きらきらぼし   作:雄良 景

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 森、川、海、砂浜

 街、建物、動物、人間


 世界は色に溢れている。複雑に絡み合い、和を成し、しかし弾き、
 そうして一枚のキャンバスのように、(ものがたり)を築き上げる。


 纏わりつく孤独感。モノクロと呼ぶには世界は美しすぎて、きっと色を持たないのは私だけ。


 たったひとり、私は灰色(グレイ)―――――どこへ行けばいいのだろう。





君は太陽

 

 

 

 めらめら、めらめら。

 盛る炎は辺りを燃やす。炎の熱気によって上昇していく室温に、ルーシィの顎を汗が伝った。

 熱い。いや、『熱い』で済む話ではない。早くこの場から脱しなければ焼き死にかねない現状。

 

 それでも魅入ってしまったのは、その姿があまりにも暴力的で―――――途方もなく美しかったから。

 

 

 

 

 ―――――ガンッ!

 

 

「竜の肺は焔を吹き、竜の鱗は焔を溶かし、竜の爪は焔を纏う」

「りゅ、りゅう…」

「これは自らの体を竜の体質へと変換させる太古の魔法(エンシエントスペル)…」

 

 

 ―――――バキッ! ドガッ!

 

 

「すごいわ、これが……」

「元々は竜迎撃用の魔法なんだよ!」

「……………本物の、火竜(サラマンダー)さま……」

 

 

 

 ――――― ドガーーーーンッ!!

 

 

 

 ルーシィは呆然と…いや、うっとりと見惚れるように燃え上がる炎を目に焼き付けた。偽物(ボラ)に抉られた心が、本物(ナツ)の火の粉に包まれるたび癒されていくような錯覚を覚える。

 

 炎は熱い。けれどそれ以上に―――――心が熱い。

 

 

 

 黒幕のボラをぶちのめしてもナツは止まらなかった。その怒りの深さ故というより、単純に一度暴れ出すと手が付けられないタイプなのかもしれない。『やるなら最後まで』―――――そんな勢いで男たちを片っ端から、炎を纏った四肢でふっ飛ばしていく。

 

 そのありえない威力に驚き、そして称賛するルーシィに、ハッピーは誇らしげにナツの扱う魔法について説明していった。

 ―――――しかし、説明された内容も内容。まさか、存在を聞いたことがある程度の本物の太古の魔法(エンシエントスペル)を使いこなす魔導士がいるなんて、ああ、これが国に名だたる魔導士の実力。本物の火竜(サラマンダー)……ルーシィは圧倒され、感嘆の息をこぼす。

 そんなルーシィに気付かず、ハッピーは相棒の自慢を声高らかに締めくくった。

 

 

「滅竜魔法を使う魔導士、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)!! イグニールがナツに滅竜魔法を教えたんだよ」

 

「えっ、(ドラゴン)竜退治(ドラゴンスレイ)の魔法を教えてくださったのですか?」

「―――――!!!!!!」

「疑問にも思っていらっしゃらなかったのですね……?」

 

 

 思わず聞き返したルーシィに、ハッピーは目を見開いた。

 ルーシィの記憶では、彼らの呼ぶ『イグニール』とは(ドラゴン)固有名詞(なまえ)だったはずだ。なら(ドラゴン)が自らを滅ぼす(すべ)ナツ(にんげん)に与えたということになる。

 こぼれ出た至極当然の疑問は、しかしハッピーからしてみれば青天の霹靂であったらしい。目を見開いた声もない驚愕顔に、ルーシィは思わず体のちからが抜けてしまった。

 

 ―――――普通一番疑問に思うところでは?? 場合によってはシリアスな話になるものでは???

