結城 友奈は勇者である 神の揺り籠   作:ヴィルオルフ

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第6話、どうにか7月中に投稿することができました。
サブタイトル通り、ここから赤いアイツが登場です。果たして彼女のツンデレ振りをどこまで自然に描けるか・・・指摘などがあればぜひとも!


第6話 ブラン・ニュー・ブレイブ(5人目の勇者)

 前回の3体同時襲来から1ヶ月半。そのバーテックスはただ1体で侵攻してきた。

 勇者アプリのマップ機能に表示された名は山羊型――カプリコーン・バーテックス。

 その威容を前に風は思う――山羊要素、どこ?

 4つの脚のような器官を胴体から伸ばした姿はなるほど、四足獣を思わせなくはないが。なにゆえ山羊なのか?犬でも猪でもよくないか?

(前回の3体はネーミング分かりやすかったんだけどね~。あ、でも1体目も乙女型とかいう割には乙女の要素ってどこにあったんだか)

 大赦のネーミングセンスに一抹の不安を感じながら、迫るバーテックスを睨みつける。

 

 その風の背後には、勇者装束を身にまとった友奈、樹、そして先の戦いの中ついに勇者として戦う事を決意した美森が並ぶ。

「う~、ひと月以上たってるから戦い方覚えてるかなぁ」

「だいじょーぶだいじょーぶ!初めての時だってすぐに慣れたんだし、ちょっと動けばすぐ思い出せるよ!」

「友奈ちゃんの言う通りよ、樹ちゃん。私だって初めてでも上手くやれたのだから」

「東郷さん、すごかったよね!勇者になった途端にバーテックスをドーン!って!」

 

 後ろで盛り上がる3人に苦笑する。

 実際、前回友奈の危機についに勇者となった美森が見せた力はすさまじかった。拳銃・散弾銃・狙撃銃という3種の銃撃で、3体のバーテックスのうちスコーピオンに大打撃を与え、サジタリウスに至っては『封印の儀』で引きずり出された『御霊』――バーテックスを構成する心臓部――を撃ち砕いてみせた。

 サジタリウスの御霊は危地を逃れようと高速移動していた。そんな的を狙撃一発で撃ち抜いたのだからとんでもない才覚だ。

 

 とはいえ、皆を引っ張るリーダーとしては、ここで歓談されてばかりもいられない。

「はい、みんな一回バーテックスに集中して!」

 注意を促すと、他の面々もサッと顔を引き締める。

「樹の言ったとおり、1ヶ月以上経ってるからね。気を引き締めてかかるわよ!」

「「「ハイ!」」」

 風の号令に、各々が構える。美森は手にした狙撃銃の照準をバーテックスに向け、風も大剣を正面に構える。武器が籠手の友奈はボクサーのスタイル――父親から教わったという武道の影響か――、腕輪から放たれるワイヤーが武器の樹は軽く腰を落としてすぐに飛び出せるような自然体。

 

「怪我しないように慎重に!樹海が傷つかないよう迅速に!勇者部、行くわよ!」

 武器の特性と本人の性格から、大まかな隊形は決まっている。美森が遠距離から狙撃し樹はワイヤーで牽制、風と友奈が接近戦だ。

 

 いざ、飛び出そうとして。

 

 突如バーテックスの表面で爆発が起きた。

「へ?」

「東郷さん?!」

 友奈が振り向くと、そこには困惑顔の美森がいた。

「いいえ!私はまだ何も」

 言葉の最中にもさらに爆発。ふと気配を感じた友奈が振り仰ぐと、赤い人影が空を駆け抜けていく。

 

 投げ放たれた刀はバーテックスに触れるや爆発。その爆発を牽制に使って人影はさらにバーテックスに接近。召喚した双剣を振るいバーテックスを切り刻んでいく。

 神の力を纏う勇者の武器でも、バーテックスはその巨体ゆえにそう易々と倒れはしない。が、受けたダメージを修復するのも容易くはない――傷を負わせたのは神樹の“力”なのだから。

 そして赤い人影も斬った程度でバーテックスが倒れないのは承知の上。本命の狙いはここからだ。

「あれ!『封印の儀』で出てくるカウントじゃ?」

「ウソ?!1人で?」

 友奈が気づき、風が驚く。バーテックスの御霊を露出させるための『封印の儀』。友奈たちは複数人でバーテックスを囲んで行っていたが、あの赤い人影、いや、勇者はそれを単独でやってのけている。

