穏やかで過ごしやすい秋はどこにいったんでしょう?
神世紀の四国は、四季はあるけど急に季節が進んだりとかはないんでしょうねぇ。ちょっとうらやましいかも。
「あ、う……」
全身の痛みに呻きながら、友奈はヨロヨロと身体を起こした。
見渡せばそこは炎の赤は欠片も見えない樹海の中だった。近くには変身が解けた夏凛も横たわっている。
「夏凛ちゃん、しっかり!」
抱きかかえれば、うぅ、と小さく呻く声が聞こえる。どうやら気を失っただけのようだ。ヴァルゴが放った大量の爆弾。その爆発そのものは防げたが、衝撃までは精霊バリアでも防げなかったのだろう。よく見れば友奈自身も変身が解けている。気を失っていたのは友奈もだったらしい。
改めてそっと夏凛を横たえて顔を上げる。
そこにあるのは、神樹によって作られた四国を守る壁。
西暦から300年の間、人類はこの壁によって外界の殺人ウイルスから守られてきた――学校の授業でそんな事を教わった事をふと思い出す。
それは、間違いではないのだろう。だが、全く正しいわけでもなかった。
あの壁の向こうにあるのは、人がいなくなった大地ではなく、炎に包まれ星屑が徘徊する地獄そのもの。自分たちが見ていた壁の向こうも空の色も、全ては神樹が結界の中に映し出した書き割りのような物。
その地獄からバーテックスは神樹を、ひいては人類を滅ぼそうと無限に現れ、神樹に選ばれた少女は勇者となって終わりのない戦いを強いられる。
その真実の、何と残酷な事か。
そして、美森は決断した。果てしない戦いを強いられる世界を終わらせ、友奈たちを生贄の運命から解放することを。それが、世界を終わらすことであったとしても、果てしない苦悶をこれ以上自分に、友奈に、勇者たちに味あわせないために。
「東郷さん……」
爆発が遮る一瞬前に見た美森の顔は、見たことがないほどの激情と、そして涙を浮かべていた。
(わたしは――)
「きっと、何か出来ることがあったはずなのに」
不意に零れた呟き。それを耳にした瞬間だった。
(本当に?)
その声にハッと周りを見渡すが、倒れ伏した夏凛以外は誰もいない。そういえば、風や樹はどうしたのだろう?
(風先輩や樹ちゃん、後は涛牙先輩に海潮さん。周りにいた人たちの様子に何も気づいてなかった)
そう。自分は気づいていなかった――美森の異変にも。
後からならばいくらでもいえる。彼女の表情に硬く険しいものがたびたび覗くようになっていたと。涛牙に向ける視線に冷たさがあったと。だが、それらは全て後知恵だ。
大親友だ、友達だと言いながら。乃木 園子から話を聞いてからずっと、美森が抱えた苦悩に気づくことがなかった。
それだけではない。衝撃的な真実を知らされた後、自分はどうした?
何もしていない。
真実を知らされて、しかし自分はその後何もしなかった。風のように大赦を問い質すことも、両親に御役目絡みの話を改めて聞くことも、美森のように園子からの話を確かめる事も。何も。
そんな自分が――何が出来ると?
「あぁ……」
己の内側から聞こえる声に弱弱しく頭を振る。自分は何もしなかったのだと指摘する内心の声は、友奈の心に鋭く突き刺さった。
呆然とする友奈の視界に、不意に星屑が割り込んできた。遠くに見える星屑の群れは、それでも友奈の存在を察知したのかその向きを変えて近づいてくる。
「――あ」
そこで自分がまだ戦いの場にいたことを思い出し、友奈はスマホを取り出して変身のための画面をタップし、
『勇者の精神状態が安定しないため、神樹との霊的接続を生成出来ません』
その無情な一文が、友奈が勇者となる事を否定する。
「そ、そんな……」
それは奇しくも風に起きたものと同じ状況。
友奈の精神状態が、勇者として戦いに赴けるものでないとシステムが判断したことによる、変身の拒絶。
「何で!何で変身できないの?!」
何度画面をタップしても、勇者アプリは反応しない。
慌てふためきながらも、しかし友奈の頭の冷静なところは理由を察している。
美森の凶行を止めたいと思う。けれど、彼女は彼女で友奈たちを生贄扱いの運命から助けたいと悩み、考え、決断した。
世界が滅びる、無関係な人も死ぬ。そんな自分が思いつく結果は美森は端から承知しているだろう。それでもなお、美森は親友の、友奈のためにと行動している。
