結城 友奈は勇者である 神の揺り籠   作:ヴィルオルフ

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春ですね。桜はずいぶん前から咲いていますが、昨年同様外で楽しむ気持ちになれないのは残念です。

仕方ないから家の中で過ごしましょう。
ちょうど春だから新作アニメがドシドシ始まってるしね!


第25話「ブラッド・ブレイド(神威喰らう刃)」

「――クナガァァァァァァ!!!」

 獣の如き咆哮と共に、涛牙は疾風と化して飛び出した。

 ただ一足で距離を詰め、剣を抜きざまに切りつける。

 対する黒尽くめ――クナガと呼ばれた男は、軽い仕草で樹と風から刃を引き抜くと一歩前に出て涛牙の斬撃に自身の得物――緩やかな弧を描く刀を割り込ませた。

 剣と刀が激突し――大気が震えるほどの衝撃が辺りにまき散らされる。

「っ!?」

 荒れ狂う大気に友奈と夏凛が慄く中、涛牙と黒尽くめは鍔迫り合いを挟んで視線を交わす。

 憤怒と憎悪を束ねて噛みつかんとする涛牙と。

 微かに口角を上げ、微笑ましいものを見るように優し気な黒尽くめ。

 その黒尽くめが、訝るように表情を変える。

「危ないな」

「なにっ!?」

 全く脈絡のない言葉に涛牙が声を上げると、黒尽くめはふと視線を背後に向けた。

 その視線の先では、舗装された地面に一直線の傷が走っていた。あり得るとすれば、涛牙の剣から放たれた剣圧が地面を切り裂いたとでもいうのか。

 そしてその地面の傷は、倒れ伏す樹と風のところでだけ途切れていた。まるで、黒尽くめが割って入った事で途切れたとでもいうように。 

「勇者が怪我を負うだろう?」

 視線を戻して言う黒尽くめに、涛牙の表情が更に一層怒りに歪む。

「言えた、義理かぁっ!」

 噛み合っていた刃を引き戻し、刀を避けて突き込む。読んでいたように黒尽くめは横合いに跳びのき、涛牙は黒尽くめを追って斬り込んでいく。

 

 2人が離れていったおかげで、友奈たちは風と樹に駆け寄る事が出来た。

「風先輩っ!樹ちゃんっ!」

 折り重なるように崩れ落ちた2人は共に勇者への変身が解けていた。

 一瞬、最悪の事態を予感した友奈だが、風のうめき声が小さく聞こえたことで少しだけ安堵する。

「ぅ、ぁあ」

 傷口から走る痛みに、風も樹も身体を震わせる。無理もない。勇者として戦ったといっても、身体を刺し貫かれる経験などあるはずもない。

 当然、友奈もどうすればいいのかわからず、近寄りはしてもただ狼狽えるばかり。

「か、夏凛ちゃん!どうすれば」

「ああ、お、落ち着きなさい!」

 夏凛とてこんな怪我を見るのは初めてではあるが、完成型勇者として訓練を積み重ねた経験がどうにか状態を見定める助けとなった。

 風と樹が抑える傷口からは、滲みだした血が服をジワジワと染め上げている。逆に言えば、大量の血が噴き出すような、太い血管を傷つけるような傷ではない。

「大丈夫、2人とも急所は外れてるわ!ともかく傷をハンカチかなんかで押さえて!!」

「わ、わかった!」

 言われて友奈が傷口を押さえるのを見ながら、夏凛は離れたところで切り結ぶ涛牙と黒尽くめに注意を向ける。

 

 鋼のぶつかる金属音、そして時には地面を剣圧が打つ音を響かせながら、涛牙は剣を振るい続けていた。

 全身を躍動させ、身体を捻りながら繰り出す刃。その勢いは怒涛の如く。対する黒尽くめの動きは、余裕を感じさせる緩やかなもの。しかし涛牙の剣はどれもかわされ、或いは弾かれる。