 

 ほどなく、バーテックスから逆四角錘の物体、御霊が吐き出される。が、御霊も黙ってやられはしない。突如周囲に紫色のガスを放ち、煙幕の如く目くらましをかけてきた。精霊バリアが発生していることを見ると、ガス自体が有害な代物。友奈たちは迂闊に近寄れず、美森の狙撃もさすがに相手が見えなければ放ちようがない。

 

 だが。

「見えてんのよっ!」

 赤い勇者の動きそのものには何の影響も与えず。目で見えなければ気配で探るとでもいうのか、放たれた刃は御霊を捉え、両断した。

 輝く粒子と化して消滅していくバーテックスに、赤い勇者はフン、と鼻を鳴らす。

「殲滅、完了!」

『ショギョームジョー』

 傍らに浮かんだ鎧人形のような姿の精霊が呟く中、赤い勇者は近寄ってきた勇者部に振り返り、

「――こんなぼけっとした連中が、本当に神樹様に選ばれた勇者だっての?」

 辛辣に言い放つ。

「そういうアンタはどこの誰よ?」

 ムッとした風が尋ね返すと、赤い勇者は誇らしげに胸を張ると、自分の名を告げた。

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

「改めて、大赦から派遣された正式な勇者、三好 夏凛よ」

 涛牙がざっと見たところ、なるほどその身のこなしは相応の訓練を受けたものとわかる。茶色の髪を2つに結った髪型も動きやすさを求めたものだろう。

「正式な、ね」

 感心した涛牙の呟きは、しかし夏凛には挑発に聞こえたらしい。

「そうよ。たまたま選ばれただけのトーシロ連中とはわけが違うわ!大体アンタ何者。なんで勇者候補を集めたはずのチームに男がいるのよ?」

 喰ってかかられた涛牙は、表情を変えずに返答する。

「犬吠埼の補佐役として派遣されている、白羽 涛牙だ」

「いや、名前は別に聞いてないわよ!あたしは部外者がいるなんて聞いてないって言ってるの!」

 言われて、涛牙は風に話を振った。

「犬吠埼。大赦から、新しい勇者が来るという話は?」

「いいえ、初耳」

「つまりはそういう事だ」

「いや、何が?!」

 

 どうやらわからなかったらしい。小さく肩をすくめて、涛牙は続ける。

「勇者同士でさえ連絡が行き届いていないんだ。勇者の補佐役のことなど、正式な勇者に伝えることでもないんだろう」

 口調にかすかに混ぜた棘を感じ取ったのか、夏凛がム、と押し黙る。と、その隙間に美森が口を開く。

「でも、なぜこのタイミングで?」

 

 勇者部がバーテックスと初めて戦ったのは5月の始め。しかも2日連続で襲撃を受けている。正式な勇者というならなぜその時から樹海にいなかったのか。

 

 そんな問いに、夏凛は勝気な表情のままで答えてきた。

「あたしだって、すぐに出撃したかったわよ。でも大赦は二重三重に万全を期している。最強の勇者を完成させる為にね」

「最強……」

 涛牙の呟きに、夏凛は自身のスマホを見せながら後を続ける。

「そう。あんた達、言ってみれば先遣隊の戦闘データを得て、完璧に調整された勇者システムを扱う完成型勇者、それがあたしよ。それに――」

 と、何を思ったのか手近にあったブラシ箒を手に取ると手先で器用に振り回し、

 

「――あんたたちと違って、戦闘の為の訓練を長年受けて来ている!」

 言葉とともに友奈たちに突きつける。

 

「……黒板に、当たっていますよ」

 背後の黒板に柄が当たらなければ、それは実に決まった動きだったろう。

 

 先ほどまでのすまし顔が次第に朱に染まる様子を見ながら、涛牙は一度瞑目してから取り繕うように言った。

「まあ、心得があるのは確かだろうな。単独でバーテックスを撃破可能だというし」

「そ、その通り!あたしが来たからには完全勝利間違いなしよ!大船に乗ったつもりでいなさい!」

 改めて胸を張る夏凛。

 

