雲雀は月夜を咬み殺さない   作:さとモン

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11.侵入

昨日の夜、俺は六道骸と対峙した。

結果は散々。お陰で体はボロボロ。市販の痛み止めは全くと言っていいほど聞かなくて、今も本当は痛くて仕方がない。

ここに医者がいたのなら、きっとドクターストップを掛けられるだろう程度には酷い状態だった。

それなのに、黒曜ヘルシーランドの門の前に立っている。

殆どなにも考えずにここまで走ってきて、今頃になって自分の傷のことを思い出す。

……俺は馬鹿なのだと思う。

門を見ると、南京錠の鍵がしてあった。

昨日はここを乗り越えて行ったが、この左腕で行くのは難しい。

あぁ、こういうところも馬鹿だ。

片腕で人間一人どうやって連れて帰るんだ! 相手は自分よりも大きくて重いというのに!

 

「さて、と……」

 

肩に掛けた少し長い袋を下ろして、中から得物を取り出す。

昨日はナイフ二本なんていう、あまりに心許ない武装でよくこんなところに来たもんだ。普段の散歩のノリでやるんじゃなかった。

さて、ここで問題である。

門が乗り越えられない時、人はどうすればいいと思うでしょう?

答えは簡単。

 

手には餅つき用の杵(桂木のウサギ用強化杵)

それを大きく後ろに振りかぶり、勢いよく前に振る!!

ガッシャァァンン!!という音をたてながら、それはもう素晴らしい具合に吹っ飛んでいく古びた門。

飛距離は大体五メートル。思ったより飛んだ。

まぁ、簡単に説明すると。

───盛大にぶっ壊すのである。

 

「うん、すっきりした」

 

道は拓いた。

後は、思うままに進むだけだ。

とはいえ、ここまで盛大にやると、中の人たちに気付かれる可能性が大いにあるのだけど。

そこはまぁ、今から慎重に行くとしよう。

目的は相手を倒すことではない。

ただ、連れて帰るだけだ。

 

 

気配を殺して、建物を目指す。

黒曜センターというと、もう何年も昔の記憶を揺さぶられる。

ここは複合型の娯楽施設だった。

動植物園やカラオケ、ショッピングセンターなんかが集まっていて、それなりに賑わっていた。

けれど、新道が出来てから、少しづつさびれだし、一昨年の土砂崩れを切欠に閉鎖してしまった。

前に通る旧道にはあまり車は通らなくなった。お陰で、人気は全くと言っていいほどにない。

昨日も思ったが、潜伏先にはもってこいの場所だ。

ここには、何度か来たことがあった。その全てが母に連れられてのものだったが、楽しかったという記憶が薄いので、多分無理矢理だったのだろう。大した思い出にはならなかったのだ。

改めて見て、随分と様変わりしてしまったものだな、と思う。

土砂に呑まれた施設は、昔の名残さえもないものもあった。

こういうことを無常と言うんだったか。

時間は流れていて、形あるものはいつか壊れる。

ここは、それが早かっただけ。

それに寂しさを覚えても、きっとすぐに忘れてしまう。

忘れることは、少し切ないけれど。

 

「うっわあ……」

 

建物の入り口に差し掛かって、ついつい感嘆なのかよくわからない声が零れた。

割れた窓ガラス越しに、死屍累々と言わんばかりに、黒曜生が倒れていた。

………雲雀だ。

いつ頃訪れたのかはわからないが、アイツの圧倒的な強さは、彼等にとっては台風のようだっただろうことは想像に難くない。

 

雲雀の行動を予想する。

雲雀はこの後、真っ直ぐ六道骸のところへ向かっただろう。

そして────負けた。

三月の終わりに、雲雀は妙な病気に掛かったと言っていた。

桜クラ病。

桜に囲まれた状態では立っていられなくなるという奇病。

あの後、詳しそうな奴に聞いたところ、そういう奇病は世界に沢山あるらしい。

その情報を知っているのは、少数であるはずだ。雲雀はあの並木一帯に人払いをしていたから。

だが、相手は得体が知れない。

 

『並盛中のケンカの強さランキング?』

 

そんなものを正確につくることなど、本来は誰にだって不可能だ。

それを情報源として使うことだって馬鹿げている。

 

『オレ達マフィアには『沈黙の掟』というのがある。組織の秘密を絶対に外部に漏らさないという掟だ。

フゥ太のランキングは業界全体の最高機密なんだぞ。一般の人間が知るわけがない』

 

だが、沢田と赤ん坊の様子は、それが信憑性が高いものだと理解しているようだった。

マフィアが、そんなランキングを最高機密にする?

そんなもの、確実に合っているから最高機密にするんだ。独断と偏見によるものではなく、正確無比なランキング。

それを六道骸が手に入れられるのなら、奴は弱点を知ることができたっておかしくない。

例えば、雲雀恭弥の弱点ランキングなんてものがあったとしたらどうだろう。

そこに、桜が書かれていたら?

それを見た人物が、桜を擬似的に用意できる能力を有していたら?

弱点はないという前提は、綺麗に崩れる。

机上の空論は、現実へ変わる。

六道骸は卓越した技量を持った術師だ。彼なら、幻術で桜を雲雀に見せることなど容易に出来るだろう。

今、雲雀がどこでどうなっているのかまではわからない。

 

ズズッ───。

 

少し遠くの方で、何かを引きずりながら進む足音が聞こえた。

 

「………!」

 

いや、音が不規則だから、足を引きずっているのか。

六道骸の一派の一人が、怪我をして帰ってきたのかもしれない。

息を潜ませながら、音の方へと顔を向けた。

血の匂いが、鼻を燻る。

細身の、猫背でわかりづらいが、多分高身長。

その少年は主に右半身に酷い怪我を負っていた。服も肌も、焼けただれているという風で、例えば爆発に巻き込まれたのだと言われたら納得せざるを得ない。

足を引き摺りながら、奥の、昨日六道骸がいたところへと向かっていく背中を見送った。

そういえば、あのシルエットには見覚えがあった。数日前に見掛けた実行犯の姿は、あんな感じだった。

返り討ちにあったのか。

襲われていない生徒で、彼等に勝てそうな人物。その上、爆発物を扱うような人物。

獄寺隼人?