 そうするうち、不意に黒尽くめは再び表情に訝るものを混ぜた。止まることなく打ち込まれ続ける刃とそれを放つ涛牙の身のこなしに視線を鋭くして、ふと気づいたように呟く。

「この太刀筋……お前、涛牙か?」

 その一言に一瞬、涛牙の動きが止まり、

「キサマァァァッ!!」

 更なる憤激と共に刃が奔る。だが、黒尽くめの身のこなしは先ほどよりもより滑らかに、優雅に。

「男子三日会わざれば、というが……ああ、もう2年か。なるほど、腕を上げるわけだ」

 懐かしむような呟きを零しながら刀を振るう。刃がぶつかり合う音が幾重にも重なり――次第に音が変わっていく。金属が擦れ合わさる音の方が増えていく。

「くっ!」

 自身の剣が、防がれるでも避けられるでもなくいなされる――刃の流れが操作される。その実感が涛牙を焦らせ、不意に生まれた黒尽くめの隙に刃を突き込む。否、突き込まされる。

『涛牙っ!』

 胸元から制止の声が届くよりも先に、涛牙の刺突は切っ先を刀に巻き込まれ、流される。黒尽くめの内懐へ。涛牙の身体もまた黒尽くめの元へ巻き込まれ、

「――だが、若いな」

 小さな声と共に、吹き飛ぶ。

 黒尽くめが空いた手で放った掌底。その一撃で涛牙の身体がさながら蹴られたサッカーボールのように打ち出される。

「ぐあっ?!」

 痛撃に顔をしかめながら、倒れ込むまいと足を地面に打ち付ける。靴底が地面に擦れる跡を残しながら勢いを止めれば、ざっと10メートルは吹き飛ばされていた。追撃に備えようと顔を上げて――黒い人影が視界にいないことに気づく。

 どこだ?

 視線を振って探そうとして。

「優先することを間違えたな」

 

 その声は、2人の戦いに目を奪われていた夏凛の背後から聞こえた。

 夏凛が、強張った身体でぎこちなく振り返ると、そこに黒尽くめがいた。風の傷を押さえる友奈のすぐそばに。刀を振り抜いた姿で。

「え?」

 そして友奈の呆けたような声が、キン、という音に重なる。音の出処は友奈の右手。友奈が視線を向けると、手甲が綺麗に両断されていた。

「え」

 光の粒となって手甲が、そして勇者装束が消え、その下から、一文字に血を零す手の甲が現れる。

「あ、ああぁあ」

 遅れて感じた痛みに、友奈が怯えた声を漏らす。

「こ、このおっ!」

 その声にハッとした夏凛が切りかかる。勇者の力で放たれる刃は光の如く奔り、だが、切っ先が届こうとする刹那に黒尽くめの姿が揺らぐ。

 風切り音のみを残して、夏凛の攻撃は残像を切るにとどまる。

 そして、また少し離れた場所にユラリと黒い人影が凝りつく。風と樹を、そして友奈を切り裂いた刃を眺めながら、黒尽くめは、一人ごちるように言葉を続けた。

「私を、凌駕出来る見込みがあったわけではないだろう?なら、大事な事は、攻め立てるより如何に勇者を守るかの立ち回り」

 ス、と切っ先を涛牙に向けて。しかし声を表情も穏やかなままで、黒尽くめは言う。

「いささか、頭に血が上りすぎだ」

 その、教え諭すような声に、涛牙は更なる怒りを滾らせる。

「だ、ま、れえェェェ!」

 絶叫と共に、剣を構え――いや、切っ先を天に向ける。黒尽くめがふと眉間に皺を寄せるのと、切っ先で虚空に円を描くのが同時。

 

 そして、宙空に光の輪が刻まれる。

 

「っ!」

 それを見て、黒尽くめが初めて表情を強張らせる。

 涛牙が剣を振り下ろすと、その光の輪、空間の裂け目がひときわ輝き、そこから落ちてきたモノが涛牙を包み込む。

 そこに現れたのは、鈍い鉄色の全身鎧。手にした剣は一回り長く、分厚く、ナックルガードがついたものへと変わっている。

 そしてその頭部は、狼の如く。

「……ハガネ?」

 黒尽くめの言葉に合わせるように狼は顔を上げて、次の瞬間には地面を蹴り砕きながら黒尽くめに迫る。さしもの黒尽くめも、不意を突かれたこともあってこの速度に対応しきれない。刀を立てて刺突を受け止め――先ほどの涛牙のように吹き飛ばされる。

