ドールズフロントライン4.3 -IRIS- 作:仲村 リョウ
「………かん!!」
………頭痛がひどい。頭がクラクラする。おまけに身体が全身激痛が走るときた………手と足の指等を動かしてみるとなんとか五体満足なのは分かる。嗅覚も正常。焦げくさい臭いが鼻の中をつんざき思わず咳き込んでしまう。
「指揮官!!」
「っ………」
ボヤけた視界の中、照りつける太陽を遮るようにこちらに顔を覗かせる一人の少女の影。
「この声………15か………」
「はい………本当によかったです指揮官………」
「………あれから時間はどれくらい経ったんだ?」
「32分と24秒です」
「こまけーな」
「ふふ……そう言えるなら大丈夫そうですね」
「みたいだな…………お前らは全員無事なのか?」
「無事………とまでは言いませんが、完全に破壊された者はいません」
完全に破壊された者は………か。ということは手足など吹き飛ばされた重傷者はいるみたいだな。
視界が段々とクリアになってくると体中に走った痛みに耐えながら半身を起こす。
「15………お前」
俺は視界の中にAR-15を映すと思わず言葉を失う。
「………私なら大丈夫です指揮官」
と、彼女は苦笑いを浮かべながらそう言うも俺の気分は最悪だ。なにせ、彼女の左足の膝から下は無くなっていたのだ。
「大丈夫なわけあるかくそ………」
誰かが治療した後なのだろうが人工血液が流れ出ていた様子が伺える。
「私達は指揮官が無事なら大した損害じゃないってことよ」
「45………」
「無事で何より指揮官。全力で庇ったかいがあったわ」
そういえば記憶の最後に45が引っ張っていったのは覚えている。
「………ったく。俺を身を呈して守ってくれるのはいいがな。俺にだって良心くらいはあるんだ。お前らの心配くらいさせろ」
「指揮官………」
そう言うと俺は15の頭の上に手を乗せる。彼女は少し頬を赤らめて気まずそうにしながらも嬉しそうにはにかむ。
ここで45から狂気じみた笑みで見つめていることは何も言わないでおこう。
しばらくして、体を無理やり起こして辺りを見回す。
意識を失っている間に運び出されたのか、今は病院跡ではなく近くにあった広場にいた。病院跡は僅かに原型は留めているが半壊。周りの建物も同様の被害を受けていた。
「
「ええ。でなければ私達全員木っ端微塵よ」
「笑えねーな」
「本当にね」
45の言う通り、巡航ミサイルが通常弾頭なら俺達は今頃肉片と化してただろう。もし、これがイントゥルーダーの仕業なら俺達はまんまと手の平で踊ろらせていた気分だ。
「指揮官。今回のことは予想外のことよ。あまり自分を追い込まないでね」
「………ああ」
「この辺りの鉄血人形達は撤退したみたいよ」
「そうか………なら、帰投しよう。ヘリを送ってもらう」
ちょうどこの広場にはヘリが着陸できるスペースが十分とある。
「大丈夫。すでに呼んであるわ」
「仕事が早いな」
「ええ。指揮官の右腕みたいなものだからね~」
いつかこいつに仕事を取られてしまうのではないのかと思ってしまう。まあ、報酬も支払ってる立場だから楽にできるに越したことはないな。
「それで………部隊の損害は」
「全員生きてるというのはAR15から聞いたよね?」
「ああ」
「第一部隊は三人が手足の欠損による重傷。AR小隊はAR15とSOPMODⅡが部分欠損による重傷。私を含めて404小隊は地下にいたおかげで全員無事ね」
「………分かった」
全く………してやられたというのが本音だ、くそ。
「でっ…肝心の地下の件だけど………連れてきて」
45が後ろを振り向き404小隊の連中を呼びかける。すると、彼女達はある人物に銃を突きつけながらこちらへと歩いてきた。肩まで届いた赤髪でボーイッシュな見た目をしている。
(子供?)
