チノココが卒業旅行先のホテルで熱い一夜を過ごす話   作:岸雨 三月

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受難(Side:シャロ)

「はわわ……どどどど、どうしてこんなことに……」

 

私こと、桐間紗路の人生最大の危機が訪れていた。本当に、本当になんでこんなことになったのか――、話はとりあえず30分くらい前までさかのぼる。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

リゼ先輩&チノちゃんマヤちゃんメグちゃんの卒業旅行ということでみんなで訪れた都会のホテル。夕食を終えた後、千夜に誘われて夜の散歩に出ることになった。

 

「都会の夜の公園の散歩って、なかなか乙だと思わない?」

 

私も特に他にやりたいことがある訳でもなかったので、いいわよ、と了承した。

 

じゃあ、待ち合わせは15分後に玄関前で、となったので、一度部屋に戻り出かける準備をした。

 

約束の15分後にホテルの玄関前に出ると、そこにまだ千夜はいなかった。

 

(千夜、準備に時間かかってるのかしら?)

 

ホテル「ロイヤル・キャッツ」の雰囲気は、名前に反して「ロイヤル」とは程遠い。

元々は豪華な洋館として建てられたのだろう。でも、館の前に植えられた柳の木やら何やらが鬱蒼とした森のようになっているので、昼でも館の周りだけ暗くなっていて、さらに建物自体も経年劣化が修理されずに放置されているので、おどろおどろしい、ホラー映画のような雰囲気を醸し出している。

 

昼でさえそんな状態なので、夜には本当に何か出そうな雰囲気になる。

 

(うう……こんなところで一人で待ってるとか気が進まないんだけれど……千夜、早く来ないかしら)

 

そんなことを思っていると、後ろから、ちょんちょん、と背中をつつかれる。

 

「もう、やっと来たわね。千夜。遅いわよ。約束は15ふ」

「うぼわぁぁあぁああああああああああああ!!!!」

「きゃあああああああああああああああっっっ!!!!」

 

大声にびっくりして振り返ると、黒い長髪をざばぁ、と顔の前に垂らした女性がいた。

 

「って千夜じゃない! 驚かさないでよ!!」

 

(おしっこ漏らすかと思ったじゃない……)

 

「お待たせ、シャロちゃん。やっぱり驚かせた時のリアクションはシャロちゃんが一番良いわね。驚かせ役としては冥利に尽きるわ」

「そんなことに冥利を感じて欲しくないんですけど!? というか、その言い方だと既に他の誰かを実験台にしたみたいね」

「実験台になんてしないわ。ただ、さっき金髪の女の子がこの近くを歩いてたから、てっきりシャロちゃんだと思って驚かせに行ったら、知らない人で……。あわてて謝ろうと思ったんだけど、そうする間もなく全速力で逃げて行っちゃったわ」

「あんたねぇ……。それ、私はまだ千夜って分かってるからいいけど、知らない人からしたら本気でトラウマになるからやめなさいよ……」

「ちょっと悪いことしたわね。これからはシャロちゃん専属の驚かせ係として職務を全うするわ」

「しなくていいわよ!」

 

私の幼馴染は旅先でも人を振り回すのに余念がないようだ。そんな他愛のない会話をしながら、ホテルの敷地を抜ける。

 

敷地を出た先の都会の街は、夜でもそこそこの人通りがあり、開いているお店も多いので、一区画を進むだけでも色々変わったものが次々と目に入り飽きさせない。

 

だが一点、田舎者の私には思いがけないような罠があった。都会特有の現象――、ビル風がところどころでびゅーびゅーと吹いていて、思いのほか寒い。昼間はプールに入っていたので、何となく暖かくなったような気がしていたが、よく考えるとまだ季節は3月なのだ。寒いからやっぱり早く引き返しましょう、千夜――、そう言い掛けたのだが、千夜はちゃっかりとマフラー装備の耐寒仕様で出てきていたのだった。

 

「私はシャロちゃんと二人で一つのマフラーでも良いけれど……、ほら私自販機でホットのミルクティー買ってきたから、これを二人で触ってれば寒くないと思うの」

 

千夜はそう言ったが、流石に都会は夜でも人の目がある。千夜のマフラーをシェアして、ミルクティー缶を千夜のほっぺたとの間に挟んで暖めあっているところとか――、もし人に見られたらと思うと顔から火が出そうになる。

 

悪いけれど千夜には近くのカフェで待ってもらって、一度一人でホテルに戻って何か羽織るものを借りることにした。夜のホテル前をもう一度通るのは気が進まなかったが、風邪を引いては元も子も無い。

 

 

「お早いお戻りですね」

 

今度は何事もなくホテルに戻ると(脅かしてくる千夜がいないんだから当たり前だ)、二人の従業員のうちの一人、つり目で厳格そうな方のおばあさんが受付に立っていた。私は事情を説明する。

 

「外はビル風が思ったより寒くって……、何か羽織るものを借りられるとありがたいんですけれど」

「そういうことでしたか。それでしたら、確か物置代わりになっている地下室にストールがあったはず。どれでも好きな色を持っていくことを許可します」

 

 

ということで、おばあさんに教えてもらったとおりの道順で、地下室に下りていくことになった。

 

(このホテル、地下室なんてあったのね……。それにしても、元々不気味な見かけのホテルだけれど、地下へ向かう階段は暗くてさらに不気味度が増すわ……)

 

(うう、やっぱり千夜も一緒に連れてくるんだった……。あっでも、千夜なんか連れてきたらまた喜んでオバケの真似とかし始めて余計に怖かったかも)

 

そんなことを考えながら、暗い地下への階段を一歩一歩踏みしめるようにして、私は下りていった。

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

そして話は冒頭に戻る。震えながらも、地下への階段を下りていく最中のことだった。私の「人生最大の危機」が訪れたのは。

 

 

「……ぁ……め……………………と………………」

 

 

「ひっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

まさか今度こそ本物の幽霊の声!!??

