雲雀は月夜を咬み殺さない   作:さとモン

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2.問い

あの驚愕の光景が忘れられなかった綱吉は、その日一日の間考えることになった。

ぐるぐるとその事が頭の中を回る。

お陰で、元々頭に入らなかった授業が、余計に頭に入らなくなった。

そうやってうだうだしていれば、普段との様子との差違を気にした獄寺と山本にどうしたのか、と訊かれることになった。

 

 

「あのヒバリがですか?」

「そうだよ。あのヒバリさんがだよ?」

「なんか体調でも悪かったのか?」

「いや、そんな風には見えなかったけど……」

 

直前に男子生徒をやっているし、あの人は体調が悪くてもトンファーを振り回しそうだと思う。

 

「妙ですね」

「だよね」

 

綱吉は雲雀のことをよく知らない。

だが、あの不可解な行動には何か訳があるのではないかと思う。

 

「なら、直接聞いてみればいいじゃねーか」

「り、リボーン!?」

「いつまでもうじうじしてないでさっさと聞いてこい、このダメツナが」

 

いつものように蹴り出された。

 

 

そんなやりとりがあって、脅され半ばに綱吉は桂木のいる教室までやって来た。

獄寺と山本はこっそりその様子を後ろで見ているらしい。

綱吉は深いため息をつきながら、教室を覗く。

桂木は窓際の席で何かの本を読んでいたようだが、綱吉が桂木の姿を見つける同時にこちらを見て手をあげた。

本を片付けて扉に向かってくることから、どうやら気づいているらしい。

 

「今朝の一年だな、どうかしたか?」

 

教室の外を軽く見回してから、綱吉のことを見た桂木は首を傾げる。

 

「えーと、聞きたいことがありまして」

「………なんだ?」

 

彼は笑っている。

眼鏡のガラス越しに見える彼の目は、しっかりと綱吉のことを見据えている。

 

「あの、桂木さんはヒバリさんに咬み殺されたことあるんですか?」

 

なんとなく気圧されながら、綱吉はとりあえず聞いてみた。

──刹那の静寂。

桂木は数度だけまばたきをしてから、「あるよ」とあっけらかんに答えた。

その平然とした態度に、綱吉は驚嘆の声をあげる。

雲雀恭弥の恐ろしさというのは、大体身をもって感じるものだ。

一度その対象に入ったのならば尚更。

今朝のように、彼はやはり雲雀恭弥に恐怖を抱いていない。彼を脅威として認めていない。

目の前にいる綱吉や、周りにいるクラスメイトまではいかなくとも、警戒すらしていない。

感じるのは、笑顔の中の嫌悪だ。

そういえば。

そもそも、どうしてヒバリさんは桂木さんを咬み殺さないのだろう?

一度や二度は咬み殺したというのなら、なぜその後は咬み殺さない?

桂木と雲雀の関係は、お世辞でも良いとは言えない。

気に食わない人間はことごとく咬み殺してきた雲雀が、何故彼だけを例外とするのか。

 

「あの」

「そろそろ授業始まるし、もういいか?」

「あ、はい」

 

聞こうとしたことは、迫った時間と桂木の言葉に遮られた。

二人の間になにがあったのかはわからない。

けれど、彼等があぁしていることに違和感を覚えてしまうのはどうしてなのだろう。

 

 

雲雀恭弥が咬み殺さない相手がいる、というのは、実のところうちの学年では有名な話らしい。

同じ学校といっても、二年は一年のことをそこまで把握していないし、逆もまた然り。

最近騒がしくなった学校の一年連中は、俺のことをあまり知らなかったらしい。

だから、あの小柄な少年が酷く驚いた理由を、俺は彼がおかしな質問をしに来てから知ったのだが……。

いや、おかしな質問とはいうものの、実際はみんなが気になることだろう。

普段の雲雀的解釈なら風紀を乱している部類に入る筈なのに、咬み殺されていない稀有な人物なのだ。その疑問はもっともだ。

彼が本当に聞きたかったのは、そういうことだったのだと確信している。

けれど、それを言うわけにはいかない。

何せ、アレはお互いがお互い良い思いを持っていない。

雲雀の性格からして、アレを言いふらされるのはぶちギレで済めば良い方だ。

此方としても言うデメリットはあれ、メリットはないのだから言う筈なんかない。

だから、彼には悪いがその意図を悟っていたとしても、話さない。

とりあえず、退屈な教師の声をBGMに、そろそろ寝ようかと思った時。

 