「ぬ!」

 弾き飛ばされながらも地面を蹴って態勢を立て直したところに、吹き飛ばした勢いに尚追いつく速さで涛牙の剣が迫る。頭上から迫る剣を黒尽くめが防ぎ――その足元がひび割れる。その威力に黒尽くめが動きを固めたところに、空中で身を翻した涛牙の回転斬りが追撃をかける。黒尽くめもまた身を翻しながら反撃の刃を放つが、全身を覆った金属鎧ごと斬るとはいかない。

 先ほどよりもなお一層速く鋭い連撃に、黒尽くめは悠然とかわす事も叶わない。涛牙の勢いにそのまま押されていく。

 そして、涛牙が腰を据えて打ち込んだ一撃に弾き飛ばされ――黒尽くめの背中に何かがぶつかる。

「?!」

 咄嗟に見れば、そこには街灯の柱があった。ちょうど、黒尽くめの後退を邪魔するように。

 そして、不可避に生じた隙を涛牙は見逃さない。踏み出す脚に一層の力を籠め、渾身の横薙ぎを放つ。

 大気が爆ぜるような衝撃が奔り――しかし剣を振り抜いた涛牙の視界に黒尽くめはいない。

 一瞬の訝り。

 だが、感じた気配に咄嗟に左腕を掲げると、そこに上からの一撃が打ち込まれる。腕を掲げなければ、頭を打たれていただろう。

 刃の主、黒尽くめは涛牙の上方にいた。背後を取られたはずの街灯の柱。その柱の側面に立っていた。重力を無視するかのように、地面に対して水平に。

「悪くない反応だ」

 余裕を取り戻した様子の黒尽くめに、涛牙は舌打ちを一つ。刀を振り払うと、黒尽くめの立つ柱の側面に自身も足をかけ――柱を駆けのぼる。

「このっ!」

 黒尽くめと同じように重力を無視して、剣を打ち込みながら柱の側面を前進する。黒尽くめも打ち込まれる剣を弾きながら後退する。だが、街灯もそう長さがあるわけではない。後ろに下がるスペースは見る間に失われる。地面にいるのと同じように下がり続けられるわけではない。

(今度こそっ!)

 逃げ場のない状態に追い詰める。その一念で涛牙は攻め込んでいく。そして街灯の先端まで黒尽くめを追いつめ。

「?!」

 不意に、黒尽くめが消える。どこに?そう思うより先に、五感が黒尽くめを察知した。自分の背後だ。

 街灯の先端に追い詰められようとする中、黒尽くめはすでに次に進むべき場所の光明を見出していた。なるほど、柱は長くはなく、後退できる距離も多くはない。

 だが、代わりに、柱の側面は一つではない。自身の立つ面以外にも、側面自体はある。

 端に追いやられ、涛牙が更に勢いを込めたその瞬間。黒尽くめは今まで無視していた重力を活用した。蛇のように街灯に絡みつきながら柱を伝い下り、涛牙を潜り抜けて背後を取る。

 そうして改めて構え直せば、そこには隙を晒す涛牙の背中。そのがら空きの背面に、黒尽くめが刃を叩き込む。涛牙の攻撃を弾いていた軽いものではない、斬ると決めて放つ一撃。

「おおっ!」

 気迫と共に打ち込んだ斬撃に、涛牙は遥か高くまで打ち上げられた。

「……落ち着いていれば、こうも容易くはないだろうに」

 ぼやきながら軽い身のこなしで地上に舞い戻る。

 

 そんな黒尽くめに、夏凛は全力で斬り込む。着地間際を狙って、死角から突進しての唐竹割。相手が人間だとかは、眼前で繰り広げた剣戟と傷ついた仲間の姿で吹き飛んでいる。勇者に傷を負わせる力を揮う相手に容赦は出来ない。

