夢を見た。
お決まりの夢。
夕陽と血に染まった灰色の建物。そこで倒れ込む少年の姿。一人佇む、自分の姿を。
「……いつもの夢か」
トラウマを刺激されたためか、今日はやけに鮮明だ。
枕元の時計を見る。時刻は、午前四時を示していた。
朝、廃病院に向かった。
ベッドで寝かされている少女が目覚めるのを待った。
眠気が自分にやって来て、大きな欠伸をした頃、彼女は目を覚ました。
「城島と柿本は帰ったぞ」
「………」
「帰るなら早く帰れよ」
「そうする……」
傍らの鞄と、六道との繋がりである槍を持って、髑髏は走っていった。
「……」
髑髏の去っていった扉を数十秒ほど見つめる。
息を吸う。廃病院のはずなのに、病院の香りが仄かにする。
そういえば、父は似たような香りをよく纏わせていた。
「……帰るか」
病室を出る。
「あっ」
「……あぁ」
出た先で、ちょうど、知った顔と目があった。
「沢田、なんでこんなところに」
「桂木さんこそなんでこんなところに……っていうか、昨日はなんで学校に!?」
こんな朝から来たのは、他の奴等と同じで雲雀の調子を聞くためだろう。
「髑髏がお前らに受け入れられるか気になって……別にそれはいい。跳ね馬ならあっちの病室にいると思うけど」
「あ、ありがとうございます……?」
礼を言いながら、指さした方に向かっていく沢田の背を見送る。
……まだ純粋だな。
夜、並盛中。
「一つ聞きたいのだが、何故桂木がいるのだ?」
「今更かよ」
「ははっ、まぁいいじゃねーか!」
「山本以外酷いな、君ら」
そう言いながら、笑みを浮かべた。
自身の本心を悟られないようにするのは、慣れていたから。
「今日の主役の登場だぜ」
山本が言った。
振り返れば、闇夜に姿を浮かばせて、雲雀が現れた。
「君達……何の群れ?」
雲雀は本心からそう訊ねた筈だ。
「応援に来たぞ!!」
「ふうん……目障りだ。消えないと殺すよ」
「なんだその物言いは!! 極限にプンスカだぞ!!」
雲雀の礼の一つもない態度に、笹川は怒りを顕にした。
だが、これが雲雀の常である。
「やめとけ、雲雀にそんなこと言ったって聞くわけないんだから」
肩を掴み、押さえる。
雲雀の言動に、いちいち怒っていたら、切りがないのはわかっていたから。
「なんだ、君いたの」
「居たら悪いのか?」
「別に。……ただ、来ると思わなかっただけだよ」
「………え?」
それは、意外な言葉だった。
雲雀は俺のことなんて、どうでもいいものなんだと思っていたから。そんな風に思っていただなんて、想像もしなかった。
雲雀の背後から、ザッという音がする。見ると、ヴァリアーが校舎から飛び降りてきたらしかった。
「そうか……あれを咬み殺せばいいんだ」
ぎらぎらとした目付きで見据えながら、雲雀は口角を上げた。
「雲の守護者の使命とは、何者にもとらわれることなく独自の立場からファミリーを守護する孤高の浮雲」
故に、最も過酷なバトルフィールドを用意された。
『クラウド グラウンド』
四方を有刺鉄線で囲まれ、八門の自動砲台が三十メートル以内の動く物体に反応し攻撃する。地中には重量感知式のトラップ……要は地雷が設置され、警報音の直後に爆発する。
常人ならは数秒も立たずに命を落とすような環境だ。
「だから校内を改造するのはやめてくれ……」
頭がズキズキと痛くなってくる。
戦いが終わった時、もしその地雷が残っていたらと考えるとゾッとする。
なにより、雲雀がそれに怒っていない状況が恐ろしい。目の前の強者を前に高揚感の方を優先しているのだろうが、後々なにがあるかわかったもんじゃない。
「それでは始めます。雲のリング。ゴーラ・モスカ VS. 雲雀恭弥。
チェルベッロの宣言。
ゴーラ・モスカの巨体が動き始めた。
桂木は、その圧倒的な光景を目に焼き付けていた。
ゴーラ・モスカが足のジェットを噴出し、雲雀に向かって勢いよく飛んでいく。指先の銃の照準を雲雀に合わせ、けたたましい音を立てながら鉛玉を出す。
雲雀は目の前の標的を睨みつけ、その奥の標的を見据えていた。
──それは一瞬のことだった。
雲雀の体が動いたかと思うと、次の瞬間には、ゴーラ・モスカの右腕は獣に食い破られたかのように、雲雀のトンファーによってもがれていた。
ドォンという爆音と共に、黒い煙がモスカを包んだ。