 

 ルーシィはだんだん、このふたりのことが分からなくなってきた。いや、おそらく、多分、シンプルに『強ぇーー! すげーー!!』という感想でいっぱいになって他のことは全く気になっていなかったのではないだろうか。

 なんというか、本能と直感で素直に生きているタイプなのかもしれない。……ああ、でも、なるほど。ルーシィは小さく頷く。

 魔法を教えてくれた師であるから、彼はあんなにも大切そうにドラゴンの名を呼んでいたのかと。

 

 

( ……あら? )

 

 

 ……変ではないだろうか。納得をしようとしたところで、ルーシィの思考に疑問が浮かぶ。暴れまわるナツを視界に収めながら、首をひねった。

 

 

( 400年前に滅んだドラゴンに―――――どうしてナツさんは魔法を教わることができたの? )

 

 

 だってそれではまるで、つい最近までドラゴンが生きていたかのような―――――

 

 

 

 

 ――――― バ ギ ャ アア アアアア ア ッッッ! !!

 

 

 

 

 疑問に思ったところで―――――ひときわ激しい音を立てて、ナツが船室の壁をぶち破る。

 

 ルーシィは思わず耳を塞いだ。先ほどまでの破壊音とは比べ物にならない衝撃。どうやら攻撃が勢い余ったらしい。

 しかし思わず身をすくめたルーシィとは違い、ナツのサンドバッグと化していた男たちは一目散に駆けだした。これ幸い、我先にとばかりに空いた大穴から外へ逃げ出したのだ。―――――この場に居れば目の前のバケモノに殺される―――――そんな恐怖に襲われ、ただ我が身を守ろうとした逃亡だった。

 

 しかしそれを見逃すナツではない。雄叫びとともに両手で船室にあった大きなデスクを持ち上げ、背中を晒して逃げていく男たちを追いかけた。

 

 

 暴れていたナツと叫んでいた男たちが居なくなった船長室は音を失ったように静かだった。ああ、それにしても。燃えているし荒れているしで、酷いありさまだ。どこか夢見心地で、ルーシィは室内を見回す。

 一番目に付くのはやはり、今しがたナツの空けた大穴だろうか。その穴の大きさ、その攻撃の破壊力に、ルーシィはある種の感動を覚えてまじまじと大穴を見つめた。魔法というより、魔力を纏った拳でブチあけられた穴がナツの素の戦闘力の高さを物語る。

 そう言えば自分より一回りも大きな男ふたりを、片手で吹き飛ばしていたことを思い出して―――――

 

 

 ふと、『週刊ソーサラー』の大見出しが頭をよぎった。

 

 

 それはナツが空から降って来た時にも頭をよぎったこと。その時はそんな場合ではないと振り払っていたもの。しかし、ナツが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士だというのなら。

 

 

 これはもしかして―――――振り払っている場合じゃないのではなかろうか。

 

 

「ナ、ナ、ナ、っナツさん!!」

 

 

 ハッとしたルーシィは大慌てで船室の大穴から、―――――ナツを追って飛び降りた。

 ―――――船室の穴から地面まではかなりの高さがある。下は柔らかい砂浜とはいえ、たとえルーシィがお嬢様(そだち)に似合わぬ(偏見)運動神経の良さと身体能力の高さを持っていたとしても気軽に飛び降りられる高さではない。

 それでも、おそらくきっと、たぶん大丈夫―――――持ち前の度胸を後押しに、ルーシィは躊躇いなく足を踏み出した。

 

 緊迫した脳内に、先ほどまでの疑問はいつの間にか吹き飛んでしまっていた。

 

 

 

 

 

 

「いっ、―――!」

 

 

 船から着地した瞬間、ルーシィは柔らかすぎた砂浜に足を取られ、勢いよく前方に倒れてしまう。

 白い砂は海水で湿っていたドレスや肌に纏わりつき、その整った相貌を汚した。

 

 ジャリジャリとした攻撃的な感触―――――思わずルーシィはなんとも言えない顔になる。

 

 

 実はルーシィはこれが初砂浜だった。船へはタラップで乗り込んだため砂浜の感触など知らなかったのだ。というか海に近づいたのも初めてだった。

 未知の海に落ちた時、塩分濃度にパニックにならなかったのは今まで読み込んだ本の知識のおかげだろう。海水への様々な表現を知識としてだけなら持ち合わせていたことがアドバンテージとなりルーシィをパニックから守ったのだ。

