ドールズフロントライン4.3 -IRIS-   作:仲村 リョウ

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好奇心は行動の源


案件1-12:雑談

時々俺は人間が脆く弱い存在だと思う時がある。動脈や首を裂かれる。頭や心臓を撃たれる。それをやられただけで人は簡単に絶命する。鉄血の奴らが人間を見下すのも分からなくはない。なにせ、俺だって死にかけたことなど無数にあるからだ。

人間は命がけで戦うが、人形は言われたままに戦う。恐怖の概念はあれど、肉体が一つしかない人間とは違い、彼女達にはバックアップとなる体が用意されている。ゲームでいう残機数だ。そこが人間と人形の一つの違い。

だからこうして俺は両手に銃を持って自分の命を守る。たった一つしかない肉体と命を守るために………

 

 

「お前は鉄血のボスだな?」

「ふふ、ご名答。貴方の言う通り、私はボスの一人。そうね……トラッカー(追跡者)って呼ばれてるわ」

 

トラッカーと呼ばれる鉄血の人形は片手に持っていた人間だったものを後ろへと投げた。まるで本当の人形へ乱暴的に扱うかのように。

 

「へぇ~……エクスキューショナーの情報通り、わざわざ前線まで足を運び、挙句には自身の手で戦う指揮官ねぇ………どうりで彼女が困惑するのもわかる気がするわ」

 

距離的には離れているというものの何故か近くで体の隅々まで見つめられている感覚が襲ってくる。というのもこの感覚には覚えがあった。恐らく、イントゥルーダーの時と似たような類だ。

 

「せっかくここまで来たんだからお話ししていかない?グリフィンの指揮官?」

「話だと?」

「そっ。お話し」

 

ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべながら側にあるテーブルへと腰掛けるトラッカー。

 

「ふざけるな。誰が貴方と………」

「私は貴方達ではなくアヴェンジャーと話してるの。割ってこないでくれる?」

 

トラッカーはAR小隊のメンバーへ向けて形相を変えながらそう言い放つ。

 

「それとも………生き埋めにされたいのかしら?」

 

すると、トラッカーはこちらへ何かを見せつけてくる。その何かには大体予想がついてしまった。大抵こういうのは昔のアクション映画や漫画ではテンプレパターンなのを見ているため、まさか現実でも自分が体験することになるとは思いもしなかった。

 

「こいつらが仕掛けた爆弾………"TNT"というのかしら?どうやら貴方達の追跡を振り切るために使うと思われたのだけど」

 

トリニトロトルエン。第一次世界大戦から存在し、安定性の高さや腐食の問題がないことから100年以上経った現在に至っても使われている。

そんなものがこの空間に仕掛けられているということは、今俺達の命は彼女に握られていると言っても過言ではない。

 

「安心して。急に爆発させるっていうことはしないわ。勿論、私の要求をのんでくれたらの話だけど?」

「要求?」

「さっきも言ったようにアヴェンジャーとのお話し」

 

こいつ……本気でそう言っているのか?だとすれば、鉄血のボス共は相当病んでるのだろう。このような状況なら俺を殺す方が奴らにとってメリットが大きいだろう。なのに、こいつは実行しない………

 

「それに………アヴェンジャーを勝手に殺したって報告したら、きっといくら友と呼べるイントゥルーダーでも怒っちゃうからね」

なるほど。こいつ、イントゥルーダーと同じ類のようだ。

 

「さあ、どうするの?指揮官(アヴェンジャー)?」

 

膝をくみ頬杖をしながら小悪魔のように笑みを浮かべるトラッカー。

何故こいつは俺と話をしたがる?罠か?いや、罠ならもっと上手く俺達を嵌める筈だ。なのに、こいつは自分の姿を見せてまで俺達が来るのを待っていた。そうなると地べたに転がっている反人形人権団体の奴らは餌というわけだ。まるでディナーを誘うかのように。

 

「………いいだろう」

 

銃口を下ろしはしないが彼女の誘いに乗ることにする。

 

「指揮官」

「分かってる。もし、こいつが妙な動きをするなら撃っても構わん。例え、俺が人質に取られても躊躇はするなよ」

「しかし………」

「命令だ」

「…………分かりました」

 

命令として言葉を受け取ったM4はなんとか了承はしてくれる。しかし、納得はしていない様子だ。当たり前だろう。指揮官である俺が鉄血のボスと対談など彼女達にとって心臓が痛くなるほど危ない行為なのだ。

