雲雀は月夜を咬み殺さない   作:さとモン

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未来編、開幕──




未来編
26.大空の下で罪を犯す


夜の帳もとうに下りた頃、闇夜に紛れる二つの影があった。

 

「本当に大丈夫なんだろうな……?」

「大丈夫ですー。師匠のことですから殺したって生きてますよー」

「いや、そっちじゃなくて……お前が心配なんだよ」

「嫌だなー、ミーはこれでも仕事はちゃんとしますよー」

 

小さい方の影は頭の大きな被り物に触れながら、表情を変えずに言う。その様子に、もう一つの影はため息をつく。

青年は少年の実力を認めていないわけではないのだが、ふざけた性格なので、心配が煽られるのだ。

 

「ちゃんとやれよ」

「明袮さんは心配症だなー」

「……明袮って、言うな」

 

青年は眉間に皺を寄せながらも、少年の頭を被り物越しに撫でる。

少年は表情を変えないままだったが、嫌がる素振りは見せなかった。

 

「でも、本当にいいんですか?」

「あぁ、覚悟は出来てる」

 

青年と少年が、目を合わせる。少年はその瞳を見て、何を言っても無駄なのだということを悟った。思えば、初めて会ったときから、この青年はどこか強情なところがあったのだ。

そのせいで、紆余曲折あって真っ黒い集団なんかの一員になったりしているわけで。

そういえば、あの時なんでこの人は自分に気づいたのだろう。他の誰も気づかなかったのに、この人はすぐに気づいて、あっという間に自分を攫ってしまった。

少年は考える。以前、この人は才能がないと言っていたが、もしかするとこの人、別の意味で実はすごいのでは?

 

「……今はじめて明袮さんのことを尊敬できたような、できなかったような」

「どっちだよ」

 

青年は笑う。かつて浮かべていた軽薄な笑みではなく、どこか自然な笑みを。それは彼の中の十年を彷彿とさせた。

 

「頼んだぞ、フラン」

 

名を呼ばれた少年は、ぼんやりと青年を見る。

やはり青年の瞳には強い意志があり、青年の声は確かに覚悟を決めていた。

 

 

 

 

 

少し伸びた墨色の髪を後ろで束ねた、瞼の上に傷痕のある青年と、フラフラと揺れ、驚愕の表情を浮かべる男が向き合っていた。

男は青年を見て「そうか……お前が……」と呟くと、力が入らないのか、その場に倒れ込んでしまった。

 

倒れた男の直ぐ側にしゃがみ込む。

男は憎悪にまみれた瞳で、俺を睨みつけた。

仕方のないことだ。今までにもう幾度と経験したから、とっくに慣れてしまっていた。

だから、表情は変えない。出来る限り冷徹に、無慈悲に見えるように心掛けた。

 

「確かに、お前には死神の名がお似合いだろうさ」

「……」

 

男に手を伸ばす。男は体を捻ろうとする素振りを見せたが、体が動かなかったのだろう、ただ呻くだけで終わった。

それが見ていられなくて、額に触れる。

───幻術を使った。

男はすぐに目を見開く。そこに、ありもしない幻覚を見ている。

 

「……あぁ……今すぐそっちに……マイ・ファミリー……」

 

男はロクに動かないであろう唇を震わせてそう言った後、天使に出会ったかのような形相で、その直前の言葉が嘘に思えるくらい静かに息を引き取った。

それを見届けて、懐から白い蓮の花を取り出して、男の骸の上に乗せた。

 

溜めていた息を吐いて、周りを見回す。

幸せそうな顔をした骸。骸。骸。骸。骸………。

立って息を吸って吐いているのはたった一人だけ。

彼らを殺した自分だけだ。

『死神』

皮肉交じりに笑みを浮かべて、その名が実にお似合いだと実感する。それから、もっとお似合いの名前があることを思い出す。

 

「死神なんて……疫病神の間違いだろ」

 

『手向けの死神』は決まって、殺した標的に花を手向ける。

白い花を。

祈る。

良識のある者は死者に対する冒涜だと蔑む。あるいは、恐ろしいと。

自分で殺した人間に対して、一体どれだけの人間が心から花を手向けられると思う?

