雲雀は月夜を咬み殺さない   作:さとモン

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22.嵐と雨

夜、いつも通りに歩いていた。

このときは学校近くを。

 

──ドガァアン!

 

「………は?」

 

凄まじい爆発。

思えば、小さな爆発音はしていたのだ。ただ、花火だろうとずっと誤魔化していただけで。

その日、学校が爆発する所を目の当たりにした。

 

「──ヤバい」

 

まずはじめに浮かんだのは、それだった。

並盛中学校が破壊されているという事実。勿論、自分だって腹立たしく思うが、それ以上に。

 

「雲雀が出る……」

 

雲雀恭弥がそれを許すはずがないのだから。

雲雀の好きなものと言えば、並盛中学校とハンバーグという話は一部には有名な話だが、校舎の破損が嫌いなことは周知の事実だろうと思う。

 

額に手をあて、頭痛が出ていないことを確認する。

うん……今は夜で、体調はすこぶる良い筈だ。

そして学校へ入ろうとして……体が止まった。

いや、後ろから引っ張られたのだ。

 

「んん……!?」

 

フードのが引っ張られているので、首元が少し苦しい。

一体誰がこんなことを………?

振り返ると、赤と青の瞳と目があった。

 

「……ろ、六道!?」

「声が大きいですよ桂木明祢」

「なんでここに」

 

その姿は、紛れもなく六道骸その人だった。

一ヶ月ほど前、六道は裏社会の牢獄に入れられた。だが、類い稀な体質をもつクローム髑髏の肉体を借りて、度々此方に来ているということは知っていたが、なぜ学校に?

 

「今日は行かない方が良い。もう、終わりましたから」

「終わったって、何が?」

「……君、そういえば一般人でしたね」

 

もしや、六道は俺がもろもろの事情を知っていると思っていたのだろうか。

だとするのなら、この憐れむような、呆れたような目は不愉快だ。

 

「骸様、そろそろ……」

「……では桂木明祢、またいずれ」

「ちょっと待て、事情は?」

「クロームにでも聞いてください。これ以上長居すると後が面倒だ」

 

混乱している俺を置いて、六道たちが去っていく。

なんなんだ。一体、俺達の学校で何が起こっているんだ。

学校を見た。校舎のガラスが割れて、煙が立ち上っている。

それをじっと見ながら、六道の言葉の意味を考えた。

そもそも、何故六道が表に出てこんなところにいる必要があるのか。

 

「何を見ていた……?」

 

六道は無傷だった。

なら、戦ったわけではないはすだ。

 

「……………わからん」

 

理解が追い付かないというか、それよりも学校が気になるというか。

だが、あの六道が帰れと言うのなら、やはり帰るしかないのだろう。

 

 

 

 

 

次の日の昼。

黒曜ランドに行く。

聞くと、髑髏は拙いながらも教えてくれた。

 

「マフィアの跡目争い?」

「骸様はそう言ってた」

「……マフィアってのはそういうものなのか?」

 

髑髏から視線をずらし、俺たちをじっと見ていた男二人──城島と柿本に視線をやる。

 

「……違う」

「んなのボンゴレくらいらぴょん」

「そう、か……うん、いや、そうか……」

 

ボンゴレというのは、マフィアの中でも伝統や格式が他とか比べ物にならないほどの規模を誇っている、と六道は言っていた。

それがどのくらい凄いのか、裏社会に詳しくない俺には分からないが、分かりやすく言うなら、トップ企業だと思えば良いらしい。

そのボンゴレの跡目争いというのは、なかなか複雑なのだそうだ。

厳格な血統主義に、ボスと門外顧問からの推薦。

正直、俺には理解しがたい世界だ。

髑髏に視線を戻す。

 

「そこ、油断するな。幻覚が霞んでる」

「あ……はい」

 

ここに林檎がある。

これは幻覚だ。脳がそうであると誤認しているだけで、実際には存在していない。

それが霧がかかったように霞んでしまっている。これでは、簡単に見破られてしまう。

 

「さっきの話の通りなら、相手は術士だ。六道から聞いているかもしれないが、術士にとって、幻術を幻術で返されることは、知覚の支配権を乗っ取られるということになる。弱い幻覚では、相手に通用しないぞ」

「……はい」

 

とは言うものの、髑髏の幻術の腕はなかなかのものだ。六道の能力を借りているとはいえ、彼女自身に才がある。髑髏の才能はおそらく俺より上だ。

 

「それで、何時から見てたんだ?」

「雷戦から」

「雷…………あぁ、一昨日の」

 

あのやけに近くて多い雷は、半ば人為的なものだったようだ。

なんというか、はた迷惑な。

それよりも。

 

「やっぱり、幻覚云々より気になるんだが………」

 

髑髏の体を観察する。

へそだしの黒曜中の制服は、ここ数日になって着始めたもの。髪型は六道に似せてある。これもここ数日のことだ。

いや、そんなことより、そんなことよりもだ。

 

「……こいつ、ちゃんと食べてるのか?」

 

心配なほどに体が細すぎる。

 

 

 

 

「……おかしくないか?」

 

時刻は夜の十一時頃。場所は、並盛中学校の体育館の屋根の上。珍しく、霧が出ている。

一人座り込んで、三人に問う。

 

「なにが?」

「……来たぴょん!」

 

地上には見慣れた顔。沢田たちだ。

その行く先にはB棟があ、る…………。

……………は?