 その夏凛の前に、友奈がヒョイと近寄る。ニコニコとした笑顔を浮かべながら。

「そっか! じゃあよろしくね、夏凜ちゃん!」

「……へ?」

 疑問を浮かべる夏凛に、友奈は無邪気に後を続ける。

「ようこそ、勇者部へ!」

 その言葉をしばし咀嚼して。意味を理解した夏凛は喰ってかかる勢いで言い返す。

「ちょっと!部員になるなんて話、一言もしてないわよ!」

「え、違うの?」

「違うわ! あたしはあんた達を監視する為にここに来ただけよ!」

「監視って、アンタねぇ……」

 さすがに苛立ちを覚えて風が視線を強めるが、

「偶然選ばれたってだけの素人集団なんて、完成型勇者のあたしが監視してなきゃ御役目を果たせるとは思えないわね!」

「ほっほぉう……」

 夏凛は風に向き直るとそう言い放った。風が、その口元を引きつらせる。

 

 険悪な空気が両者の間に漂う中、

「――一理ある」

 涛牙が夏凛側に立つようなことを言った。

「白羽くん?!」

 驚きに声を上げる風に、涛牙は軽く片手を上げると、

「事実として、勇者部は偶然に勇者に選ばれた身だ。御役目の達成に不安を覚えるのも無理はない。故に監視――というよりは監督役を買って出るという。まあ、妥当な意見だ」

「あら、わかってるじゃない!」

 理解を示すような発言をする涛牙に、風はムッとした顔を見せ、夏凛は表情をほころばせる。

 

 だが、涛牙が監視を監督と言い換えたことでふと美森は気づいた。

「……あら?それはつまり、勇者部の近くにいつもいるって事じゃ?」

 そう。監視だろうが監督だろうが、つまりは勇者の傍にいる必要がある。

「そっか!じゃあやっぱり夏凛ちゃんも勇者部に入るんだね!」

「ちっがーう!」

 友奈の言葉に再び夏凛が吼えるが、

「なら、部員でもないのに勇者部の近くに現れることをどう周囲に説明する?」

 涛牙の質問にぐ、と言葉を詰まらせる。

「離れていたら監視は出来ない。近くにいるには理由が必要になる。違うか?」

 畳みかけるように言われて、ついに夏凛は大きくため息をついた。これ以上抵抗しても――それも無意味な抵抗を――しても埒が明かない。

「あー、もうわかったわよ。形だけは入部してやるわよ、形だけは」

 

 不承不承、といった様子で夏凛が答える横で、涛牙が風に向けてウインクをした。風もここで気づく。夏凛をおだててからの一連の展開、涛牙の掌の上だ。

(うっわー、意外と人の考えを誘導するのがうまいわ、白羽くん)  

 初めて見た涛牙の一面に内心冷や汗を垂らしながら、夏凛から入部届を受け取る。

「じゃ、改めて。ようこそ勇者部へ。歓迎するわ」

「……形だけって言ったでしょうが」

 内心の不満が返事に混じるが、そんな夏凛に涛牙はさらに告げる。

「むしろ三顧の礼で迎えたい。人手不足は切実だ」

 その言葉に美森と樹が頷く。

 

 日々積極的に人助けにまい進する勇者部。裏向きの事情を知らない人は入れられないため、舞い込む依頼に応えきれていないのが実情だったりする。

 

「――なんだってそんな活動しちゃってんのよ……」

 痛む頭に手を当てて、夏凛がうめく。すでに4体のバーテックスを退けたというからもっと気合が入っているのかと思っていたらこのザマである。

 人類の未来が賭かっているとちゃんと理解しているのか。そう叫びたい衝動をどうにか抑える。

 

 重く深いため息をついて、改めて勇者部の面々を眺めるが、補佐役とかいう涛牙を除けばほぼ全員がノホホンとした腑抜けた表情。

「まったく、先が思いやられ」

 る、とつぶやこうとして、視界の隅によぎった物を二度見する。

 

 自身の精霊が、牛のような姿をした精霊にムッチャ齧られていた。

 

「ギャー!義輝ー!」

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

「まったく、とんだ連中だわ」

 夕焼けが世界を染める中、運動着姿の夏凛は砂浜で二刀を振るって一人稽古に励んでいた。ブツクサと勇者部の連中への愚痴をぼやきながら。

 

 牛のような精霊、牛鬼を従える友奈は見た目も内面も第一印象そのままのノホホン系だし、東郷(本人から苗字で呼ぶように強く求められた)はそんな友奈にべったり。何故か精霊が3体もいたが――身体が不自由な分、精霊の補佐が多く必要なのだろう。1体とはいえ喋れる義輝の方が優れている。きっと。多分。

 1年生の樹は断りなく人を占っては『死神』のカードを引き当てるし、部長の風は大赦の御役目の隠れ蓑にしては大袈裟なチームを作る始末。選ばれることを考えていなかったのか?