 必殺を狙った一撃を、しかし黒尽くめは振り向きもせずに防ぎ、勇者の膂力に吹き飛ばされる。

「あれをっ?!」

 驚いたのは夏凛の方だ。例え手を血で染めても、と覚悟を決めた攻撃さえこうも容易くかわされてはたまったものではない。

 対する黒尽くめは、無理のある態勢で防いで吹き飛ばされたというのに転んだりもせず身軽に立て直す。

 そうして左手を夏凛に向けて差し出し、クイッと手招きする。かかってこいというように。

「っ!」

 応じて、夏凛は二刀を縦横に振るい、時には蹴りを交えて攻め立てる。

 だが、後退しながら守りに徹した黒尽くめを押し切れない。一刀で以て夏凛の二刀流をいなし、蹴激は掠めるか否かの紙一重で避ける。勢いは夏凛にあるが、その勢いが黒尽くめを仕留めるに届かない。

(なんてっ、技量よ!)

 傍から見ていても確かだった相手の腕前。直接相対して猶更に実感する。夏凛も長年訓練を重ねてきたが、コイツは文字通り年期も桁も違う。

 そうして数合切り結ぶ中、落ちてきた涛牙が地面に激突して大きな音を立てる。

 その音に夏凛が一瞬身を強張らせ、その隙をついて黒尽くめが後方へ跳ぶ。

 ほんの一足で10メートル近く開いた間合い。途切れた攻めの流れを立て直そうと踏み出して。

 踏み出した先に、黒尽くめの刃が閃いた。

 夏凛の前進に合わせて黒尽くめも前に飛び出し、右半身に右腕を大きく伸ばした片手殴りの斬撃。踏み出したその瞬間を狙われたせいで夏凛はかわせない。防ごうにも不意を打たれたせいで、左の刀を割り込ませるには間に合いそうにない。

 だが。勇者には最強の防御手段がある。

(こっちには精霊バリアがある!)

 精霊バリアでこの不意打ちをしのいで、カウンターで確実に潰す!一瞬にそれだけを思考して、夏凛は右の一刀を放つ。

 なにしろ神樹様の御力で展開される、バーテックスの攻撃さえ防ぐバリアだ。黒尽くめの剣がどれほどの切れ味であっても、神樹様の加護を切り裂くには届かない――!

 

 その思いを、黒尽くめの一閃が引き裂く。

 

 夏凛は、一つ勘違いをしていた。

 精霊バリアは、勇者の戦う意思に従って展開されると。

 だから、勇者に変身していたとはいえ、完全に不意を突かれた風や樹、戦う意思はなくアタフタしていた友奈は、精霊バリアを展開できなかったと。

 大赦から受けていた説明以上の事を、夏凛は知らない。

 彼女は知らない。精霊は勇者の意思とは関係なく動き、精霊バリアもまた勇者を傷つける物事に自動的に発生することを。

 風も、樹も、友奈も。夏凛の見ていないところで精霊バリアは発生していて――それが効果を発揮することなく両断されていたことを。

 

 黒尽くめの放った斬撃が駆け抜ける。

 精霊バリアも、割って入った義輝も、勇者装束さえ両断して。

 その剣閃は止まらない。跳ねあがり、夏凛の右の刀、その刀身を断ち割り、すれ違いざまに更に複雑な軌跡を描く。

 

 そうして背中合わせに足を止めて。

 

 夏凛の左肩から右の脇腹へ。装束を裂かれて覗いた柔肌から血が零れる。

 それだけではない。

 肘先、二の腕、肩口、脛、腿。背面に回って背中に膝裏。

 全身を余すことなく切り刻まれて。

 血を吹き出しながら、夏凛は絶叫した。




個人的に、ゴジラSPは今のところかなりいい感じだと思ってます。
見上げるほどの怪獣が暴れまわるのもいいけど、アニゴジSPだと「なんか有り得そうなサイズ」なのがこれはこれでヨシ!な感じです。キャラの会話とかも専門用語多いわりに聞きとりやすくていいし。

あと、アニメじゃないけど東離劍遊記第3シーズンも楽しいです。いやぁ、人形劇ってあそこまでやれるんだ、と。
実は涛牙の戦い方とかはこのシリーズのバトルシーンをイメージしてます。文字にすると結構難しいですけどね。
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