 経験はなくとも知識は身を守る。落ちる直前、咄嗟に大きく息を吸い込んで息を止めたことにより塩水を飲み込む羽目にはならなかった。それでも、それでも。

 

 

 ああ、なんて嫌な初体験! 澄み渡った大空、白い砂浜、雄大な海、そんな風景を夢見ていたのに。太陽に照らされ熱を持った砂浜にはしゃぐような経験を望んでいたのに! もっと感動的なものでありたかった。

 

 

( なんて、我儘を言っている場合ではありませんわね )

 

 

 くじいた体とへそを曲げそうな精神をなんとか叩き起こし、体勢を立て直したルーシィは砂に足を取られながらも走り出した。

 

 

 ルーシィが何を懸念し、こんなにも急いでいるのか。―――――それは『週刊ソーサラー』の大見出しだった『民家7軒壊滅』のような被害が出てしまうこと。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の歴代被害総額を算出したら国家予算に匹敵するのではというのがルーシィの見解だ。その規模の被害がこの港で起こってしまうというのは、笑い話にもならない。

 

 雑誌ですっぱ抜かれているのを第三者として見るのとは違う。それが目の前で起こるというのなら―――――それを黙って見ているわけにはいかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 両手で持ち上げていたデスクを男たちに向かってふっ飛ばしたナツ。盛大に暴れている彼には先ほどのルーシィの呼びかけは届いていなかったらしく、逃げる男たちへの追撃に―――――その手に熱い炎を纏わせる。

 

 

 

 

「っお、待、ち、 下さい、!!」

 

 

 

 

 ―――――止めなくては。その思いで、ルーシィはナツの背中にしがみついた。

 

 

 それは倒れこんだとも言えるような不格好なものだった。それでも意識外からの唐突な衝撃にナツの攻撃の手が止まる。

 

 非力で小柄なルーシィが必死にしがみついても、身長や体制的にナツの体に辛うじてルーシィの腕が回っているだけで、特に抑止力を持つような拘束ではない。それに炎の魔法を使っているナツへ接触すれば、その熱はルーシィへも害を与えかねないのだから非常に危険な行動だ。

 それでもルーシィの行動に躊躇いはなく、ただ精一杯ちからを込めてしがみついた。

 

 ―――――フ、と、ナツの腕に纏われていた炎が消える。

 

 

「これ以上は、港に甚大な被害が出てしまいます! それに、船にいらっしゃる女性たちが怪我をされてしまうかもしれません―――――そうなれば、あなたが罪に問われてしまいますっ」

 

 

 ルーシィは必死に呼びかけた。推測だが、船の上には女性たちだけではなく彼女たちを助けようと乗り込んだ街の人々もいるだろう。悪党がとっちめられるだけなら目くじらを立てることではないかもしれないが、罪のない一般人にまで大きな被害があれば―――――たとえ結果として、騙されていた女性たちを助けようとも、ナツは罪人になってしまう。

 

 

 いや、たとえ一般人に被害がなくとも、万が一、相手の男たちが死んでしまったら。

 

 

 ―――――それだけは、何としてでも防がなくてはいけない。

 

 

 ナツはしがみついて訴えルーシィの声に、振り回そうとした腕を収め視線を向けた。その瞳は相変わらず男たちに対する怒りに燃えていたが、ルーシィはその中に理性の色を見た。―――――ああ、今しかない。

 冷静さを取り戻してきたらしいナツに安心を覚えながら、ルーシィはこの機を逃すまいと、どうか彼に響いてくれと、できる限り優しく、穏やかな声になるよう心掛けながら、一生懸命言葉をつなげた。

 

 

「すでに軍をお呼びいただきました。きっとすぐに来てくださいますわ。そうなれば彼らは、しかるべき場所でしかるべき法に裁かれます。…ですから、もうお止しになってください」

 

 

 ルーシィはナツの怒りを『仲間(ギルド)の名を穢されたこと』だと思っていた。愛するギルドのために、騙った罪人をちからで裁いていたのだと。

 

 

