結城 友奈は勇者である 神の揺り籠   作:ヴィルオルフ

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今回でアニメ第3話まで到達です。
自分でこうしてSS書いてて思いますけど、正味25分のアニメの中に詰め込まれる情報量ってすごいですよね。




第7話 バース・デイ(三好 夏凛は勇者部所属)

「――って感じで、スゴかったんですよ!夏凛ちゃん!」

「ほう」

 美森の車椅子を押しながらも、器用に身振り手振りを交えて友奈が話すのは、水泳の授業での夏凛の活躍だった。

「水泳部の人から入部しないか、と誘われてたわね」

 美森もそう言うが、当の夏凛は友奈や涛牙より数歩後ろを歩きながら、フン、と鼻を鳴らす。

「すごくなくちゃ世界なんて守れないのよ。さっきも言ったでしょ」

 今も勇者部の部室に向かっているのは、形だけでも勇者部に所属している以上は部室に行かねばならないという義務感からか。

 友奈が浮かべた苦笑に、涛牙も一つ頷き、素直に感想を述べた。

「頑なだな」

 夏凛が嫌そうな顔をしたのは見なかったことにしておく。

 

「結城 友奈!入りま~す!」

「東郷 美森、参上しました」

 それぞれの挨拶とともに部室に入っていく2人の呑気さに、夏凛は露骨に顔をしかめる。――気になったのは、美森が入室する時なぜか敬礼していた事かもしれないが。

「普通に入ればいい」

 涛牙はそれだけ言うと特に声をかけずに部屋に入る。ハァ、とため息を一つついてから、夏凛も遅れて部室に入った。

「みなさんこんにちわ」

「お。みんな来たわね」

 先に来て今日の予定を確かめていた風と樹が顔を上げる。が、夏凛は風の前に置かれているプリントに目を止めると、露骨に顔をしかめた。

「ちょっと!何よこの子ども会のレクって?!」

「ん?勇者部に入った依頼だけど?」

 キョトンとした顔の風に、夏凛は眉間にしわを寄せる。

「っ!バーテックスがいつ現れるかわからないって時に!」

 御役目の大切さを分かっていないのか、と叫びそうになる夏凛の肩に涛牙が手を載せる。

「三好」

「なによ?!」

「カッカしても、いいことないぞ」

「~~~!」

 落ち着いた表情で言われて更に激昂しそうになるが――暖簾に腕押しだろうという予感を感じて、結局深いため息をつくに留める。

「ったくこのトーシロ連中は……」

 気を紛らわせようと夏凛はカバンから煮干しの袋を取り出し、中身をポリポリと食べだす。

「あたしたちがしくじったら人類が終わるかもしれないってこと、ホントに分かってんの?」

「「「……………」」」

 他の部員たちは黙り込んだ――その煮干し袋を見て。少なくとも、女子中学生のカバンから煮干しが出てくると考えたことはなかった。

 その沈黙を、自分たちの緩さを自覚したのだと捉えて、夏凛は更に後を続ける。煮干しを食べながら。

「そりゃ昨日は、完成型勇者であるあたしがいれば勝利間違いなし!って言ったけどね。だからってアンタたちが御役目を軽んじていいってわけじゃ」

「いや、それはいいが」

 割り込んできた涛牙の声に、そちらを睨むと、涛牙は夏凛の抱える煮干し袋を指さして聞いてきた。

「なぜ、煮干し」

 夏凛にしてみれば、その質問は全くの見当外れだ。

「は?各種ビタミンに栄養素、何より手軽ですぐ食べられる。煮干しこそ完全食よ!」

 夏凛の力説に、あまり表情が変わらないはずの涛牙が呆けたような顔で言う。

「そうか。……そうか」

 

 諦めたような涛牙の答えに一つ満足して、夏凛は御役目についての話を続ける。部室に来たのはそもそもこのためだったのだが。

「さっきも言ったけど。バーテックスがいつ出現するかはわからないわ。アプリの解説文にもあったと思うけど、大赦では襲来は20日程度の間隔で発生する、と想定していたわ」

