雲雀は月夜を咬み殺さない   作:さとモン

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33.裏切りの花

地響きのような音が、辺りに響く。

 

「なんだ?」

 

地面……いや部屋全体が揺れ、まるで動いているかのような感覚が体を襲う。

いいや、実際部屋そのものが動いているのだろう。

エレベーターに乗っているかのような、微妙な浮遊感を感じるから。

 

「入江正一か……」

 

入江正一。彼がなぜミルフィオーレにいるのか、その理由を推察することは叶わなかった。

学生時代、彼は一般人だった。マフィアの世界に深く関わったことがあったわけではない。白蘭に誘われたとはいえ、死ぬ気の炎を灯すほどの覚悟が彼にあったのかどうか……。

確かに彼はホワイトスペルの実質的な二番手としてメローネ基地で指揮を執っているが、彼からは白蘭への忠誠は感じられなかった。

……骸の話を思い出す。

骸の情報収集能力は恐ろしいまでに高く、本来俺が知ってはいけないようなことも聞いていた。

そのお陰で、自分の行動を予測して行動しているわけだが、事の詳細までは流石に予測できない。

 

「俺は、俺のすべきことをただ成すだけだ」

 

胸元で、チャリと何かがぶつかる音がする。……今も、ちゃんと持っている。それは父から受け継いだ家宝だった。

歩調を速める。狙う相手に会うために。

今度こそ、逃がさない。

 

 

 

 

 

 

草壁達は迷いながらも、歩いていた。

潜入したは良いものの、基地内の施設の配置が変わっていたため、端末のマップが役に立たなくなっていたのだ。

 

「笹川と獄寺の救出は出来ましたが……」

 

草壁は笹川と獄寺を背負っていた。

意識を失った人間二人分の体重が、彼の体にのし掛かっている。だが、その動きは緩慢ではなく、そこからは彼の力強さを感じられた。

部屋から部屋へと移動する。と、その時。

 

(……気配?)

 

一瞬、草壁の足が止まる。それに釣られて、クロームの足も止まる。

草壁は辺りを見回す。何か、人の気配がしたような気がしたのだ。

 

「………あ?」

 

そして、声が響いた。

草壁が咄嗟に視線を動かすと、そこには灰色の髪をした男がいた。

 

「あれは、グリージョ……」

 

草壁の脳裏に、事前に確認していた情報が浮かび上がる。

サーリチェ・グリージョ。ホワイトスペルのBランクで、隊長ではないものの、要注意人物として名が上がっていた。

彼の顔写真を見たとき、雲雀は何故か顔をしかめていたが。

グリージョは草壁達を視認すると、何かを思い出すような素振りを見せる。

 

「そういや、さっき報告があったっけ。確か……侵入者が三人……あれ」

 

グリージョが指差しで人数を数え、首を傾げた。

 

「……四人もいるな?」

 

彼は何度も首を傾げながらも、草壁達とクロームを見る。それから、何かハッと気付くと、口元に笑みを浮かべた。

 

「……あんたらは知らないだろうが、俺は術士が嫌いでな。見かけると、殺したくなっちまうんだな」

 

グリージョはクロームを見てニヤリと笑うと、匣を開匣した。

彼の表情は、嫌悪感を少しも隠していなかった。

 

(まずい!!)

 

草壁は了平と獄寺の二人を担いでいる上に、ランボとイーピンを背負っている。とてもではないが、回避は不可能に思われた。だが、狙われたのは草壁ではなかった。

 

「死ねェ、ボンゴレ!!」

 

匣の中から、青い炎を纏った茶色い生物が飛び出る。それは出っ張った歯に、特徴的なオールのような尾を持っていた。その姿はどことなく狸に似ている。

雨ビーバー。

その大きく丈夫な歯は、クロームを噛み殺さんとばかりに襲いかかってきたのだった。

 

「させない!」

 

クロームが叫び、辺りを霧が覆う。

だが、雨ビーバーの沈静の炎によって、霧の炎で構築された霧はみるみるうちに消えていく。

気付けば、雨ビーバーはクロームのすぐ目の前で迫ってきていた。

 

「クロームさん!」

 

草壁が庇おうとするが、二人を背負った体では、庇うことは不可能だった。

だが──、

 

「キャン!」

 

犬の悲痛な鳴き声のような声が響いたかと思うと、雨ビーバーが地にその体をついた。

直後、ほんの少し先すら見えなくなるような煙が部屋に充満し始める。

グリージョは倒れた雨ビーバーを見る。雨ビーバーはカタカタと痙攣して、意識を失っていた。

 

「この手口は……」

 

煙の中に、人影が映った。グリージョの目には、それは五人分に見えた。

グリージョの頭の中に、一人の男が浮かぶ。

気に食わない、気に食わないと日頃から言っている相手。

 

「……おい、どういうことだ?」

 

グリージョの頬を、一筋の汗が通った。嫌な笑みが自然と零れる。この相手と敵対することは、想像していなかったが、どこか心の底で望んでいたことだった。

 

「どういうことだって? ……こういうことだよ」

 

笑いを堪えきれなかったかのような第三者の声が、場に響く。それは低く、男の声だった。

煙が晴れる。

先程はいなかった筈の人物がそこにいる。

少し伸びた墨色の髪に、瞼の上に傷痕。風に煽られた髪の隙間から見えた左耳には、銀色のイヤーカフ。金色の瞳がグリージョを真っ直ぐに睨んでいる。

その青年は、草壁とクローム達を庇うようにして、彼等の前に立っていた。

 

「裏切りかァ? ラウロ」

「……どうとでも思えばいい。お前を倒せるのなら、今はそんなことどうでもいいさ」

 

その姿はどこからどう見ても、ミルフィオーレのブラックスペルであるはずのラウロだった。

 

「……おい、これは夢か? 殺したい相手が裏切りやがった」

「現実だ。現実でなければ困る。お前を倒すのは、俺だと決めていたんだから」

 

グリージョはどこか狂ったように笑う。

一方、ラウロとそれはそれは嬉しそうに目を細めた。

これから迫る戦いを、長い間待ちわびていたかのように。




短くてすいません。
オリキャラにオリキャラをぶつける蛮行をしました。

裏切りの花とは、ラウロのことです。
彼の名前の元となったのは、とある木なのですが、その木の花の花言葉は「裏切り」
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