ドールズフロントライン4.3 -IRIS- 作:仲村 リョウ
今回はオリジナルの鉄血側の人形が登場します
人の気配がなく、ただ自動的に機械音が鳴り響く工場…………
ここはかつて人間が多数存在しては自立人形を生産していた場所だ。
だが、今はそんな活気あふれた景色とは遠くかけ離れ、天井は一部が抜け落ち、工場内もどこか不気味な空気が流れている。
そんな工場の奥である少女がテーブルの上へと座り、ノイズが走る巨大なモニターへと見つめている。
「………あら。帰ってきたのねイントゥルーダー」
「ええ」
「ふふ………なんだかご機嫌なようね?」
「見なくても分かる?」
少女の問いにイントゥルーダーは珍しく揚々とした口調で返答した。問いかけた少女も「声を聞いたらね」と言葉を返す。
彼女の言葉通り、少女はイントゥルーダーの方へと振り向きもせずに機嫌がいいことを当てた。もちろん慣れているイントゥルーダーはその事には驚きもせずに話を続ける。
「また彼に会えたのよ」
「彼って………ああ。あなたが言うグリフィンの指揮官のこと?」
「ええ。素敵だったわ………私のスカウトを人蹴りして突然グレネードランチャーを撃ってきたの」
「………それを素敵だと言える貴方の神経は理解できないわ」
味方とはいえ、イントゥルーダーの言葉に異常なものを感じ取った少女は少し引き気味な様子を見せる。
「分からなくて結構よ………でも。あんな予測できない行動をされたらゾクゾクするわ」
「………イかれてるわね」
そんな率直な感想を言い放った少女はやっとの事でイントゥルーダーの方へと振り向いた。イントゥルーダーの服ははだけておりなんともはしたない姿だろうか………顔や体には生体フレームが少々剥がれ落ち、機械部が見えている。そんな状態になりながらも笑いながら話すイントゥルーダーを見てイかれてると言う言葉は正解だろう。
そんな姿に少女はただ目を細めながら苦笑いを浮かべるしかなかった。
敵ながらもグリフィンの指揮官には同情してしまう。
「それよりも。脱走者は捕まえたの?それとも死んだのかしら?」
「残念ながら。グリフィンに連れていかれたわ」
「そう………巡航ミサイルを飛ばしてまで取り逃がすなんて」
「クラスター式を飛ばしておいてよく言うわ」
「…………ごめんなさい。それはこちらの手違い」
バツが悪そうに表情を曇らせる少女を見たイントゥルーダーは微笑みながら軽く息を吐く。
鉄血の人形にしては素直な性格をしている少女のことを理解しているのでイントゥルーダーに責める気など全くなかった。また、少女も上にいる存在に命令されて実行したに過ぎず、彼女を責めるのは間違っていることも承知なのだ。
「そもそも。私はその巡航ミサイルが気に入らないわ」
「なんで?」
「アヴェンジャーがバラバラになっちゃうじゃない」
「あっそ」
やはりイかれてる………いつからイントゥルーダーはこんなメンヘラな性格を持ってしまったのだろうか?
そんなにグリフィンの指揮官との出逢いが衝撃的だったのかと少女は疑問を抱いてしまう。
「でも………あんな程度じゃ彼は死なないけどね」
「あら。随分と信用してるのね?」
「信用?違うわ………」
ここで愛だとかぬかせば一発撃ってやろうかと思った少女だが、
「分かるのよ。彼は私達人形以上に狂った存在ってことをね」
「病みモードのオンオフが激しくて混乱してきたわ………まあ、いいわ。それよりも、貴方が心酔しているアヴェンジャーとはそんなにイかれてるのかしら?」
「ええ。なにせ、エクスキューショナーとマンツーマンで殺り合ったのよ?そんな人間何処にいると思う?」
(噂は本当だったのね………)
処刑人という名を持つ彼女は太刀とハンドガンを巧みに使って戦うことで知られている。正規軍もグリフィン以外のPMCもエクスキューショナー率いる部隊の前では太刀打ちできず何度も撤退に追いやられてきた。
そんな彼女を前にして一人の人間が立ちはだかったという噂が鉄血内で流れては話題になったのも最近の話。しかも、正規軍の大隊ですら倒せなかったエクスキューショナーの部隊を壊滅させ、彼女もグリフィンの指揮官とM4に倒されたというのだ。
少女はそんなバカな話があってたまるかと思っていたのだが、イントゥルーダーの話を聞く限りでは嘘を言っているようには見えない。
「よく生きてたわね彼」
「無傷ってわけじゃないみたいだけど………五体満足で生き残ったのはアヴェンジャーが初めてね。私も実際に見たわけじゃないけど、エクスキューショナーが最後に送ってきたデータにそうあったのよ…………」
それはエクスキューショナーが倒される前に主観映像と音声………そして、彼女の心の声が記録されているものだ。