「襲来に周期があると予想されていたんですね」

 さすがに御役目の話となれば緩い空気は払拭される。

 美森の言葉に夏凛は頷いて、

「その通り。でも、実際には――」

「2日連続襲撃の後はひと月半も間を置いてから。しかも2回目の襲来は3体同時。……周期も何もないわね」

 風の言う通りだ。大赦の襲来予想は御役目開始の最初から外れている。

「で、大赦では、今後もこの傾向が続くだろうとみてるわ。襲来時期の目安は不明、場合によっては複数同時攻撃もありうるってね」

 緊張から樹がゴクリと唾を呑み込む。

「あたしはそういった事態でも対処できるように訓練されてるけど、あんた達はそうじゃないんだから気をつけなさい。命を落とすわよ」

 精霊バリアだって絶対万能じゃないしね。そう付け足して、夏凛は手近な椅子に座る。

「……まさかとは思うけど、『満開』があるから何とでもなるとか思ってないでしょうね?」

「『満開』?」

 ふと気づいた様子で夏凛が口にした言葉に、涛牙が首を傾げた。

「ああ。あんたのNARUKOは勇者用の説明文は起動してないんだったわね。風からは?」

「特に聞いてはいない」

 涛牙の答えに夏凛が風を見ると、風は露骨に顔を背けた。どうやら補佐役である涛牙には伝えていない情報だったらしい――或いは、伝え忘れてたか。

 フム、と少し考えて。夏凛は不意に友奈に指を向けた。

「ハイ、そこのチンチクリン!『満開』とは何?!」

「えっ?クイズ?え?」

 指さされてパニクる友奈に、車椅子ながらスス、と美森が近寄る。

「はい、勇者アプリに説明が書いてあるわ」

「あ!ホントだ!」

「それは、カンニングなんじゃ……?」

 樹からのツッコミを受けながらも友奈は美森から見せられた画面を覗き込んで、内容を咀嚼し、

「戦闘経験値を貯める事でレベルを上げ、より強くなる事。それが『満開』です!」

 教室で先生に指名された時のように答える。

 対する夏凛は。

「大事な事なんだから、流し読みで済ますんじゃないわよ……」

 呆れ顔で呟き、後を続ける。

「まあ、そういう事。勇者装束に花を象った『満開ゲージ』っていうのがあって、それが全部溜まったら『満開』を使えるってワケ」

「ある種の強化システムか?」

 そう聞いてくる涛牙に夏凛は頷き返す。

「そ。『満開状態』自体は時間制限があるけど、この『満開』を繰り返すことで勇者はより強く神樹様の御力を振るえるようになるのよ」

「ふむ……」

 納得した様子の涛牙とは別に、美森がふと手を上げる。

「夏凛ちゃんは満開は経験済みなの?」

「……いや、まだ」

 気まずそうに夏凛が答えると、ここぞとばかりに風がからかい出す、

「なーんだ。あんたもレベル1なんじゃ、アタシ達と変わらないじゃない」

「き、基礎戦闘力が違うのよ! 一緒にしないでもらえる?!」

 そこはすでに先日のバーテックス撃破でわかっている。なので風もそれ以上はチャチャを入れたりしない。

「OK、わかったわ。で、こっからは勇者部の依頼の話よ」 

 そう言って話題を変える。

 

