雲雀は月夜を咬み殺さない   作:さとモン

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42.遭遇

「ここは十年後の未来で、白蘭って奴に支配されそうだって……どんなSF映画だ?」

「残念ながら現実なんですよ」

 

傷が癒えているわけではないものの、ある程度一人で行動可能な桂木は、道すがら草壁達と現状を確認しあっていた。

 

「……俺はともかく、獄寺や髑髏がこちらに連れてこられたのは計画的だろうな」

「我々もそれは予想していました。……しかし、何故明さんは違うと?」

「それなら簡単だ。ここに来る前、俺はバズーカを持った少年に遭遇している」

「……は!?」

 

驚愕の声をあげたのは草壁だったが、少し前に意識を取り戻した獄寺も、驚きの表情を隠せない。

桂木はそれらを意に介す様子を見せないまま、淡々と当時の状況を話し始めた。

行方不明となった綱吉達を探している時に、偶然その少年を目撃し、揉み合いになったあと、気付けば未来に来ていたことを。

 

「……その少年、こんな顔をしてませんでしたか?」

 

話をある程度聞き終わった後に、少し考える素振りをしてから、草壁は一枚の写真を桂木に見せた。

桂木はそれを一目見て「あぁ」と声を溢す。

 

「こいつだ。写真より幼かったが、間違いない」

「入江正一……!」

 

頷く桂木を見て、獄寺が唸る。

 

「で、だ。遭遇したのは本当に偶然だったんだ。たまたま見掛けただけだからな。しかも、状況的に考えると、俺はバズーカの誤射に巻き込まれたことになるんだ」

「誤射?」

「バズーカを取り合ってたら煙に包まれて十年後にいた。多分、指か何かが引っ掛かったんだろうな」

 

頭を抱えたのは草壁だ。

桂木の話が本当なら、十年後の入江が連れてきたのではなく、十年前の入江が何故か十年バズーカを使って送り込んだことになる。

 

「十年後の俺は、どうして死の偽装なんてしたんだろう……。名前も顔も誤魔化してラウロと名乗っていたのが気になる」

「ただ潜入していたのではないと?」

「潜入だったのかすら怪しい」

 

自分だからこそ感じる違和感だった。そもそも、桂木には潜入する理由がない。白蘭から逃げるため、雲雀を守るためならもっと他の方法があったはずだ。

自分のことだというのに、行動の意図と目的がわからない。

 

「……十年も経つと、もう別人みたいだな」

 

十年という時間の隔たりは、つまるところ同一の他人であることを実感させる。

辿る道が違うのなら、共通するところがあろうとも、最早それは別人といえるのではないか。桂木は草壁を横目に見ながらそう考えた。

隣にいるのは確かに草壁のだが、自分のよく知る草壁とは違う。桂木の知る草壁は、雲雀を『恭さん』とはなかなか呼ばないし、マフィアのことだってまだ殆ど知らない。

 

「おい、あれ……」

「……?」

「ヒバリじゃねぇか」

 

獄寺が前方を指差す。目を凝らすと、砂煙の中に黒い影が二つ見えていた。片方は、桂木にとっては見慣れたシルエット。黒い学ランを棚引かせ、ピンと張った背筋で敵を睨む姿は、雲雀恭弥に相違ない。

だが、様子がおかしい。

 

「……幻覚だ」

 

雲雀の周りを、無数のミサイルが囲んだかと思うと、それらは全て透けて消えてしまう。

その場にいた者全てが、雲雀の末路を悟った。

 

「っ──!」

 

桂木が走り出すも、距離があまりに離れている。その手は届かない。

 

「……ちっ!」

 

桂木の視界の端で、草壁に支えられていた獄寺が動いた。

断続的な爆発音が響く。辺りが黒煙に包まれる。

 

「借りは返したぜ……。つっても、てめーじゃわかんねーか……」

「恭さん!」

 

雲雀は、驚いたように桂木達を凝視し、草壁の姿を認識すると、修羅のような表情を見せた。

 

