チノココが卒業旅行先のホテルで熱い一夜を過ごす話   作:岸雨 三月

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★★★ネタバレ注意!!!★★★

ごちうさ最新話(きららMAX2019年4月掲載、単行本8巻部分)の「重大な」ネタバレがあります。
必ず原作を先に読んでから読んでください。

★★★ネタバレ警告、以上★★★


嫉妬(Side:チノ)

「ねー、都会のプール凄かったねー! 夜になると景色全部がキラキラしてたよ! あれがナイトプール?っていうのかな? 何かノリノリな音楽も流れ始めるし……。私、あのかっこよく音楽流す人みたいなのやってみたいなー!」

 

都会への卒業旅行のある一日。私たちの泊まっているホテルのシャワーが壊れてしまったので、みんなでスパに行った日のことです。その日の夜は、ホテルに帰ってきてみんなで食卓を囲むことになったのですが、ココアさんは興奮冷めやらぬらしく、はしゃいだ様子で昼間の出来事を語っていました。

 

「ココアがDJとか似合わなさそうだな……、おかしな歌詞の音楽流し始めそうだ。そういうのは、何となくだけどマヤとかが得意なんじゃないか?」

「そうかなー? 案外チノとかの方が得意だったりして」

「……」

「チノちゃん音楽会のときお歌上手かったからねー。でぃーじぇい?も上手くやれるんじゃないかなー」

「あはは、でもナイトプールでノリノリで円盤回してるチノとか見たら、ちょっと笑っちゃうかも」

「……」

「え、えっと……、どうしたのチノちゃん? もしかして、気を悪くした?」

 

リゼさん、マヤさん、メグさん達の会話を上の空で聞いていた私は、メグさんの一言で現実に引き戻されました。

 

「……えっ? あっ、ごめんなさい、話を聞いてませんでした」

「チノちゃん、プールから帰ってきてから何か元気ない……? もしかして、プールではしゃぎすぎて筋肉痛!?」

「いやいや、そこまで激しい運動してないだろ。……チノ、もしかしてまだ、チェスで負けたこと引きずってるのか?」

「!! い、いえ、そういう訳では」

「図星だって、顔に出てるぞ。まあ、そんなに気にするなよ。負けた悔しさをバネにする、なんて言葉もあるくらいだし、負けたことも、負けて悔しい気持ちになることも、そう悪いことじゃない。かくいう私もサバゲーには絶対の自信があったが、ある時初めて私を負かす奴、それも同年代女子で負かす奴が現れてだな……」

 

リゼさんの話は続いていましたが、私はまた上の空に戻っていました。

 

そう、私のこのモヤモヤとした気分は、確かにチェスで負けたことがきっかけではありました。私とは対照的なショートの黒髪で、私と同じ子供っぽい体型ながらも、シックな黒い水着が不思議と似合っていた女の子。まるで数年前までの私のように言葉少なで、どこか小動物のようなしぐさの女の子。思い返せば祖父にくらいしかチェスで負けた記憶の無い私にとって、初めて同年代の女の子に負けたことはショックではありました。

 

ですが、私の心の中に一番引っ掛かっているのは、チェスで負けたことそのものではありませんでした。私の心の中に一番引っ掛かっているもの――それは、黒髪の子が勝ったときのココアさんの表情と反応でした。

 

「すごーい! チノちゃんって、これで地元じゃ負け知らずのチェスプレーヤーなんだよ。こんなに小さいのに、そのチノちゃんを負かしちゃうだなんて……」

 

ココアさんが年下の女の子を甘やかしたり、お姉さんぶったり、ナンパしたりするのはいつものことです。でも、ココアさんが黒髪の子に向けた、まるで憧れのお姉さんに向けるかのような、賞賛とも羨望とも取れるキラキラした表情――。それは、私にも、マヤさんにも、メグさんにも、かつて向けられたことが無いような表情でした。

 

(いやいや、ココアさんが私が見たことの無い表情をしてたからって、だから何だって言うんですか……)

 

日頃オープンすぎるくらいの性格なココアさん。そのココアさんともう2年も同居していますが、それでも私の知らない面の一つや二つくらいあるのは当たり前。そう自分に言い聞かせても、まるでこすればこするほどに広がるインク染みのように、私の中で黒いモヤモヤしたものは広がっていくのでした。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

私が上の空になっているうちに、夕食の時間は終わり、流れ解散で自由行動の流れになっていました。

 

千夜さんとシャロさんは夜風に当たりに散歩に。リゼさん、マヤさん、メグさんは、この後の旅程で使う日用品や夜食のお菓子の買出しに出てしまったので、ホテルには、ココアさんと私が残される形になりました。

 