一方自分はどうか。
風や美森がどれだけ傷つき、思い詰めているか、自分は気づいていなかった。支えようと行動を起こさなかった。部活仲間で、親友だというのに。
「わたし――友達失格だ」
相手の気持ちも分からない者が、友と呼ぶなどおこがましい。そんな冷たい言葉を、他の誰でもない友奈自身が自分に向けている。
そんな状態で振るえるような勇者の力ではない。
遂に膝から崩れ落ちた友奈に、星屑がその咢を開いて襲い掛かり――。
「――何が、失格よ」
風の如き剣閃が、星屑の群れを寸断する。
倒された星屑たちから霧散する光の粒。その中で、深紅の勇者装束を纏った夏凛の声が友奈に向けられる。
「友達に、失格もクソもないでしょうが」
声にならない泣き声を、聞いた気がした。
揺蕩う意識の中で、夏凛はふと自分が夢を見ていることに気づいた。
夢の中で、幼いころの夏凛はずいぶんと泣いていた。両親からは優秀な兄と比べられて残念がられ、その兄からは気遣われ。それが悔しくて寂しくて、心の中でずっと泣いていた。
だから、勇者の候補となった時、夏凛は迷わず手を挙げた。
勇者――無垢なる
そうして夏凛は勇者候補として訓練に励み、
嬉しかった。誇らしかった。選抜された完成型勇者として、他の候補者たちに恥じぬ働きをしようと気持ちを新たにした。
……勇者部と合流した当初、夏凛がツンケンしていたのは、そういった背景があったのだ。
だが。
(そうね……東郷の言う通りだわ)
自分と同じように勇者候補として集められた少女たち。彼女たちは誰もが素質を認められた者たち。彼女たちの誰もが端末を継承して勇者となり得た。自分はその中で競争を勝ち抜いたというだけだ。
つまり勇者端末を持たせればその少女は次代の勇者と出来る。勇者は――その栄誉とは裏腹に――使い捨てが効く道具となり果てる。
使い物にならなくなるまで戦いに臨ませ、戦えなくなれば別の少女に端末を渡す。そうすればバーテックスと戦い続けられる。大赦の上層部はそう考えているのだろう。
自分があれほどこだわった『勇者』という立場は、内情を知ってしまえば大した価値があるわけではないのだ。
大赦の面々も、口では敬っている風だが、実際のところはどうなのやら。何しろ勇者たちに顔を見せに来た神官は一人もいないのだから。
自分が戦えなくなれば、或いはあの時勇者の座を競い合った誰かが自分の端末を引き継ぎ、戦いに赴くのだろう。どんな口車で誘いをかけるのか、そこは少しばかり気になるが――よほどの偏屈者でもなければ謹んで受け入れるだろう。外から見ているだけなら、神樹様に選ばれたという栄誉は何物にも代えがたいのだから。
(アイツはどうかしら……。一度認めなかったのに今更と拒むか――神樹様とかにホレ見たことかと言うか)
最後まで勇者の座を争った相手――ライバルと言えるかもしれない少女の顔を思い浮かべながら、夏凛はふと目を開く。
その目に映るのは、力なく座り込んだ友奈と、そこに躍りかかろうとする星屑の姿。
いつもの闊達さのない友奈の姿にいつかの自分の姿が重なった気がして。
再び勇者に変身する夏凛に迷いはなく。身体に染みついた剣技は過たず星屑を切り裂いた。
「夏凛、ちゃん……」
その、らしくもない弱弱しい声に苦笑しながら、夏凛は友奈に向き直った。
「友奈。アンタ、どうしたい?」
夏凛の問いに、友奈は、かすかに考え込んでから答えた。
「わたしは……東郷さんを止めたいよ。世界が壊れちゃったら、東郷さんとも、みんなとも一緒にいられなくなる!……でも、わたし、東郷さんの気持ちを考えてなかった。そんなわたしが今更」
そう言い募る友奈にため息を一つついて、夏凛は言った。
「じゃあ、アンタも実は世界なんて終わっちゃえって思ってた?東郷は、友奈がそう思っていると考えてるみたいだけど」
「そんな事ない!確かに、東郷さんの言う通り未来はないかもしれないけど!それでも、終われなんて考えない!」
「そうよね。つまり東郷も友奈の気持ちをすっ飛ばしてるわけだけど。それで友達辞める?」
「……そんなの、嫌だ」
「そーゆーこと。そりゃ相手の事を考えるのも大事だろうけど、ちょっと気持ちを考えなかったくらいで友達関係終わらせてちゃキリがないわ」
ポン、と友奈の肩を叩いて、改めて夏凛は壁の方を向く。
