ドールズフロントライン4.3 -IRIS-   作:仲村 リョウ

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二話連続です


案件1-11:追跡

「M4」

「あっ。指揮官」

 

404小隊からの逃走に成功してから数分後。俺は東側にいるであろうAR小隊と合流を果たす。外にいる敵は全て倒されたのか、死体付近の周りには血を流しながら絶命していた。

 

「外にいる敵勢力は殲滅したか」

「はい」

「あとは残存兵力がないか建物を調べるぞ」

 

俺はそう言うと無線の周波数を第一部隊へと切り替える。

 

「第一部隊。敵の殲滅を確認した。俺とAR小隊は建物の残存兵力を掃討する。お前たちは外で待機してくれ」

 

グリズリー≪了解、指揮官≫

 

「なお、敵の増援を確認次第攻撃は許可する。デザードフィッシュとの連携を密にな」

 

恐らく増援はないと思うが警戒はしておいた方がいいだろう。

 

「それではAR小隊。敵の掃討作戦を継続するぞ」

 

4人からそれぞれ「了解」との返答を聞くと俺も頷き、建物の中へと入っていく。

 

 

「うわ~………中々荒れてるね~……」

「SOPMODⅡ。集中して」

 

SOPの言う通り、建物内へと侵入するとそこはもう廃墟と言っていいほどの雰囲気を漂わしている。サーペタイン4マンセルで行軍する彼女達へ着いて行く中、割れた窓ガラスからは冷たい風が吹き抜け、ガラス片が落ちた床を歩けばジャリッという音を空間を響かせ不気味さを一層と増す。壁は劣化の影響でひび割れが所々見られ、破片が零れ落ちていた。俺たち以外にも戦闘があったのか弾痕も見られる。恐らく第三次世界大戦中に起こったものと見て間違いはないだろう。

 

大戦が終結してから11年は経っているが、こういった廃墟は無数に存在する。以前の作戦で展開した街も同じ類だ。今となっては反勢力などの拠点として使われるのが多いのが現状だろう。

こうなってしまったのも俺達人類による自業自得というものだろう。核攻撃や長きに渡る戦災。そして、崩壊液の蔓延………

俺より先に生まれた大人共がイデオロギーやらを唱えては戦いを激化させ、次第に汚染されていない土地を巡って争い始めた。結局は人間と人間による醜い喧嘩だ。俺自身、大戦中はまだ幼い身のおかげか戦いには投じておらず、傍観者として戦争を見てきた立場だ。といっても、幼かった俺には少しばかりスパイスが強すぎる光景だったが。

記録によれば100年以上前に起こった第二次世界大戦より酷いらしい。

 

昔から環境汚染やら温暖化などによる環境問題は危惧されてきたのだが、今となってはどうでもいい話だ。なにせ、昔以上にこの地球は汚染されている。もう誰も手の施しようがないくらいに。まだ、ロシアやアメリカといった大国は数少なく生き残っているが、除染作業には取り組まないだろう。人間が崩壊液に手を出した時点でもう手遅れなのだから。

 

だから、俺はこの現状を作り出した奴を恨んでいるしこの世界が嫌いだ。

 

だが、そんな事思っても今更やり直せる力なんてこの世界にはないだろうし、やり直そうとは思わないだろう。この世界があるからこそ今の俺がいるわけだ。こうして俺が殺しの職業に就けたのも、人形を率いる事もできるのも、このイカれた世界があるこそなのかもしれない。

 

「………静かすぎます」

 

先頭にいたM4が全員が思っているであろう違和感を口にした。

 

「確かにな」

 

俺も同感だ。外にいる敵は全て倒したのは分かるが、全てではないはず。リーダーは404小隊が捕らえ、指揮がままらなくとも個人で逃げようとは思うはずだ。だとすれば何処か逃げ道を用意しているのか………

 

「気づいているかもしれないが………奴ら逃げ道を使って逃げたんじゃないのか?」

「だろうな」

 

地下道か………またか。

 

そんな事を頭の中へとよぎらせながら暗い通路を進んでいく。前の作戦時にも言った通り、廃墟となっている場所には地下道が張り巡らされているのが多い。大戦中、核兵器による放射線や崩壊液による土地の汚染に備え、小国の民兵達は地下を掘り進め戦えるよう又は生活が出来るようにしていた。

2045年の大戦勃発時には南極の地下都市が自衛として独立を宣言し、未だに鎖国を続けている。人が太陽の光を浴びる事なく生活できるというのを初めて証明してくれたのは彼らが初めてかもしれない。俺は南極の行動には賞賛を送りたいものだ。なにせ、このクソみたいな戦争に関わらないのは正解なのだから。

 

「指揮官。あの部屋だけ明かりが溢れています」

 

M4の言った部屋を見ると、扉の隙間から光が透き通っているのが確認できた。

 

「突入するぞ」

俺がそう指示を出すとルームエントリーの準備に入る。バックパックからDTチャージを取り出し扉へと貼り付ける。これはルームエントリーをする際に使われる突破型爆薬。やや厚めの鉄扉でも破壊できる優れものだ。

 

「ブリーチ!」

 

爆音と衝撃と共にドアは破壊され、M4から先頭にM16、AR15、SOPの順で室内へと突入して行く。

 

「クリア!」

「指揮官!隠し通路が!」

「ちっ……行くぞ」

 

この部屋はどうやら通信室のようだ。壁際には一世代前の機器が壁際に置かれている。

そして、正面の壁には人が一人通れるくらいの幅で下へと続く通路があった。恐らく予想通りの地下道だ。しかも即席で作られたもの。

 

「足元に注意しろよ。罠を仕掛けている可能性がある」

「了解です」

 