「助っ人か……死に損ないと一般人では役に立たぬぞ」

 

幻騎士の言葉を気にする余裕はなかった。桂木達はとうに満身創痍なのだ。

 

「ヤバいぞ、草壁……」

「はい……」

 

冷や汗を流して雲雀を見る桂木の言葉に、草壁は崩れ落ちた獄寺と、辺りに倒れている山本とラル・ミルチを見て頷いた。

 

「草壁哲矢。いつ群れていいと言った? 君には風紀委員を退会してもらう」

「!!」

「やっぱり……じゃなくて、恭弥! リングの炎を使え!」

 

ショックを受ける草壁の代わりにとばかりに、桂木が雲雀に指示をした。

 

「リングの炎……?」

「そうだ!」

 

桂木は知っていた。雲雀が、リングから炎を出すことができるということを。

なにより桂木は、自分にできて雲雀にできないなどということはあり得ないと思っているのだ。

 

「リングの炎……跳ね馬みたいな口ぶりがイラつくな。あの男も、これからの戦いに重要になるのはリングの炎だとうるさくてね」

 

リングから光が溢れたかと思うと、雲雀の体を包み込むほどの大きな炎が激しく燃え上がる。

 

「君達なんて、来なくてもよかったのに」

 

桂木はそれを、眩しい星でも見るかのように目を細めて見ていた。

雲雀は、自然体で自分と同じ……いや、それより上を行くのだと。

 

「恭さん匣です! 足元の匣に炎を注入してください!」

「いつから命令するようになったんだい? 草壁哲矢。やはり君から咬み殺そう」

「待て待て! お前の目の前にいるのは強敵だぞ、そんな暇があると思うのか!?」

 

雲雀に助言する草壁の言葉を、命令と捉えた雲雀が、トンファーを構える。そんな様子に、草壁を背に庇いながら桂木が雲雀を嗜めた。

 

「桂木明祢………ふぅん、少し見ないうちにマシな顔になったね」

「へ?」

 

雲雀は桂木の顔をじっと見つめると、どこか満足げに笑んだ。桂木はその笑みの意味がわからず、一瞬呆けてしまう。

勿論、そんな隙を幻騎士が見逃す筈がなかった。

 

「雲の人……後ろ!」

 

雲雀の背後に、不可視の誘爆弾が迫る。クロームの声でそれを察知した雲雀は間一髪トンファーを構え、それを防御した。

しかし、クロームはその一言が精一杯だったのか、その場に崩れ落ちてしまう。

 

「髑髏!」

「クロームさん!!」

「……草壁、こいつは俺が」

 

(あの男……ラウロに似ている……?)

 

クロームに駆け寄る桂木の姿を見た幻騎士の脳裏に浮かんだのは、自らの弟子である黒髪の青年だった。しかし、すぐにそれを頭の端に寄せ、幻騎士は雲雀の方を向いた。

 

「二度も仲間に救われるとはつきがあるな。だが、もう次は……」

「仲間? 誰、それ?」

 

雲雀がそう言うと、体全体を包んでいた炎が更に大きくなる。

 

「跳ね馬が言ってた通りだ……。リングの炎を大きくするのは……ムカツキ」

 

(((違う!!)))

 

それを聞いていた桂木と草壁、そして幻騎士の三人は、心の中で確かに雲雀に突っ込んだのだった。

 

「でも……雲雀らしい」

 

桂木は笑みを溢す。

突っ込んだものの、雲雀の言葉通り彼の怒りに比例して、炎は大きくなっていた。群れることを嫌う雲雀にとって、先程の状況は屈辱だったのだから、そのムカツキも同然だった。

 

「副委員長、桂木明祢……やはり先に、剣士の彼を倒すよ。君達の言うことを信じよう」

 

雲雀の手の中には、小さな匣があった。




ちょっと会わないうち(数時間も経っていない)に少し吹っ切れたような顔になった桂木に会った雲雀さん、少し満足。
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