そういえば、六道は表か裏かを気にしていた。そして沢田を、マフィアのボス(おそらくは候補)を探している。

獄寺は沢田のことを十代目と呼び、慕っていた。

逸らしていた現実は、大抵冷たい。

……そうか、彼は裏側の人間なのか。

きっと、ずっとそうだったのだろう。彼は俺とある部分は同じだけど、どこまでも俺とは違う。

 

彼は泣くのを堪えるような子供のような顔で、心底残念そうに笑った。

 

……あぁ、ちゃんとやらないと。

これは自分のエゴだけど、だからこそ、最後までやらないと。

彷徨うように足を進めた。

そうして、半時間ほど彷徨った。

六道のいる部屋には近付かないように、慎重に探して。

暗い廊下を、足音をたてないように静かに歩く。

こういう建物のこういう雰囲気は、昔を思い出すから好きじゃない。

ドクドクと全身が煩い。腹が焼けているように熱いので、傷が開いて血でも出ているのかもしれない。

それでも、足は止まらない。

足音が響く。

 

「──おやおや?」

「……わぁ」

 

黄色い小鳥を肩に乗せている男一人と、同じ顔をした骸骨みたいな男二人。どちらも似合わない学生服を着ている。

なるほど、いかにも悪人面だ。

 

「あんた誰?」

「私はバーズ。この通り、鳥を飼うのが趣味でしてね」

 

小鳥を乗せた男が不気味に笑った。名前がそのままで、偽名なのではないかと疑う。

視線を、その後ろに移す。

 

「後ろのは?」

「彼等は私に忠実な双子の殺し屋です」

 

答えを聞いて、全部飲み込んだ。

相手を判断するには、それだけで十分だったのだ。

 

「……わかった。じゃあ───」

 

 

「───消えてくれよ」

 

桂木の体がふらりと揺れて、消えた。

実際は一呼吸の間に二歩進んだだけだっが、少なくともバーズの目にはそう見えた。

ビュン、という音がして、バーズの後ろにいた双子の暗殺者のうちの一人、ヂヂが壁にめり込んだ。

悲鳴の一つも、聞こえなかった。

 

「ヂヂ!?」

 

ワンテンポ遅れてバーズが声を荒げる。

かつん、という靴音が場に響いた。

 

「驚かないでくれよ。俺はさ、彼をこの杵で叩いただけじゃないか」

 

少年が笑う。

緩くつり上がった口元と嫌悪を滲ませた冷たい瞳が、歪んだような笑みを作り上げていた。

 

「……君は何者だっ!」

 

六道骸のように裏社会に浸かっていたわけではない、一般社会で生きているはずの子供。

牢獄に閉じ込められていたような殺し屋を、いとも簡単に倒して見せた少年が、彼の目には異常に見えた。

 

「そんなこと別にいいだろ。俺はただ、あんたらが嫌いなだけだよ」

 

続いて、一瞬にして片割れのジジの懐までやってくると、木製の杵を自らの手足かのように両手で振るい、顎を強打し、天井まで彼を突き上げた。

落ちてきた体が弛緩していた。呼吸はあるが、外傷が酷い。

 

「………な、ななっ!?」

 

バーズの体が震え、足がゆっくりと後退していく。

そして、目の前の少年に背を向け、一目散に走り出した。

バーズの戦闘能力は殆どないに等しい。彼は、目の前の少年には勝てないことを悟っていた。

 

「悪いな、スタートダッシュは得意なんだ」

 

背後から声が聞こえたと知覚した途端、肩にけして軽くない衝撃が走った。

視界の上から入り込む、シャツの白とズボンの黒。焼けた琥珀色の瞳が、獲物を捉えたとばかりに細められて───。

そこで、バーズの意識は途切れた。

簡単なことである。

彼の腹を、杵の持ち手部分の先端が突いていたのだ。

 

温まった体は、血を通常よりも早いスピードで巡らせる。

耳の周りでドクドクと血流の音がした。白いカッターシャツが、赤く染まり出す。本格的に、傷が開いたのだ。

 

「………不味いな」

 

病院で医師の治療を受けたわけでもない傷は、本当に初歩的な応急処置しかされていない。

何より、ヒビの入っている左腕を無意識に使ったのだ。

激痛が桂木を襲っていた。

けれど足は進んでいく。

彼自身、どうしてここまで体を無理に動かしているのか、いまいちわかっていない。

 

「緑たなびく並盛の 大なく小なく 並がいい」

 

聞き覚えのある声が、聞き覚えのある歌を歌っていた。

 

「……なんだ、案外平気そうじゃないか」

 

桂木は安堵した。

そして、力が抜けた。

とっくに体は限界だったので、そのまま眠ってしまった。

 




桂木明祢
骸戦の際は油断しすぎてナイフ2本とかいう愚行をしたが、今回はちゃんと使いなれた奴を持ってきた完璧()な市民である。
なお、杵は目立つため、普段は持ち運びしていない。
使い方を教わったのは家の小さな白い住民たちからである。

後からやって来た綱吉一行
「おい、門が吹っ飛んでんだが……」
「先に誰かが来たということね」
「一体誰が……?」
「アイツだな」
「あ、アイツって誰だよ!?」
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