 風は机の上に置かれていたプリントを夏凛を含めたメンバーに配りだした。

「今度の日曜日、子ども会のレクリエーションの手伝いをするわ。折り紙の折り方を教えてあげたり、一緒に絵を描いたり、やる事は沢山あるわよ」

 風の説明に、友奈は顔を輝かせる。

「わぁ! 楽しそう!」

「……なんでアンタが楽しそうなのよ……」

 夏凛が怪訝な顔で聞くが、涛牙がそっと首を振るのを見てそれ以上の追及を控える。友奈は基本いつもこんなのだろうと受け入れる他ないのだろう。 

「夏凛には、そうね……。元気な子達の、ドッジボールの的になってもらいましょうか!」

 風の提案に夏凛は驚いた。

「はっ?!何で私まで!」

 詰め寄るが、風は余裕の表情で1枚の紙を差し出す。入部届。

「在籍する以上は、勇者部の活動はしてもらうわよ。白羽くん、夏凛共々ドッジボールお願いね」

「ああ」

「ってちょ!待ちなさいよ!あたしにだって予定ってもんが!」

 さすがに夏凛も怒りを露わにするが、

「夏凛さん、日曜日に予定があったんですか?」

「い、いや、特には……」

 樹に聞かれて、訓練以外何もない事をつい素直に言ってしまう。

「なら、勇者部の活動に慣れる意味も含めて、一緒にやりましょう?」

 穏やかな、しかし有無を言わさぬ圧のある美森の言葉に、う、とたじろぎ。

「な、何で私が子供の相手なんかを……!」

「もしかして、子供たちと遊ぶのは嫌?」

 とどめに、友奈が夏凛のことを本気で心配する表情を見て。夏凛はついに根負けして呟く。

「わ、分かったわよ。日曜日ね。丁度その日は空いてるわ……」

 かくして夏凛も日曜日のレクリエーションに巻き込まれることになった。

「――緊張感のない奴ら」

 もう何度目かわからないため息をつきながら夏凛は小さく毒づいた。

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 そして当日。

「遅いわね」

「来ないな」

「夏凛さん、どうしたんでしょう……」

 子ども会のレクが行われる児童館で、夏凛を除く勇者部は迫る開始時間にやきもきしながら夏凛を待っていた。

「もしかして、部室に行ったのかしら?」

 美森が言うが、涛牙は先日配られたプリントを改めて見直し、

「ちゃんと『現地集合』と書いてある。考えにくいな」

 文武両道を地で行くという夏凛がそんな初歩的なミスをするとは涛牙には思えなかった。

 フム、と顎に手を当てて考えていた風は、今度はスマホで夏凛に連絡を取ろうとしている友奈に話を振る。

「友奈、電話は?」

「ううん……一度つながったんですけどすぐ切れちゃって。掛け直しても今度は電源が切れてるってアナウンスが」

「――充電切れか?」

「……かも、です」

 名残惜しむようにスマホの画面の見つめながら友奈が答える。と、不意に何かに気づいたように顔を上げた。

「か、夏凛ちゃんに何かあったのかも!病気とか怪我とか事故とか!」

「お、落ち着きなさい友奈!」

 慌てだす友奈を宥めて、風はチラ、と集まっている幼児たちの様子を伺う。まだ開始時間には早いが、気の早い子供たちはすでにソワソワと落ち着きをなくしている。

「お姉ちゃん、どうしよう?」

 同じく様子を伺いながら、樹が聞いてくる。決断を迫られて、風は決めた。

「よし!残念だけど夏凛抜きで進めるわ!白羽くん、ドッジボールの的、1人だけどお願い!」

「ああ」

 予定では、夏凛と涛牙が別のチームとなってやりあうはずだったが仕方ない。

「前みたいに子供たち泣かさないでよ?!」

「……善処する」

 以前、幼稚園で園児たちと遊んだ際。涛牙はドッジボールでその運動神経を遠慮なく活かし、外野にいようが内野にいようがボールを手にすれば相手を容赦なく全滅させる大人げなさを発揮したことがある。

 当然手加減なしにボコられた園児たちは大泣きして風に友奈、美森までもが総がかりで宥める羽目になった。

「アタシたちは予定通り折り紙やお絵かき担当で!夏凛についてはレクが終わってからよ!」

「「「は、はい!」」」

「それじゃあやるわよ!勇者部、ファイトー!」

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 結論から言えば。夏凛は集合場所を勇者部部室と思い込んでいた。

 プリントはもらっていたし、折り紙教室もあるというので子供たちに教えられるように勉強もしていたのだ。だが、風の説明が丁寧だったことで却ってプリントを見返す事を怠った。