 補佐役とかいう涛牙は物の見方は御役目の事も考えている様子はうかがえるが、さりとて風たちの部活を止めさせようという気配もない。

 

 挨拶を終えた後、夏凛が帰ろうとしたところに懇親会だとか言い出して馴れ合おうとするくらいだ。普段から放課後も普通に部活をやっているところを見ると、勇者に選ばれた後も勇者部とやらを止めて訓練にあててもいないのだろう。

「ま、神樹様が選んだとはいえ素人だもの。あたしがしっかりしないとダメね」

 それこそが、大赦が完成型勇者である自分に求めることだと改めて胸に刻む。自分が先頭に立って御役目を果たし――

「人類を、守る!」

 決意の言葉と共にとどめの一太刀を振るい、素振りを終える。

 もともと、夏凛は2年ほど前に次代の勇者候補の1人として素質を見出され、他の候補者と切磋琢磨した末に勇者となる事が認められた。

 その際に大赦からは、バーテックス撃退の御役目が始まった際に神樹様に選ばれた()()の未熟な勇者たちを、夏凛が正式な勇者として導くことを期待されていた。

 

 そう考えれば、勇者部が使命感に薄い連中であってもそれはそれ。自分がその分しっかりすればいい話だ。

 タオルで汗をぬぐいながら近くに置いていた荷物を抱えて、家路を歩む。

 

 今、夏凛はあるマンションの一室で一人暮らしをしている。讃州中学の勇者たちを監督するために大赦から与えられた部屋だ。

 まだ住み始めて間もないが、一番大事なトレーニング器具はすでに据え付けてある。

 一人暮らしについても、勇者候補の訓練の際には訓練施設で寮暮らしだったので問題はない。

 まだ馴染んでいない自宅のカギを開けようとして。

「?」

 ふと、視線を感じて夏凛は周囲を見渡す。

 近くには他のマンションもあるが、特に人影らしいものは見当たらない。

(気のせい?)

 首を傾げつつ、改めて自宅に入る。

 

 

 

 その様子を、一匹の異形が見ていた。見た目ならば象のような鼻が伸びた金魚といった不思議な生物だが、一番の異常はソレが空を飛んでいることだろう。

 魔界竜。ホラーとはまた別に魔界に棲まう生物で、人によく慣れた性質から手懐ければ尾行や偵察も出来る器用な生物だ。

 そして、使いようによっては魔界竜が見たものを使役者が見ることも出来る。

『へえ。あのガキンチョ、結構いい勘してるじゃねぇか』

 ディジェルの感嘆に、涛牙も魔界竜を通した映像を見ながら頷く。

「勇者になっても研鑽を欠かさない、か。犬吠埼は三好の言い草に苛立ったようだが、三好の方も勇者部を温いと苛立っていたわけか」

 自身も鍛錬を日常としてきた身として、涛牙は夏凛の態度に納得がいった。長年訓練してきたというなら自負もあるのだろう。

『で、どうするんだ?』

 ディジェルに聞かれて、涛牙は軽く口元を緩めると、

「勇者をホラーから守る。変わりはしない――見回る場所と相手が増えただけだ」

 万年筆の形を模した魔導筆を通して、魔界竜に戻るよう指示を出すと、涛牙は夕暮れの街を歩きだした。

 

 




夏凛ちゃん、涛牙の口車に乗せられて気づいたら入部していたの巻。
アニメ版の友奈の人懐っこさと義輝捕食未遂事件からの怒涛の勢いに呑まれた入部もいいですけど、ここでははっちゃけないキャラである涛牙が搦手を打つことでの入部としました。

夏凛が視線を感じるシーン、当初は涛牙が離れてみてた事にしようかと思ったんですが、書いているうちにどうにもうまい書き方が見つからず。涛牙は一応法術も使える設定にしているのでここはサポートアイテムを使ったことにしようと考えた結果が魔界竜のドローンカメラ化でした。アニメをやっている「鬼滅の刃」で出てきた“矢印が見える札”のようなものを使って映像を飛ばしていると思ってください。

さて、次回は夏凛堕ちるの巻ですが・・・かわいく出来るかな?
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