 

「あら。別にそんなことしないのに……」

「今はお前らとそこに転がっている奴らと戦争の真っ最中だ。信用できないのはお互い様じゃないのか?」

「それもそうね」

 

クスクスと笑うトラッカーに何かとやり辛さを覚える。何を考えているのかわからないのだ。そんな相手をするのはヘリアンだけで充分であり、俺の仕事ではない。何故、俺はイントゥルーダーのように変な人形に絡まれることが多いのだろうか。

 

「さあ座って。あまり時間はないと思うけど………一度貴方とはお話ししてみたかったの」

 

そう言いながら彼女はテーブルから飛び降り、近くにあったパイプ椅子を拾い上げて座る。俺も警戒しながら転がっているパイプ椅子を拾い、テーブルの前へと置いて腰掛ける。

 

「話か………世間話できるほどネタあんのかよてめーらには」

鉄血時事ネタ(お笑い話)ってのはあるけどね。ああ、勿論こちらが不利なるような話はしないけど」

「興味ねーから却下だ」

「あら残念。意外と可愛いイントゥルーダーの話もあったのに」

「あいつの話は正直勘弁してくれ………」

「………同情するわ」

 

まさか鉄血の人形に同情される日が来るとは思ってもいなかった。

 

「それにしても………前線にまで出てきて戦う指揮官ねぇ…………貴方。どうしてそこまでして自らの手で戦いたがるの?」

「特に理由なんてない」

 

嘘は言っていない。元々、グリフィンに入ったのも契約上、前線に出て指揮と戦闘を行う事をCEOであるクルーガーも承諾しており、戦っていること事態に理由なんてない。守りたい人や大切な人の為に戦っているわけでもなく、名誉やお金なんてもんも興味はない。

なら何故戦う?そんなことを何度も聞かれてきた。そう問われる度考えはするが、自分自身も答えは分からない。元兵士としての行動原理なのかそれとも人間の脳に元々ある闘争本能(残虐性)というやつなのか………

 

「本当にそうかしら?」

「…………」

 

なにかを見透かしているのかトラッカーは頬杖をしながらこちらへ見つめる。彼女の問いに俺はなにも返答できないということはきっと、俺自身気づいていない何かが本能では気づいてしまっているのかもしれない。

 

「戦う理由なんて人間も人形も動物だって変わらないわ。闘争心なんて生物共有。動物なら縄張りや交尾の為に争う。人間も国同士の対立、宗教の対立などの理由で争う。私達人形も戦えと言われるから争う………誰しも戦う理由はあるわ」

「違いないな」

「なら、貴方はなにに当てはまるのかしら?大切な人?国の為?それとも………私達(鉄血)の殲滅?」

「悪いが、俺自身も答えは知らない。お前の言う通り人間には戦う理由なんてそれぞれだ。大切な人の為に戦う奴もいれば自由の為に戦う奴もいる。(あなが)ちお前らの殲滅で戦う奴もいるだろうな。だが………俺はどれも当てはまらん。お前らが全滅しようが興味はないし、俺には命をかけてまで守りたいというような人間もいない」

「…………」

「お前が思っていることもAR小隊や他の人形も同じことを思っているだろう。確かに前線に出てまで戦いながら指揮をとる指揮官などイカれているだろうな」

「自覚はあるのね」

「自覚がなければ今頃司令部でMREを食いながら指揮してるかもな」

「それが普通よ。指揮官がいなければ戦術人形は意味がない。それなのに貴方は死を恐れずに前線へ立つ…………そんなチキンレースを毎回行われては貴方の上官も頭を抱えているでしょうね」

 

トラッカーが言うことは図星だ。ヘリアンは俺の行動には今も頭を抱えていると聞く。本当は俺の足を撃ってまで止めたいはずなのだが、CEOであるクルーガーが正式に公認しているせいでそれができないのだ。彼女には申し訳ないが、こうするしか俺には道がない。

 

「………今貴方を殺してしまえば後ろにいる彼女達も存在価値はどうなるのかしら?」

「心配するな。そうなる前に先にお前を殺してやる」

「アハハハ!いいわね貴方!本当に面白いわ!!」

 

なにが可笑しいのか………やはりこの人形にはイントゥルーダーと同類の感じがする。

 

「貴方………私達(人形)より人形らしいわ」

 

