ドールズフロントライン4.3 -IRIS- 作:仲村 リョウ
404小隊と共に行軍を始めてから数十分の時間が流れる。行く道に敵がいれば暗闇に紛れ静かに素早く一掃し、自分達に都合が悪い場合は無視する………
他の部隊との作戦時間に合わせるため、俺と404小隊は出来るだけ敵を避けて移動するべくステルスを重視する選択をとったのだ。416はこの選択には大いに賛成しており、率先して行動してくれる。AR小隊に負けたくないのだろう。お陰で狙撃担当である俺とG11の出番がなくなってしまうが。しかし、G11は楽が出来ると416の行動には満足な様子。
「それにしても。相手が人間だと少し違和感があるわね」
「なんでだ?」
「だって、私達の相手てって主に鉄血工造じゃない?」
「人間相手の任務は来ないのか?」
「たまーに来るよ」
………細かいことまでは聞かないでおこう。
「まあ、相手が人形と人間ならまだマシな方だ」
「マシ?」
「もしかして"ELID"のこと?」
45が言ったELIDとは"広域低放射線症候群"の略で人間が"崩壊液"と呼ばれる液体に被爆した場合に発症する病気のことだ。感染者の大抵はそのまま死亡するか崩壊して消えるのだが稀にゾンビ化するかミュータント化したりするため人類にとっては共通の敵と言っても過言ではない。
事実として第三次世界大戦を引き起こした原因はこのELIDの根源である"
「あれはなんて言うか………敵としては最悪だな」
「………あまり深く聞かないでおくわ」
俺は正規軍にいた頃、何度かELIDを掃討する任務に就いたことがある。ゾンビは映画通り頭以外撃っても歩いてくるわ、ミュータントは小銃程度の武器は通用しないわ………しかも見た目はグロいときた。あいつらの相手をするくらいならMREの残飯を食わされる方がマシだ。
「ELIDに比べたら人間や人形のお相手の方が可愛く思える」
「私達はまだ相手にしたことがないけど、指揮官がそう言うのならそうなんでしょうね」
45が苦笑しながら皮肉げにそう言った。実際、ELIDとの戦闘で正規軍陣営に多大な被害が出たのも事実である。その教訓を踏まえてから最近になり正規軍の戦術人形がELID掃討を担当していると聞く。
「お喋りはここまでだ。着いたぞ」
森林地帯を抜け、丘の下に見えるのは敵の司令部だ。滑走路やコントロールタワーまであるが、奴らには必要のないものだろう。しかし、双眼鏡で中の様子を偵察すると、陸上ビークルが多数停車しているのが見えた。中には装甲車の姿まである……恐らく正規軍から鹵獲したものだろう。巡回している奴らも中々の数だ。
「中の様子はどう?指揮官」
「よろしくないな」
そう言いながら俺は双眼鏡を45へと渡す。
「中々の数ねー」
「何か企んでる感じがするよね」
「正規軍への攻撃とか?」
「それはないな。まともに正規軍と戦える戦力なんてないだろ」
「………テロ?」
「なくはないが………」
ならここへ戦力を集める必要があるのだろうか。
「………だが。奴らが戦力を集めているということはここにリーダーは必ずいる。それに、掃討するには絶好の機会だ」
「そうね………でも、残念だけど私達は………」
「分かってる。掃討はグリフィンが請け負う。俺らは元々そういった任務だからな」
「なら、私達は予定通り中へ潜入するわ」
45から双眼鏡を受け取ると
「私と9と416で中へ潜入。念のため無線は封鎖するわ。G11は指揮官のお手伝いをしてて」
「うん」
「敵司令部への攻撃タイミングはこちらで合わせるぞ?」
「ええ、構わないわ。その為に指揮官には遠くで援護してもらうの」
「それはありがたいが………俺の部隊とはいえ顔は合わせないようにしろよ。色々と面倒くさくなるからな」
俺が彼女達へそう警告するのも当然のことだ。
Task Force 404 Not Found………
名の通り404小隊とは非公式の部隊であり"存在しない部隊"だ。勿論、グリフィン所属の戦術人形ではない。非正規の人形の為、メンタルモデルのバックアップが取れないという制限がある。
報酬を払って動く部隊なので傭兵には近い存在で、彼女達の任務は主に隠密性が伴う"特殊部隊"が行うような難易度の高いものが多い。
だが、どんな難しい作戦でもこなすので彼女達の腕の信頼は高いため俺もご
さて………先程俺が言った"面倒くさい"ことになると言ったのは上記に説明した通りだ。非正規部隊の為、存在が明るみに出ないように彼女達と接触またはともに任務を遂行した戦術人形は
だから、404小隊の存在を把握できている者は俺やヘリアンと言ったごく限られた人物だけだ。お陰でグリフィン内では"都市伝説"として語られていることもしばしばある。
しかし、そんなとんでも小隊の彼女達だが時々何もなかったかのような顔をしてはグリフィンの宿舎にやってきてお世話になっていることがある。時々と言うよりはほぼと言ったほうがいいか。特に45と9はな。前の部屋の件もそうだが………まあいい。
その時だけはグリフィン所属の人形として振る舞うので彼女達の存在を気づく者はいない。
「分かってるわ指揮官。私達がそんなヘマすると思う?」
「G11がいなければスムーズかもね」
「確かにー」
「みんな酷い」
G11は目を丸くしながら、からかう三人へと睨みつける。
「指揮官~………」
「…………」
同情して欲しいのか涙目になりながら俺へと詰め寄ってくる。
「はぁ………まあ、なんだ………お前はやる時はやる奴なんだから頑張れ」