だが雲雀は、それに関心を向けることは一切なく、すれ違いざまに取っていたモスカのハーフリングを、自身の持っていたもう片方のリングと合わせた。
秒数は、十秒にも満たなかった。
圧倒的なまでの強さの差に、周りは誰もが現実を認識出来ずにいた。
それは桂木も同じこと。
……彼の中で、何かにヒビが入ったような音が聞こえた。勿論、誰の耳に聞こえることはない。彼だけが感じることの出来る、小さく大きな違和感だった。
「これいらない」
雲雀が完成した雲のボンゴレリングをチェルベッロに渡す。
動揺するチェルベッロを無視して、雲雀はただ一人を見ていた。
「さあ、おりておいでよ、そこの座ってる君」
有刺鉄線の向こう側、玉座ともいわんばかりの椅子に腰掛けるその人物を。
「サル山のボス猿を咬み殺さないと、帰れないな」
その言葉に、XANXUSは不敵な笑みを浮かべた。
そして椅子から高く跳躍すると、雲雀のトンファーとその足を交差させた。
着地して、その地点から機械音が聞こえたかと思うと、爆発が起こる。
「そのガラクタを回収しに来ただけだ。俺たちの負けだ」
「ふぅん。そういう顔には、見えないよ」
「……雲雀!」
笑うXANXUSに、雲雀がトンファーを勢いよく振り回す。
それを見ながら、桂木は耳で異変を感じとっていた。
爆音に紛れて、嫌な音が聞こえる。聞き覚えのある、機械を操作するような音。ここでは聞こえるはずのない音。
「チェルベッロ」
「はいXANXUS様」
「この一部始終を忘れんな。オレは攻撃をしてねえとな」
──攻撃をしていない……?
桂木の脳裏に、嫌な想像が浮かんだ。
もしこれが、初めから勝ちも負けも関係なかったら……?
その時、桂木は悟る。XANXUSがずっと笑みを浮かべていた理由を。
「駄目だ、雲雀!!」
瞬間、一筋の閃光が雲雀の脚を横切った。
「雲雀!!」
膝をついた雲雀に、桂木が駆け寄っていく。
その背後では、山本達に向かってダイナマイトが飛んできていた。
激しい爆音と黒煙が、運動場を包み込む。
(聞こえていた音はこれだったか……!)
桂木の耳に微かに聞こえていた機械音は、暴走する前のモスカの音だったのだ。
「……なんてこった。オレは回収しようとしたが、向こうの雲の守護者に阻まれたため、モスカの制御がきかなくなっちまった」
XANXUSの笑みは、これを知っていたからこそ出たものだ。
耳の端にXANXUSの言葉を入れながら、桂木は狡猾な男だと彼を評価した。
「雲雀!」
「寄らないで」
「っ……でも、怪我してるじゃないか!」
「君のお節介は昔から面倒なんだ」
「止血しないと……」
「いい迷惑だって言ってるんだよ」
雲雀は桂木の心配症なところが嫌いだった。
怪我をすれば直ぐに駆け付ける。たとえそれが雲雀だとしても、何かあれば助けようとする。
それは雲雀にとって、自分が未だ弱いように感じることだった。
雲雀は自分が弱者であることを許さない。一人で戦える強者でなければ、自分を許せない。
桂木のそれは、雲雀の弱さを否応なしに雲雀自身に突き付けていたのだ。
「縛るぞ」
手持ちのハンカチでは縛れないと悟った桂木が、自身の服の袖を千切りながら言う。
雲雀はそれに顔をしかめながらも、トンファーを振るえずにいた。
「君、僕が死んだらどうするつもりなの」
「……誰よりも悲しんでやるよ」
「なんで?」
「………なんでだろうな」
二人が話している間も、モスカの暴走は止まらず、周りでは爆発と破壊が繰り返されていた。
「逃げようにも逃げ場がない……な!?」
桂木が周りを見たのは、丁度クロームら黒曜のメンバーが、ガトリング砲とモスカの圧縮粒子砲に挟まれ、袋小路となっていたときだった。
「お前ら!」
桂木が入ろうとするも、距離がありすぎるため、絶対に間に合わない。
犬と千種は、クロームと共に伏せながら、その衝撃に耐えんとしていた。
だが───
そこに、炎の塊が到来する。
あわやこれまでかと思われた三人は、自らが無事であることに気付く。
「なんだ……あれ……」
桂木の声は、驚愕に満ちていた。
オレンジ色に輝く染め上げるような炎。それを拳と額に灯す沢田綱吉を、彼は初めて見た。
リボステ観に行きました。
クオリティが凄かった!あれがヴァリアークォリティー……。
ヴァリアー編もいよいよ大詰めに差し掛かってきました。もうちょっとです。