彼女達が銃で警戒している時点でただの子供ではないということは察せる。
「こいつは?」
「こんな見た目でも鉄血工造の人形らしいわ」
「鉄血工造の人形だ?」
まあ、こっちも人のことを言えた義理じゃないが。G11だって側から見れば子供だからな。
今、変なこと考えただろうと察したのかG11が不機嫌そうに俺の方へと睨みつける。ここは気づかないフリをするのが正解だろう。
「それで?こいつとさっきの巡航ミサイルは関係あるのか?」
「それは分からないけど」
尋問しろってか?まあ、404小隊が単体の任務なら俺の命令なしにそうしてただろうな。
「さてと………ヘリが来る間までだが話をしようか鉄血の人形」
俺はプレートキャリアに装着してあるホルスターからセカンダリウェポンであるハンドガンを取り出す。その仕草を見ていた鉄血の人形は少し表情が強張った。
「聞かれた事だけを答えろ。でなければ問答無用で額に風穴をあけるぞ」
例えこんな子供のような見た目でも俺達の敵である鉄血工造の人形に変わりはない。この世界では見た目だけで情を和らげるのは命取りになるのが常識となっている。
「まず、あの巡航ミサイルはお前がやったのか?」
「ボクは………やってない………」
「すまん。言葉を間違えたな………お前が誘導したのか?」
「それは………間違ってない………と思う」
「こいつ………」
「待て!」
45はトリガーにかけた指が怒りを滲ませ自然と力が入ってしまっている。俺はそれをなんとか抑止させた。
「………言葉が曖昧だな」
「た、確かに巡航ミサイルが飛んできたのはボクのせいでもある………けど、ボクだって望んでたことじゃない………」
「つまり?」
「………奴らに追われてたんだ」
「追われてた……か」
となると、こいつは鉄血を裏切ったかもしくは脱走したことになるのか。
「……お前の身体の状態を見る限りそうみたいだな。何をやらかした?」
「それは………」
彼女は急に押し黙ってしまう。なにか言えないことでもあるのだろう?でなければこんな気まずそうに俯くはずがない。
「なに?なにか言えないことでもあるの?」
「…………」
「指揮官………撃ってもいい?」
「お、落ち着いてよぉ、45姉」
「判断を下すのは指揮官よ。冷静になって」
「45がいつもより怖い………」
45の気持ちはよく分かる。この鉄血人形が原因で巡航ミサイルが飛んできた事実は変わりない。おかげで仲間が半分と損害を負ったのだ。頭にくるのも当然だろう。
俺だって腑に落ちないところはある……が、こいつには敵意というものが感じない。信用できるかはまだ判断できないが、こいつの話を聞かないといけない気がする為、45の具申は却下させてもらう。
「あなたが…………指揮官なの?」
「………鉄血工造の人形なら全員知ってると思ったがな」
「ボクは………噂だけなら………」
噂か。イントゥルーダーといい、こいつらも俺をどう評価してるんだか………鉄血工造の幹部どもは
「で?お前が追いかけられていた理由は話す気にならないのか?」
またもや鉄血の人形は黙り込んでしまう。
「………ボクを………保護して」
「なに?」
「ボクを………保護してくれたら話す………」
「鉄血の人形が………保護だと?」
ありえない………今まで前例にないことだ。
こいつらは人間を殺すことしか考えない連中だと思っていたが………
「太々しい奴………」
「落ち着け45」
罠………という可能性はなくもない。こいつを信用するにはまだ情報が足りなすぎる。
………だが。もし本当に味方であった鉄血が狙われる理由があるとするならば、相当な理由を持っているのかもしれない。
俺はひたすら考えた。可能であるメリットデメリットをひたすら絞り出すまで。
「………わかった」
結果、俺はこいつの提案を受け入れる。
「指揮官?」
45の反応は当然だろう。彼女だけじゃない。この場にいる人形達全員が同じ反応を見せるはずだ。
敵を基地に招き入れるなんざ前代未聞のことだからな。特に鉄血の人形は………
「まあ聞け45。いいか?鉄血の人形。お前が保護してほしいなら俺は受け入れてやる」
「じゃあ………」
「だが、物事には順番というものがある。このまま敵である鉄血工造の人形を保護するって話も全員が全員納得できる話じゃない。現にお前の横で銃を突きつけてる奴らがそうだ」
「うっ………」
「で、先にお前を拘束という形で基地に連れて行く。監視、検査、そして尋問を行うだろうが不審な点がなければそこで初めてお前を信用して保護してやることを約束する。どうだ?」
横目で45を見ると完全には納得できていない様子だ。
だが、こうでもしないとこいつは連れて行くことはできない………この人形自身も自分の立場は理解しているはずだ。
「………わかった。あなたの提案を受け入れる」
「そうか………聞いたな?」
「…………了解」
ここで初めて404小隊の警戒が解けた。
「今からこいつは監視付きながらもゲストだ。俺の指示なしにこいつに勝手に手を出すのは一切禁じる。いいな?特に45」
「分かりました~」
「指揮官。ヘリが来ました」
416が双眼鏡で空を覗きながらそう言った。確かによく耳を澄ませばヘリのローター音が聞こえてくる。
「さてと、撤収するぞ。動けるものは負傷した奴を背負っていけ」
ヘリが来るまでの間。俺は負傷した者の側へと向かい声をかける。どいつも大丈夫だとしか言わないから大したものだ。
そうしている間にヘリが降りてくると、人形達は仲間に肩を貸しながらそれぞれにヘリにの中へと搭乗していく。
「指揮官。ダミーは置いていかないの?」
「ああ。どの道、ここは鉄血工造と正規軍にとっても用はなくなったからな。守る価値なんてもうないだろ」
「そう」
「おい、鉄血の人形」
「な、なに?」
「名前は?」
「えっ?」
「名前はあんのかって聞いてんだ」
「えっと…………」
このようなことを聞かれるのが初めてなのか、鉄血の人形は落ち着かない様子だ。
「………アイリス」
「そうか………俺はアヴェンジャーだ。好きに呼べ」
「う、うん………ありがとう、アヴェンジャー………」
この日。初めてグリフィンはアイリスと名乗った鉄血工造の人形を受け入れた。
この人形を中心に様々な陰謀が蠢いているのをまだ知らずに…………