こいつら(人形)より人形らしい………か。彼女の言葉を返せずにいるということは、自分でもそう思っているということなのだろう。

俺という存在を作り出したのはこの世界だ。力がなければ死んでいただろうし、銃がなければ荒野に立って鉄屑拾いをしていただろう。

アメリカやロシアや中国といった秩序が存在する国家には関係のないことかもしれない。正規軍統制地区なら金や地位さえあれば大人になるまでの命の保証は期待でき、学校も働く場所も帰る場所もある。昔みたいに電話をすればドローンによるデリバリーで配達し、市民証とマネーカードを掲示すればピザを片手に団欒とテレビを見ながら食事もできる。この世界の人間にとっては桃源郷(ユートピア)のような存在だ。PMCが統制する地区も正規軍ほどには及ばないが、ある程度の衣食住や治安は保証される………

しかし、統制されていない地区………いわゆるブラックタウンと呼ばれる無法地帯ではそうはいかない。そこでは力が法律だ。道端に死体があろうと、誰が殺されようと、拐われようと関係ない。誰も見て見ぬ振りをし正義もクソもない。

俺はそのような場所で生きてきた人間だ。今更人を殺すことに抵抗はなく、死地に追い込まれようが死に対する恐怖というものがない。だから俺は人形のように戦うことで生きてることを感じているのかもしれない。

 

「お前も面白いことを言うな………」

「癇に障ったかしら?」

「いいや。人形らしいと言われたのはお前を含めて二人目だから驚いている。まさか、人形から人形らしいと言われるとは思ってもいなかったな」

「へぇ~………私以外にももっと言われてるかと思ったわ」

「口からは言わないだけで思っている奴はいるだろう。なにせ、俺自身もそう思ってるからな」

「皮肉なものね」

「皮肉屋なんでな」

 

敵ながら話しやすい奴だ。そんなことを思ってしまい、この現状を少しだけ楽しんでしまっている自分がいる。我ながら狂気なものだ。

だが今の現状、昔の俺なら例え向こうに命を握られていようと断っているか、爆発させる前に殺していただろう。そう考えると俺も随分と甘い人間になった。

 

グリズリー≪指揮官。デザートフィッシュからの情報なんですが北東より正規軍の部隊がこちらへ接近しているみたいです≫

 

「なんだと?」

 

突然グリズリーからこちらへやってくるお客さんの情報を無線で送られてくる。思わず眉間にシワを寄せてしまい頭を抱えてしまう。

なるほど………この依頼の意味がやっと分かった。薄々気づいていたが、鹵獲された兵器の数を見ると合点がいく。

 

(また正規軍の尻拭いかクソが………)

 

あいつらは自分らが汚した物も掃除できないのか?

 

「分かった。正確な到着時刻は分かるか?」

 

グリズリー≪3分後です≫

 

「なら、ヘリを呼んでくれ。俺達もすぐ離脱する」

 

グリズリー≪了解≫

 

「というわけだ。お前の話もこれでお開きだな」

「みたいね」

 

自分達の敵が迫っているのにも関わらず、呑気に頬杖をつきながらこちらを見つめている。

 

「さてと………面倒なことになる前に退散しましょうか」

 

すると、トラッカーはすぐ後ろにある即席のトンネルの方へと歩いて行く。

 

「あっ、そうそう………」

 

トラッカーは立ち止まるとこちらへ背を向けながらある物をこちらへ投げてくる。俺は動揺することなくそれを受け取り、見てみると片手で持てるくらいの大きさをした長方形型のリモコンだ。

 

「もう必要ないからあげるわね」

「ありがた迷惑だ」

「そう言わないで頂戴」

 

クスクスと笑いながら顔だけこちらへと振り向かせる。

 

「アヴェンジャー。面白かったついでにもう一つお土産をあげるわ」

「あ?」

「後ろには気をつけなさい。この戦争もそうだけどあの娘………アイリスのこともこの先必ず混沌な状況となるわ。そんな状況になって、それでも貴方はアイリスを守れる立場にいるならまた会ってお話ししましょ?その時は()と有意義な話ができることを楽しみにしてるわね」

「おい、待て。今なんて言った」

「ふふっ。また会いましょ?指・揮・官?」

 

彼女はスカートを少しだけたくし上げると闇の向こうへと消えていくのだった………

 

 

 

「ったく。勘弁してくれよ?指揮官。あんたを失ったらあたしらがヘリアンさんにどやされるんだからな」

「ああ」

「本当に分かってるのか?」

「なんだ?M16。あいつとの会話を聞いて幻滅したか?」

「幻滅はしちゃいないさ。あんたが前線に出て戦うことについては三原則に基づいて文句もない。けど、本音で言えばあまり出張りすぎないで欲しいとは思っている」

「…………」

 