 その結果が、集合時間より早く部室に来て他のメンバーを待ちぼうけするというオチだ。

 気づいた時にすぐに連絡を入れればよかったのだろうが、残念ながら夏凛は他の部員の電話連絡先をスマホに登録していなかった。

 NARUKOアプリはあるのでそれで連絡を取れなくもなかったが、タイミング悪く友奈からの着信が入った事で夏凛は慌てふためき、うっかり通話切断をしてしまったのだ。

 そうして更に慌てぬいた末。夏凛はスマホの電源を切った。帰って鍛錬に時間を使うことにしたのだ。

(そうよ。あたしは完成型勇者。部活なんてやってるヒマは、ない)

 一度は口にした『レクに出る』という言葉を反故にした事や、せっかくかかってきた電話に応えなかった事。そんな後ろめたさを振り払うように砂浜で双剣を振るうが。

「……身に入らない」 

 木剣の先まで意思が通るような感触を得られない。ただただ決まった型の動きをしている、そんな感覚だ。

 それでも夕暮れまで剣を振るったのは、身体に染みついた訓練の習慣故か。だが、普段なら心地よく感じるはずの疲れが、今日に限っては鉛のように重い。

「……帰ろ」

 呟いて、夏凛は荷物をまとめて自宅に戻った。

 

 帰る途中、夏凛は胸中でずっとこれでいいのだと呟き続けた。

 自分は世界の未来を背負っている、日々を鍛錬に費やす事こそ正しい、普通に部活動などやる必要はない……。

 だがどれだけ考えても、胸のつかえは消えてくれない。

 部屋に戻っても、そのモヤモヤは消えず、むしろ膨らんでいく。

「ああ、もうっ!」

 モヤモヤをどうにかしようと、ランニングマシーンの上を無心で走っていると、突然チャイムが鳴った。

「?」

 チラ、と玄関の方を見やりながら、何だろうかと思う。宅配便?私物の類はすでに全て届いているはずだが。

 と考えているうちに、チャイムが連続して鳴り響く。 

「な、なに?!」

 しつこく響くチャイムに夏凛もさすがに動揺し、ふと思いつく。

 階下の部屋の住人が、ランニングマシーンの音がうるさいと怒鳴りこんできたのかもしれない。器具を設置する時に、騒音対策は充分にしたつもりだが、うるさいと感じるかどうかは相手次第だ。そして、勇者は大赦に属しているがそれは公にされるものではない。

 不意に感じた身の危険を振り払うように、夏凛は木刀を握ると玄関に向かった。鳴り続けるチャイムのリズムと呼吸を合わせ、ココと感じた刹那に扉を勢いよく開ける。

「誰よ?!」

「ヌ」

 扉に突き飛ばされて涛牙が軽く呻きながら後ずさる――涛牙?