「………そう?」
「ああ。活躍できたらラムレーズンアイス奢ってやる」
「よし。やるよ。みんなのんびりしてないで早く行ってきてよ」
さっきまでダルそうにしていたのはどこに行ったのか………なんて言うか。
「「「現金な奴………」」」
45と416も同じことを思っていたのか偶然にもハモってしまう。
しかし、9だけは………
「G11だけご褒美ずるいよー!指揮官!私も活躍するからご褒美頂戴!」
「引っ付くな!」
駄駄を捏ねる子供かお前は。
大人しく現金な分G11のほうが扱いやすいことが身に染みて感じる。
「その事は後にして9。私も言いたいことがあるのは山々だけど、時間もないからさっさと任務を遂行するわよ」
「あ~ん!襟を引っ張らないで45姉ぇ~………」
「………416。頼むぞ」
「分かったわ」
誰がリーダーなのか分からなくなってきたな…………
-side UMP45-
「全く9は………気持ちは分かるけど今は緊張感もって」
「でもでも45姉ぇ~」
「はいはい。静かにして9。敵司令部は目の前なのよ」
先導しながら丘を降りる416の後を追い続けるとフェンスが張り巡らされた敵司令部へと近づく。所々サビも目立つため、破るのは簡単そうだ。
「それにしても………指揮官が進んで私達に協力するなんて珍しいわね」
「言われてみればそうね………」
私達の事情を知っている指揮官は任務中に接触しても干渉することがない。無闇にグリフィンの人形と接触して処置をするのを避けてるのは分かるし、私達も面倒な行動がないことには文句がないのだが。
「何か企んでるのかしら?」
「ん~………それはないと思うわ」
「どうしてそう言い切れるの?」
「そんなの簡単」
「愛だよ愛」
「………は?」
フェンスへ円状に凍結スプレーを噴射していた416は9の言葉に唖然としながらこちらへ顔を向けた。
「指揮官も私達の家族なんだし………分かって当然だよ。ねっ?45姉」
「9の感覚は分からないけど~………」
愛ってのは否定しないわ。言葉には出さないけど。
「あなた達って本当に………頭がメルヘンチックね」
「そんなこと言って。416も私達がいないところでは指揮官に甘えてるよねー?」
「なっ!?そ、そんなことしてないわよ!」
((してるわね………))
フェンスの残骸を手に持ちながら顔を真っ赤にして否定する416。実は執務室で指揮官の膝の上に乗って甘えているところを目撃しているのだ。指揮官は満更でもない顔をしていたけど、普段からキリッとしてる416はフニャとした顔で癒されていた。癒されたのは私達の方だけどねー。否定しても体は正直というのはこう言うことかしら。
「は、話を戻すわよ」
「はいはい。指揮官が何か企んでるかもって話ね?」
「え、ええ………」
「まあ、単純に私達と協力した方が任務も早く終わるからじゃない?」
「つまり………利用されてるのかしら?」
「協力よ協力。今回は指揮官の方も反人形人権団体の駆逐じゃない?私達もそのリーダーの拘束。お互い似たもの任務だからね」
「そうそう!一石二鳥~!」
「………腑に落ちないけどそう言うことにしておくわ」
とか言って、本当は指揮官のことは信じてるくせに。素直じゃないんだから。
「………でも。前々から思ってたんだけど、どうして前線で戦いながら指揮するのかしら?」
「今更な疑問ね」
フェンスを潜り抜け、敵司令部へと潜入したが416は指揮官に対する疑問を言葉に出し続ける。
「う~ん………でも、416の言う通り。どうして指揮官は前線に出てくるんだろう?普通なら司令部で指揮するのが普通なんだよね?」
「普通………ね」
「………45。何か知ってるの?」
「うーん………全部知ってるわけじゃないんだけど………指揮官が普通じゃないのは分かってるでしょ?」
「ええ………少なからずはね………」
指揮官が未だに前線へ出て銃を手に取り戦うのは周りから見れば異常なものだろう。先程9が言った通り指揮官という役職は安全かつ後方での指揮をするのが当たり前だ。以前にクライアントの一人であるヘリアンと衝突していたのは言うまでもない。
「なんとなーくだけど………私の感では指揮官。死に場所を探しているのかもね?」
表では感情を無駄に表さない指揮官だけど私は知っている。夜な夜なたまに魘されていることをね………
まるで呪いがかかっているかのような苦しみの表情だった。
「そ、そんなこと………させないよ」
「ええ。私も存在する限りはそんなことさせない」
なにせ、あの人が希望って言うくらいなんだから………
それに、私も気に入ってるしね。
「死に場所ね………そう言っても、指揮官は簡単にはくたばらないでしょ。心配する必要はないわ」
「そうね」
あまり心配していない様子の416を見た私は思わず口角が上がってしまった。
彼女の言う通り、指揮官は不死身と言われるほど悪運が強いのだ。私も何度もそれを目にしている………立場上よくはないのだけど、私はその姿を見て惹きつけられているのだろう。
「だったら尚更私達と行動してほしかったわ」
「どうして?」
「だって………指揮官なら一人でもこの基地を制圧できるほど強いのよ」
「…………冗談でしょ?」
「勿論、死ぬ気になればの話よ」
人間というのは死ぬまで追い込まれると真の力を発揮すると言うらしい。もし、指揮官が死ぬ気で戦ったらどうなるのだろう?もちろん………
正規軍の特殊作戦コマンド部隊を全滅させれるくらいにね。