「ちゃおっス」

「………は?」

 

───赤ん坊がいる。

視線を向けていた窓の外、黒服を纏った見るからに奇妙な赤ん坊がいる。

桂木はまず、自分の目を疑った。

それから目元に手を当てて、自分が眼鏡を掛けていることを思い出した。

そしてゆっくりと教室を見渡して、窓の外を再び見た。

一度目を長く瞑る。

目を開けて、何度か瞬きをする。

───やはり、赤ん坊がいる。

 

「本物?」

 

赤ん坊に聞こえるような、出来るだけ小さな声で、桂木は囁いてみた。

 

「本物だぞ」

 

赤ん坊が流暢な日本語で応えた。

次は幻聴が聞こえたのかと思ったが、流石にそれはないだろうと結論付け、とりあえずは目の前の赤ん坊と向き合ってみることにした。

ここは三階だとか、授業を聞いていないとか、そういうことは置いておいて。

 

「俺に何の用?」

「個人的興味だ」

 

ニヤリと笑う顔は、世間一般の赤子には似合わないが、不思議とこの目の前の赤子には似合っていた。

しかし、この赤ん坊。

見掛けはどこからどう見ても赤ん坊である筈なのに、そこに内包されているものはどうにもらしくない。

 

「その個人的興味というのは?」

「ヒバリは何故お前を咬み殺さない?」

「なるほど」

 

またそれか。

というか、それをいつどこで知ったのか。

そもそも、この赤ん坊は何者なのか。

それらについて考えるにはあまりにも情報が少なすぎる。考えるだけ無駄というやつだ。

桂木は動揺して普段より回らない頭を、どうにか回した。

幸いなことに、彼には中々に優れた頭脳があったので。

 

「君、雲雀の知り合い?」

「さぁな」

「あいつに聞いた?」

「さぁな」

 

この様子だと、聞いたな。

桂木としては非常に困った。前述した通り、彼にデメリットはあってもメリットはなかった。

ぶちまけられたのなら少しは楽になるかもしれないが、今以上に状況が好転するとは思えない。

 

「雲雀はなんて?」

「『あんな彼を咬み殺したところで、ちっとも面白くないからね』」

 

桂木には、それを言う時の雲雀の姿がありありと思い浮かべられた。

物凄く不機嫌そうな顔が今にも襲いかかりそうだった。

桂木はそれを聞いて体を脱力させた。変な言い訳を考える必要がなくなったからだ。

 

「その通りだ。あいつにとって、こんな俺を咬み殺したところでうま味がないんだよ」

 

雲雀がそう答えたのなら、自分はこう答えるしかない。

究極、それに集約されるから。

 

「………」

 

赤ん坊は何かを考えているらしい。

桂木は多分これ以上は聞いてこないだろうな、と思って、暇潰しに赤ん坊を観察することにした。

そうして数秒。

 

「ま、今日のところはそれで許してやるぞ」

 

チャオチャオと去っていく姿に、長靴の国を思い浮かべた。

本当に妙な赤ん坊だ。

温かい日射しに包まれて、桂木は一つ欠伸をした。

近日に何か起こりなそうな嫌な予感がしてくるのは、出来れば無視をして。




この作品、もしも雲雀さんが咬み殺さない人がいたら?という発想では書いてないので、タイトルは実のところそこまであてになりません。

こいつのどこがうさぎ肉なんだよ、とか思うかもしれませんが、うさぎと関連付けたかっただけです。

一応、桂木くんは家でウサギを飼ってます。
名前は大福。真っ白なウサギです。
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