なぜ私はその映像を見てないんだ?と少女が疑問に思ったのは割愛させてもらう。
だがイントゥルーダーは少女の気持ちを悟ったのか腕を巨大モニターへと伸ばし指を動かした。すると、そこに映し出されたのは主観で動く映像………エクスキューショナーの主観映像だ。
"M4A1とグリフィンの部隊が合流されるとさすがにオレでも太刀打ちできないと感じ、ある作戦を実行した。作戦と言っていいのか分からないが………まあいい。向こうには都合よく指揮官が前線へ出向いてるとの情報が送られ、そいつを殺すことにする。罠と言った方が納得するか………"
"その罠に見事はまってくれたグリフィンの指揮官は孤立。オレは真っ向から立ちはだかり、奴を殺すことにする。指揮官が死ねばグリフィンの部隊やM4A1はどんな顔をするだろうか………"
"物事とはうまくいかないものだ。グリフィンの指揮官は思ってた以上にしぶとい。戦い方を分かってるのかオレの攻撃を避けては反撃を食らわしてくる………"
"見事に一発くらっちまった………普通の人間なら絶望の顔をするというのに。前に殺った正規軍の将校とは違い、命乞いなどせずオレに立ち向かってくる…………チッ、戦いにくいったらねーな"
"ライフルを真っ二つにしたが、グリフィンの指揮官は片手にハンドガン、ナイフを持って尚オレに挑んでくる………手足などを何度か斬って刺して撃ったと言うのに…………なんて奴だ。グリフィンの指揮官は絶望した目などを見せずむしろ闘争心………いや、殺意を詰め込んだ目でオレを見てきやがった………認めたくはないが………オレは初めて"恐怖"というやつを覚えた………"
"…………もし、オレがこいつに負けて、次誰かが殺り合うなら忠告しといてやる…………このグリフィンの指揮官は私達以上に化け物だ。戦うなら覚悟しとくんだな………"
これ以上音声はなかったが映像ではアヴェンジャーとの死闘の様子が映し出される。言葉通りアヴェンジャーの体はボロボロで、所々に斬られたような箇所から血が流れている。
それでも戦い続ける姿に少女はただ黙って見るしかなかった………
ターゲットであるM4A1。そして、グリフィンの指揮官によって倒され、映像はそこで途切れてしまう。
「………エクスキューショナーにここまで言わせるなんてね」
「私も初めて聞いた時は驚いたわ。特に最後の言葉にはね」
「化け物………ね。貴方と戦った時はそうだったの?」
「いえ?その時は普通に人間らしい戦い方をしていたわ」
「人間らしく?」
「私聞いたことがあるんだけどね………一部の人間には死の直前まで追い込まれると真の力を発揮するらしいわ」
「真の力?」
「生きようとする本能と言うのかしら。人間は脆く、命は一つしかないからね」
確かにイントゥルーダーの言う通り人間は脆い。人形と違い、銃弾を一発受ければ致命傷となり、状態によっては戦えなくなってしまう。そして、人形のようにバックアップの体など無く、命の鼓動が止まってしまうと迎えるのは死だ。
「要するに………彼は追い込まれるほど強くなると捉えていいのかしら?」
「そうね」
なるほど………イントゥルーダーが熱中するのも分かる気はする。
少女は少しだけ俯くと……
(グリフィンの指揮官"
心の半分………グリフィンの指揮官という人間が気になり始めていた。
「ふふ………貴方のお陰でアヴェンジャーに興味出てきたわ」
「それはよかった」
「まあ、その話はひとまず置いておきましょうか。今の問題はあの裏切り者よ」
「アイリスのことかしら?」
「ええ………まあ、裏切りかどうか微妙なところだけど、彼女がグリフィンに連れて行かれたということは………知られたかしら?」
「恐らくね」
「でも、焦る必要はないわ。あれの特定には優秀な指揮官とはいえ時間はかかるだろうし」
「見つけたとしても………彼女が教えてくれるからね」
「ええ…………」
でも、それ自体の起動はまだしないだろう…………
だってそれは………この戦争に混沌をもたらすのだから………だって、お楽しみというやつは最後までとっておきたいじゃない?
「次は貴方が前線に出るのかしら"
「ええ………一度、向こうの指揮官とお話ししてみたいからね」
「そう………でも気をつけてね。慎重に接触しないとすぐ撃たれちゃうから」
「貴方の話とエクスキューショナーの情報で学んだわ…………」
少女はくるりと回転しながらテーブルから降りる。
だが、それよりも………
(待ってなさいアイリス…………私が必ず貴方を壊してあげるから………)
三日月型口角を上げる微笑みはイントゥルーダーには見えなかった。