本当にびっくりした。

ここだけの話を白状すると、びっくりしすぎて、今度はちょっとおしっこを漏らしてしまった。まさかまた千夜のどっきり!? いやいや、千夜は間違いなく外のカフェに置いてきたはず。

 

「…………ん……………………チ………ん………………」

 

幽霊の声かは分からないが、人間の声のようなものがどこからか聞こえてくるのだ。

怖くて怖くて、今すぐにでも階段を駆け上がってこの場から逃げ出したい。でも、足がすくんで動かない。

 

誰か助けてー!!!千夜ーー!!! そう叫びたかったが、声も出せない。

 

 

「…………ん……………………チノちゃん………………」

 

だが、その声の中に聞き覚えのある単語が混ざっていることに気づいた。

チノちゃん?

声は、私が今まさに下りようとしていた、地下室の方から聞こえてくるようだった。

意を決して、地下室の方に向かってにじり寄ってみる。

 

「……チノちゃん、……だよそこは……」

 

(ってこれ、ココアの声じゃないのーーー!!!!)

 

全身の力が抜けた。

どういう訳か知らないが、ホテルに残ったココアとチノちゃんが地下室の中にいるらしい。ココアの声が高くて通りやすいので、そればかり聞こえていたけど、よく耳をすますとチノちゃんらしき低めの声も聞こえてくる。

 

(びっくりさせないでよ……もう……本当に幽霊かと思ったじゃない……)

 

幽霊ではなくて本当にホッとした。でも、何で二人はこんなところにいるのかしら? 物置になってるらしいし、二人も何か探しに来たのかしら? まあ、でもそれは直接本人たちに聞けばいいか。そう思い直し、地下室に入ろうと思って鉄の扉を押すが、思いのほか重い。二人はいったいどうやって入ったんだろう? 中々ドアを開けずにいると、中からさらに声が聞こえてきた。ドアのすぐ近くにいるので、今度は会話が比較的はっきりと聞こえる。

 

 

「チノちゃん、駄目だよそこ……そこをそれ以上攻められたら、私もう……」

「ふーん……ココアさんはこのへんを攻められると弱いみたいですね。弱点、見つけちゃいました」

「ひっく、……もうやめようよ……チノちゃん、こんなこと……」

「うるさいですね……。今まだ……を開発しているところなので、まだちょっと我慢してください。もうちょっとで最後までイけそうですので」

 

 

(ってちょーーちょちょちょちょちょちょちょちょーーー待って!!!! 何なのこの会話!!! 二人!!!! いったい中で何やってるのよ!!!!)

 

いやナニをしているのかは流石の私にも察しがつく。しかし私の頭の中は混乱とハテナマークだらけ。思考回路がショートしてあらぬ思考が脳内を駆け巡る。ココアとチノちゃん、そういう関係だったの!? 確かに旅行中も恋人つなぎでホテルに来てたし、仲が良すぎるとは思っていたけれど……。というかココア、未成年に手を出して!!! 逮捕!!! 逮捕されるわ!!! ってココアも未成年だっけ? でも会話の内容からしてチノちゃんが攻め!? 意外だわ……、でもどっちみち、これって不純異性交遊よね? こんなこと学校にバレたら、まあココアは良いとして、せっかく高校受かったチノちゃんの明るい前途が……、っていやこれは不純同性交遊だからセーフ? いやそれとも純愛ならばセーフ??

 

思考がオーバーヒートしてフラフラの頭に、さらに追撃を加える一撃が振り下ろされる。

 

「ストールは見つかりましたか? 言い忘れましたが、地下室の扉は開けるのにコツが要りますので。今からそちらに行って扉を開きます」

 

(!!!!!!!!!)

 

階上から、おばあさんの声がする。こっちに下りてくるですって?

それってつまり、

 

チノちゃんとココアが×××なことをしているのが見つかってしまう

「お客様。当ホテルはそのような目的のホテルではありませんので。ルールを守れないお客様は即刻出て行っていただきます」

7人、ホテルを追い出される

都会のホテルはどこも高く、7人の手持ちで代わりに泊まれるようなホテルは無い

路頭に迷う

めでたく、ストリートチルドレンとしての第二の人生が始まる

 

 

この思考にたどり着くのにかかった時間、実に0.5秒。

まさに、私の人生最大の危機だ!!!

私は気づいた時には力任せに地下室のドアを押し、

「家なき子だけはいやーーーーーー!!!!」

と叫びながら地下室の中に雪崩れ込んでいた。

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