「あっぶな!なによいきなり!」

 そう声をかけてきたのは風。その傍には樹と友奈、美森もいる。

「な、何度もインターホン押してくるそっちが悪いでしょ?!って何しに来たのよ?」

 夏凛が言い返すと起き上がってきた涛牙が口を開いた。

「元気そうだな」

「へ……?」

「友奈が電話入れても反応ないから、急に倒れたんじゃないかってみんなして気にしてたのよ。で、様子を見に来たわけ」

「あ……」

 言われてみれば当然といえる対応だ。だが、夏凛はそれが分かっていなかった。

 どう謝ったらいいかと夏凛が悩んでいるうちに、風を先頭に勇者部がゾロゾロと夏凛の家に入っていく。

「んじゃ、立ち話もなんだし、あがらせてもらうわよ」

「おじゃましまーす!」

「って、ちょっと待ちなさいよ! 何勝手にあがってんのよ!」

 夏凜が喚きながら阻止しようとするが、一旦出遅れてしまえば勢いで勝る勇者部には届かない。

 追いかけようとして、玄関に涛牙が立ち尽くしているのを視界に入れてしまう。

「――どうしたのよ?」

「一応、俺も思春期の男子だからな」

 女子の部屋に無遠慮に踏み込むつもりはないらしい。が、

「あぁもう!そんなところで立ってないで、白羽くんも入りなさいよ」

 風は遠慮というものをもっていないらしい。言われた涛牙が視線で入っていいか問いかけてくる。

「ああ、もう!許しがなかったらどうする気よ?」

「廊下で待っている。夜道に女子だけというのは、危ないだろう」

「おお!女子力ならぬ男子力の高い発言ねー!」

「いや関心するな。そしてアンタはコイツくらいの遠慮は持ちなさい!」

 言われても、風は口笛を吹くような仕草で聞かなかったフリをする。そこに、樹の驚く声が聞こえてきた。

 

 慌てて部屋に戻ると、

「す、すごい!ランニングマシーンがあるなんてスポーツ選手みたいです!」

「勝手に触らないで!特にボタン周り!」

 樹はランニングマシーンに興味があるのかチョンチョンと指先で触っている。夏凛が注意する一方で、キッチンからも声が聞こえてくる。

「……水しかない」

「勝手に開けんなー!」

 冷蔵庫の中身を見て驚いている友奈に文句を言うが、友奈は気にした様子もない。

「越してきたばっかだろうとは思ってたけど……なんか殺風景すぎない?女子力低くなるわよ」

「知るか!?」

 涛牙、美森と共にテーブルの上に紙皿やら菓子やらを並べながらそんな事をいう風に怒鳴り返し、夏凛は更に後を続けた。

「何なの?いきなり来て何やらかしてんの?嫌がらせ?!」

「んなわけないでしょ。ま、連絡一つなかったのはどうかと思うけど。……こんなモンね。友奈~」

 レクリエーションをさぼった事への仕返しかと疑う夏凛に、風は肩をすくめて返事をしながら友奈に声を掛ける。

 そうしてテーブル傍に来た友奈の手には大きめの箱があって。

 

「夏凛ちゃん、ハッピーバースデー!」

「「「「誕生日、おめでとう!」」」」

 

 箱の中には、イチゴの乗ったショートケーキが1ホール。ケーキの上には、チョコの板に『誕生日おめでとう』とメッセージが書かれたデコレーションもある。

「これ、どうして……」

 呆気に取られている夏凛がつぶやくと、風は懐から入部届を取り出した。

 そこには名前、住所、そして、()()()()()()()()がある。

「あんた、今日が誕生日なんでしょ? ここに書いてあるわよ」

 そう。入部届を見ていれば、夏凛が住んでいる場所も、今日が夏凛の誕生日という事もすぐわかるのだ。

「ウアァァァ……」

 気恥ずかしさで顔が赤くなっていくのを感じながら呻く夏凛に、更に追撃が。

「友奈ちゃんが気づいたのよ。ちょうど夏凛ちゃんの誕生日と今日のレクリエーションが同じ日だって。それで歓迎会も兼ねて誕生日会を開こうという事になったの」

 美森の解説に、ウグ、と夏凛が呻く。

「向こうにも事情を説明してね。サプライズでレクと一緒にやろうとしたのよ。それがいきなり音信不通だもの、焦ったわ」

 風にも言われて夏凛は呻くほかない。

「もう少し早く来るつもりだったんだけど……ドッジボールで子供たちがすごく盛り上がって、遅くなっちゃったんだ。ごめんね」

「……………」

 

 何故か友奈に謝られて。夏凛は顔を俯かせると、

「……バカ、ボケ……」

「んんっ?!」

 

 いきなり聞こえてきた罵倒に友奈もさすがに言葉をなくすが。

 再び上げた夏凛の顔は、先ほどとは違う赤で染まっていた。

「た、誕生会なんてやった事ないから――なんていえばいいのかわかんないのよ!」

 そんな夏凛に、風はフフと笑いながら。

「そんなの簡単よ。じゃあ改めて言うわ。せーの」

「「「「「誕生日、おめでとう!」」」」」

「……あ、ありが、とう」

「よく出来た!」

「こ、子供扱いすんな!」

 などと言い合ううちに、ふと誰かが笑い出して。それはすぐに皆に伝播していく。

 

