ダンジョンにTS少女()がいるのは間違っている 作:タンベリング
田中が気を失って少し経った後。目を覚ました田中を解放していたショタとロリに礼と謝罪をして何とか場が収まり、田中はやっとヘスティアファミリアに所属することが正式に決まった。
始めは神の下に付くなどと思いはしたが、何でもファミリアというものは全てそういうものなのだという。さらには神はステイタスという、人間を強化する力を授ける事が出来、それはファミリアに入らなければ手に入らない。さらにステイタスがなければダンジョンに行っても確実に死ぬだけだと教えられてしまっては、入らないという訳にはいかなくなってしまったのだ。
田中は渋面を隠しながらも、神ヘスティアと握手をしたのだった。
ちなみに、田中はミリスとして生きていくことにした。何せこの身体で田中など名乗ろうものなら一瞬で疑われてしまうのだ。というよりも、何より田中自身が違和感で苛まれること請け合いだった。銀髪美少女が田中て。
田中改めミリスは、昨日のうちに神ヘスティアにステイタスを刻んでもらった。背中にステイタスを宿す事で、普通では得られない成長(経験値)を容易に手に入れることができるのだと同僚であるベルが優しく教えてくれたのが記憶に新しい。
ステイタス。ゲームの様で斬新に感じられたミリスは、自分の能力値が数値化されはっきりと分かるようになることに少なからず興味を覚えていた。初めは数値は0から始まると教えられても、その興味は消える事は無い。何せ魔法やスキルなどもあるらしいのだ。RPGの世界に入り込んだようで、心がワクワクしていた。
「…」
そんなミリスの心地よい高揚は、一瞬で地に落とされた。否、地表を通過し地殻を突き抜けマントルの真ん中でイチローもかくやと言わんばかりの大爆発を起こし、某8時に全員集合してそうなコントで流れるBGMを流しながら地球が爆散していく光景を幻視する程だった。
それは失望。否、絶望。否————怒り。あのクソへの怒りであった。
ミリス
Lv.1
力:I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
魔法少女:F
《魔法》
【
・想像魔法
・条件下における出力の上昇
・条件:魔法少女っぽい衣装・恰好・セリフ・ポーズ
・程度により効果の増減有り
・詠唱式【任意】
《スキル》
【
・特定条件下における全ステイタスの高域強化・弱体化
・--------------(何故か消されている後がある)
・条件:魔法少女っぽいか否か
【————】
・-----------------
・---------------(何故か消されている後がある)
これがミリスのステイタスだった。ロリ巨乳は白目をむいて倒れ、ミリスの怒髪は天を衝いた。特にヘスティアはただでさえライバル()の登場に神経を使っていたのに、零細ファミリアでこのようなレア魔法・スキルを覚えてしまった眷属の扱いにこれから迫り来るであろう難儀を思って気を失った。
ミリスはクソに対するヘイトが1上がった。31歳童貞のおじさんになんてことをさせようというのだろうか。神とは残酷である。ミリスは激怒した。必ずかの諸悪の根源たる神を滅ぼさねばならぬと決意を新たにした。
そもそも魔法少女っぽいとは何なのか。っぽいってどこで判断しているのだろうか。というか誰が採点するのだろうか。あのクソか。クソなのか。見ているのかこっちを。見るだけで呪いを掛けられるアイテムとか魔法とかないものだろうか、と本気で悩む。
それと、ステイタスの一部を消されたような後があったのだが、ミリスは気にしないことにした。何かヤバ気な事が書いてあったことはヘスティアの顔を見れば明らかであり、気になりもしたしヤキモキもしたが、初対面の相手にこんな事をしなければならないのだからそれ相応の理由があるのだろうとひとまず様子を見ることにしたミリスだった。
とにもかくにも、ミリスはステイタスを手に入れたと同時に絶望する羽目になったのだ。何しろ折角の魔法の発動条件があまりにも無茶ぶりすぎたのだ。何度も言うがミリスの中身は31歳童貞なのだ。
怒りで頭がどうにかなりそうになってしまったミリスは、次第に考える事を辞めた。難しい事は明日の自分に丸投げしようと思いついた。ただ今は深く深く眠りたいと、そう思った。
この日、ミリスはヘスティアと同じ布団で眠った。ベルが気絶したヘスティアをベッドに運び、どうぞと譲ってくれたのでその好意に甘えたのだ。ミリスはヘスティアを神としか見ておらず、幼女でもなんでもないと思っていたので普通に寝た。どこがとは言わないが、一部分が暑苦しくて寝苦しかった。
そうして今日がやってきた。ミリスは早速ギルドまで行きベル主導のもと冒険者登録を行った。ミリスは晴れて冒険者を名乗ることを許されたのだ。
だが、ミリスにはまだ乗り越えなければならない壁があった。冒険者の講習だ。受ける人と受けない人がいるらしいが、ベル曰く絶対受けた方が良いらしい。アドバイザーはそんなことは無いと言っていたが、ここは同僚を信じてみることにした。
講習は昼には終わった。
「これでダンジョン講習は終了です。最後に一つ、これは私の同僚からの受け売りなのですが…『冒険者は冒険をしてはいけない』。これを忘れないで、冒険者として頑張ってくださいね」