 

「校舎が原型を留めてない……」

「君と雲雀恭弥、その辺りは同じなんですね」

「郷土愛くらい誰だってあるだろ」

 

六道の言葉に悪態をつく。

何故この場にいるのが髑髏ではなく六道なのか。俺の心はかなり平穏ではない。

 

「これが雨の勝負のための戦闘フィールド、アクアリオン。特徴は立体的な構造。そして密閉された空間にとめどなく流れ落ちる大量の水です」

 

雨は確か、山本だったか。

相手は相当な手練れだろうが、大丈夫だろうか。……それに。

 

「山本武……勝って自分のところまで繋いでもらおう」

 

この雨の戦い、実はかなり重要だ。

というのも、ここで山本が負けた場合、リングが相手に四つ渡ることになるため、その時点で詰みなのだ。

つまり、彼が勝たない限り、霧の守護者戦はやってこないわけである。

 

「勝ちますかね」

 

柿本が六道に聞く。

多分、それは愚問だ。

勝つのかどうかなのではなく、勝ってもらわなければならないのだ。

 

「………」

「さぁな」

 

六道は答えずに、俺が答えた。

 

 

 

 

山本と相手の長い銀髪の男──スクアーロの戦いは苛烈だった。

足元は水で浸されているため、思うように動かない。スクアーロの剣には火薬が仕込まれていて、うかつに近寄れない。

そうした中を山本は戦わなければならないのだから、これは過酷に違いなかった。

 

「躱した……」

 

スクアーロが至近距離で放った火薬を、山本はいかなる方法でか回避した。

単純にすごいと思う。俺は剣術はわからないが、これが高度な戦いであることは素人でもわかる。

スクアーロの食らいつくような攻撃に、水を操るが如く攻防を繰り返す山本。

山本が不利に見えるものの、可能性はゼロではないはずだ。

 

「なぁ、六道。スクアーロっていうのはどんなやつなんだ?」

「お前さっきから骸さんに聞いてばかりだぴょん! うっとおしいら!」

「だまりなさい犬。彼は表側の人間なのですから、知らなくても無理はありません」

 

キャンキャンと吠えるような城島を、六道が呆れたように諌める。その言い方にはどことなくトゲがあるような気がした。

 

「スクアーロはかつて、当時のヴァリアーのボスにして剣の帝王と謳われた剣帝テュールを倒し、次期ヴァリアーのボスは確実とまでに言われた男です」

「それって、物凄く強いってことじゃないか……?」

「そうですね」

 

何事もないかのようにさらり、と言っているが、それはだいぶやばいのではないだろうか。

モニターに視線を動かし、二人の戦いを見る。気づけば、山本の体はボロボロになっていた。

 

「山本……」

「心配症ですね」

「悪いか?」

「表の人間としては良いのでしょうが、裏に関わるのならやめたほうが良い。いずれ、それは君自身を滅ぼすでしょう」

「………」

 

六道の言葉に何も言わず、ただモニターを見た。

山本は今に倒れそうだった。だというのに笑って、剣を構えている。

 

「んじゃ、いってみっか」

 

──時雨蒼燕流 九の型

 

そう言って、野球でバットを振るときのような構えをする。

これから何をする気なのかはよくわからないが、その表情は勝利を微塵も疑っていなかった。

 

 

山本が足元の水を巻き上げ、大きな水柱を作り出す。

一度スクアーロの剣を躱したかと思ったが、スクアーロは恐るべき反応速度で追撃する。

山本は凄まじい斬撃を受け、なんとか柱に隠れる。しかし、スクアーロがそれをすぐさま追いかける。

──その瞬間、俺は幻覚を見たのではないかと勘違いした。

スクアーロが巻き上げていった水の中。つまり、彼の後ろに、いるはずのない山本がいたのだ。

 

「……勝ちだ」

 

思わず、そう呟いていた。

 

スクアーロが背後の山本に反応し、義手に付いていた剣の先を反対向きに変える。それは後ろにいた山本の腹を突き刺した。

だが、その途端、山本の姿は水とともに崩れ消える。

 

「水面に映った影ですか」

 

六道の言葉と同時、山本はスクアーロの反応できない角度から、打ち付ける波のように現れたのだった。

 

 

 

山本は勝った。代わりに、スクアーロは鮫に食われた。

ザンザスの笑い声が場に響く。

 

「明晩の対戦は、霧の守護者同士の対決です」

「……で、次はお前らってわけだ」

 

六道の方を見る。彼は怪しく「クフフ」と笑ってみせた。

不思議なことに、その笑みに安心感を抱いている自分がいた。

きっと、髑髏と六道なら、勝つという確信があったのだ。

というより、六道骸が負ける姿を想像できなかった。




迷走してます。
原作にある描写をそのまま使うわけにもいかず、どれだけ纏めてわかりやすくするかが課題でした。
原作では神の視点、あるいはツナよりの視点で語られる場面を、桂木明袮という人物のフィルターを通すことの意味を考えました。

主人公の桂木明袮は最近心配性と化してきたな、と思うのは作者だけではないかもしれません。
もともとここまで(雲雀や草壁以外に対して)心配性にする予定はなかったのですが、彼が人と関わった結果だと捉えると、いい傾向なのではないかと思っています。

本作では、霧戦以前に守護者の戦いを見ていたのは骸、以降はクロームとしています。


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