「友奈。あたし、大赦の勇者として戦うのは止めるわ。勇者部の一員として戦う」
「え?」
「誰かから役割を与えられてソレを達成したら褒められる。それも悪いわけじゃないけど。それ以上に。あたしはあたしが納得できるモノのために戦う!」
泣いてる顔って見たくないのよね。
そう言い残して、夏凛は足場を蹴って開けた場所へと出た。その視線の先、樹海の空には無数の星屑が今も我が物顔で浮かんでいる。
敵は星屑。夏凛1人でもどうとでもなるが、無数の大群を、1体も通してはならないとなれば話は別だ。一瞬でも早く、一体でも多く倒し続けなければならない。
そして、そのためには二刀では足りない。星座の名を冠するバーテックスを主敵として調整された勇者システムは、大多数の雑兵狩りに向いているというわけではない。
「ったくウジャウジャと。ウイルス呼ばわりも無理ないわね」
呼吸を整えながらぼやいた傍らにマップ機能を起動させたスマホを持った義輝が浮かび上がる。その義輝を見て、夏凛は顔をしかめた。
義輝の身体を、両断するような線が走っている。先ほど久那牙から受けた、勇者の力を喰らいつくす刃。精霊である義輝が治りきっていないという事は。
「精霊バリアもなしかぁ」
少なくとも、アテにすべきではない。
「ま、しゃーない」
受け入れて、ふとスマホの画面を切り替える。そこには、自分の誕生日パーティの時に撮られた写真が写っている。
そこにあるのは、撮影係だった涛牙を除いた勇者部の笑顔。この後に待ち受ける決戦も、『満開』の対価も知らずにいたころの年頃の少女らしい笑顔だ。
『諸行無常』
義輝の言葉に、ふと笑う。あれから3か月ほどしか経っていないというのに、ずいぶんと懐かしい感じがする。
或いは、これで見納めかもしれないが。この笑顔を守る為になら自分は遠慮なく戦える。
「さぁて。そんじゃあ行くわよ!これが、讃州中学2年、勇者部所属!三好 夏凛の、全、力、だあああぁぁぁ!」
咆哮と共に、夏凛は高々と宙に舞う。
勇者の力で強化されたジャンプ力にものを言わせて星屑の群れに突っ込むと、手近な星屑を斬りつつ足場にして群れの中を駆け抜け、手当たり次第に星屑を斬り屠る。
星屑は数こそ多いが強度も速さも大したことはない。足場代わりに蹴飛ばしただけでも撃破されることさえあるくらいだ。
だがそうして群れを切り拓いていけば、やがて星屑たちがバラけるのは当然だ。そうしてバラバラになる事で夏凛が追いきれなくなれば、夏凛の目的は達成できなくなる。
それに。
「ちいっ!」
視界の隅から飛んできた爆弾に気づいて、跳ぼうとした向きを変える。爆風に煽られながら爆弾の飛んできた方を見れば、身体を構築し終えたヴァルゴ・バーテックスが壁を越えて現れていた。
いや、それだけではない。ヴァルゴの後から更なる異形が侵入してくる。
胴体から球体の連なった尻尾を生やした、2戦目に出現したバーテックスの内の一体、スコーピオン・バーテックス。
4本足の動物めいた姿をした、3戦目に夏凛自身が倒したカプリコーン・バーテックス。
そして夏の決戦の際に現れた、ライブラ・バーテックスと、ピスケス・バーテックス。
5体の星座型バーテックスが、夏凛の前に姿を見せた。
「ハ!大盤振る舞いね!」
空中に投げ出されながらそう吠える。口角が上がったのは、不敵な笑みか引きつった笑いか。まあどちらでもいい。
(夏に潰したデカブツが復活してるってことは……ジェミニは2体セットってわけじゃないのね)
決戦の後、9月に残党として現れたジェミニ・バーテックス。名前から2体で一体かと思っていたが、どうやら単に他より先に作り直せただけだったようだ。大赦の名付けも紛らわしい事だ。
ともあれ。強大な星座型バーテックスと多数を誇る星屑の連携。質と数、どちらでも圧倒する腹積もりなのだろう。
「だから!こっちもありったけで行くわ!」
言って、夏凛はスマホの画面を開く。そこに表示されるのは、『満開』システムのボタン。
以前の決戦の際にはチャージが足りていなかったせいで使えなかったが、一度大赦に回収されても久那牙に斬られて勇者の力は吸収されても、満開ゲージはそのまま残っていた。そして星屑を潰したことでゲージは完全に溜まりきった。
どちらかに集中したらダメなら。全部まとめて潰しきる!
