雲雀は月夜を咬み殺さない   作:さとモン

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31. 「許さない」

「おいラウロ、召集だぞ」

「……パス」

「お前なぁ、こういうときだけ子供に戻るのはやめろ」

「嫌なヤツに会う気がするんだ」

「……嫌なヤツ?」

 

ラウロの顔は、やけに嫌そうに歪んでいた。

 

 

 

 

 

「……行方不明」

「えぇ。恭さんもそれとなく気にしているようですが」

「……そうか。人さらいの線もある。俺の方でも調べておくよ」

 

十月も終わりを迎え、一週間ほど経った頃。そんな話が桂木の元に転がり込んできたのは、偶然だった。

綱吉や獄寺、山本など、綱吉を中心としたメンバーが行方不明になっていたという。

 

(こないだ、沢田と赤ん坊が家に帰ってないと言っていたな……それに、ここ最近髑髏を見ていない)

 

十一月に入ってから、桂木はクロームとは出会わなくなっていた。連絡を取ろうにも、クロームは携帯電話を所持していない上に、そこまで気にすることでもないと考えていた。

だが、もしクロームが行方不明になっていて、それが今回の綱吉達の行方不明と関係があるのなら、事態は相当大きなものなのかもしれない。

そもそも、人攫いが出たのなら、噂程度でも彼の耳に入っているはずだった。

 

「黒曜へ行ってみるか」

 

草壁と別れた後、桂木は黒曜センターへと向かった。クロームがいなくとも、犬や千種がいるだろうと考えたからだ。

 

「城島、柿本!」

 

二人の名前を大声で呼びながら、建物内に入っていく。

黒曜センターは、複合型施設だったこともあって、その敷地はなかなかに広い。その為、どこにいるかを把握するのは難しいのだ。

 

「うるへーら!」

「あ、いた」

「……何の用」

「髑髏はどこだ?」

 

すると、二人は一斉に黙りこくってしまう。……それで、桂木は何となく予想がついてしまった。

 

「帰ってきてないんだな」

「けっ……」

「柿本、何か兆候はなかったか?」

「ないよ。いきなりだ」

 

千種の声は分かりにくいが、確かにクロームを案じていた。

桂木は二人の表情を見る。ほんの少し、顔色が青いようにも感じられた。

 

「六道からは?」

「なんにもねーんらよ! わかれ兎!」

「なんか機嫌悪くないか、城島」

「クロームがいないから……」

「なるほど」

「そこ、うるへーぴょん!」

 

犬の怒鳴り声に、少しだけ二人の表情が緩んだ。だが、それも束の間のこと。すぐに二人の顔は引き締められる。

 

「どこまで探した」

「黒曜一体は探した」

「並盛で人攫いが出たなんて情報は聞いてない。もしかすると」

「……マフィアか」

「可能性は高いと思うが、まだわからない」

 

桂木は並盛に詳しいが、彼が誰よりも知っているのはあくまで夜のことだ。昼間のこともある程度わかるとはいえ、夜ほどではない。

だとするなら、行方不明になったのは昼間の可能性が高い。

 

「とにかく、こっちも引き続き探しておく」

「すまない」

「テメーが謝ることじゃねーぴょん!」

「……犬」

 

桂木はなにも言い返さなかった。犬がクロームの身を純粋に案じていることを分かっていたからだ。

 

 

 

「桂木、沢田や京子は知らんか!?」

 

ゼイゼイと息を荒げながら、了平が桂木の肩に掴みかかったのは、桂木が黒曜を出てからほんの数時間後のことだ。

桂木なりに綱吉やクロームたちを探していた時、たまたま了平に出会ったのだった。

 

「いや、俺も探してるんだけど……」

「そうか……俺も日本を五周ほどしたのだがな、一向に見つからんのだ」

「日本五周……?」

 

何を言っているんだこの男は。

桂木の目が、信じられないものを見るかのような険しいものになる。

実際、それはあまりにも信じがたいことだったが、目の前の男がふざけた嘘をつかないことはわかっている。

ならば本当か? いや、まさか……?

桂木は混乱した。了平の言葉が本当だと思っているからこその混乱だった。

 

「そうだ。極限日本中を探し回ったのだ!!」

「おぉ、極限……」

 

桂木は口には出さないものの、了平が苦手だ。嫌いなのではない、苦手なのだ。

とにかく、自分のペースが狂わされる上に、了平のドッピーカンの晴れなのである。桂木はそういう性質の人間が一等苦手だった。

 

「………俺には、よくわからないが」

 

おそらく、了平が手を尽くしても見つからないであろうことは桂木でもわかった。これには、自分達ではどうしようもない何かが関わっているのだと、察しがついてしまったのだ。

それは彼の第六感だったのか、はたまた別の感覚だったかもしれない。

しかし、桂木は元来、真面目であり、どこかがさつな性格の持ち主だった。

 