 それは、まったくもって美しい愛だ。ルーシィの心も思わず熱くなる。彼の怒りは猛烈で、恐ろしく、また―――――美しかった。

 たまらない想いが溢れてくる。それは、散々に踏みにじられた心を救ってくれたナツを尊む、純真な気持ちだった。

 

 ―――――だからこそ、彼のために止めなくてはいけない。

 

 

「罪なき人々に被害があれば……いいえ、罪ある者であろうとも、行き過ぎた私刑を行えば法はナツさんを裁くでしょう。ここから先は、軍にお任せすべきですわ」

 

 

 どうか、まっすぐ伝わってほしい、とルーシィは思った。

 まっすぐ、ナツを心配する気持ちが、全部届いて欲しいと。

 

 

「ナツさんのお怒りはご尤もでしょう。けれど、罪への罰は法によって定められ、彼らは法で裁かれます。―――――ナツさんは何も悪くありません。ですから、もうお止しになって。ナツさんが罪を問われてしまう前に………」

 

 

 

 ―――――わが身を救ってくれた

 ―――――理想を、夢を、憧れを

 ―――――心を救ってくれた人。

 

 

 そんな人が、罪に問われ責められるだなんてことを、なぜ見過ごせようか。

 

 

 

 

 ―――――ナツは。

 ナツは確かに怒っていた。自分の大切なギルドを騙り悪事を働いた彼らに。

 

 なにより、ナツにとって仲間(かぞく)の一員と認識しているルーシィを傷つけ、泣かせたことに。

 

 なんとなく、ルーシィは勘違いしているんだろうなとナツは気づく。

 まあ普通は、ギルドに入ってもいない、出会って数時間の人間がギルドの一員のように扱われるとは思うまい。ナツが少し特殊なのだ。いや、ナツ単体というより―――――妖精の尻尾(フェアリーテイル)が。

 けれどそれは、間違いではなく。きっとそれは、尊いこと。

 

 

 ナツは少し考える。正直、軍だの法だのはどうでもいい(・・・・・・)

 ギルド(かぞく)のためなら国だろうがケンカを売るのが妖精の尻尾(フェアリーテイル)だ。いまさら軍がどうした法がどうしたと言われても、それは自分たちの足を止める決定的な理由になりはしない。

 

 ―――――けれど、今ルーシィは、必死に止めている。

 たぶん、ナツを想って止めている。……それは、ナツにもよく分かった。

 そして、ナツには仲間の気持ちを蔑ろにする気はない。

 

 

 ―――――本人がこういうのなら、まあ。

 今回は見逃してやってもいいか、と。ナツは男たちへの攻撃を止めることにした。

 

 

 

 

 

 

 考えるように黙ったまま返事のないナツに、ルーシィは不安で仕方なくなる。どうか、どうか、届いてほしい。聞き入れてほしい。

 ―――――必死だったルーシィは、ふと気づく。この格好、自分から異性(ナツ)に抱き着いている格好。

 これは―――――かなりはしたない(・・・・・)のでは? と。

 

 気づけば羞恥を抱くもの。ルーシィの顔はカッと赤くなった。しかし離せばナツがまた暴れ出してしまうかもしれない。なら離せない。けれど、けれど、これは―――――

 

 

 

 ―――――  、  、、 !!

 

 

 

 不安と羞恥がない交ぜになって動けなくなったルーシィの耳が、―――――音を拾う。

 遠くから聞こえる……人の声のようなものと、金属がぶつかる音のようなもの。これは……鎧の音?