「??????? はい、わかりました」
意味が分からなかった。冒険者は冒険をしてはいけないって文章として破綻しているとぼんやりと首を傾げた。冒険者の最初2文字は一体何のために引っ付いているのだと頭を疑った。冒険者から冒険を取ったらただの者ではないかと脳内でツッコんだ。だがNOとは言えない日本人スピリッツが根付いていたミリスは、分かったふりをしてうなずいた。
「もう装備はきちんと持っているらしいし…早速ダンジョンに行くんでしょう?それじゃ、行ってらっしゃい」
「行ってきます」
と、言っても。まずはミリスはベルト合流しなければならなかった。集合場所のバベルの足元に向かう。
「ミリスさーん!」
「ベル君」
ギルドから出てバベルの塔へと向かう途中、ちょうどダンジョンから帰ってきたベルがミリスと鉢合わせした。待ち合わせるつもりだったとはいえ、タイミングが良かった。
ベルはミリスの講習が終わった後に、一緒にダンジョンに行けるように早めにダンジョン探索を切り上げて一度戻ってきたのだ。
「それじゃあ、軽くお昼ご飯を食べたら早速行きましょうか」
「了解です」
ミリスは安物の定食をベルと一緒に食べた。安物なのでおいしいとは言えなかったが、腹は膨れた。
食べている途中、ベルはミリスと会話を試みた。
「ミリスさんって…なんか、いつも隠れてますよね」
「え?そ、そうでしょうか」
「はい。あ、ほら、また隠れましたよ!無自覚だったんですか?」
「そ、そのようですね…」
ミリスはどうやら無意識のうちに人目を避けていたようだ。恐らく自分の性癖が周囲に露出し続けているこの現状が心にストレスを与えて無意識のうちに防衛反応に出ているのだろう。確かに人に見られるのは嫌だ。特に背丈と胸と顔。田中としての好みがもろにバレてしまうから、『私を見ないで!』と行動で示すのは当然のことだった。
だがそんな内情知る由もないベルは、何を勘違いしたのか同情気味に話し始めた。
「あはは…僕も初めてこの街に来たときは、あまりの人の多さに圧倒されっぱなしだったなぁ…」
「ああ、そうですね、確かに…」
確かに人は多いかもしれない。だが、日本ではこの程度の密度はありふれた光景だ。服装や手に持っている武器を除けば、の話だが。
「僕がいますから、そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ…いや、ほら仲間がいれば心強いじゃないですか。同じファミリアの仲間だし、こういう時は助け合いですよ!うん!」
「おお…!」
ベルの言葉にミリスは感動した。心を打たれ、何度もうなずいた。日本ではこんなまっすぐな子どもはどこにもいなかった。流石異世界、といったところか。ベルの善良さと心の優しい一面を垣間見て、ミリスはベルと仲良くなれそうな気がした。
「ごちそうさまでした…そ、それじゃあ行きましょうか」
「はい、行きましょう」
ベルの後ろをついていくミリス。年下に気を使わせてしまって申し訳ないと思いつつも、しっかりと仲間として認めてくれているベルに対して好感度(友愛)が上がった。
対してベルはミリスの庇護欲をくすぐる愛らしさにちょっとドキドキしていた。可愛らしい少女であるミリスに対して好感度(恋愛)が上がった。
ぶっちゃけ誰得なのか分からない事態が水面下で進行していたのだが、ミリスはこれに気付かない。これが後々に大変な事態を招くことになるのだが、今は誰も知る由などなかった。
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ダンジョンの中は、地面がほぼ平面であることを除けば普通の洞窟の様だった。冷たさを感じさせるほのかな光が全体に満ちていて、視界に困ることはなさそうだが、細い通路の影からいつモンスターが飛び出してくるのか分からない不穏な雰囲気が漂っている。
「まずは魔法の練習をしてみましょうか」
「は、はい…」
緊張するミリスとそれを暖かく見守るベル。
ミリスは頭の中で自分が使える魔法について整えてみることにした。
まず、自分が使える魔法は『想像魔法』と呼ばれるもの。詳細はもちろん存じないが、恐らくその文字の見た目的に、想像したものを魔法として放つことができるだろう。
だとすると、この魔法の一番のキーは想像力なのかもしれない。イマジネーションだ。イマジネーションを感じるのだ。
とりあえず、RPGでよくある普通の魔法を使ってみることにした。
「【火よ、その力を示せ ファイアボール】」
魔力が蠢く感じがして、ミリスはその感覚を信じて杖を前に振った。すると、炎の弾が三つ現れて、砲弾もかくやと言わんばかりに衝撃波を残して飛び去って、10m先の壁に当たって爆発を起こした。
「おおおおおお!魔法、魔法ですよミリスさん!」
「わ、分かってます!凄いですねこれ…」
ミリスもベルも初めて見る魔法に大興奮だった。
まだ魔法少女っぽいセリフもポーズもしていないのだが、意外と威力が高い。拍子抜けだった。これなら、わざわざ魔法少女っぽくする必要などないのではないか、とミリスは思った。
「よし、それなら早速モンスターと戦ってみましょう!」
ベルの言葉にうなずいたミリスは、ウキウキした気持ちで歩き出したのだった。