雲雀は月夜を咬み殺さない   作:さとモン

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24.雲と暴走

夢を見た。

お決まりの夢。

夕陽と血に染まった灰色の建物。そこで倒れ込む少年の姿。一人佇む、自分の姿を。

 

「……いつもの夢か」

 

トラウマを刺激されたためか、今日はやけに鮮明だ。

枕元の時計を見る。時刻は、午前四時を示していた。

 

 

 

朝、廃病院に向かった。

ベッドで寝かされている少女が目覚めるのを待った。

眠気が自分にやって来て、大きな欠伸をした頃、彼女は目を覚ました。

 

「城島と柿本は帰ったぞ」

「………」

「帰るなら早く帰れよ」

「そうする……」

 

傍らの鞄と、六道との繋がりである槍を持って、髑髏は走っていった。

 

「……」

 

髑髏の去っていった扉を数十秒ほど見つめる。

息を吸う。廃病院のはずなのに、病院の香りが仄かにする。

そういえば、父は似たような香りをよく纏わせていた。

 

「……帰るか」

 

病室を出る。

 

「あっ」

「……あぁ」

 

出た先で、ちょうど、知った顔と目があった。

 

「沢田、なんでこんなところに」

「桂木さんこそなんでこんなところに……っていうか、昨日はなんで学校に!?」

 

こんな朝から来たのは、他の奴等と同じで雲雀の調子を聞くためだろう。

 

「髑髏がお前らに受け入れられるか気になって……別にそれはいい。跳ね馬ならあっちの病室にいると思うけど」

「あ、ありがとうございます……?」

 

礼を言いながら、指さした方に向かっていく沢田の背を見送る。

……まだ純粋だな。

 

 

 

 

夜、並盛中。

 

「一つ聞きたいのだが、何故桂木がいるのだ?」

「今更かよ」

「ははっ、まぁいいじゃねーか!」

「山本以外酷いな、君ら」

 

そう言いながら、笑みを浮かべた。

自身の本心を悟られないようにするのは、慣れていたから。

 

「今日の主役の登場だぜ」

 

山本が言った。

振り返れば、闇夜に姿を浮かばせて、雲雀が現れた。

 

「君達……何の群れ?」

 

雲雀は本心からそう訊ねた筈だ。

 

「応援に来たぞ!!」

「ふうん……目障りだ。消えないと殺すよ」

「なんだその物言いは!! 極限にプンスカだぞ!!」

 

雲雀の礼の一つもない態度に、笹川は怒りを顕にした。

だが、これが雲雀の常である。

 

「やめとけ、雲雀にそんなこと言ったって聞くわけないんだから」

 

肩を掴み、押さえる。

雲雀の言動に、いちいち怒っていたら、切りがないのはわかっていたから。

 

「なんだ、君いたの」

「居たら悪いのか?」

「別に。……ただ、来ると思わなかっただけだよ」

「………え?」

 

それは、意外な言葉だった。

雲雀は俺のことなんて、どうでもいいものなんだと思っていたから。そんな風に思っていただなんて、想像もしなかった。

雲雀の背後から、ザッという音がする。見ると、ヴァリアーが校舎から飛び降りてきたらしかった。

 

「そうか……あれを咬み殺せばいいんだ」

 

ぎらぎらとした目付きで見据えながら、雲雀は口角を上げた。

 

 

 

 

「雲の守護者の使命とは、何者にもとらわれることなく独自の立場からファミリーを守護する孤高の浮雲」

 

故に、最も過酷なバトルフィールドを用意された。

『クラウド グラウンド』

四方を有刺鉄線で囲まれ、八門の自動砲台が三十メートル以内の動く物体に反応し攻撃する。地中には重量感知式のトラップ……要は地雷が設置され、警報音の直後に爆発する。

常人ならは数秒も立たずに命を落とすような環境だ。

 

「だから校内を改造するのはやめてくれ……」

 

頭がズキズキと痛くなってくる。

戦いが終わった時、もしその地雷が残っていたらと考えるとゾッとする。

なにより、雲雀がそれに怒っていない状況が恐ろしい。目の前の強者を前に高揚感の方を優先しているのだろうが、後々なにがあるかわかったもんじゃない。

 

「それでは始めます。雲のリング。ゴーラ・モスカ VS. 雲雀恭弥。勝負(バトル)開始!!」

 

チェルベッロの宣言。

ゴーラ・モスカの巨体が動き始めた。

 

 

 

桂木は、その圧倒的な光景を目に焼き付けていた。

 

ゴーラ・モスカが足のジェットを噴出し、雲雀に向かって勢いよく飛んでいく。指先の銃の照準を雲雀に合わせ、けたたましい音を立てながら鉛玉を出す。

雲雀は目の前の標的を睨みつけ、その奥の標的を見据えていた。

 

──それは一瞬のことだった。

雲雀の体が動いたかと思うと、次の瞬間には、ゴーラ・モスカの右腕は獣に食い破られたかのように、雲雀のトンファーによってもがれていた。

 

