相変わらずの遅筆ぶりに加えて、今回は少し短めになってますが、気長にお付き合いくださると幸いです。
友奈転落騒ぎからしばらく経って。
日増しに夏が近づいてくる中、勇者部の活動は普段通りを取り戻していた。
友奈は、この春を通しての勇者部の活動をまとめた校内新聞のレイアウトを考え、美森は勇者部のホームページを更新中。
夏凛は描いてきた猫の飼い主募集のポスターを見せてその絵心のなさをからかわれ、風は常に煮干しを食べる夏凛に「にぼっしー」とあだ名をつけて即拒否される。
そんな、いつも通り賑やかな勇者部の部室で。
「はぁ……」
伏せていたタロットカードをめくって。犬吠埼 樹は小さなため息をついた。
別段、隠すつもりがあったわけでもないが、周りに聞かせるつもりもない、そんな小さなため息だ。賑やかな部室で聞き取る者はいないと樹は思ったのだが。
「ん?どしたの樹?」
姉妹ならではの勘でも働いたのか、夏凛とじゃれ合っていた風がふとした様子で声をかけると、他の面々もそれにつられて樹に注目してくる。
こうなると、樹が何も言わないわけにもいかない。
「……今度、音楽で歌のテストがあって。その結果を占ってたんだけど……」
手元のカードは「死神」。
「……意味は、『失敗』、『破局』、『結果が出ない』……」
不吉な絵柄も相まって、悪い展開しか思い浮かべられない。
先日、雀に対して「将来が分かれば勇気を持てる」とアドバイスした樹であるが、悪い未来が見えてしまうとそれはそれで怖気づくものだと実感してしまう。
「ま、まぁまぁ!あまり気にすることないわよ!ホラ、正月のおみくじだって必ず当たるわけじゃないし!」
「そうだよ!それにまた占ってみれば結果も変わるかも!」
風と友奈がいう意見も一理ある。樹は改めて自身のテストの結果を占ってみた。その結果は。
「『死神』が、4連続、だと……」
本気で慄いた様子で風が呻く。一体どれだけの確率をすり抜けたんだ。
これには見ていた全員が困った顔をするしかない。更に落ち込んだ様子の樹をフォローするにも、彼女の占いの的中率の高さを無視できない。
そんな周囲の様子に、樹は表情をなお一層暗くした。
妹を愛する風が、そんな落ち込んだ樹を放っておけるわけもなく。
「こうなったら、アタシたちの力を結集して、樹を助けるしかないわ!」
黒板に『樹を歌のテストで合格させる!』と書き込む。
「勇者部は困っている人を助ける部活!それは同じ部員であっても例外ではないわ!」
「わたしも賛成です!」
と友奈が言えば、部内の大勢は決まったも同然だ。
「あ、ありがとうございます……」
畏まったように肩をすぼめる樹を囲むようにして、涛牙以外が相談を始める。
「で、歌がうまくなるにはどうすればいいんだろう?」
友奈が首をかしげると、美森は柔らかな笑みを浮かべて即答した。
「アルファ波を含む声を出せれば問題ないわ」
「「「「え」」」」
いきなりの発言に友奈たちの声がハモる。その顔に浮かんだ怪訝さに気づかないのか、美森は後を続けた。
「良い音楽や歌というのは、アルファ波が出ているかどうかというのが大きく関係してくるのよ」
広げた掌で何かをさするように円を描く仕草も交える美森に、風と樹の頬が引きつる。他方、友奈は表情を輝かせて、
「そうなの、東郷さん?!すごいよ樹ちゃん、さっそくアイデアが出てきた!」
普通に美森の博識に感心した様子だ。
一方、自身も健康に強い関心のある夏凛はすぐさまスマホを取り出して調べ出した。
「アルファ波……。リラックスしている時に発生する脳波……」
いや、これ声に混ぜられないんじゃ。
そう後を続けようと思ったが、夏凛を向いた美森の(黒いオーラを放つ)笑顔を見て止めておく。
「あ、あの、東郷先輩。私、そもそも歌うことが苦手で……」
樹の言葉に、美森もアラ、という顔をする。そもそもの問題点だ。
「樹は1人で歌ってるときは上手いんだけどね。人前で緊張するのが問題かしらね」
風の言葉に皆が頭を捻る中、涛牙が遅れて部室に入ってきた。
「……どうした?」
雁首を揃える面々に涛牙が尋ねる。
風がこれまでの流れを一通り離し終えると、友奈が声を掛けてきた。
「涛牙先輩!涛牙先輩は樹ちゃんの歌の上達にアイデアはありますか?」
聞かれて、涛牙は少し考え込む様子を見せてから、
「緊張してても自然と歌えるくらい身体に染みつかせればいいんじゃないか?」
ある意味脳筋的な意見を出す。その意見に、
「つまりは――習うより慣れろ、ですね!」
「まあ、小手先の技術よりは効果があるかもね」