「満・開!」
樹海の空に赤いサツキの花が咲き、その輝きの中から満開状態となった夏凛が姿を見せる。
背部から巨大な4本の剣とそれを握る腕を生やしたその形態は、友奈の満開形態と似通ったものだった。その腕の一本を振りかぶり、星屑の群れに叩き込む!
刃から伸びたエネルギーが剣の間合いの先にある星屑たちまで呑み込んでいき、その一薙ぎで星屑の群れが半壊した。更に無数の刀を生成し、投剣の如く射出すれば星屑たちはあっという間に殲滅されていった。
うざったい星屑の群れを潰しておいてから、夏凛は満開状態の飛行能力を活かして星座型たちへと突撃する。その狙いの先は――丁度近くにいたヴァルゴ。
察したヴァルゴが爆弾を連発し、更には布状のパーツで夏凛を近づけまいとするが、夏凛は更に速く斬り込んでいく。その速さに爆弾は適切な位置で炸裂できずむしろ爆発で夏凛を更に加速させ、布は大刀の一閃で寸断される。
ヴァルゴが全ての抵抗手段を失った一瞬。その一瞬に夏凛は構わず刃を打ち込んだ。
「勇者部五箇条、一つ!あいさつは、きちんとぉぉぉ!」
その一撃で、ヴァルゴは両断され霧散した。『満開』なら封印の儀は必要ない、斬れば倒せる!
だが、バーテックスも黙ってやられはしない。滅びる一瞬前、ヴァルゴが打ち出していた爆弾が夏凛の傍で炸裂する。
「ぐうっ!」
肌が焼けたような感触を覚えながらその場を飛びのいた夏凛を追って、スコーピオンの針が迫る。大刀で受け止めたところに、いつの間にか上空に浮かんでいたカプリコーンがビームを放つ。
「ビーム?!つぅ!」
精霊バリアが軋みを上げながらビームを防ぐ。その衝撃に敢えて抵抗せずに弾かれながら、しかし身体を翻してスコーピオンの尾を断ち切り、更に上空へと飛んで隙を晒していたカプリコーンを両断する。
「勇者部五箇条、一つ!なるべく諦めない!」
5体のうち2体を仕留めて、残る3体を見定める。どれを真っ先に落とすべきか。
「――ライブラ!」
『満開』には時間制限がある。それまでにライブラを潰さなければ、ヤツの起こす暴風の中では身動きが取れなくなる!
ライブラに向かって突っ込もうとした、その瞬間。
『満開』が、解除された。
「なぁっ?!」
以前見た友奈たちの『満開』に比べて解除が速すぎる。
(なんで?!)
何とか宙で態勢を立て直して足から着地し、すぐさま跳び退った地面を、ライブラの分銅が打ち据える。巨体が持つ質量は、ぶつかり合うだけでも充分脅威だ。
身をかわした夏凛に、尾が治りきっていないスコーピオンが、残った部分だけで薙ぎ払う攻撃を仕掛けてくる。かわすには余裕がなく、仕方なしに夏凛は刀でその攻撃を防いだ。
その時に、右腕の感覚が消えていることに気づいた。
「!選りにもよって!」
薙ぎ払いの勢いを殺しながら着地すると同時に、補助パーツらしき装備が腕に生まれるが、はっきり言って焼け石に水だ。風のような一撃型ならともかく、夏凛が身に付けたのは技巧を活かす戦い方。武器の握り方も含めて微細な力加減が必要となる。
「どこ持ってかれるのもイヤだけど!せめて影響少ないのからにしてほしいわ!」
文句を言いながらも、考えたのは『満開』についてだ。
(あたしは友奈たちと違って“神樹様に選ばれた”勇者じゃない。勇者端末を受け継いだ形で勇者になった。だから――『満開』の効果が短い?)
あり得なくはない。実際、バーテックス1体2体程度なら夏凛同様の短時間の『満開』でも問題にはならないだろう。
(まあ、3体もいるから問題なんだけど!)