「体を鍛えていれば、いつか会えるんじゃないか?」

 

それはあまりにも無責任な言葉であり、真面目さから来た言葉だった。

桂木の頭の中では、了平が巻き込まれることは確定事項だった。ならば、自ずといつかは出会うだろう。しかし、巻き込まれるということは、マフィア絡みの出来事なのだ。了平がそれを自覚しているかはさておき、強くなっておかなければ、呆気なく死んでしまうことも十分にあり得る。

桂木は考えた。了平には強くなってもらわねばならないと。

ちなみに、桂木の知るところではないが、既に了平は以前よりも強くなっている。

 

「何、そうなのか?」

「………うん」

 

了平の曇りない瞳に、桂木は目を逸らす。騙してしまうという罪悪感が彼を責めていた。

了平は一瞬思案した。

自らが強くなれば、探し求めている人々は見つかるのだと桂木は言った。桂木は難しく、複雑なものを抱えているような人間だが、悪い男ではない。

了平は桂木を見て笑った。

 

「そうか、では極限ロードワークをしながら探してくる!」

「……うん」

 

極限ー! という声とともに了平は桂木に背を向け、シャドーボクシングをしながら走り出す。

桂木はみるみるうちに小さくなっていく背中を見つめながら「早っ」と思わず呟いた。

 

(これだからこの男は……!)

 

桂木は自らの額に手を当て、大きくため息を付いた。

どうしてあんな嘘をついたのか。桂木は自分で自分がわからなかった。

 

「鍛えてたらいつか会えるって……そんなわけないだろ」

 

桂木の呟きは、既に姿が見えなくなっている了平には届かない。

桂木は空を見た。既に夕暮れ時になっていた。

桂木の好む夜がやって来る。

 

「嫌な予感がするのはなんでだ……?」

 

 

 

 

 

第四部隊の部屋で、ラウロは一人だけ残っていた。彼の部隊の者は、殆どがボンゴレアジト迎撃大隊に組み込まれていた。隊長である彼が行かなかったのは、数日前に独断行動をしたことが関係している。

桂木に化けて綱吉らと接触したラウロだったが、実のところ、あれは彼の独断だった。そのため、γら程ではないが、それなりの罰を受けることになっていた。

結果として、彼は第四部隊で唯一アジトに残っている。

ぼんやりとソファに腰掛けてた彼の元に、四振りの剣を腰に差した男が訪れた。

 

「召集に応じなかったらしいな」

「……幻騎士」

 

幻騎士に目を向けたラウロは、幻騎士に対して憎悪を滲ませた表情を隠すことはしなかった。

 

「しばらく見ないうちにスレたか」

「……あんたがそれを言うのか」

 

ラウロが幻騎士に近付き、その胸ぐらを掴む。幻騎士はラウロの手を見るだけで、何も抵抗しなかった。

 

「あんたさえ裏切らなきゃ、ユニ嬢がああなることなんかなかった! 白蘭なんかに救われたからって、信者になりやがって!」

「……口を慎めラウロ。白蘭様は崇拝するに足る御方だ」

 

幻騎士がラウロの手を払う。

ラウロの手は、空で何度か握っては開いた後、行き場を失った。

それでも、ラウロの瞳から憎悪が消えることはなかった。

ラウロは幻騎士が憎かった。ファミリーを売った裏切り者。それが幻騎士だった。

彼は幻騎士の弟子だった。だからこそ、周りからは裏切り者の弟子と呼ばれざるを得なかった。

 

「あんたらのせいでファミリーは崩壊した」

「あのままでは、いずれ終わっていた」

「だから何でもしていいって? あんた最悪だよ」

「……」

 

幻騎士は黙り込むと、踵を返して部屋から出ていこうとした。

 

「逃げるのか」

 

ラウロの言葉に、幻騎士の足が止まる。

場に、ラウロの殺気が充満する。ラウロは激昂していた。

 

「……ボンゴレのアジトを急襲しているとはいえ、万が一のこともある。準備はしておけ」

 

幻騎士はそれだけ言うと、部屋を退出する。

残されたラウロは幻騎士が出ていった扉をじっと睨み付け、目を閉じた。

 

「ユニ嬢は、あんたのこと解ってたんだよ……」

 

一人の寂しい部屋に、ラウロの震えた声が反響した。

 

『それに、あなたの気持ちはよくわかりました』

 

ジェッソのアジトへ向かうと言った時の、自らのボスの笑顔が、彼の脳裏にはずっと焼き付いている。

 

「許さない」

 

幻騎士を、白蘭を。

彼は絶対に許すことはない。




今頃気付いたんですけど、桂木が並盛中ケンカランキングで何位だったか結局わからずじまいでしたね……予定だと千種に言わせる予定だったのに、おかしいな。
彼はあの時点では二位でした。
山本より強かったんですね。それに幻術も込みで入るので、もしかすると当時は雲雀さんに勝てたのかも……くらいの強さです。
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