友奈と風が頷きあう。樹の歌唱力向上に向けて、方針はここに固まった。
『♪~』
カラオケ店、「MANEKI」。名の通り招き猫のイラストを看板に掲げた店だ。
その店内の一室で、勇者部一同を前に風はポップな曲を軽やかに歌い、聞き手は備え付けのマラカスやタンバリンで風を盛り上げる。
「は~い、みんなありがとー!」
晴れやかな顔で歌い上げた風がマイクを掲げて言うと、友奈は手にしたタンバリンをより一層かき鳴らす。
樹の歌テスト対策はある意味単純だった。
人前で歌うのが緊張するというなら、慣れている勇者部メンバーの前で自然に歌えるようになって自信をつければいい。ついでに課題曲を歌えばテストの練習にもなって一石二鳥。
かくして勇者部一同、今日の依頼をひとまず終えてから揃って「MANEKI」に足を運んだわけだ。
「さすがお姉ちゃん」
「風先輩上手~!」
樹と友奈の称賛にフフン、と得意げな顔をする風。そんな様子を夏凛はさほど興味なさそうに眺めていたが、次に予約を入れていた友奈からマイクを差し出された。
「夏凛ちゃん、一緒に歌お?」
「は?」
いきなりな誘いに目が点になる。
「あ。夏凛ちゃんの知らない曲だった?」
友奈が口にした曲名自体は夏凛も知っているものだったが。
「いや、あたしは別に歌うつもりは」
夏凛とて歌が苦手だったり人前で緊張したりという事はないが、別段歌うつもりはなかった。必要以上に馴れ合う気はないし、そもそも樹の歌唱力アップが目的なのだからみんなで歌うこともない。そう思っていたのだ。
だがそんな夏凛の振る舞いが、風のからかい心に火をつけた。
「そうよね~。さすがにアタシの後じゃしり込みしちゃうわよね~?」
ニンマリとした顔で採点機を示す風。その画面には「92点」という高評価が。
――負けず嫌いな夏凛を動かすには充分な燃料が投下された。
「――友奈、マイク貸しなさい」
先ほどとは打って変わって闘志に燃えて、夏凛は友奈と共にテレビの前に並ぶ。
「完成型勇者を、なめんじゃないわよ!」
風に向けて啖呵を切り、友奈と共に歌い始める。
(犬吠埼、三好の扱いに慣れてきたな)
カスタネットを叩きながら涛牙が内心つぶやく中、2人のデュエットが流れていく。
夏凛にとっては初めて歌う曲だったはずだが、それでもリズムや音程を上手くバックミュージックや友奈の歌と合わせながら夏凛は見事に歌い切った。やがて採点が行われ、出てきた数字は――「92点」。
「どうよっ!?」
勝気な表情を風に向ければ、返ってくるのは大きな拍手と風たちの満面の笑み。隣では友奈も楽しそうな笑顔を見せている。
今更らしくないことをしたと気づいて夏凛は頬を染めた。
続いて流れてきたイントロは、ここまでの曲がテンポの軽い傾向だったのに比べて、どこか行進曲のようなリズム。
「あ。私が入れた曲」
と、美森がマイクに手を伸ばす中。
友奈、風、樹が突如立ち上がり、背筋を伸ばして右手で敬礼の姿勢を取った。
「え?なに?」
呆気にとられる夏凛をよそに3人の表情は真剣そのもの。立ち上がらない涛牙に美森はピク、と口元を震わせたが、気を取り直して歌いだす。
だが、そのリズムも歌詞も、一般的な女子中学生が好むタイプとは違う歌だった。何だ、古今無双って。御国のためにって。
「……なにこれ」
「さあ」
夏凛が涛牙に聞くが、涛牙はただ首を横に振るだけだった。
やがて美森が歌い終わると、直立不動だった面々も何事もなかったようにソファに座り直した。
「ね、ねえ友奈。今のって……?」
「ああ。東郷さんが歌う時にはいつもこうしてるんだよ」
「そ、そう……」
どう反応すればいいのか、といった様子で夏凛が呻く一方、美森は涛牙に向かって目じりを吊り上げた。
「涛牙先輩!前にも言ったじゃないですか!御国を守る防人のための歌なのだから敬礼をしてほしいと!」
「嫌だといったはずだ」
にべもなく切り捨てた涛牙に美貌を歪めてヌググとする美森。友奈がすぐさま間に入ってとりなすが、涛牙はまるっきり知らん顔だ。
そんな空気の中次に流れてきたイントロは。
「これって――」
「あ。私です。テストの課題曲で」
マイクを手に樹が前に出る。
表情からして不安でいっぱい、マイクもかすかにふるえる両手で握っている様子は、樹が――この慣れているはずの勇者部の前でも緊張しきっている事を如実に示していた。
曲名は『早春賦』。皆の視線が集まる中、樹は一度深呼吸してから歌い始め――
――緊張のせいか、最初の一音で音程が大きく乱れた。