 

 

「通報を受け、出動つかまつった!! 罪人はどこだ!!!」

「あっナツさん、軍、―――――が!?」

 

 

 響き渡った声に、ルーシィは思わずちからを抜いて破顔する。ようやく軍が到着したのだ。ああ、ようやく女の子たちが助かる、男たちが裁かれる。つまりナツはこれ以上暴れる理由もなくなるはずだ。渦巻いていた不安や周知は安堵に溶け、ルーシィはナツから離れた。

 それから、当事者で一番詳しいはずである自分が状況説明をすべきだと、軍に駆け寄ろうとした瞬間―――――

 

 

 ―――――ルーシィの体は宙に浮いた。

 

 

「逃げんぞ!!」

「え、え、―――――えええ!?」

 

 

 強く引かれた右腕。繋がれているのはナツの左手。軍の存在を認知したナツがルーシィの腕をつかみ、引っ張って走り出したのだ。そのちから強さと勢いに、ルーシィの体は数秒の滞空時間を得た。

 ハッピーはいつの間にかナツの荷物を抱えて上空を飛んでおり、その手際の良さから『慣れ』が見て取れる。

 ルーシィが現状を飲み込めたのは、走り出して数秒してからだった。

 

 

「お、おおお待ち下さいっ! なぜお逃げになりますの!!?」

「あ? メンドクセーだろ」

「めんっ……!?」

「くすくす、ルーシィ変な顔になってる!」

 

 

 それだけの理由で軍相手に『逃げる』という選択肢を取る短慮さに絶句してしまうルーシィ。上空のハッピーはそんなルーシィの驚愕顔を見て笑う。

 

 ―――――ふたりには認識の齟齬があった。

 ナツの言った『メンドクサイ』は、軍に容疑者として拘束され何度も同じ説明をさせられ、何時間にも及ぶ説教を聞かされることである。

 しかしもちろん、一般人はそうは思わない。というかそもそも容疑者として拘束されない。故にルーシィからしてみればナツの『メンドクサイ』は『軍に事情を説明すること』だけを指していると思っていたのだ。

 

 

( え、え、そんなこと―――――いいえ、それでも、恩人であるナツさんの意向を振り払うのは…? けれど、事情を知る人間としてわたくしは軍に協力すべきでは………! )

 

 

 呆けたルーシィは腕を引かれて走りながら、そこまで考えてハッとした。

 

 

「そ、そもそも! なぜ、―――――わたくしまで!?」

「なんでって……入りてぇんだろ? 『妖精の尻尾(おれたちのギルド)』。」

 

 

 

( あ、 )

 

 

 そうだ。ルーシィはナツとハッピーに、自分が妖精の尻尾(フェアリーテイル)に憧れていることを話した。そして、あの船には『妖精の尻尾(フェアリーテイル)に紹介してもらえる』と騙されて乗ったことも―――――

 ナツは『何を言っているんだ』といった顔でルーシィを見る。ハッピーも「入らないの?」と不思議そうにルーシィに問いかけた。

 

 

 覚えていてくれた。自分の憧れが、遠い世界の人間だと思っていた人たちが、こんな小娘の夢見がちなひとり語りを。

 

 

 

 

「一緒に行こう(かえろう)ぜ!!」

 

 

 

 

 息を切らせながらナツのペースに合わせて走っていたルーシィは、その屈託ない笑顔に一瞬息を止めてしまう。

 ―――――その笑顔が、大波のようにルーシィの心を攫っていってしまったからだ。

 

 

 

 入っていいのだろうか。許されるのだろうか。

 

 いや、許されているのだ、実際に。目の前の男は、空にいる猫は、ルーシィが妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入ることを笑顔で歓迎してくれている。

 

 

 

( お日さまみたいだわ )

 

 

 

 その笑顔の、なんと温かいことか。

 ナツの横まで高度を下げたハッピーも、「おいでよルーシィ」と楽しそうに誘う。

 

 

 ああ―――――嬉しい。

 

 

 

「っ―――――はい!!」

 

 

 

 涙をにじませながら咲いたルーシィは、あふれ出る気持ちを抑えきれないとばかりに笑って頷いた。

 

 向日葵のようなその笑顔。そこにはもう、船の上での涙はない。

 

 

 







 それは春の芽吹きにも似た、確かな始まり。
 冬は終わりを告げ、運命が迎えに来た。

 ペン先からこぼれたインクが染みを作るように、灰色のキャンバスに色が差す―――――それはやがて、七色の虹となって灰色を塗りつぶした。



 帰る場所(ゆきさき)はそこに。



 

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