 三好 夏凛はこの瞬間に、心情の意味で勇者部の一員となった。

 

 それからは皆で菓子やジュースを飲みかわし、樹が夏凛が練習のために使っていた折り紙に気づいて夏凛がしどろもどろになったり。

 友奈が文化祭で演劇をやろうと言い出して風を筆頭に皆がそれに乗っかってあれよあれよという間に文化祭の出し物が決まったり。

 静かだが殺風景なはずの夏凛の部屋は、気づけば騒がしくも楽しい場所になっていた。

 

 尚、涛牙もこの場にいるのだが、彼は相槌くらいで口を開かなかった。

 後で風がその沈黙の理由を聞いたところ。

「俺も、何を話せばいいのかわからない」

 との事だった。 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 商店街から少し離れた場所にあるとある雑居ビル。その前に、学校帰りの夏凛はいた。

「ここね」

 手元のメモを見ながらつぶやく。下校時、靴箱の中に入っていたこのメモには白羽 涛牙の名前と、この建物の2階に来るようにとの一文が添えられていた。

 1階の薬局脇にある階段を上がり、2階フロアの店舗前に立つ。

 

 夕方から開店するダイナー、『グアルディア』。そこが、涛牙が来るように指定した店だ。

 

 ドアを押し開いて中に入ると、店内はカウンター席とボックス席が4つほどとあまり広くはない。照明は明るすぎない程度で、カウンターには口ひげを蓄えた壮年男性がグラスを磨いている。

 場違いな感じを受けながら店内を見渡すと、夕焼けに照らされたボックス席に涛牙が座っていた。

「来たか」

 涛牙の対面に座ると、夏凛は握っていたメモを突き付けた。

「で?なんでこんなんで呼び出すのよ?アンタもあたしもNARUKO使ってるんだし、一言入れりゃいいでしょ」

 先日の誕生会の折、夏凛はNARUKOの勇者部グループに登録済みだ。手書きのメモを使ってやり取りする必要はないはずなのだが。

「三好のメールを知らないからな」

 涛牙の返答に、眉をしかめる。

「……そーいえば、アンタってNARUKOのメッセージほとんど使ってないわね」

 誕生会後に参加したメッセージで、涛牙はほぼ無言。最後に夏凛が『おやすみ』と入れた後にようやく『お休み』と帰ってきた程度だ。

「メッセージアプリは苦手だ。一言返そうとするうちに話が流れていく」

「あ、そう」

 窓の外を遠い目で見ながら、涛牙が答える。

「じゃ、メールアドレス教えておこうか?」

「助かる」

「まあそれはそれとして。結局何で呼び出したのよ」

「ああ。本題に入ろう」

 話の軌道修正を図る夏凛に、涛牙も頷き返して。

「知る限りのバーテックスの情報を教えてほしい」

「……いいけど、なんでよ?」

 訝る夏凛に、涛牙は一度目をつむり、

 

「4対8なら策の練りようもないが、5対7ならまだ作戦次第で優位をとれる」

「それって!」

 何を言おうとしているのか察した夏凛の叫びに、涛牙はただ静かな視線で答えた。

 

 

「7体のバーテックスの総攻撃。一番あり得る展開だ」




夏凛加入イベントも終わり、いよいよ結城 友奈の章の山場が近づいてきております。
オリ主なのにバーテックスと戦えない涛牙なので、まだしばらくはアニメ通りの展開となっていく予定です。オリジナル展開開始までまだかかりますがお待ちくださいませ。


牙狼、雷牙主役の映画がついに公開されるようですね。You Tubeで予告編見ました・・・。
うっそぉバラゴ来るの?!鋼牙に大河も出演あり?!いや、マジどうなるんだ映画のストーリー。
近くで公開してくれるといいなぁ・・・。
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