その3体目、ピスケス・バーテックスはいつの間にか姿を消していた。マップを見れば夏凛の傍にはいるようだから、地面に潜って様子を伺っているのだろう。
ライブラの分銅と、治りきったスコーピオンの尻尾が足並みを揃えて夏凛に襲い掛かる。それを或いはかわし、或いは防ぎながら夏凛は樹海の大地を跳びはね駆け回る。
「ぬ、ううう……!」
半ば挟み撃ちの状態で、性質の違う攻撃を、思い通りにならない動きをする右腕に難儀しながらもどうにかしのぐ。とにかく2体の攻撃に意識を集中させて、
「っここで?!」
足元に感じた違和感に、ピスケスからの攻撃を察する。と同時に真下から勢いよく飛び出したピスケスによって夏凛は高々と宙に打ち上げられた。
予感があったために不意こそ突かれなかったが、それでも巨体を活かした突撃に夏凛の意識が揺さぶられる。
そこに追い打ち。ピスケスがその頭部から煙幕を放つ。
「何を!?」
スコーピオンの尻尾かライブラの分銅か、或いはこの場を離れる気か。夏凛の脳裏に幾つもの可能性がよぎる。
その煙幕に向かって分銅と尻尾が同時に打ち込まれ――それぞれが激突。その衝撃で火花が散り――。
巨大な爆発が起こった。
ピスケスの煙幕は爆発性だったのだ。電気、火球、或いは摩擦。そんな着火するきっかけがあればそこから爆発し勇者を攻撃する。場合によっては勇者自身の行動がトリガーともなる、初見殺しの罠と言えるだろう。
その罠にかかった夏凛は爆炎に呑まれ。
「勇者部五箇条、一つ――よく寝て、よく食べる!」
煙を吹き払いながら、健在の夏凛が姿を見せる。
その姿を見て、友奈は息を呑んだ。
「夏凛ちゃん?!そんな、また満開を……」
そう、爆発の中から現れた夏凛は、再び満開装束を纏っていた。
ライブラとスコーピオンとの攻防は、再度満開ゲージを貯めるためだったのだ。そしてゲージが貯まったなら、出し惜しみはしない。
その姿に、友奈は悲鳴を上げた。
当然だ。『満開』を使えば、その分身体機能が失われていく。勇者システムの真実を知った今、『満開』を使うためにどれほどの勇気が必要な事か。
そして悟る。さっき夏凛が言った言葉は何の余分もない本心。夏凛は、自分が納得できる事のために――勇者部のために、今戦っているのだと。
何を失うか分からない、そしてそれは戻ってこない。それが怖くないわけはない。ここから先に続く未来にやりたい事もいくらでもある。
だが。それらを失う事を恐れて。あのお人よしの集まりな勇者部が壊れたままで終わるのは、どうしたって夏凛は納得できない。
「まだまだぁ!」
己を鼓舞する声を上げて、夏凛はライブラへと急降下する。だがライブラも受け身のままではなかった。
全身を回転させながら、同時に無理やり分銅を放つ。乱気流を纏ったその一撃を夏凛は大刀を交差させて防ぐが、そのわずかな間隙にライブラは夏凛の軌道から少しだけズレた。
結果、夏凛の攻撃はライブラの天秤を斬り落とすも本体にはトドメを刺し損ねた。
「しゃらくさいっ!」
舌打ちしながら追撃をかけようとした夏凛の視界に、不意に白いナニカが映り込む。
咄嗟に手にした刀でソレを切り払ったところで、ソレが星屑だと気づく。
「!まさか、もう寄ってきた?!」
最初に『満開』を使って目に付く範囲は確かに殲滅した。
だが、穴から入ってきた星屑が全て夏凛の視界にいたわけではなかった。神樹へと進むモノが大多数だったが、壁際をうろついたり樹海の大地の近くにいたりと、夏凛の掃討から逃れた星屑はそれなりにはいたのだ。
そして、その星屑たちは星座型の戦いに引き寄せられ、ついに夏凛の邪魔となったのだ。
「!マズい!」
そして夏凛は気づく。星屑がここまで来ているのなら。
「友奈ぁぁぁ!逃げてぇぇぇ!」
スマホから響いた夏凛の悲鳴。自分に逃げるように促す声。
聞いて呆気に取られた友奈だったが、言われるがままに逃げ場を探そうと辺りを見渡して。
「ひっ?!」
物陰からフラリと現れた星屑と目が合う。
お互いが動きを止めたのは、ほんの一瞬。
本能で人間を襲う星屑はすぐさま友奈を標的とし、一方の友奈はどうすればいいかを決めかねて硬直したまま。
星屑の咢が友奈をかみ砕こうと迫り――奔り抜けた刃の閃きが星屑を斬り屠った。
ゆゆゆ大満開の章、まさかのくめゆアニメ化から入りましたね。勇者の章の裏側とか補完の流れで行く感じですか。
まあ、勇者の章のあの終わり方からまた勇者が戦うことになるのは、まあ鬼展開ですもんね。