それに焦ったのか声を正そうとして失敗し、そこで更に慌てて――の悪循環。結局最後まで歌い切る事なく、樹は歌を中止した。
ソファに戻って俯く樹に、風はやさしく声をかける。
「やっぱり硬いかな」
「うう、誰かに見られてると思うと、それだけで緊張して」
肩を小さくする樹の様子に、夏凛はこれは重症だ、と結論づけた。
「まあ、最初の予定通り、この面子の前で緊張しないようになればイケるでしょ!」
風がそう言いながら、不意にマイクを涛牙に回す。
「ホラ、次は白羽くんよ!」
言われて、涛牙は本気でキョトンとした。
「樹の歌唱力訓練だろう?後は樹が歌い続けるのでは?」
涛牙の言葉に、樹が「ウェェェ?!」と奇妙な悲鳴を上げるが、風は涛牙に苦笑いを返した。
「いやいや。みんなで歌い合ってまずは緊張をほぐさなきゃでしょ。で、白羽くんって打ち上げに誘ってもあまり顔出さないし歌わないし。せっかくの機会、白羽くんも歌いなさいな」
涛牙が困惑した表情で周りを見渡すが、一同涛牙の歌声に興味津々の様子を見せる。美森だけは先ほど邪険にされた意趣返しなのか挑発的な顔だが。
「……わかった」
仕方なしにマイクを手に取り、選曲用の端末を操作。
流れてきたイントロに、他のメンバーがみな「おや?」という顔をする。
涛牙が選んだ曲は『荒城の月』。『早春賦』と同様、音楽のテストで歌われる名曲である。
(まさか……私のダメっぷりをはっきりさせるつもりですか?!)
樹が顔色を青くする中、涛牙は静かに呼吸を整え。
「ふぅ……」
歌い終わって、涛牙は静かにマイクを下した。この手の娯楽には疎いが、やってみると悪くないと思う。
余韻に浸りながらテーブルを囲むメンバーを見ると。
「「「「「……………」」」」」
全員が、なんとも難しい顔をしていた。
「どうした?」
涛牙に聞かれて、お互い視線を交わし。意を決した風が小さく咳ばらいをしてから、涛牙の歌に評を下す。
「ゴメン。お経にしか聞こえなかった」
「――そうか」
涛牙が採点画面に目を向ければ、「10点」という低評価。
「え、えと。涛牙先輩。音楽の成績って……」
躊躇いがちに尋ねる友奈に、涛牙はほんのかすかに残念そうな気配を見せながらも、どうという事もないように答えた。
「1だ」
翌日もテストに向けた樹の歌唱力アップ計画は続いた。
特に夏凛は喉の調子を向上させる栄養を含むサプリを大量に持ち込んで樹に勧めたりしたのだが、やはり人前で緊張するという樹のあがり症の克服には至らず。
「はぁ……」
風呂で湯船に漬かりながら、樹はまた大きなため息をついた。
(あんなに協力してもらってるのに、全然うまく出来ない……)
昨日の涛牙の提案に沿って樹がひたすら歌ってみるという荒療治も試してみたが、緊張からの音ズレが恥ずかしくてどうしても最後まで歌いきれない。
うつむきがちにしていると、ふと近くに気配を感じた。見ると、樹の精霊、木霊が樹を覗き込んでいた。
マリモから芽が生えたような姿の木霊に表情はないが、心配しているような気配を感じるくらいは樹にもできる。
「大丈夫だよ、木霊」
安心させるように声をかけて、樹は不意に歌を口ずさんでみた。
その歌声は、みんなの前で歌う時とは打って変わって音は外れずリズムも狂ったところのない、カラオケ店での風や友奈たちに勝るとも劣らない上手さだった。歌につられてか木霊もリズムに合わせて飛び回るほどだ。
そうして歌う樹に、不意に声が掛けられた。
「やっぱり樹、1人で歌うと上手いじゃない」
慌てて振り向くと、風呂場のドアから風が顔を覗かせていた。
「お、お姉ちゃん!?聞いてたの!?」
樹が聞くと風は1つ頷き、
「樹はもっと自信を持っていいのに。ちゃんと出来る子なんだから」
そういうとドアを閉める。
風の言葉に、しかし樹は自信を抱くよりも先に勇者部のみんなの前では歌えなかった情けなさや申し訳なさの方を先に感じてしまう。
(お姉ちゃんはああ言ってくれるけど……私、どうしても自信が持てないよ……)
近づいてくる
カラオケはたまに遊びに行くんですが、基本1人で行ってますね……。歌いたい歌をノンストップでどんどん歌いたいというか、下手の横好きだから聞かれるのがハズいというか。
それはさながらこの話段階でのいっつんの如く。中学時代に歌唱力テストがなくてよかった……っ。
それと映画の「牙狼」、見に行ってきました!
物語の中心となるであろう謎の列車がまさかアレだったりとか、ポスターにも出てたあの面々がガッツリ出てたりとか、まさかまさかのヤツが暴れまわったりとか。
冴島家の「牙狼」の集大成と言える作品でした。