっても不思議ではない。

 そんな事を考えながら樹ににじり寄る風の目は血走っていた。肩を掴まれた樹としては、如何に尊敬する姉と言えど正直怖い。

 思いっきり首を振って否定すると、風も正気に戻ったのか一つ大きく息をついて肩を離した。

「そ、そう。それならいいわ。改めて気を付けてね。あ。もしも男子との付き合い方に困ったらアタシに言いなさいね?讃州のビーナスと呼ばれるアタシの女子力に掛かれば樹の悩みは軽く吹っ飛ぶわ」

 そんな風に、心底困ったような――そんな異名で呼ばれたことないよね?とでもいうような――苦笑いを浮かべて、樹は出かけて行った。

「そっかぁ、デートとかはまだ早いかぁ。でも樹ならすぐに彼氏が出来そうよね」

 そんな事を呟いていると、風のスマホにメールが届いた。

 差出人は――東郷 美森。

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 ドアを開けると同時に、ベルが小さくなる。

 店の入り口には『OPEN』の看板がかかっていたし、そもそも相手から指定された場所がここなのだから気後れする必要はないはずなのだが、陽が差し込んでいるはずなのにどこか暗い気配を漂わせる店内は、なぜか居心地悪く感じてしまう。

 さて、どこにいるのだろうかと顔を巡らせようとするのと。

「時間通りか」

 声を掛けられるのは同時。

 声のする方を見れば、自分に背中を向けたままの姿勢で少年が座っていた。ちょうど少し早めの昼食を食べていたようだ。

 

(何で分かったんだろう)

 犬吠埼 樹はふとそう思う。

 確かに今の時間に会って話をすることはお互い承知していた。だから分からないこともないのかもしれない。この時間にお客さんがいないというなら猶更だ。

 だが、本当にそれだけだろうか?

 前々から、この先輩は何か変だと思っていた。いつも自分たちの後ろに控えていて何くれと手を貸してくれる、頼りになる人だ。

 

 まるで、いつ何時でも自分たちの様子を伺っているかのように。

 

 それでいて、不審を感じないのも不思議ではある。監視というよりは――見守っているような。

 

 そうした気になる事はひとまず置いておくとして、樹は時間を取ってもらったことに頭を下げる。

 樹が頭を上げると、ちょうど少年がこちらに向き直るところだった。

「それで、相談というのは?」

 かすかに眉間にしわを寄せて。白羽 涛牙は問いかけた。




話のタイミング的には、ちょうどダウナー展開に落ち込む手前のところで年越しとなりましたね。
来年もどうかこのお話しにお付き合いください。
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