ドォンという爆音と共に、黒い煙がモスカを包んだ。

だが雲雀は、それに関心を向けることは一切なく、すれ違いざまに取っていたモスカのハーフリングを、自身の持っていたもう片方のリングと合わせた。

秒数は、十秒にも満たなかった。

圧倒的なまでの強さの差に、周りは誰もが現実を認識出来ずにいた。

それは桂木も同じこと。

……彼の中で、何かにヒビが入ったような音が聞こえた。勿論、誰の耳に聞こえることはない。彼だけが感じることの出来る、小さく大きな違和感だった。

 

「これいらない」

 

雲雀が完成した雲のボンゴレリングをチェルベッロに渡す。

動揺するチェルベッロを無視して、雲雀はただ一人を見ていた。

 

「さあ、おりておいでよ、そこの座ってる君」

 

有刺鉄線の向こう側、玉座ともいわんばかりの椅子に腰掛けるその人物を。

 

「サル山のボス猿を咬み殺さないと、帰れないな」

 

その言葉に、XANXUSは不敵な笑みを浮かべた。

そして椅子から高く跳躍すると、雲雀のトンファーとその足を交差させた。

着地して、その地点から機械音が聞こえたかと思うと、爆発が起こる。

 

「そのガラクタを回収しに来ただけだ。俺たちの負けだ」

「ふぅん。そういう顔には、見えないよ」

「……雲雀!」

 

笑うXANXUSに、雲雀がトンファーを勢いよく振り回す。

それを見ながら、桂木は耳で異変を感じとっていた。

爆音に紛れて、嫌な音が聞こえる。聞き覚えのある、機械を操作するような音。ここでは聞こえるはずのない音。

 

「チェルベッロ」

「はいXANXUS様」

「この一部始終を忘れんな。オレは攻撃をしてねえとな」

 

──攻撃をしていない……?

 

桂木の脳裏に、嫌な想像が浮かんだ。

もしこれが、初めから勝ちも負けも関係なかったら……?

その時、桂木は悟る。XANXUSがずっと笑みを浮かべていた理由を。

 

「駄目だ、雲雀!!」

 

瞬間、一筋の閃光が雲雀の脚を横切った。

 

「雲雀!!」

 

膝をついた雲雀に、桂木が駆け寄っていく。

その背後では、山本達に向かってダイナマイトが飛んできていた。

激しい爆音と黒煙が、運動場を包み込む。

 

(聞こえていた音はこれだったか……!)

 

桂木の耳に微かに聞こえていた機械音は、暴走する前のモスカの音だったのだ。

 

「……なんてこった。オレは回収しようとしたが、向こうの雲の守護者に阻まれたため、モスカの制御がきかなくなっちまった」

 

XANXUSの笑みは、これを知っていたからこそ出たものだ。

耳の端にXANXUSの言葉を入れながら、桂木は狡猾な男だと彼を評価した。

 

「雲雀!」

「寄らないで」

「っ……でも、怪我してるじゃないか!」

「君のお節介は昔から面倒なんだ」

「止血しないと……」

「いい迷惑だって言ってるんだよ」

 

雲雀は桂木の心配症なところが嫌いだった。

怪我をすれば直ぐに駆け付ける。たとえそれが雲雀だとしても、何かあれば助けようとする。

それは雲雀にとって、自分が未だ弱いように感じることだった。

雲雀は自分が弱者であることを許さない。一人で戦える強者でなければ、自分を許せない。

桂木のそれは、雲雀の弱さを否応なしに雲雀自身に突き付けていたのだ。

 

「縛るぞ」

 

手持ちのハンカチでは縛れないと悟った桂木が、自身の服の袖を千切りながら言う。

雲雀はそれに顔をしかめながらも、トンファーを振るえずにいた。

 

「君、僕が死んだらどうするつもりなの」

「……誰よりも悲しんでやるよ」

「なんで?」

「………なんでだろうな」

 

二人が話している間も、モスカの暴走は止まらず、周りでは爆発と破壊が繰り返されていた。

 

「逃げようにも逃げ場がない……な!?」

 

桂木が周りを見たのは、丁度クロームら黒曜のメンバーが、ガトリング砲とモスカの圧縮粒子砲に挟まれ、袋小路となっていたときだった。

 

「お前ら!」

 

桂木が入ろうとするも、距離がありすぎるため、絶対に間に合わない。

犬と千種は、クロームと共に伏せながら、その衝撃に耐えんとしていた。

だが───

 

そこに、炎の塊が到来する。

あわやこれまでかと思われた三人は、自らが無事であることに気付く。

 

「なんだ……あれ……」

 

桂木の声は、驚愕に満ちていた。

オレンジ色に輝く染め上げるような炎。それを拳と額に灯す沢田綱吉を、彼は初めて見た。

 

 




リボステ観に行きました。
クオリティが凄かった!あれがヴァリアークォリティー……。

ヴァリアー編もいよいよ大詰めに差し掛かってきました。もうちょっとです。
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