……そんな簡単な質問に答えられないわけはない。答えは殆どいない、だ。

死者は自身が憎悪を向ける相手から花を貰ったところで喜びはしない。ただ、憎悪を募らせるだけだ。

けれど自分に、花に関しては悪意はなくて。ただ、本当に、心から申し訳ないと思っていた。

花は手向けなかったが、これは昔からそうだった。初めて人を殺したときから、自分はその死を背負うと決めていた。

だからこれは、自分の罪に逃げも隠れもしないことへの覚悟なのだ。

死神の餞がただの自己満足だったとしても、それでも、続けよう。

……これが自分の罪に課す、罰なのだから。

 

 

 

 

 

並盛町の一角にあるとある喫茶店で、一人の青年が本を読んでいる。巷の本屋にありふれているような、名の知れた文豪が書いた小説だ。

焦げ茶色の髪の青年に、黒い服を纏った墨色の髪の青年が声を掛ける。

 

「お前が桂木明袮か?」

「……手向けの死神。ブラックスペルのラウロか」

 

声を掛けられた青年は、読んでいた本から顔を上げると、穏やかな日常の延長線とでも言うかのように穏やかに微笑んだ。

 

「ここは場所が悪い……移動しよう」

「……いいだろう」

 

桂木が伝票を持って会計に行くのを、ラウロは待った。時間は十分にあるからだ。

桂木が先に店を出て歩いていく。ラウロはその後ろを一定距離を保ってついていく。

数十分ほど無言で歩き、辺りが木々に囲まれた山になったところで、桂木の足が止まった。そして、振り向きもせずに言う。

 

「ミルフィオーレの死神さんが俺を殺しに来るなんて思わなかったな」

 

ラウロが目を見開く。

 

「気づいていたのか」

「これから人を殺そうとする人間くらい簡単にわかるさ」

 

桂木が振り向き、カラカラと笑う。その姿は、まるで道化師のようだった。

あるいは、実際にそうだったのかもしれない。桂木明袮が術士であることは、とうに調べがついていた。

 

「流石だな」

「マフィアに褒められても嬉しくないけど……まぁ、やろうか」

「……悪いな」

 

辺りに霧が立ち込め、二人の姿は紛れて見えなくなる。

霧が揺らめく。

影が二つから、三つ、四つ、五つ……と増え、そして、なにもなくなった。

 

 

 

花を手向ける。

ラウロは仏教徒ではなかった。

だから、彼は輪廻転生を心の底から信じてはいない。

キリスト教でもないので、生前の善行で何かが救われるとも思っていない。

そもそも、何かの宗教を信仰してすらいない。

彼にとって、神は形而上の存在であり、信じる者にとってはいるのだろうという認識であり、概念に過ぎない。

彼にとって神とはただそこにあるものであり、救うものではない。

それでも、彼は花を手向ける。

白い菊を。

来世などありもしないけれど、輪廻など信じていないけれど。もしあるのならば、どうか次はこんな風に終わらないように、と。

神に祈るのではなく、運命に。

自らの罪を懺悔するかのように、祈る。

 

「すまない」

 

その屍は何も反応を返さない。当然だ。屍は再び生き返って、言葉を発したりはしないのだから。

ラウロは袖を千切りながら、自らの傷の応急処置をする。彼の体には、多くの打撲痕と、切り傷が残されていた。

 

「殺しなんて、したいわけじゃないんだけどな……」

 

空を仰ぐ。青い空に、眩しいくらいの太陽が目に痛い。

 

「ボス……」

 

先代のボスの顔を思い浮かべる。

声はとうに忘れてしまっていたが、それでも、姿形は、思い出は思い出すことが出来る。

全てを包み込むような微笑み。

どんな悪逆非道を犯そうとも、その優しい笑顔を、ラウロはずっと忘れないだろう。

 

 

 

 

 

「他の仲間だが……」

 

十年後の未来に来てしまっていた綱吉達は、現実を目の当たりにする。

山本の声は、綱吉と獄寺の二人に驚き以上のものをもたらした。

 

「この二日間でロンシャンや持田、桂木先輩は行方不明。十年間に出来た知人のほとんども消された」

「山本の父親もな」

「そ…そん…な……」

 

不意に訪れた未来の傷はあまりに大きかったことを、このとき初めて二人は知った。

 

 

 




ごめん……。なんか、ごめんなさい。

ところで、某カエル頭の人、キャラが掴めないんですけど。
あと、骸、骸、骸……。のところで六道骸が大量発生してるような気分がして、不覚にも吹きそうになってました。

前話、夜半の月ですが、活動報告の方に軽い解説書いてます。よろしければ是非。
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