先頭は変わらずM4が務め、物怖じせずに進んでいく。果たしてこのまま一本道に続くのか、何処かへ通じているのか分からないがあまり深追いはしない方が良さそうだろう。もし、いくつもの分岐するような作りならすぐに引き返すのが正解だ。

それにしても嫌な感じだ。下へ降りるに連れて明るさは徐々になくなり、しまいにはライトを照らさないとお互いの存在が確認できない程なる。

敵に存在を悟られる原因を作らないためにも俺は暗視スコープを装着する。こういった暗闇の場所では最強の道具だと言えるだろう。

 

「指揮官。前方に階段がありますがどうしますか?」

 

M4から前方に階段があるとの報告を受け、俺は少しだけ思考を回転させる。

 

「………降りるぞ。もし、道が続くようなら引き返す」

「そうだな。待ち伏せに遭遇して全滅ってのも笑えない」

 

M16の言う通り。いくら戦闘のプロとはいえ、知りもしない場所で罠にはまれば全滅の危険すらある。時には引き際を考慮するのも必要だ。

 

警戒しながら鉄で作られた螺旋状の階段をしばらく降りると、そこはコンクリートで作られた広い場所だった。地下水が天井から滴り落ち、地面には所々水溜りもある。人の手に作られたにしては出来がいい。

 

「なんだろうここ?」

「三次大戦時に作られた施設か何かだろうな。この作り方は明らかに民兵が作るような構造じゃない。恐らくここの元小国が造ったものだろう」

 

テロリスト共が使うにはいい場所だ。今となってはいい迷惑なことだ。

 

『うわぁああああああ!!!』

 

突然、男性の悲鳴に俺達は思わず身構えた。その直後、小銃がフルオートで発砲する音が聞こえてくる。

 

「なんだ?」

「何かは分からないけど……私達以外に誰かいるのは間違いないわね」

 

銃声が止むと、弾切れを起こしたのかそれとも死んだのかは分からないが、また不気味な暗黒の空間に静けさが訪れる。

 

「どうしますか?指揮官。確認に向かいますか?」

「………ああ」

「了解です」

 

M4は俺の指示に疑問を持つことなく従う。普通、人間の部隊なら具申をいれる者が現れてもおかしくないのだろうが、彼女達は人形だ。ロボット工学三原則に基づき、その一つである"命令への服従"を優先しているのだろう。その為、俺がグリフィンに入ってからというものの、彼女達は俺の命令を無視したことが一度もないが意見を述べたり理由を聞いたりとしてくることはある。だが、最終的には指揮官である俺の指示に従う………

だから、命の鼓動を持たない彼女達………人形を物のように扱い、人間を守る盾として無謀な指揮をとる者は決して少なくはないだろう。以前の指揮官がそうだと聞く。

気にくわない。実に気にくわない。確かに人間ではない彼女達を物として見るのは強ち間違いではないのだろう。

しかし………俺も甘くなってしまった人間だ。人間のように心臓がなくとも人形だからといって無謀な指揮をとることは決してしない。

言葉は話せる。感情はある。なにより………俺のことを信頼してくれている。

だからこそ俺は彼女達を一人の部下として命を尊重しなければならない。例え人形だとしても彼女達は駒ではなく部下なのだから。

 

 

 

声がした方の通路へと足を踏み入れること数分。あれから人の声や銃声が聞こえることはなかった。

しかし………声がした方に近づくに連れ生臭い血の匂いが漂ってくるのが分かる。

 

「警戒しろ」

 

突き当たりには右方向しか進路がなく、寂れた標識には英語で"独房"と書かれてある。これ以上寂れた部屋が並べられた場所があるだけで、行き止まりの筈だ。しかし、今は世紀末。奴らが壁に穴を開けてトンネルを開拓しているかもしれない。

俺達は小銃を構えながら慎重に進んでいく。敵が待ち伏せているかもしれない角を曲がり、さらに奥へと。

すると、通路の奥には蛍光灯がランダムに点滅しながら弾ける音が鳴り響いている。何処で発電機が動いているのだろうと思っていると、M4が止まるようハンドシグナルで指示を出した。彼女が止まるよう指示を出した理由は明白だ。なにせ、突き当たりには首を片手で首を絞められ持ち上げられている人のシルエットが浮かび上がっているのだ。

俺は音を立てないよう慎重にカッティングパイを行いながら、突き当たりへと進んでいく。気がつけば俺が先頭に立っていたのは置いておこう。

 

「あら?随分と生温い攻撃だったわね?外での戦闘も大したことないし、まるでオメオメと地下に潜ることしか出来ないミミズみたい」

「ガァアアア!?は、離しやがれこの腐れた人形がぁ………!」

 

声が聞こえてくる。一人は女性だ。何処か見下したかのような口ぶりには心当たりがある。対して、首を絞められてるであろう男性は恐らく反人形人権団体の一人だろう。その証明に、突き当たりのすぐ側には小銃と額から血を流した骸が転がっている 。

 

「腐れた人形ね………まあ、強ち間違いではないかもしれないわ。でも…………貴方達には言われたくないわね」

 

ゴキャッ

 

何かが折れる音が狭い空間へと響き渡る。俺はそれを合図にAR小隊へと突入の合図をハンドシグナルで送る。

 

「そこを動くな!」

 

M4が小銃を構えながら牽制する。俺や他の3人も角から飛び出し、M4と同等の行いをした。

 

「あら?外での戦闘はお疲れ様グリフィンの犬達。それと………初めまして"アヴェンジャー(復讐者)"」

 

ダランと垂れ下がった骸の首を片手で持ち上げながらこちらへ微笑む少女。その姿に俺は何処か可憐で狂気に満ちた姿に見えたのだ。


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