で、そのココアさんが何をしているかというと――、

 

「ほら見てチノちゃん!! Tの字が出来たよー!!」

「はあ、そのパズル、全く同じのが家にもありますが、別に今ここでやらなくても」

「ちっちっち……甘いねチノちゃん、こういうのは旅先で敢えてやることに意味があるんだよ!!」

 

ホテルの部屋に備え付けられていた積み木パズルをなぜか熱中して遊んでいるのでした。突拍子のなさは、ココアさんらしいと言えばココアさんらしいですが、「敢えて旅先でやることの意味」が何なのかはよく分かりません。

 

でも、ココアさんがパズルに熱中してくれていたおかげで、ホテルに二人っきりになれたというのは、よく考えると好都合なのでは――?

突然そんな考えが、私の中で首をもたげてきました。

 

昼間にココアさんが黒髪の子に見せていた、私の知らない表情。

 

私の心のモヤモヤがそれが原因なのは明らかでしたが、それでも、私は黒髪の子が知らないココアさんの表情をいくらでも知っているのです。たとえば、真剣な顔や、変顔、寝顔に、それに泣き顔だって。

 

――そうです。やろうと思えば、私は今からココアさんを泣き顔にすることだって出来るのです。そういえば今日のココアさんは、黒髪の子だけでなく、金髪の双子っぽい女の子たちもナンパしていました。浮気性なココアさんには、ちょっとしたお仕置きが必要なんです。今夜は、私も聞いたことのないくらいの良い声で、泣いてもらうというのも良いかもしれません――、そんな昏い考えが、私の中から起こってきました。

 

他の5人が外に出ていて、しばらく戻ってきそうな気配が無いというのは、計画を実行に移すには絶好のシチュエーションです。しかも私は、外に声が漏れることのないような、おあつらえ向きの地下室をホテルの中に見つけていたのでした。

 

「~~♪ 次はこのロケットみたいな形を作ってみようかな~♪」

「……ココアさん、そんな子供っぽいパズルより、もっと面白いものを地下で見つけましたよ。5人が帰ってくるまでの間は暇ですし、せっかくですから行ってみませんか?」

「面白いもの? うん、行くー!」

 

狙いどおり、ココアさんはあっさりと私の提案に食いつきました。

きしむドアを開けて、二人で部屋を出て、ホコリっぽい廊下をしばらく歩きます。

廊下の角を曲がったところにある、まるでそこにあることを誰かが意図的に隠しているかのような、目立たない地下への階段を下っていきます。

 

元々、オバケでも出そうな雰囲気の古めかしいホテルですが、地下へ向かう階段ともなるとますます暗く、ホラー映画顔負けの雰囲気を醸し出していました。

 

「へー、このホテル地下もあったんだね。ホテル探検はマヤちゃんの得意分野かと思ってたけど、チノちゃんがこんなところを見つけてくるなんてねー。意外だよ! それで、チノちゃんの見つけた『面白いもの』って何なのかな?」

「それは見てのお楽しみですよ……」

「そっか、チノちゃんからのサプライズってやつだね! 楽しみだなー」

 

私の考えていることを知りもせず無邪気にはしゃぐココアさんを見ると、胸の中にちくちくしたものが刺さるような気分になります。ですが、ココアさんへの「お仕置き」は、やはり必要なことなので仕方ありません。

 

そうこうしているうちに、地下への階段を下りきりました。

地下室への入り口は、重い鉄製のドアになっていました。

 

「なんだろう、この部屋……。ドアプレートに書いてある文字は、かすれてよく読めないけど……ぷれい、るーむ……?」

 

強い力を入れて鉄製のドアを開くと、ギィィ――、と重い音がしました。地上階のドアと同じく、このドアも建て付けがあまり良くなくて、コツを掴んで強い力を入れれば開くことができるのですが、初見では開くのが難しいことを確認済みです。つまり、ココアさんが逃げようと思ってもすぐには逃げられないということです。

 

「さあ、ココアさん、部屋の奥のほうへどうぞ」

「う、うん……。それにしても何だか、ちょっと怖い雰囲気の部屋だね……。だだっ広いし、何に使う目的なのかよく分からない変なものが棚に並んでるし、壁もドアも厚くて圧迫感のある感じがするし……。本当にここに『面白いもの』なんてあるの……?」

 

ギィィ――、バタン。再度強い力を入れて、出口の扉を閉め、地下室は密室となりました。

 

「ありますよ。とても面白い『おもちゃ』が。ココアさんもきっと気に入ると思います」

 

檻の中に閉じ込められた獲物めいたココアさんの姿を眺めながら、私は無意識のうちに唇の端がめくり上がり、昏い微笑を浮かべている自分がいることに気づきました。

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