出張りすぎないでくれ………か。こいつらも心配はしてくれているのか。

 

「お、落ち着いてM16姉さん………」

「心配するなM4。別にあたしは指揮官を嫌ってるわけじゃないんだ」

「ああ、そうだM4。M16くらい言ってくれる方が俺的には楽だ」

「えっ?あ、あの………喧嘩してるわけでは………」

「「してない」」

 

ハモりながらそう答える俺達を見てM4は戸惑うことしかできなかった。

M16も思うところはあるのだろうが基本的に仲はあまり悪くないと思っている。

人形に感情的に関わりすぎるのもよくないとヘリアンに言われているが、正直俺にはこいつらと話す方が楽だ。こいつらにも心はあるわけで、会話もすればほどほど打ち解けるのが中々面白いものである。

 

まあ、WA2000だけは俺を嫌っている節は見えるが。

 

「あっ。正規軍だ」

「確かに3分ですね」

 

飛行場に出るとそこには正規軍の装甲車やハンヴィーの車列がアイドリングしている。

 

「よう、グリフィンの指揮官。クズどものお掃除ご苦労さん。あとは正規軍が引き継ぐよ」

「それはよかった。さっさとこんな所からおさらばしたいところだったからな」

「相変わらず無愛想だな。って、顔を隠してれば無愛想もクソもないか」

「言っても無駄だと思うが、お前らの汚れ掃除くらい自分でやれと上に言っとけ少尉」

「そうしたい所だが、なんやらカーター将軍は特殊コマンドの指揮等に忙しいみたいでな。報告しても中々取り合ってくれないんだよ」

「おかげでこっちへ腐れ仕事が来るわけだ」

「俺達にもな」

「………同情する」

「お互いにな………」

 

この少尉も中々苦労人だ。バラクラバで顔を隠しているものの目の動き方で呆れてるのと同時に疲れているのが分かる。因みにだがこの少尉とは何度か面識があるため会えば皮肉を言い合う仲だ。正規軍に嫌悪感は抱いていると言っても、この少尉のようにごく数人と温厚な者がいる。その点に関しては完全に正規軍を嫌いになれないのも皮肉なものだ。

 

「まっ、あんたらの仕事は終わったんだ。早く帰って酒でも飲んでな」

「そうするさ」

 

背を向けながら左手をヒラヒラとさせながらヘリのランディングポイントへと歩いていく。ひらけた先には第一部隊がすでに待機しており、俺達とヘリの到着を待っていた。

 

「あの………先ほどのことを正規軍に報告しなくてもいいんでしょうか?」

「鉄血のボスのことか?大した情報も得ておらず、何より報告したところで余計な混乱を生むだけだ。それにここから去ってるんだから手遅れだろうな」

「そうですか………」

 

トラッカーか………また、面倒なボスが出てきたと思いながら、俺達は疲れた体をヘリの座席へともたれ掛け、基地へと起動するのだった。




用語集

≪デザートフィッシュ≫
本作オリジナルの早期警戒管制機J-STARS。名前の通り"砂漠の魚"と呼ばれ、上空から地上の敵勢力を識別、探知しグリフィンの部隊ををサポートする。一応、正規軍所属らしい………酒が好物らしく、スプリングフィールドが経営しているカフェ&バーによく足を運んでいるらしい。その中でもス◯リタスのカクテルをよく頼む。パーソナルマークは魚のマークの中にグリフィンの社章が描かれている。噂によると第三次世界大戦にも活躍していたらしい。

≪MRE≫
軍事携帯食料。第一次世界大戦に活躍が見られるも、味は食べられるものではないらしい。2000年代入ってからは味も良くなってはいるが、美味しくもないと賛否両論となっている。第三次世界大戦以降では、食料難に陥っているため人工による生産が行われており、問題の味はまたもや一次大戦時に戻ったとか………人形達も味は美味くないらしく、指揮官であるアヴェンジャーも苦手らしい。

≪少尉≫
本作オリジナル人物。正規軍第9小隊を率いる兵士。階級も名前?通り少尉である。割りに合わない任務によく振り回されているせいか、部隊を率いり、正規軍に振り回されているという立場であるアヴェンジャーと会えばよく愚痴や皮肉を言い合う仲であり関係も良好である。
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